File.5
翌日。相変わらず予知夢で寝れなかった花城ファミリーボスの朱華を筆頭に、射撃担当の楓月、特攻担当の李仁、拷問担当の湊人の4人は昨日奇襲を仕掛けてきた(そして返り討ちにした)ファミリー・オルトロスファミリーの本拠地にやって来た。花城ファミリー本拠地よりそこまで遠くない場所に位置していた本拠地は、一見すると普通の住宅のような物だった。今や誰も住む人がいない本拠地の扉を開けた。グレーや紺色が目立つ内装を見ながら、朱華は3人に指示を出した。
「兎に角、まずは薬品の保管場所、武器庫、書庫を探そっか!シスルに昨日…今日?調べてもらったら武器は少ないけど薬品と本が多いって言ってたから!」
「と言うことは、ボスは結局寝ずにこのファミリーの解析をしていたのですね?」
「おっしゃるとーり!まだ眠いけど、貰えるものは何でも貰うよぉ〜!」
寝不足からかいつもよりテンションが高い朱華の後ろを李仁達は苦笑しながら付いて行った。
1階は何も無く、続いて2階に辿り着くと、武器庫や書庫は2階にまとまっていた。書庫で本の中身を確認しながら、楓月はふと思ったことを朱華に言った。
「…ところで、ボス。私達がボスの言う正義のマフィアなら、こうやって他所様の物は貰わないと思うんだけど?」
「これは盗みじゃなくて物資調達だもん。倒さないといけない相手…藤狼ファミリーに勝つには、物も情報も必要だし。まだまだ、私達の戦力や情報ではあいつらには勝てない…」
声を震わせながら言う朱華を見て、楓月は本のページをめくりながら自身が弟の陽琉と共に花城ファミリーに加入した時のことを思い出した。あの時、〔ホワイトゾーン〕なら中学生になりたてぐらいの朱華が言っていたこと。
“私達は正義のマフィア!藤狼ファミリーの箱庭となっている〔ブラックゾーン〕に光を、革命をもたらす正義のマフィア!だからこそ、2人の力が必要なの!藤狼ファミリーを打ち倒す力が!”
今よりも幼い朱華が満面の笑みで言っていたあの言葉。〔グレーゾーン〕の親玉、〔ブラックゾーン〕の生みの親である藤狼ファミリーをなぜ倒したいのかと言う話は、思えば聞いたことがない。ただただ革命をもたらす正義のマフィアになる、としか聞いていない。この際に聞いてみようと思った楓月は、本を机に置きながら朱華に話しかけた。
「ねぇボス、何でそんなに藤狼ファミリーを倒したいの?聞いたことがないなーって思って。」
「えっ…と、その、私の両親が関係してるんだけど…まだこれ以上は秘密!」
「…そう?話したくないなら、詮索はしないわ。でも、花城ファミリーの掟を忘れないでね?」
“隠し事はしないこと”、と楓月が言うと、朱華は勿論!と満面の笑みを見せた。そんな中、朱華が持っている本には“今は無き幻獣ファミリーの実態”というタイトルが書かれていた。
一方、武器庫にいる男性組ーーー李仁と湊人は、銃や刀と言った武器に埋もれた棚を見つけた。最初に発見した李仁は、湊人を呼んだ。
「湊人様。」
「何ー?」
「武器の中から棚が見つかりました。」
「棚?銃弾とか爆弾でも入ってるのか…?」
湊人も棚の近くに来ると、2人は棚の引き出しを開けた。その中には、丸い缶や試験管が入っていた。湊人は、自身の力で缶や試験管の性能を見た。その結果、缶や試験管の中身は麻痺薬や毒薬だということが判明した。担当内容的にもあると便利と判断した湊人は、李仁に自身の黒い手袋の片方を脱いで渡した。
「はい…あ、入るか?」
「そんな身長に差がある訳でもありませんし…えぇ、大丈夫そうです。」
「じゃあ、これは手袋着けてる方で選別。見た感じ大丈夫だが…缶とか試験管に付着してたら危険だからな。選別したものはこの袋に入れるから。」
「かしこまりました。」
なるべく手袋をしていない方の手で試験管や缶を棚の上に置いていく。そんな作業をしていく際、李仁は気が付いた。湊人の手の甲に、火傷の痕があることを。少し気になった李仁は、恐る恐る湊人に聞いた。
「あの、湊人様…その火傷の痕は、一体?」
「あー…花城ファミリーに来る前にできた。」
「痛くはない…のですか?」
「もう3年は経ってるからな。痕だけ残った。」
気にしてない素振りで缶を袋に入れていった。気にしすぎるのも良くないと感じた李仁は、これ以上詮索せずに作業に戻った。
2時間後。作業が終わり合流した4人は、外に置いといていた台車に持ち帰る物を置き、一通り確認を行なった。
「これで全部…かな?見てない部屋とかないよね?」
「全部見たわ。そんなに広くない拠点だから見落としは無いと思うけど…」
「私達の方も隠し扉などは発見しませんでした。ファミリーができてから日が浅かったのでしょうか。」
「それっぽいけどな。ボス、なんか聞かなかったのか?」
「藤狼ファミリーについては情報なし、私達のこともロクに知らなかった感じ?だから、多分日が浅いんじゃなかったのかな。よし、じゃあ帰ろー!」
大きく手を上げ、朱華達4人は花城ファミリー本拠地への帰路についた。