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ある日いつもシスコンが過ぎるお兄ちゃんの言動があまりにも許せなくなったので肩掛け鞄に最小限の荷物を入れて家を出て行くことにした。
私は前髪をカチューシャで無理やり後ろに入れてから頭からローブを被った時に出る横髪をアルコールで色を落とした。
薬関係の仕事をしているので消毒用のアルコールが普通に部屋に置いてある。
薬を作っていたように見えるようにテーブルに物を配置しておくとアルコールの匂いで怪しまれないように換気もした。
私の黒髪は目立つのでどこに行っても行き先がすぐにばれるからね。
もちろん私自身にもアルコールの匂いがついているので消臭もした。
お兄ちゃん自身には結婚して子供が3人もいるんだからそっちを相手にすればいいんじゃん。
成人した私が独立して部屋を借りると言うと反対するし、私の仕事にも勝手に口出してくる。
場合によっては冒険者だからといってお兄ちゃんのパーティーに加入させられて依頼とか勝手に決めてくるし、家の事を手伝わせてくれないし、最近は休みの日になると一緒に出かけたがる。面倒くさい。
「私だっていつか結婚して自分の家庭を持つことになるんだよ。」と言うと泣き出す。
「反抗期だ。今まで素直だったのに。」とお兄ちゃんが言う。
先日もお兄ちゃんが買ってきた服や小物とかを断ると
「可愛かった妹が俺を否定する。悪い虫に洗脳されている。」と騒いでお姉ちゃんとか周りの人にも迷惑かけている。今までそんなプレゼントなんてくれたことなかったのにね。
それに自分の好みを押し付けて欲しくない。
「商人でお見合い相手を探す。」とお兄ちゃんが急に言い出すから昨日は本当に困った。
「同じ町で商家なら移動しない。いつでも近くにいて寂しくない。だから安心だ。」
とお兄ちゃんは言っていた。
話し合うこともなくお金があれば生活に困らないだろうから商人がいいと言い出してWお姉ちゃん達と一緒に怒った。私の意思は?私の気持ちはどこへ行った?
あーあ、面倒くさい。私はお兄ちゃんの物じゃない。
荷物を鞄に詰めてお兄ちゃんに走り書きの手紙を書いた。
私はお兄ちゃんのお人形でも物でもないし
私の意思があるの。私は私の人生を生きる。
お兄ちゃんがしたいようには生きれない。
お兄ちゃんに私の人生も行動も縛られたくない。
私はこのままでは生きた屍のようなものだ。私
を見て、聞いて。1人勝手にお兄ちゃんの思いで
身勝手に振り回さないで欲しい。
適当に私の意思を決めないで。お人形でも買えば
欲しい理想の妹ができてちょうどいいんじゃないの。
真剣に考えて行動して。
いい加減にして。お兄ちゃんとは縁を切ります。
ちょっと酷いかもと思ったが今出て行かないと次のチャンスはないだろう。
めんどくさい思いをしたまま人の言いなりになる人生なんて絶対に嫌だ。
お兄ちゃんに私の人生を決めてもらうつもりはない。
家に誰もいないうちに私は乗り合い馬車の集合場所に行った。
思いつきで出て来たので行き先を決めていなかった。
説明を聞いて行き先を決めようと乗り合い馬車の乗車券売り場に行く。
乗車券売り場での説明を聞いてここから1番遠い町にした。
支払いにはギルドカードも使えると聞いたが現金で払った。
カードを出すと私が乗合馬車で町を出た事がばれる可能性があるからね。
薬を作る材料の仕入れ用の現金をちょうど持っていてよかったよ。
乗車券を買ったので近くの売店で携帯食を買ってギリギリで馬車に乗る。
休憩所まで基本的に止まらないので寝たふりをして馬車の中を視線を大きく動かさないようにして眺める。
