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第27話 魔女の森へ

 明確な危機を前にして、バルカが出来ることといえば、結局ロボットに取り掛かることだけだった。

 軍略を練るような頭もないし、たくさんの資金を回してもらう程の政治力もない。ここで、両親、実家に頼るという考えは彼の頭の中からすっぽりと抜けていた。

 王国から援助を貰うのは企業やスポンサーからの必要経費だと認識できるのだが、それが血のつながりのある実家となると、とたんに甘えであると認識するのは日本人特有のものかもしれない。

 親のすねをかじるのは恥ずかしいという感情だ。


「とにかく、全体的な強度を向上させないといけないと思ったんです」


 第二工場の会議室で、バルカはエイル含めた主要スタッフと何度目かの会議を行っていた。

 議題内容はギガステリウムの改造、強化案だが、少なくとも今現在では劇的な改造を施すつもりはなかった。

 やることは単純で、基本性能の向上である。

 今の段階で強力な武器をつけようとか、機体に特殊機能を追加しようなどとは一切考えず、強度や魔力伝達などをもっと高次元にまとめようという話だった。

 言葉にすれば簡単ではあるが、それをしなければまた一戦闘事に両腕が吹き飛ぶことになる。

 物は壊れても直せばいいというのは真理かもしれないが、そう毎回、中破、大破されても困るというものだ。

 ただでさえ整備が難しいというのに。


「表面装甲に関してはミスリルを転用すれば軽く、堅牢な装甲にはなるでしょうな。問題は、中身ですが……正直、木造フレームだけでは限界でしょうね」


 エイルはきっぱりと言い放つが、元々バーバヤーガ樹をつかおうと考えたのは彼である。それに、事実、バーバヤーガ樹と魔力の組み合わせは抜群であり、巨獣の炎を防いだ魔力障壁はバーバヤーガ樹があってこそだった。

 全身がいわゆる魔法の杖、触媒となる木造フレームにはそういう利点もあったのだ。


「まぁ、今すぐに全てを鉄に置き換えるのは現実的ではないでしょう。プロトタイプである現在のギガステリウムをもとにして、二号機、三号機と作り続けていく中で、それらをテストするしかありません。一応、プロトタイプでも戦果はあげましたからね」


 そこが大きかった。ギガステリウム、ひいては人型ロボットという全く新しい兵器の有用性を疑うものは確かに多かった。

 だが、なんであれギガステリウムは巨獣を倒した。その際に両腕が破損したことはどうでもよかったのだ。むしろ、未調整、未完成の状態でその成果というのはむしろ評価を高めることになる。

 同時に期待も高くなるのだが、それに応えなければモノづくりなど到底、できるものではない。


「ひとまずは、現状でできる範囲の強化案を考えてはみますよ。実戦で、活躍できたというのは大きな自信になりますのでね。いずれは、鋼鉄の巨人というのも作ってみたくなりましたよ」


 それはエイルだけではなく、このプロジェクトに参加しているすべての意見でもある。王子から受けた期待、実戦での結果、それらは全て良い方向に彼らを突き動かしていたのだ。


「あぁ、このチームでプロジェクトを動かせて、良かったと思う」


 バルカは改めて、巡り合わせの良さを実感した。

 このメンバーであれば、いずれは、果たせるかもしれない。そう思えるだけの熱意が、確かにあるのだ。


「よし、それではさっそく作業に取り掛かろう。まずはギガステリウムの修理、そして……」


 彼らは動き出す。

 新たなる世界の扉を開こうと、時代の最先端を牽引してやろうと、思いながら。


***


 そのような決意をした翌日。


「なによ、その不満そうな顔は」


 やっと朝日が昇り始めた時間帯。バルカは馬車の籠に揺られながら、じとーっとしたラーゼの視線とそれを不安そうに眺めるゼタにはさまれていた。


「あのね、朝も早くから連れ出されればそうもなるでしょ。しかもアポなし」

「あ、あなたのご両親からはちゃんと許可は貰ってるわよ。それに、ラムダス様からもね」

「あの三人めぇ……」


 道理で屋敷の連中の手際もよかったのだ。

 着替えも何もかもすぐさま出てきたし、特に母親がものすごい笑顔だったのを覚えている。

 なんせ出かける寸前に「頑張りなさい!」という謎のエール。大方、デートだと思われているのだろうというのはわかる。

 玄関扉の前で待つラーゼが妙にそわそわした面持ちで待っていたのだし、何よりこの馬車の行き先は、彼女たちの実家である魔女の森だった。

 ラーゼは『約束を果たしに来ただけよ!』と言っていた。その辺りでバルカも今回の目的を大体は察していたので、母親の勘違いにはちょっと頭を抱える。


「それで、約束ってのは、魔女の小屋とかの事でいいんだよね?」

「そうよ。もしかして、迷惑だった?」


 時々、ラーゼはものすごく不安そうな顔を浮かべる。


「いや……そんなことはないが……突然すぎるから驚いただけ。これからは、こっちに直接話を通して欲しいな」

「わかってるわよ……! 今回は、その、たまたまよ。というより、なんでゼタまでいるのよ。私、呼んでないけど」


 さっきまでの不安そうな表情から一転、ラーゼはいつものきりっとした瞳をゼタに向けている。

 当のゼタは目をそらしながら、愛想笑いを浮かべていた。

 ラーゼが屋敷に迎えに来たと同時に、彼女もひょっこりと現れたのだ。


「えー、えへへ……なんでかな? 私も、たまたま?」

「なわけないでしょ!」

「だ、だって、ラーゼったら一人で、そんな……」

「良く言うわね、あんたも前に連れ出してたじゃない」

「わ、私はお使いを頼まれただけだもん!」


 そして始まる少女二人の謎の張り合い。

 本人たちは小声で、こちらを気にしながら言い合いをしているつもりなのだろうが、そういう声というものは意外と耳に入るものだ。

 そして、話の内容も結構理解できる。


(うーむ……どうしたもんかなぁ……)


 美少女二人から好意を持たれるのは嬉しい事だ。それは間違いない。

 しかし、自分の精神年齢がどうとかの前に、十三歳の恋愛観というのがバルカにとってはまだまだ子供の感覚だという認識がある。

 恋に恋するといった所か。いや、その認識は彼女たちに失礼だとはわかっているが……。


(要するに、俺が恋愛素人だから……)


 前世では人並み程度に恋をしてきたが、お付き合いという深い仲まで発展したのはそれこそ片手で数える程度。大人になってからはそんなものはしたことがない。

 そりゃ当然、こうして生まれ変わって期待をしないでもないが、さすがに十三歳で惚れた腫れたはまだ早いだろうというだけだ。

 実際は、バルカ自身が奥手で、臆病なだけという話なのだが、それを本人が自覚していないというのが事実である。

 だからこそ、奇妙なすれ違いと勘違いが起きたまま、馬車は魔女の森へと進む。


「第一、二人っきりで帰ったら、一族の人たちから何言われるか……その辺り、考えてたの?」


 ゼタのさらっとした指摘にラーゼは一瞬だけ言葉を詰まらせた。


「う、いや……いやいや! 今回は、あれよ。そう、仕事。仕事の一環だから。それ以外にないから」


 ラーゼの唐突な念押し具合は逆にほほえましく見えてくる。何を考えていたのかはあえて深入りしないでおくほうがよさそうだと思ったバルカ。


「何笑ってるのよ。変な勘違いしてないでしょうね?」

「いや、別に? でも楽しみだよ、魔女の森」

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