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第5話 転がり込む、チャンス

「……これ、あれだ。古い特撮のロボットみたいだな」


 ここでバルカはもう一つ重要な思い出がよみがえる。

 人型ロボットが活躍するのは何もアニメや漫画の話ではない。彼の脳裏には、『特撮ヒーロー』という単語が浮かんでいた。

 この特撮にも数多くのロボットが存在する。その多くは着ぐるみなのだが、デザインなどの関係もあって、かなり稼働に制限がある。なかにはかなり動きやすくしたものもあるが、それこそ例外だ。

 むしろ多くは肘の関節が全く動かないものもあったし、そもそも『歩行』すらしてないものもあった。


「確か、特撮ロボットの超初期だと歩くのも難しいから、小股の小走りになったり、台座を押すような形もとっていたとか聞いたことあるな」


 劇中の設定ではローラーやホバー走行しているというロボットも存在していた。

 それを考えると、今現在では歩行は考えなくてもいいかもしれない。いずれ技術が成熟したら考えてもいいかもだが。


「よし、ここは割り切ろう。まず作るプロトタイプは箱型だ。移動方式はそれこそ練らないといかんが、歩行はこの際無視してもいいだろう。腕の稼働も最低限にすればいいはず。最悪水平にまで持っていければ十分だ。古いロボットの玩具をそのままスケールアップしたものだと考えればいいな……うーむ、物足りない部分も多いが、いきなり飛んだり跳ねたりなんてできないし、これはほぼ決定事項だな」


 大きさはまだ不確定だが、十メートル級よりは大きくなるだろう。

 分厚い装甲を使うことで、わざと重量を重くして、あえてそれでバランスをとる。足はかなり大きくなるだろう。多脚型も趣があるが、ここは二足歩行に限定。


「歩くのは無理でも、空中ガレオン船みたいに浮力を持たせてみるか。空には飛べなくても、ちょっとは浮けるはず。移動する時はそれで……補助として大型の車輪を使うか? 概念としては……やぐらだな、これ」


 やぐらには色々あるが、基本的には攻城兵器だったりする。

 城の高い塀、壁を乗り越えるために塔を作ってそれで乗り込むといったシンプルなものだが、これが結構重要なのだ。


「ふむ、装甲付けたやぐらで、戦車としても使える……異世界ファンタジーならではって感じだな。攻撃を弾いて、敵陣に突撃して、城に乗り込む兵力も送り込む。うむ、うむ、無理矢理だが利点は作れたな。まぁ、採用されるかどうかは知らんけど」


 一通りをまとめ終えて、バルカは少し満足していた。

 まだまだ考えとして煮詰めないといけないものは多いが、やってやれないことはないはずだ。


「んー、楽しい。なんでもっと早くにしなかったんだろう、俺」


 『俺』などと言う言葉を家族が聞いたら真っ青になるだろう。

 バルカは周囲には『僕』で通っているのだ。


「さぁて、誰に見せるかな。というかどうやって見せようか。いきなり持ち込んでもビックリはされるだろうが……」


 その時だった。


「おい、バルカ、聞こえてるのかい?」


 扉が勢いよく開かれ、誰かが入ってくる。


「はい!」


 反射的にバルカは振り向き、表向きの自分で返事をした。十三年もやっていれば無意識に切り替える事ができる。

 振り向いた先には長男のラムダスだった。十三歳のバルカより、十歳も年上であり、インバーダン王国では陸軍大将の側近の一人、秘書に近い仕事をしている。

 長兄という自負もあるのか、文武両道であり、まさしく一家の跡取りにふさわしい人物と言えた。

 かくいうバルカも、ラムダスの事は素直に尊敬している。何より、優しい兄だった。

 そんな兄が少し困ったような表情でこちらを見ていた。


「何度も呼んだんだがな。昼食だよ」

「あ、はい。兄上も?」


 普段、ラムダスは家に帰ることは少ない。軍閥の大将の秘書ともなれば忙しいのは当然である。また彼は秘書という立場だけではなく、率先して実働部隊にも顔を出し、訓練を共にするぐらいのもの好きでもあった。

 もし、国が戦争になれば貴族の家長、そして跡取りは戦場に出ることになる。その為の訓練ともなれば当然である、とはラムダスの言葉である。


「たまたま時間が取れたのだ。それに、家に帰らなさすぎるのも問題であろう?」

「そうですか、嬉しいです、兄上」

「ふむ……ところで、ずいぶんと熱心に何かを書いていたようだが? 自主勉強かね」

「えぇ、まぁ、そんなところです。少し、思いついたことがありまして」

「ほう、我が家の可愛い天使が何を書いたのだ?」

「えぇと……」


 一見、恥ずかしがる素振りを見せるバルカだったが、内心では「チャンスでは?」などと思っていた。

 ラムダスは軍隊と深いつながりがある。父親もコネはあるが、密接度合いで行けばここは兄に軍配が上がるだろう。

 それに普段は家に戻らない彼が今日は運よくいる。

 何より、見てもらうだけはタダだ。


「こ、これです……あの、笑わないでくださいね? ちょっとした思い付きですから」

「なに、人の努力を笑いはしないさ。さて、どれどれ、可愛い弟の勉強の成果を……ふむ」


 ラムダスはノートにさっと目を通した瞬間、雰囲気を変えた。

 にこやかな優しい顔つきは、真剣そのものだ。

 たっぷり二分。ラムダスは一通りを読み終えて、バルカに向き直る。


「バルカ、これ、少し貸してくれないか。大丈夫、ちゃんと返すよ」

「えぇ、良いですけど……」

「ありがとう。それと、すまない。昼食はまた今度だ。俺は用事が出来たよ。父上と母上にはまた改めて……」


 ラムダスはそう言って、小走りにその場を去っていく。


「さて、兄上をだましたようで悪いけど、どうなるかが楽しみだね、こりゃ」


 ここからは、成り行きを見守るしかない。

 バルカは期待半分、不安半分で兄の後ろ姿を見送った。

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