表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

14 番外編 結婚初夜

「あの、殿下……」

「……ん? どうした?」

「ど、どうした、と言いますか……」


 普段にはない辿々しい物言いでこちらを見上げる俺の妃は、本当に可愛らしい。


「どうして、その……見下ろしていらっしゃいますの……?」


 本当にわからないらしい声音でいう妃は、どうやら理解していなかったようだ。


 結婚初夜というものを。


 先ほどまで「殿下と朝まで一緒にいられますのね」と幸せそうに微笑んでいた妃はあまりにも可愛らしく、早々に寝室へと連れ込んだのだが……。


 こちらを見上げる瞳からわかる。

 ……どうやら、ただ共に寝るのだとでも思い込んでいたようだ。


 そんなわけがあるか。

 十年もの間、無邪気に接してくる彼女にどれだけ我慢を強いられたことか。


 やっと名実共に彼女は俺の妃となった。

 この夜を逃すなど、男ではない。


「リシュフィ。愛している」

「わ、わたくしも愛しておりますわ……ですが、その……」


 妃はなにやらもごもごと言って、目を彷徨わせるものだから、その額に口付けた。

 綺麗な藍色の瞳は、俺だけを見つめていてほしい。

 だが口付ければ、妃は小さく震え──。


「……殿下……少し怖い、ですわ……なんだか、別の方、みたいで……」




 …………。




 俺は横にパタリと倒れ込んだ。


 こっ……怖いは駄目だろう!!!

 そんな、そんな怯えた表情をされては、手など出せるものか!!


 あからさまにホッとした顔でこちらを向く妃の、頭の下に腕を通す。

 可愛らしく笑う妃がこちらにすり寄ってきて、胸にギュウと抱きつかれた。

 この夜のために拵えられたのだろう薄絹の衣が、妃の温もりを伝えてくる。


「は、離れなさい。そ、それでは寝苦しくなるぞ……」


 あ、頭がおかしくなりそうだ……。


「離れろだなんて、ひどいことおっしゃらないでくださいな。結婚初夜ですのに……」


 だからだ!!!


 いつもの調子で怒鳴りつけてしまいそうになるのを必死に堪えた。


「お前は……初夜というものをわかっておるのか……?」

「もちろんですわ。同衾することです!」


 これは、とんでもないことになったぞ……。

 俺は王太子だ。だから、世継ぎを設けるのも大切な仕事のようなもので……。


「同衾とは、共に寝ることではないのだぞ……」

「……わ、わかっておりますわよ。ですから、その……どうぞ!」


 どうぞ。


「………………今日は休む。……明日は、逃さぬからな……」

「わ、わたくしは逃げてなどおりません!」


 リシュフィは見た目にもしゅんと落ち込んでしまった。この憂いを払うのも、夫の務めだろう。


「愛しているよ。もっとこっちにおいで」


 なぜよりにもよって、この言葉を選んでしまったのだろうか。


「わたくしも、愛しております。ずっとお側にいられて、とても幸せですわ」


 身体をぴたりとくっつけて言う妃は、この上なく可愛らしい。

 しかしだ。


 腕に閉じ込めた温もりに、今後寝不足になる覚悟だけは、必要だろうと思った。

ありがとうございました。

ブックマーク、評価、感想等いただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] リシュフィは前世でも結婚していたし、知識もあるんだろうから、初夜でのこの発言や行動には???となりました・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