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第19話 未来の行く末を話そう

「将来的に、君の所で開発しているロボットだが……どれほどのものになる予定かね?」


 フォレスリーバが会話を始めると、まるで示し合わせたように先ほどの女性士官が三人分の紅茶をもって現れた。

 彼はその一つを受け取り、唇を濡らす程度だけ飲むとつづけた。

 その時のフォレスリーバは視線をぴたりとバルカに捉えていた。悪い言い方をすれば、値踏みされているという感情を受ける。

 バルカもわずかにこわばった。


「予定、と申しまして。ギガステリウム単体のことでしたら、最終的には二足歩行を目指したいと。ですが、今の技術では実質不可能ですので、こう……かかとやくるぶしに車輪などをつけて走行させる形になります」

「なるほど……陸上戦艦のようなものか」

「はい」

「ふ、む。しかし、な……お互いに作っているものがある手前、このようなことをいうのもどうかと思うが、あまりにも巨大すぎる兵器とはどうなのかと思ってな」


 途中、フォレスリーバはゼタの方を見て、謝罪するように頭を下げていた。


「魔女の方々の資材提供には感謝しているし、そのご厚意に報いるためのものを作っているという自負はある。しかし、あまりにも巨大すぎるのだ。果たして、これらの戦力は過剰ではないかと……どうしてもね」

「将軍の仰ることは理解できているつもりです。ですが、あえて申しますれば、巨大な鋼鉄の戦艦は一つの時代を築くと思いますよ」


 バルカはフォレスリーバへの返答として、あまり詳しくもないミリタリーな知識をあさった。

 前世世界における大艦巨砲主義は確かに廃れたが、だとしてもそれらの技術が通過されるだけの、過度な開発競争に過ぎないとは言えない。

 初めての弩級戦艦……通称ドレッドノートが世界を震撼させたように、鋼鉄に覆われ、その鋼鉄をぶち抜く砲台を兼ね備えた巨大戦艦は間違いなく最強の発明だった。


「間違いなく、この国は最先端をひた走っている」


 たとえ、航空戦力の増大化や兵器類の高性能、小型化の波にのまれ消えたとしても、それまで最強を誇ったのは間違いなくそれら巨大戦艦であった。

 それを考えれば、魔法があるとはいえ、中世という文明を感じさせるこの世界で、その領域に足を踏み入れた空軍の新造戦艦はまさしく時代を先取りしすぎているともいえる。

 それがひとえに魔法、魔石によって無理やり空に浮かばせてできた産物だとしてもだ。


(そうか、だからか)


 バルカはその中で一つの仮説へとたどり着いた。

 この国の科学技術の発展が歪なこと。それは下手に空を飛んでしまったが故の停滞なのだ。本来であれば、時間をかけ、技術を成熟させたうえで行われる有人飛行をこの世界では魔法という副産物で成功させてしまった。

 魔法は手軽である。それこそ呪文一つ、魔力一つで大抵の事はできる。だからこそ、空を飛ぶという事に対する苦労を体験できなかったのだ。

 なぜならば空を飛ぶ、浮くということをできて当然だと思っているから。だがそれは魔法というエネルギーがあって初めて可能な事である。

 バルカとて偉そうなことは言えないが、前世世界で有人飛行を可能にしてきた先駆者たちの努力が、この世界では起こる前に飛んでしまったのだ。

 気球の原理で空を飛んでも「なぜそんな手間を?」となってしまう。


「確かに巨大戦艦は、私たちのロボットもそうですが、巨大さが弱点となります。今はまだ、大きな弱点とはなりえないでしょうけど……いずれ、鉄板装甲すら貫くような攻撃力が出た時、防御とは耐える方向ではなく、避ける方向にシフトするはずです。その時に重要になるのは素早い航空戦力……空挺騎士たちです」


 遠い未来なのか、近しい将来なのか、それはわからないが確実にぶち当たる壁の一つだ。技術の進歩ともいえるのだが。


「ふむ、確かに、速度は貴重な戦力だ。それこそ空軍の本懐でもある。元々、空軍はそういう方面で派生した。空中戦艦は母艦という意味あいの方が強かったからな」

「その運用方法は間違いではないですが、それだけじゃないんです。空を飛ぶということは、それだけ広範囲を進めます。例外はありますけど、陸路に邪魔されませんからね。そして空から爆弾でも岩でも落とせばそれは武器になります。素早く動き回る騎士たち戦艦で仕留めるのは難しいでしょう? それに広範囲の爆撃はダメージとしても大きい」


