第21話 ささやかなお祝い
ブォン、ブォンとまるで牛か何かの唸り声のような駆動音は木造装甲に魔石から放たれる衝撃波が反響している為だ。
奇しくもそれがギガステリウムの姿にマッチングしており、このロボットは息吹を感じさせるものとして、思わぬ副産物を手に入れたことになる。
ギガステリウムは全体像が角ばったブロック構造物の結合体なのだが、頭部だけは作りこまれており、額から一本の短いが分厚い角を持ったサイをもした兜をかぶったような見た目をしていた。
兜のしたに見える顔は緑色の魔石がガラス状にはめ込まれており、これがいわゆるカメラとしての機能を果たし、コクピット内部のクリスタルに映像を届ける。
「遠見の魔法の応用です」
エイルはさも当然のように答えていたが、冷静に考えればトンデモな技術だ。
その魔石は見えないながらも機体各所に備え付けれているらしく、全方位をカバーしているが、逆を言えば魔石によって視覚をカバーしているので、もしこれが壊れたら即視界が封じられることになる。
「便利なものには、相応の欠点か……」
だとしても生身を外にさらす必要がないのは大きい。
「そして、大きさは二十メートルか……まぁここら辺が今の限界か」
全長約二十メートル。バルカが想定した四十メートル級には届かないが、それでも巨大な人型であった。むしろ、これだけでも異世界の科学技術を大きく逸脱した、存在ともいえる。
その大部分が魔法というファンタジーによって支えられているとしても、結果としてロボットは完成した。機械ではなく、木造建築物の側面を持つが、ここに使われるバーバヤーガ樹は下手な樹木より固く、耐久性がある。
まるで都合のよいアイテムばかりが揃っているような気がしないでもないが、バルカはあえてそれを受け入れた。
「いきなり飛んで跳ねて動き回れるようなものが作れてない以上は別にそこまで都合良い世界ってわけでもないしな。エイルさん、こいつを操縦するのは一人だけが担当するわけじゃないよね?」
「当然です。前に進ませるだけならばまだしも、両腕を動かしたり、出力を調整したり、取り付けられる予定の大砲とかだって、ここから一斉に制御はできませんから何人かが外にでて砲手をしないといけません」
ギガステリウムに内蔵武器と呼べるものは両腕のアンカーと拳、そして最終手段の魔力砲だ。この魔力砲は本来、胸部に取り付ける予定だったが、現在は鳩尾の部分に一応の発射口がある。現在は隔壁のように装甲で遮られているが、使用の際には左右にスライドして発射軸を確保するというものだが、上下の角度が調整できないう大きな欠点もある。
(完成は完成だが、問題は山積みだ)
ガタン、ガタンと大きく揺れながら工場内をゆったりと進むギガステリウムの内部でバルカは感動と同時にこれからの大変さを理解して笑うしかなかった。
完成はした。しかしこれで終わりではない。こんなもので満足してはいけないのだ。
元よりこのギガステリウムはプロトタイプ。この成功例を元にさらに技術を加速させ、発展させることで、いずれは自分の思い描くようなロボットが作れるかもしれない。
この大きなハリボテは、しかし希望を持てるぐらいにはさまになっていた。
これに鉄板装甲を取り付ければ中身はどうあれ、見た目は随分とロボットらしくなるだろう。
「まるで俺だな」
固い鎧に身を包む、ハリボテ。
バルカはその姿を自分と重ねた。自分は貴族の少年で才能があると思われているが、実際の中身は人生を途中で投げ出した中年だ。御大層なもので中身を隠しているのは滑稽に映る。
しかし、このロボットだけは滑稽なものとしては残したくなかった。
「エイルさん、さっそく改良点の洗い出しをしましょう。こいつはまだゴールにはたどり着いてませんからね」
ラーゼは男は子どもみたいだと言った。それは確かにその通りかもしれない。
ロボットなんて本来ならナンセンスで、馬鹿々々しいものを、自分は本気で作ろうとして、形あるものとしてここに存在させた。
馬鹿でもやればできるということだ。それが、半分以上、自分の力じゃなかったとしてもだ。
