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File.1

どこからか聞こえる銃声、悲鳴。

どこからか上がる黒い煙。

どこからも臭う鉄臭い臭い。

ああ、この世界を、私の手で変えれないのだろうか。


ぼーっとそう考える1人の少女。愛らしい桃色のツインテールと赤い左目に黄色い右目という所謂オッドアイが印象的な彼女は、黒と赤ばかりの広い部屋で外を見て黄昏ていた。まだ昼なのに薄暗い雰囲気を纏うこの町は、少女含む近辺の住人からは〔ブラックゾーン〕と呼ばれていた。黒社会ーーー所謂()()()()が集うこの町の一角に住む少女、花城(はなしろ)朱華(しゅか)。巻積雲に隠れた太陽に向かって手を伸ばそうとすると、誰かが朱華の首根っこを掴んだ。機嫌悪そうに振り向くと、そこには顔立ちが整っている黒髪の青年が立っていた。1つ溜息をつくと、伏し目がちに朱華を見た。


「おまえ、死にたいのか?」


「まだ死なない。まだ、()()()が叶ってないからね。」


「なら、ちゃんと寝ることだな。眠いときは話を聞かないのと、奇行に走ろうとするのはおまえの悪い癖だーってあいつが言ってたぞ。」


「…あいつ…あー、京佳(このか)?京佳も心配性だよね〜でも、紫雨(しぐれ)も同じ考えなんじゃないのー?」


「揶揄う暇あったら寝ろ。」


はぁ、と再度溜息を零す彼は月島(つきしま)紫雨。朱華のサポートをメインとする彼は、書類が入った封筒を朱華の机に置いた。朱華が急ぎ?と聞くと〔グレーゾーン〕からの書類だが、緊急と書いてないから急ぎではないと答えた。〔グレーゾーン〕とは、この〔ブラックゾーン〕と向かい側にある〔ホワイトゾーン〕の中心に建つ巨大なビルの周辺の町であり、双方の町の統制をしている。堅苦しい、と評判な〔グレーゾーン〕から来たという封筒から書類を出すと、朱華はうわー…と面倒臭そうな顔を見せた。


「…なんで〔グレーゾーン〕って、こういう書類提出させようとするんだろうね?」


「さぁ。お偉いさんの考えはよく分からんからなー…」


今月の資金グラフと大きく書かれた書類を再び机に置くと、今度は朱華が溜息をついて深紅色の椅子に座った。着席と同時にバァン!と騒々しく扉が開いた。驚きながら音のした方向を見ると、黒い眼鏡を掛けた女性が立っていた。シニヨンとサイドテールが合わさったような髪型をしている彼女は、どこからともなく4枚のトランプを出すと、ニコニコと笑顔を浮かべながら朱華に話しかけた。


「さぁさぁ、好きなカードを選ぶんだ!」


「まずご用件はなぁに、京佳?」


「釣れないねぇ、ただのお遊びなのに。()()()()睡眠薬のお届けさ。朝の放送のテンションがやけに低かったからね、直々に持ってきたのさ!」


「お疲れ様、京佳。いつも元気だな、おまえは。」


そう言われた彼女は八重樫(やえがし)京佳。薬の調合や怪我の治療に長けており、不眠症な朱華のために日々新しい睡眠薬を調合している。睡眠薬、と称された小瓶に貼られた紙を見ると、丁寧に成分や使用方法が手書きで書かれていた。京佳のメモ代わりのようにも見えるが…作ってくれた身分上、朱華は特に言及しなかった。感謝の言葉を伝えると、京佳は笑顔を崩さず返事をした。


「どういたしまして。()()()()とは言えども、よく寝ることだよ。今日は()()()()は見たかい?」


「見てないよ。ただ、相手の気紛れで来る可能性はあると思う。」


「それはそれで面倒臭いな…楓月(ふづき)李仁(りひと)が次に行くファミリーの偵察で留守にしてるし…屋敷に残ってるあいつらと俺達でなんとかなるか?」


「そんなに強くはないと思うけど…もし危険になったら、2人にはこっちに戻ってもらう方がいいと思う。戦力は大きいに越した事はないからね!」


「了解。おーせのままに。」


一応連絡しておく、と紫雨は部屋を出ると、部屋には朱華と京佳が残った。京佳は開発や医療面に関しては文句なしだが、戦闘力が高いとは言い切れない。むしろ外で戦ってほしい…と朱華は考えている。考え事をする朱華に気付いたのか、先程とは違うニヤニヤという表現が正しいような笑みを見せた。


「なんだい、私に何か言いたいことでも?」


「…うーん…室内で手榴弾は使うなってくらい?」


「ああ、そういうことか。手榴弾以外にも、新しく作った武器はあるから大丈夫さ。このトランプだって、1つの武器だ。…ほらね?」


パチンっと指を鳴らすと、京佳が持っている4枚のトランプにナイフの先端のような刃が付いた。こんなのでちゃんと戦えるの?と疑いの目を向けると、京佳はトランプを自身の羽織りの中にしまった。


「まぁ私に任しとけ。私の開発技術が出鱈目だった、なんてことあったかい?」


「なかったけどー…なんか心配。」


「心配事は寝て忘れることだ。幸い迎撃担当はここに残ってる、敵襲が来ても大丈夫さ。それに、その薬の効果も知りたいからね!」


「本音はそれじゃん!?…まぁいいや、ちょっと寝るねー…さすがに限界。」


部屋の中央に設置された黒いソファに座り、小瓶から錠剤を取り出す。水と共に飲み込むと、朱華はすぐに強い眠気に襲われた。京佳に手を軽く振ると、ぼふんっとソファに横たわった朱華は眠りについた。スマホに何かメモを残すと、京佳は朱華の頭を軽く撫でた。