 これも聞きかじりの軍事知識である。

 とはいえ、さほど間違ったことは言っていないとバルカは思う。

 広い面で、素早く展開できる。それは武器なのだ。


「しかし、その説明を聞くと、我が方の戦艦も、そして君たちのロボットも無用の長物のように聞こえるな?」

「正直を申せば、そうなります。ですが、そう簡単な話でもない……そうですよね? バリアーが存在しますから」

「あっ! お城を守る障壁ですね!」


 ゼタはぱちんと両手を叩いて大きな声で答えを言った。


「そう、魔法障壁、バリアーがあるからこそ、現段階の武装では突破ができないものもある」


 だからこそ、ガレオン船は必要だし、巨大な戦艦も必要となるのだ。

 障壁という確かなバリアーがある以上、それを砕くためのものが必要だから。


「技術は拡散するものです。それが提供によるものか、見よう見まねによるものかはさておき、障壁技術は普遍的なものとなるでしょう。今現在、ガレオン船に使っている大砲で防衛用の障壁を砕くのに何発いるのか……砕いたとしても、その先には白兵戦が待つ……ロボットならばその障壁を力づくで破り、その巨体を持ってして戦えます。これが別に人の形をしていなくても良いですが、あえてそうするのは前から述べている通りでございます。人の形は、本能的に人が恐れるものですからね」


 航空戦力はいずれ戦場の花形となるだろうが、この世界では今一つ、火力が足りない。

 魔法を用いた拠点防衛用の障壁はなまなかな攻撃力では突破ができない。この時代の火薬でも、大砲でも、まだ破壊力が追い付いていないのだ。

 これは前世世界とは大きな違いだ。攻城兵器として進歩してきた大砲は堅牢な城塞を砕いてきたが、この世界では城壁にプラスして魔法障壁があり、これが硬い。

 しかし、その障壁を崩すのに最適なのは物理攻撃ともいわれている。

 そして方法は、専用のガレオン船によるラムアタック。つまりは体当たりなのだ。しかも使い捨てに近い。

 ロボットには、ギガステリウムは障壁を突破し、なおかつ原型をとどめるだけの重量と質量が存在する。もちろん、これこそ理論上の話ではあるし、いずれはロボットという形が必要ですらなくなるだろう。


(だけど、そんなのはもっと未来の話だ。そして、俺は今、ロボット不要論を考えるほど、夢に飽きちゃいない)


 この世界が、果たして前世世界のように科学技術が発展し、高度な機械文明を築くかどうかは定かではない。いや、いずれはそうなるだろうがそれが何百年先の事になるかなどバルカに想像できるわけがない。

 ただ少なくとも、人型兵器が無駄の塊であり、不必要な存在であると断じるような文明はまだ訪れることはない。

 なにせ、やっと火薬が使われ始めた文明だ。本来ありえなかった技術、常識の投入でいかようにもかわる可能性は大きい。


「いずれロボットはもっと洗練されていくと思います。私が考案したものは、現状で可能なものを提示したにすぎません。いずれ、技術が成熟した時は……一体どんな姿になっているか、私にもわからないのです。それこそ、空を自在に飛ぶロボットがいるかもしれません。いずれ騎士の時代は終わりがくるでしょうが、戦士の矜持は残るはずです。敵を倒すのは己なのですから」


 むしろ、この超初期的な段階で人型の有用性を見出した時、果たしてこの世界は前世世界と同じ道を歩むだろうか。

 バルカは思う。そして考える。

 絶対にそうはならないと。

 人は一度根付いた感情を払拭する事はできない。この時代で人型兵器が普遍的なものとなった時、それは、全く新しい世界が切り開くものだと確信している。


(惜しむべきは俺や俺の子供の世代じゃ、その未来を見ることはかなわないってことだな)


 だからこそ、今できる精一杯をやってみようと思う。

 何もできなかった、しなかったと後悔するよりはましだ。

 そこに兵器を作っているんだぞというとっかかりはある。

 だが、そうでもなければ新技術に若造が口出しする機会はなかった。

 感謝していいのか、駄目なのかはわからないけど、もはや自分が夢見た巨大ロボットへの道を止めることなど、バルカにはできなかった。

 だったらとことんやるまでだ。


(そうだな、陸と空と……あとは海、その三つに巨大ロボットを作らせてみよう。そこに存在させてみたい。そうだ、これが俺の夢だ)


 それが随分と手前勝手なものだというのは重々理解している。

 でも、夢とは往々にして、そういうものなのである。


「なので、いずれは空軍用のロボットも考案してみせます。できるかどうかはわかりませんが、やってみるだけの価値はありますよ。少なくとも、技術は無駄になりませんから」

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