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第8話 本気の暇つぶし

 その後、バルカが解放されたのはすぐのことだった。元々、ソーズマン将軍に引き合わせるだけが目的だったらしく、なおかつソーズマン自身もまさかここまで早くバルカと会うことになるとは思っていなかったらしい。

 実行犯であるラムダスは悪びれた様子もなく、「物事は迅速が一番でしょう」ときっぱりと言い切った。


「そりゃあ確かに何事も早く済ませるのが正解だとは思いますけどね? 後先考えないのはもっと問題だと思いますよ、兄上」

「なぁに、大人になれば脇目も振らずに没頭しなければならない仕事は山ほど出てくるものさ。それに、こうして可愛い弟と朝食が取れる」

「はぁ……まぁ、朝食を食べ損ねたので、そこは嬉しいですけど」


 あっけらかんと答えるラムダスは城内の軽食堂でサンドイッチをほおばっていた。鶏肉と野菜、マスタードが塗られたシンプルなものである。

 ラムダスも同じものを食べながら、周囲を見渡す。

 一般開放が許された場所ではあるが、それでも一般市民が立ち入る事は少なく、やはり客層の多くは軍人もしくは仕入れを担当する商人などが大半だった。

 ましてや子供がくることなど稀なのだろう。文句を言われる事はないが、物珍しそうな視線を受けているのは感じた。


「ところで、兄上。少し聞きたい事があるのですが……」

「なんだ?」

「この国は、戦争もしてなければ外敵の侵攻を受けているわけでもありませんよね。なのに、なんで軍事予算とか派閥争いにまで発展する戦力増強があるんですか?」

「ほぅ……?」


 バルカとしてはロボット開発に着手してくれそうなのは嬉しいが、それはそれとしての疑問があった。ものというのは必要に駆られなければ改めて新しいものを作ることは少ない。

 その点を考えれば軍事戦力の更新、研究を行うことは珍しいものではない。常に最新の武器を装備する事は国防にもつながる。

 が、それだとしても、インバーダン王国は平和そのものだ。

 それでも、戦力を欲するというのは、何か理由があるはずなのだ。

 結果的に、その何かの理由で、思わずして自分の野望というか、目的が動き出している以上、バルカ個人としてみればありがたいと思う部分もあるし、やはりその『なぜ』が気になる。


「ふ、む。お前は、時々大人びた考え方をするときがあったが……」

「え?」


 ラムダスの指摘にバルカは思わず声を上げてしまった。

 なるべく自分を出さないようにしてきたつもりだったのだ。


「とはいえ、読書好きなお前の事だ。頭もよいとは思っていたし、それぐらいの疑念は思いつくか……いいだろう。少し、場所を変えよう。だが、その前に食事だ。食事は重要だぞ」


 そういってラムダスはサンドイッチにかぶりついた。

 これ以上は、食事が終わるまでは何も言うつもりはないといった態度もあり、バルカも食事を続けた。

 それから十分後。二人は食堂を後にして、移動を始めた。ラムダスに案内されつつ、バルカがたどり着いたのは城壁の上、緊急時には監視塔とバリスタの発射台を兼ねた場所。

 今は平時の為か、見回りの為に、視力の良い兵士が点在している以外は人の少ない場所だった。


「ここなら、良いだろう」


 ラムダスはどかりとその一角に座り込むと、インバーダンの街を見渡すように正面を向いた。

 バルカもそれに倣い、隣に座る。


「それで、さっきのお前の質問だが……戦力の増強な」

「はい」

「必要かどうかといわれれば必要だ。我が国は大きい。大きいがゆえに領土も広く、その防衛に力を入れなければならない。それはわかるな」

「えぇ、まぁ」

「といっても、そんなのはどこの国も同じことだ。しかし、実利的な意味ではなく、国家には国家としてのメンツもある。権力、権威と言い換えてもいいな。そういうのは、それに似合った人物や歴史があって初めて力を発揮するし、これがまたバカにならない。六十年生きた老人の言葉と人生の半分も知らん子供の言葉では重みが違うのと同じだな」

