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第7話 政治闘争ほど面倒なものはない

 自ら望んだ事ではあるが、何から何まで突然すぎてバルカの思考は一瞬だけフリーズしていた。確かにコネでもなんでも使ってしまえとは思っていたし、父親やラムダス経由で相談なんてできればと思っていたら、これである。


(い、いや。ここでビビッてちゃいかんだろ。大丈夫、大丈夫。人生二回目、どーとでもなるさ)


 自分でも意味のわからない理屈を並べつつ、バルカはひとまず深呼吸してから威圧感の塊であるソーズマンを見据えるように、視線を交わした。


「自分の思い付きを取り立てていただき、正直を申せば驚いています。こんなことになるとは思っていませんでしたので」

「だろうな。先日、ラムダスが君のまとめたノートを持ってきた時は私も驚いた」

「ですが、将軍はすぐさまご理解なされました」


 ソーズマンの言葉に付け加えるようにラムダスが続く。

 ソーズマンも禿頭をなでつつ、頷く。


「そうだ。時に、バルカよ。今現在、王国の主戦力が何かわかるかね」

「……船、ですか?」


 適当に答えたわけではない。バルカなりに考えた末での返答だ。

 艦船の数をそろえるのは国力の証明にもつながるのだし、やはり現状最新かつ最大の兵器は船だ。

 その部分だけは否定のしようがない。


「そうだ。魔石を用いた飛行戦艦だ。それは良い。我がインバーダン王国の威光を世に知らしめるという意味ではな。が、ここで面白くもない話をさせてもらえば、彼奴等は空軍。そして我々は陸軍だ」


 ソーズマンの言葉はこちらを試す質問というよりは現状確認に近い。

 バルカに対してもある程度、かみ砕いて説明をしてくれていた。それはありがたい事である。


「手っ取り早く説明するなら、陸と空は非常に仲が悪い」


 そして、ソーズマンの語る内容はつまり、陸と空の対立構造である。

 王国とは言え組織という構造をなしている以上、大なり小なりの衝突は当然、あるものだ。

 それが、国防を担う軍隊ともなればといった具合だろう。


「予算の関係もあるし、実際大きく目立つのは空軍だ。それは良い。よいが、こちらにも立場というものがある。我々陸軍は空軍の手下ではない。だのに、空軍め、フランメール王に取り入り、あまつさえ新造戦艦開発の許可までもらいおったわ!」


 先ほどまでは冷静な姿を見せていたソーズマンであったが、徐々に声色に怒りが混ざり、声量も大きくなっていく。

 それはほぼ愚痴に近い。かといって、この愚痴を大っぴらに公言することはソーズマンにはできない。彼の立場というものもあるし、何より軍隊の最高指揮官はインバーダン王国の国王陛下であるフランメール・グローズなのだから。


 フランメール王は、バルカも見たことはあるが、直接の謁見はない。ひげを生やし、王冠とマントをしたいかにもな姿をした王様であったことは覚えている。

 とにかく最高指揮官が王である以上、その決定に対して文句は言えないのである。

 陸軍のトップと言えど、その立場は中間管理職に近い。


「ま、つまり。我ら陸軍でも空軍に対抗できる戦力、象徴が欲しいというわけだ。空戦戦力の拡張は必要だが、陸戦を忘れてもらっては困るからな」


 ラムダスは適時、ソーズマンの発言に付け足しを行って補完していく。

 そこまでされれば、バルカもおおよその流れは理解できる。

 つまる所、政治闘争に巻き込まれつつあるというわけだ。


(まぁ、少なからずそういうのも来るだろうとはおもっていたけどさ。これは、結構、本格的というか、難儀だな。兄貴も一体なにを考えているのやら)


 バルカはちらりとラムダスへと視線を向ける。

 取り入ってくれたのは感謝であのだが、このいつも飄々とした兄が何を考えているのかいまいちわからない。

 すると、バルカの視線に気が付いたラムダスはニコリと笑みを浮かべて、


「何。心配するな。諸事情あってね、陸軍の戦力増強は国王陛下の許しを既に得ている。それが今までは騎士団の育成や装備の新調であったが、今回は少しとびぬけたことをしようと決まったというだけさ」