キョロキョロすると頭が動くからね。
休憩所に入る手前で歩いているお兄ちゃんと思われる人が見えた。
私は馬車の中でローブを深くかぶりちょっとだけ見せている茶色の髪から私だと気づかないだろうがそっと顔をそらして通り過ぎるのを待つ。
馬車とお兄ちゃんらしき人と通り過ぎた瞬間の一瞬だけど私の背中にヒヤリとした汗が落ちたような感覚がした。
夕方には最初の宿泊地に着いた。
私達乗客はここで降りて宿屋に泊まり朝になったら馬車に集まる事になっている。
宿屋代をケチって野営する人もいるみたいだけど私は安全性を取って宿屋に行くつもりだ。
乗車券売り場でお勧めの宿屋を聞いてそこに行こうと歩き出す。
「そこのお嬢さん、護衛の冒険者はいらない?今ならお得に手に入るよ。」と声がかかる。
私はその声を聞いてびっくりした。一瞬でどうするか考え相手の顔を直接見ないようにして
「歩きながら条件を聞くわ。宿屋は決めてあるのかしら。」と聞くと
「同じ所にするから付いて行くよ。護衛だから。」と言われたので2人で宿屋に行った。
特別な日ではないのでこの宿屋の部屋は空いていた。隣同士の1人部屋を2つ借りた。
そのままちょっと騒がしい食堂で食事を取りながら2人で話をした。
「上手く合流できたけど依頼にいってたんじゃないの?」と私が聞くと
「依頼人の都合で休みになった。薬屋さんに寄ってすごく怒っていた事をお姉さんから聞いたから急いで家に戻っている途中で見かけた。乗り合い馬車に居たから同じ行き先の乗車券を買って同じ馬車で来た。」と教えてくれた。
町を出てるまでは私が安心できないし落ち着かないと思って馬車を降りた所で話しかけるタイミングを見ていたそうだ。
部屋に戻る時に渡したい物があると言うので隣の部屋に入った。
出してくれたのは私の物と違う色のローブだった。
「今のだとすぐにわかるからこっちに変えた方がいい。俺の予備で悪い。」と言って渡してくれた。
あ〜、だから気づいたのか。知り合いならこのローブでわかるんだ。
ありきたりなものだから大丈夫だと思ったけど背格好で察してしまったのか。
「髪で大丈夫だと思ったのに。」と私が言うとちょっと寂しそうに髪を見る。
「髪は染めたのか。」と言うのでローブを脱いで言った。
「大丈夫だよ。一部だけ色を落としたの。すぐに戻せるから。」と髪を見せた。なぜか急に抱きしめられた。
「一緒にいる。だから相談してくれ。俺も協力するから1人で頑張らなくていい。もっと俺を頼ってくれ。」と言われた。
かなり心配しているみたい。
見つめ合った状態で話すのは恥ずかしい。
目をそらしてから顔をゆっくりと視線をずらした方へと向ける
「ありがとう。一緒にいて欲しい。お兄ちゃん達を敵に回すかもしれない。だけど協力してね。」
と言って下を向く。心の声を出さないように落ち着いて答えたつもりだけど恥ずかしい。
昔はお兄ちゃんと呼んでこんな風にくっついて抱きしめられて頭を撫でてもらい疲れたり寝ちゃた時に抱っこされていたのに恥ずかしくって胸がバクバクとして落ち着かない。
でも負けた気がするので絶対にこっちの動揺は見せない。
私は大人になったのだからクールに対応してみせよう。
ただ、心の中で1、2、3、4、5と数を数えて気をそらしてから渡してもらったローブを着て部屋に戻った。
読んでいただきありがとうございます。
夏休みに慌てて投稿したので誤字や送りがなに入力ミスと変換ミスがたくさんありました。
ご指摘ありがとうございます。本当にありがとうございます。
助かります。感謝です。
まだ確認できてない所があります。ゆっくりですがこちらでも確認していきたいと思います。
今後もよろしくお願いします。