「言いたいことはわかります。でも、それと新兵器開発に何の因果関係か?」

「フランメール王が倒れられた。医者が言うには長くないそうだ」

「……!」


 淡々と説明するものだから、バルカは一瞬反応が遅れた。

 国王が死ぬ? それって一大事じゃないの? という言葉を出そうにも、出なかったのだ。


「病でな。医療術師たちも手を尽くしたが、これも天命であると王は治療をあきらめた」

「でも、最近だと春の収穫祭ではお顔をお見せになられていたと思うのですが」


 元より、王が民衆の前に姿を現すことは少ないが、それでも祝日などには必ず顔を出す王でもあった。


「すぐに帰っただろう?」

「大体いつもそうじゃないですか?」

「こいつ、失礼だぞ。王は王で、多忙なのだ。ま、とにかく、フランメール王はもう長くない。だが、幸いな事に後継者はおられる。ご子息があとを継ぎ、フランメール二世陛下として即位する。インバーダン王国の、第二十八代目国王だ」

「はぁ……あの、王子って確かまだお若い……というか僕と同じ歳ですよね?」


 これもまた見たことはあるが、謁見はない。

 現国王が年老いてからできた愛息子であるという。


「あぁ、そうだ。若いが、聡明な方だよ。私も何度かあったことがある。それに、若いと言い出せば、国王陛下は八歳の時に即位なさっているぞ」

「そ、そうだったんですか……」


 実はそんなことは忘れていたとは言い出せないバルカ。


「……いや、待ってくださいよ。国王陛下が亡くなられるかもしれない……だから新兵器を……?」


 同時にバルカはふと思い出した事があった。

 フランメール王が即位したのは六十年前。空軍が設立されたのも同じ時期である。


「そうか、長く統治をおこなってきた王の死は、大なり小なりの不安を与える……若き王の即位で持ち直しても、若い王というのはそれだけ求められるものも多い……権威がいるんだ」


 そして現在。

 国王は床に伏せ、後継者はまだ若い。


「六十年前。当時、八歳だったフランメール王は、空中戦艦をもって王国の威厳を現した。まぁ、これは先代様のアイディアだったのだが」

「それと同じことを行おうというわけですか。なるほど、合点が付きましたよ。先王、死してなお国力に陰りなし。いやむしろ、新たな世代に移り変わるからこそ、新たな力を国内外に見せつける必要がある」


 権力の面倒臭い所ではあるが、必要な事でもある。

 権力、権利とはただ偉そうぶるだけのものではない。これらがあるからこそ、外国といった勢力と対等に接することができる。

 同時に、所属する国家、国民からすれば自分たちの象徴であり、これがあるからこそ国家という土台をまとめることができる。

 その権威が専制君主なのか民主主義なのかの違いだ。


「だから、空軍は新造戦艦を……陸軍もそれに匹敵する権威を作り出したいというわけですね?」


 なるほど、それならばバルカの考えるロボットの存在はぴったりと当てはまるだろう。


「その通り。そこに、お前のあのノートが出てきた。陸軍としては藁にもすがりたい気持ちでいっぱいだ。そこで、改めて聞くが、バルカ。お前の計画、実現は可能か?」


 ラムダスの言葉はバルカに決断を求めていた。

 何事も手早く済ませる兄は、今この瞬間でもそれを求めていた。


「この際だから伝えるが、お前はアイディアを出して終わりとはならない。お前が考え出したこれは、あまりにも新機軸なのだ。誰一人として、概要がわからない。私はな、お前にも大いに関わってもらうつもりだ。だから改めて聞くぞ。できるか?」


 バルカは一呼吸おいて、頷いた。


「……できると、即答できるほどの知識は僕にはありませんが、チャンスがあるなら、やってみたいですね。いえ、やります。もうこんなチャンスはめったにないでしょうし」


 何だっていい。

 関われるのなら関わるだけだ。

 元は暇つぶしだったものが、少し規模が大きくなるだけだ。

 それに、最初から求めていたことじゃないか。バルカは今更、やっぱりなしとは言いたくなかった。


「作りましょう、兄上。陸軍の、いえ、国家の威信をかけた新兵器を」

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