File.11
見事スプリガンファミリーボスを倒した花城ファミリーボス・朱華は、右足を負傷してしまったため共に戦っていた拷問担当・湊人に背負わされながらスプリガンファミリー本拠地内を移動していた。そして、本拠地の屋敷にいる情報収集担当のシスルに死因報告をしていた。
「ええーと、斬殺3、銃殺2…あ、あと爆死2!」
《記録完了しました。次点移行可能です。》
「湊人、次庭の方行って!」
「はいはい。」
湊人に揺さぶられながら、朱華は1つ疑問を抱いていた。その疑問を晴らしたい彼女は、シスルに聞いた。
「ねぇシスル。空間歪曲を使ってでも、ナイフ1本で足って貫けるかなー?さすがに無理ない?」
《まず空間歪曲というのは、2つ以上の空間を曲げる力です。そして、2つ以上の空間を繋げることができます。》
「…つまり?」
「あー…例えば、力を使えば本拠地のボスの執務室と俺の拷問部屋が合体する…って感じか?要は李仁のテレポートを人物じゃなくて空間に特化したものだ。」
「へぇ〜…あんな足の前と後ろみたいな至近距離でも繋げることってできるの?」
《人によっては可能です。先程の相手は、足の前後…と言うよりは、足の前後に加えて内部にも力を使用したのかと。最悪複雑骨折の可能性もありました。》
最悪骨折してたのか…と朱華は顔を痙攣らせる。よく骨折しなかったな?と湊人に軽く笑われると、朱華は笑い事じゃないよぅ!と湊人の肩をポカポカと叩いた。そんな話をしている内に、本拠地の庭に到着した。木陰で一休みしている李仁達3人を見つけると、朱華は大きく手を振った。
「うおっ、あんまり動くな!」
「あ、ボス…って、大丈夫なのそれ!?」
「ちょっと貫通したくらいっ!」
「それはちょっとじゃないわよ…湊人が手当てしてくれたの?」
楓月は朱華の包帯が巻かれた右足を見ながら湊人に問う。ちょうど共闘してたから、と答えると楓月はニコッと笑みを浮かべた。
「ありがとうね、湊人。まぁ、京佳には怒られるだろうけど。」
「それは想像できてるから言うな…」
湊人はゲンナリしながら項垂れた。首をキョロキョロと動かしていた陽琉は、首を傾げながら朱華に聞いた。
「あれ、紫雨は?」
「紫雨は客室から出てから会ってないけど…怜伊、ちょっと生存確認お願いできる?」
《了解〜…紫雨、無事?…うん…うん、分かった。そう伝えとくね。えっとね、組員の1人から書庫の位置を聞いたからそこにいるんだって。場所は1階の庭から見て最奥。》
「了解〜あ、じゃあ3人はここの死因確認お願いできる?シスルに伝えてくれればいいから。シスルも大丈夫?」
《構いません。》
短い言葉が耳に入ると、朱華は後はよろしく、と湊人と共に本拠地内に入って行った。
長い廊下を歩いていくと、一部屋だけ扉が開いていた。朱華と湊人は顔を見合わせ同時に頷くと、その部屋へ向かった。部屋を見て紫雨がいる事を確認すると、湊人は紫雨の名を呼んだ。
「紫雨。終わってたんだな。」
「ああ、湊人。それにボス、も…何があったんだ?」
紫雨は、苦笑しながら朱華に聞いた。朱華と湊人がセットなのは交渉組だから珍しくはない、だが湊人が素直に朱華を背負っているのは珍しい…と考えているからである。
「相手ボスの特殊能力でやらかした…」
「あー、なるほど…あ、そうだボス。これ、落としてたぞ。」
紫雨はジャケットの外ポケットから1個の白い眼帯を朱華に見せた。落とした自覚が無かった朱華は、両手同時に自身のジャケットの外ポケットに手を入れ確認すると、本当に落としていたことが判明した。湊人の背後から腕を伸ばし眼帯を受け取ると、右目に装着した。
「ありがとぉ紫雨〜いつ落としてたの?」
「確か、ボスと湊人が相手ボス探しに行った瞬間くらい?むしろ、交渉してる時は眼帯着けてたのにいつの間に外したんだ?ってくらいだったぞこっちは。」
「えーと、紫雨と相手ボスが武器を交えた時?戦闘に入りそうだったから急いで外したの。」
なるほど、と納得すると、紫雨は机上の数冊の本を指差した。
「ざっと見て今本拠地になさそうな本はこれくらいだった。今日持って帰るか?」
「そうだね。数冊くらいなら持てる…よね?さすがに。」
「余裕余裕。相手もそんな強くなかったし。」
紫雨は数冊の本の山を持ち上げると、朱華と湊人と共に部屋から出て行った。廊下を歩きながら、朱華を背負いながら歩き続ける湊人に紫雨はふと思ったことを聞いた。
「なぁ、湊人は女の人背負うのは抵抗しない方なのか?色々と。」
「あ?あー…ボスは絶壁だか「みーなーと?」…まぁ、割と気にしない方。」
「へ、へぇ…」
目に見えぬ速さで湊人の頭にハンドガンを突き付けた朱華に冷や汗をかきながら、紫雨はこれ以上聞かないでおこうと1人心に決めていた。
玄関から本を抱えた紫雨と隣で歩く湊人と朱華が視認できると、陽琉は3人の元へ駆け寄った。
「おかえりー、3人共!報告はシスルにバーッチリしといたよ!」
陽琉えらーい!と朱華は思いっ切り手を伸ばして陽琉の頭を撫でた。陽琉がえへへーと得意げな笑みを見せていると、楓月と李仁も寄ってきた。
「おかえりなさいませ、皆様。紫雨様、2冊お持ちいたします。刀が2振りもあるのに重いでしょう?」
「一振りは腰に差してるから平気だけど…確かに、もう一振りを小脇に抱えるのは安定しないな。2冊頼めるか?」
「承知いたしました。」
「おかえりなさい。怜伊と真尋にそろそろ帰還するって言っといたわ。ただ、話し終わった後に怜伊の焦り声が聞こえたんだけど…大丈夫かしらね?」
「…嫌な予感がするな…大方、能力関係だろうけど…」
「そうね…少しだけ急いで帰りましょう。ボスの足もあるし。」
「俺も疲れてきた…早く帰りたい…」
はぁ、と溜息を吐く湊人を見て、朱華は右腕を上げて「じゃあ帰ろー!」と笑顔で言った。彼女達は、自分達の本拠地への帰路についた。




