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第3話 リアルで人型ロボットが役に立たないなんて知っとるわい

 利点。つまりはロボットを作る必要性である。


「人型ロボットは戦場じゃ使いものにならない。リアルじゃ、少なくとも」


 これは転生前の世界でほぼ必ず、そして間違いなく大荒れする話題の一つだ。

 この話題一つでネット上は色んな意味で熱く、騒がしくなること請け合いである。といっても、これらは一部の行き過ぎた部分を除けばわかったうえでやってるプロレスに近い。

 しかし、それがリアルになるとやはり避けられないのである。

 前面投影面積がどうのいう話はよく目にした。あとは関節部分がどうたら、二足歩行じゃバランスがうんたら。

 あいにく工学系の知識は少ないが、言わんとすることはわかる。


「でかいだけの的だの、立って歩くことも不可能だのよく言われるが、ま、実際そうだわな。うん」


 バルカは、人型ロボットは好きだ。好きだが、これらの批判的な意見も重々承知している。そんなことはわかった上で、この壮大な暇つぶしを始めているのだから。

 といっても無視していいわけじゃない。

 これから作ろうというのだから利点と欠点を考えたうえで、欠点に目を瞑れる利点を考えなければいけないのだから。


「実際問題、兵器として運用するんだったらその部分は解決しないと話にならんしなぁ……まだこの世界じゃ火力過剰というわけじゃないにしてもだ」


 転生前の世界ではまず何より兵器の攻撃力が突き抜けてしまい、それらを完全に防ぎきる装甲がほぼ存在しないという事実がある。

 攻撃を防ぐとはつまり、「当たらないこと」、「撃たせないこと」とイコールで、結局、機動力の勝負になり、面積を極力減らすように小型化の流れに落ち着いた。

 最悪ミサイルの応酬で決着がつくと皮肉げに言われるぐらいなのだ。


「大威力の武器を使えばなんにでも決着がつくのは、まぁ当然か。といってもそこまで行くと兵器論じゃなくなるよなぁ」


 核ミサイルがあればその他の兵器が必要ない。

 なんて話はまずない。

 少なくともこの世界ではまだその領域には達していないのだ。


「この問題は数百年、数千年後の人たちに丸投げするとしてだが……んー、ここは発想を逆転してみるか?」


 投影面積で、被弾率が上がるから駄目なのではなく、あえて攻撃を受けるスタイルに注目してみてはどうだろうとバルカは考える。

 第二次世界大戦の大型艦は実際の運用理論はさておき、そんな感じに近いはずだ。

 厚い装甲で攻撃を受け止め、大火力で撃ち抜く。今でこそ、前世では廃れたにせよ、長らくはその重装甲、大艦巨砲主義が戦場の覇権を握っていたことは確かである。


「航空機の爆撃に弱かったけど、あれは魚雷や爆弾の威力の問題もある……多分」


 ミリタリーな意見はあまり詳しくないバルカ。

 聞きかじり程度のものなのだ。


「この世界の最大火力が俺たちの世界のような先鋭化した破壊力はまだない……火薬がやっと採用されて大砲だしなぁ。数打てば当たるな所あるし」


 この世界は魔法があるとはいえ、最新鋭の戦艦は帆船のガレオン船である。

 通常、ガレオン船などに搭載される大砲の数は少なくとも二十門、そこから五十門、果ては百門と数は多い。

 だが、これらの大砲は世界大戦時の軍艦主砲よりは当然、攻撃力が低い。技術的な点が一番の問題であるが、とにかくガレオン船主砲はその威力を最大発揮できる距離が、非常に短い。

 せいぜいが百から二百メートルといったところか。

 それを理解しつつ、この世界の技術を踏まえて考えていくと、やはり重装甲という案は採用するべきかもしれない。いやむしろ、この時代だからこそ採用するべきだ。

 剣も魔法も大砲も通さない重装甲は魅力だ。この世界の火力は世界大戦の魚雷より強いってことはない、はず。


「大砲の威力も俺が考えるものよりはずっと低い。魔法だってアンチマジックなるもので防御できる……でかいからこそ、術式を組み込む事は容易なはずだし……うーむ、結構魔法頼りになるな。仕方ない事ではあるが」


 元より、魔法があるからロボットも行けるだろうという安易な発想からの思い付きである。

 使えるものはとことん使ってしまえばいいだろうとバルカは割り切った。


「んで、人型に話を戻してだが……」


 利点である。

 パッと思いつくのは心理的な威圧だろう。これは馬鹿にならない。

 ある日突然、目の前に巨大な存在が現れたら誰だってびっくりする。それがクマなのか筋肉もりもりの男なのか、鉄の塊なのかのちがいだ。

 とにかくでかいとは怖いである。いかに戦車に乗っていようと、その戦車よりでかい存在が現れたら誰だって怖がる。

 即座にでかい的だぜと侮ることはないだろう。

 張りぼてだったらその限りではないが、一瞬は怖がる。


「そして、これは俺なりの持論だが……」


 バルカは書き足していく。

 あえてその中で人型を取る理由だ。人型を取ることで、人間と同じ動きができるというのはよく言われることだが、実はバルカはその意見には賛同しかねている。否定するわけじゃないが、それだけが利点ではないというわけだ。

 人間と全く同じ動きができるとなると、それは要求される技術力が高すぎる。少なくともこの世界ではまだ無理だ。

 そこでバルカはある種の妥協点を持っていた。それは「人が一番怖がる形とはなにか」である。


 怖いと感じるにも色々あるだろう。高い所が怖い、刃物が怖い、動物が怖い。

 死の恐怖は誰だって怖いだろうが、そういう本能的に恐怖を感じるもの。

 言い換えると力あるものとして認識するものとは何かである。

 人の形とはつまるところは人が最も認識しやすい形であり、身近な力の象徴だ。

 古来の人々が権威の象徴として巨大な石像を作ったのだって、こういった本能的なものがあったのかもしれないというのがバルカなりの考え方である。


「まだこの時代背景なら象徴としての存在意義はある。圧倒的な装甲、巨大な躯体、見た目も重視すれば士気もあがる。多分」


 バルカは一通りをまとめ終えると、ノートの表紙タイトルを考える。


「重機甲兵計画……まんま過ぎるか? と言っても、これぐらいは外連味持たせないとな」

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