「…おやすみなさい、()()。血塗られた夢ではなく、心地よい夢を見れますように。」


そう残し、京佳は静かに部屋を後にした。


ーーーそう、花城朱華は、15歳という若さで既にこの花城ファミリーのボスを務めている。目的は、この〔ブラックゾーン〕を〔ホワイトゾーン〕のように、否、〔ホワイトゾーン〕にすること。今は亡き両親から譲り受けた夢であり、そのために朱華はこの花城ファミリーを立ち上げた。典型的なマフィアのような密輸はしない、違法販売もしない。相手ファミリーに話すのは、自分達の計画に賛同・協力してくれるか否かを判断してもらうことのみ。典型的な悪人は潰す、それが花城ファミリーの信条である。そのために、朱華は自身が持つ力、()()()()を使って戦に負けないメンバーを集めた。花城ファミリーは、朱華を含んで10人しかいないが、それでもかなり勢力・領地を拡大している。それを充分理解しているメンバーの1人、開発・救護担当の京佳は1階のリビングにいる青年の頭を軽く叩いた。


「あ?誰…京佳か。何?」


「やあ湊人(みなと)君。新しい睡眠薬、いい効き目だったよ。」


「ああ、もう使ったのかボス。とは言っても、俺は成分のことだけ口出ししただけだぞ?」


「それでも君のおかげさ。君には感謝してるんだよ?私の調合技術と医療の知識があっても、君の薬方面の知識は大いに役立つ。」


「そりゃどーも。」


京佳から先程のメモを見せてもらっている青年は、(あおい)湊人。花城ファミリーの拷問担当であり、京佳には自身の薬の知識を授けている。湊人の()()()()の力は、食料・薬などの成分を一目で見抜くものであり、薬の調合をする際京佳は重宝している。一通りメモを見ると、京佳にスマホを返しながら湊人は個人的な意見を言った。


「摂取してから眠るまでの時間は前回とさほど変わらないか…錠剤以外にする手は?」


「できなくはない。摂取しやすさを考えるなら、飲み物に混ぜたりシロップ型にする方がいいかと。」


「あー…じゃあ、少しずつ成分を変えないとな。」


「なになにー、何の話ー?」


京佳と湊人に割り込むようにやって来たのは、潜入担当の明空(みよく)陽琉(はる)。白髪のシニヨンとツインテールを合わせた髪とノースリーブの赤紫のチャイナ服がトレードマークの陽琉は、人懐っこい笑顔で京佳のスマホを見た。


「やあ陽琉()。ボス専用の睡眠薬の使用感想だよ。」


你好(ニーハオ)、京佳!また新しいの作ったのー?」


「そんなところだ。効きやすく、且つ飲みやすいものがいいからね。ボスはまだ15歳、未成年だ。今は大丈夫でも成人になって体に支障をきたさないよう、今の内に調整しないと。」


「ほへぇ〜…湊人は?お手伝い?」


「そんなとこだ。」


「へぇ〜偉いねぇ、湊人ぉ。よーしよーし♪」


「やめろ。刺すぞ。」


後付けの黒い袖に隠れた手で湊人の茶色の短髪を撫でると、湊人はどこからかナイフを取り出した。怒ると身長伸びないよ?とピョンっと立つアホ毛や水色の横髪を弄っていると、湊人はハッと笑った。


「おまえよりかはでかい。2つ上の身長11㎝差だぞ?舐めんな。」


()()、まだ伸びるかなー?」


伸びないんじゃね?とニヤニヤと笑う湊人に頬を膨らませる陽琉。愛らしい少女のような姿をした男性の陽琉は、「ボクを揶揄うのはやめてよね!?」と怒った。京佳は?と目で訴えられた当の本人は「えー」と苦い顔を見せた。再び頬を膨らませると、湊人の向かいに座って読書をしている女性に陽琉は横から抱きついた。金髪のツインテールを揺らしながら女性は目を見開いた。


「どーしたのー、陽琉?唐突に抱きつかれるのはビックリするでしょ?」


「だってー!湊人と京佳がいじめる!もう身長伸びないーって!」


「大丈夫でしょー、陽琉はまだ17だよね?成長期さえ終わってなきゃ伸びる伸びる!」


「骨端線さえ残ってれば伸びるからね〜」


「もー、そうやって陽琉をいじんないの!」


そう苦笑するのは紅野(こうの)真尋(まひろ)。迎撃担当であり、突然の敵襲に強い戦闘タイプである。読んでいた本を閉じ外を見ると、真尋は突如何もないところに手を動かした。その動きは、何かを手繰り寄せているようなものだった。


「真尋?」


「…敵対ファミリー、近付いてるっぽいかな。見慣れない()がある。」


「やはり、ボスの予知夢は正しかったか…紫雨君と怜伊(れい)君に伝えておくよ。」


「了解、一先ずできる範囲は(あたし)と陽琉、湊人で引き付ける。2人ともいける?」


「ボクは全然平気!」


「俺も大丈夫。コートの中は十分だ。」


「では…ボスが寝てる間に、さっさと蹴散らそうか。」

ここまで読んでくださりありがとうございます。「黒社会の子羊は白き世界を夢に見る。」の作者、夢坂姫乃です。マフィアという暗い設定ですが、超能力(作品内では特殊能力)に仲睦まじい10人の構成員のやり取りで明るい話をメインに頑張りたいと思います。また、流血表現・部位破損表現は控えめにしようとしているので、アクションが苦手な方でも読めるような小説を目指そうと思っております。

これからも、「黒社会の子羊は白き世界を夢に見る。」の応援よろしくお願い致します!

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