 ようはメンツの問題という話だ。

 常に最新鋭の戦艦を用意し、見た目も派手な空軍はアピール力が上手い。何より空を飛ぶ戦艦は誰の目から見ても「すごい」と感じるだろう。

 一方で陸軍は従来の戦力を保持したまま、その底上げを行っている。真新しいことが無い分、イメージ戦略としては下であり、地味な印象を受けているというわけである。


「そのお眼鏡に、僕のあれが採用されたというわけですか?」


 メンツだろうが、なんであろうが、バルカとしてはロボットの実現が近づくならそれでも良い。

 それに、巨大な人型ロボット、特にバルカが想定するタイプであれば空中戦艦に匹敵する印象を与える事は可能なはずである。


「検討段階ではあるがね。ただ、私はこれが陸軍の新たな象徴になると信じているよ、バルカ」


 尊敬するべき長男は自信満々であった。

 その期待に満ちたまなざしを一身に受けるバルカとしては少しこそばゆいものもあったし、えらいことになったぞという不安もあった。


「ソーズマン将軍も、そう思ったからこそ、バルカを呼ぶように、仰られたのでしょう?」

「馬鹿を言うな。持ち込んできたのはお前だ。とはいえ、期待をしているのは事実だがな」


 ソーズマンは自らを律するように、ため息をつきながら返答した。


「陸軍の本懐は盾にある。我々は外敵を撃滅するのも使命だが、それ以上にこの身を盾にして侵略を防ぐことも重要になる。君の重機甲兵はその理念という部分ではまさしく陸軍向きだ。」

「陸上戦力の強みは継続戦闘能力と防御力ですからね」


 ソーズマンとラムダスの話は、ミリタリーにさほど興味のないバルカであっても思わず耳を傾けるものだった。


「と、いってもこれは建前だ。どの軍隊も敵を倒す事に主眼を置いている。陸も空も、そして海も攻撃力を欲しているんだ。巨大国家の宿命ともいえるな」

「兄上、そんなバッサリと……」


 普通、そのようなものいいは処罰されそうなものだが、ラムダスは一切に気にしていなかった。

 バルカは少しだけ不安になりソーズマンを見やるが、彼はさほど気にしていない様子で、腕を組んでいる。


「建前は必要だ。本音だけでは物事は動かん。それに、正直を申せば俺は空軍の偉そうな態度が気に食わんだけだ。それの何が悪い。空軍大将フォレスリーバは陛下の遠い親戚筋だ。陛下とて人間、身内を贔屓するものだ。だが、その煽りを受けてはかなわん。王国に陸軍ありと知らしめなければならない。それに、空軍も創設されてたかが六十年。それまでは陸軍の一部門に過ぎなかった空挺騎士団が前身だというのに」


 空挺騎士団とは今現在は空軍の花形の一つであり、飛行できるモンスターを使役した天翔ける戦士たちの事である。

 かつては陸軍に所属していた部隊であり、そこでもエリートの誉れを受けていたが空中戦艦を建造するようになり、所属が変更されたのだと聞く。


「家庭教師から教えてもらいました。確か、先代の国王陛下の悲願だったとか」


 バルカの答えに、ソーズマンも苦々しく頷く。


「その通りだ。だが一方で、我が陸軍は建国以来から続く誇り高き戦士である。新参者に負けてはおられんのだよ」

「私としてはどちらの戦力も同等に必要だとは思いますけどね」

「そんなことはわぁっとるわい!」


 臆せずものを言うラムダス。

 ソーズマンも大声で反論はするが、大真面目に怒りをぶつけているわけではないらしい。


「だが、なんにせよ、我々も力があると見せつけなければならない。わかるかね、バルカ」

「え、えぇ、まぁ……」


 正直なところを言えば、バルカにしてみればロボットを作ることを協力してくれるなら、それが陸だろうが空だろうがどっちでもよかったのだ。

 とはいえ、なんであれうまい事ロボット開発のめどが立ったことは喜ぶべきことなのかもしれない。

 その発端がメンツと政治のぶつかり合いだという部分には目を瞑るが、これを言い出せば自分とて思い付きと趣味である。

 ソーズマンをどうこう言える筋合いはない。


「それで、だ。まずはこちらでも技術者を集める」


 落ち着きを戻したソーズマンは軽く咳払いをしつつ、恥ずかし気に頭をなでる。

 どうやら、それが癖になっているらしい。


「君のノートを見たうえでこちらでもいくつか候補は上げている。しかし、準備もある。まずは三日ほど、待ってくれないか。それまでにこの重機甲兵に関する人員を揃える」

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