「エイルさん、色々と教えてくれませんか。わからないことも多いので、いつまでも頭でっかちのボンボンではいたくないですから」
バルカの発言にエイルは一瞬だけ、きょとんとしていたが、すぐにまたいつもの調子で頷いていた。
「私、教えるの下手ですから」
それは否定の言葉ではなかった。
***
翌日。
機体が完成したとはいえ、それですぐにお披露目になるわけではない。なにごとも順序、手順が存在する。
それに完成度を高めるという意味もある。ギガステリウムは完成したが、それは前後に進む事が出来て、腕が持ち上がる程度の完成だ。それでも充分な進歩なのだが、鉄板装甲を付けたさいの挙動なども考えるとやることは山積みだ。
しかし完成は完成である。王族へはまだ文章による報告しかなされていないのは、手順の関係だが、現場の者からすればこの日は苦労が報われる日でもあった。
「みな、よくやってくれた。ソーズマン将軍も報告には喜んでおられた。今日の成功を糧に、これからも陸軍を盛り上げて欲しい。だがその前に、今宵は無礼講だ。酒と肉を用意した。明日は休んでも構わん。以上だ」
完成の報告を受けたラムダスはある意味では弟よりも張り切っていた。
駆け付けて、すぐさま祝賀会の準備を取り仕切ると、音頭も披露した。
本来、こういったパーティーはどこぞの店を借りてやるのが良いのだろうが、なぜかギガステリウム開発チームは工場内でそれを行った。
大きなパーティーはそれこそ王族へのお披露目が終わってからでも良いという全員の意向をラムダスが酌んだ形となる。
「バルカ殿はいらっしゃらないのですか?」
作業員の一人が既に頬をアルコールで赤くしながらも、まだ残っていた冷静な頭で本来いるべき者がいないことに気が付いた。
「ご婦人の所だ。野暮を聞くでない」
ラムダスはそう言いつつも、ちょっとだけいたずら小僧のような笑顔を浮かべた。
「色男ですねぇ」
別の作業員が囃し立てる。無礼ではない。
「俺の弟だからな」
ラムダスもそれを許した。
***
バルカはラーゼの部屋にいて、紅茶とケーキを頂いていた。
夜になると、夏場でも多少、涼しいらしく、ラーゼもどことなく体調がよくなっている気がする。今朝がた会ったばかりで、どうこう言えるものではないが、バルカが訪ねた時のラーゼは調子がよさそうだったのだ。
すぐにむっとした表情を浮かべていたが。
「あちこち忙しい人ね」
ケーキは半分残しつつ、紅茶を呷るラーゼ。一応、上着を羽織っているが、特別寒いわけでもないようだ。
風邪といっても食欲がないというわけでもないらしく、どことなく彼女は慣れているようにも見える。
「これからもっと忙しくなると思う。ギガステリウムは完成したけど、あれはプロトタイプだから。もっと凄いものを作って見せるよ。その為には俺も勉強しないいけないこと多いけど」
「まだ作るの?」
「そうでもしないと、俺は三男だから分家としてどっかの領地を任されるだけになっちゃうからな。それは、暇だと思う」
「特権階級の言葉ね」
ラーゼの物言いには棘はない。軽いジョークのつもりなのだろう。
「あぁでも、領地に機械の工場とか作って研究させるのも面白いかも。まぁこの辺りはもっと将来の話だから。それに、お嬢さんの前で仕事の話は、しないほうがいいだろう?」
「言ったでしょ。スポンサーだから気にはなるって。とりあえず、完成、おめでとう。あとはお披露目?」
「うん。色々と解決する課題は大きいけど。紅茶、おかわりいるか?」
「ん、欲しい」
ティーポッドをもって、結界を潜り抜け、ラーゼのカップに注ぐ。
それはささやかなお祝いだった。
「なんでみんなの所にいかないの?」
「あぁいうノリって実は苦手なんだよね。それに、本当なら君もいるべきだ。関係者だろ。仲間外れはよくない」
「ちょっと意味がわかんないけど……ま、ありがたくご厚意は受けておくわ。ところで、ゼタと二人っきりで歩いていたって話を小耳にはさんだのだけど」
「……仕事の話だからな?」
「それを決めるのは私。なにやってたの?」
こりゃ当分、解放されないかもしれないと思うバルカであった。




