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第17話 つかみは大切、あとも大事

「今回、王子が拝謁なさると聞いて、急遽、鉄板装甲を付け加えましたが、これは本装甲ではありません」


 そのように説明をするのはエイルだ。

 さすがに緊張の方が上回るのか、どことなく声がかすれているようにも聞こえる。

 苦手なものなどなさそうな男だが、それでも人間らしい所はあるのだ。


「装甲はミスリル装甲を使います。それを、この巨体に鎧のように覆いかぶせる形となります。それで砲弾などの防御をすると同時に、内側のフレームを構成するバーバヤーガ樹の木製装甲に施されたアンチマジック術式で魔法防御も確立させました。この辺りは、恐らく第一工場で建造されている戦艦も同様の処理が施されていることでしょう」

「うむ。技術的なことはわからぬが、二重装甲というものだな?」

「その通りです。これが、通常のガレオン船であれば単なる木材を使用した船体で充分でしょうが、ことこのような大型を作るとなるとバーバヤーガ樹の堅牢さが必要となります」

「なるほど。これは、ソーズマンに聞いた話だが、人の形をしているようだな。なぜだ?」

「それは……」


 エイルは説明をしようとして、一瞬だけ留まる。

 ちらりとバルカの方を向くと、王子もそれにつられて視線を向けてきた。


「発案者のバルカ殿の言葉を借りるなら、人の形だからこそ、重要なのだと」

「そうなのか、バルカ?」


 その瞬間、王子は質問の矛先をバルカへと向けてきた。

 これはある程度、想定していたことだが、いざとなるとバルカも緊張する。それに視線が一斉に集まる感覚は好きになれない。

 王子はそんなことなどお構いなしに、どことなく目がキラキラと輝いていて、ついでに空軍大将のフォレスリーバも説明を求めるような目を向けていた。


「あ、はい。人の形は……これは、持論であるということを念頭に置いて欲しいのですけど。私たちは、人間です。人間が最も恐れる、力があると感じる存在は何かと考えたとき、私は真っ先に人を思い浮かべました」

「なぜだ? 大砲も戦艦も、そして魔法も、等しく我らに力を与える。それは恐怖と同じではないか?」

「左様です。ですが、それらは武器、道具です。道具は、ただそこにあるだけでは意味がない。砲手のいない大砲など、たんなる火薬と弾丸が詰まっただけの筒です。そこに人がいるからこそ、恐ろしいと思うのです」

「確かに、その理屈は余にもわかる」


 バルカは王子からの好感触を理解した。

 それが少しだけ、余裕に繋がった。


「人は、私たちにとって身近な存在であり、自分と同じ存在であると嫌でも認識するでしょう。生々しさとでもいいましょうか。同時に私たち人間が物心ついて初めて認識する力の象徴は、両親、つまりは人間です。叱られたらいやだな、怖いなと思う事でしょう」

「あぁ、余も母上の小言は嫌いだ」

「程度の差はあれ、人の形とは力なのです。少なくとも、私たち人間にとっては。そして、同時に生物が直感的に恐れるものは大きさです。巨大なものが突然目の前に現れたら誰だって怖いと思うはずです」

「つまり、このギガステリウムは人の形、大きさという力を掛け合わせたものであると?」

「単純な話としてはそうです。古来より、人間は石像などを作ってきました。巨大であればあるだけ存在の象徴として、また同時にそれを作り上げるだけの力があるという証拠として。それが人の形をしているか、船の形をしているかの違いですが、私は少なくとも人の形をした巨大なものが縦横無尽に暴れれば、船以上に怖いと感じるでしょう。なんと言いますか、巨人が実在する恐怖、いえ本来であれば存在しないようなものがそこにいるという意味でもありますが」


 ここまでは常々バルカが思う内容だ。

 かなり抽象的な言葉ばかりになってしまったのが気になるが、バルカとしてはこれが精いっぱいだった。


「ふむ。確かにこの巨人が完成し、動く姿を見れば、それは初めてのものだからな。国民も衝撃を受けるだろうな」

「その通りです、王子」

「して、これはきちんと動くのか? 足は、まだ完成していないようだが、腕周りは?」

「動きます」

「まことか?」


 王子は期待に満ちた瞳をしていた。

 バルカはエイルに目配せすると、エイルは頷き、準備に取り掛かる。


「未完成ですし、研究は未だ続けている段階ですが、このギガステリウムは動きます」


 準備が整い、魔石と蔦が接続される。

 バルカは先日行ったように、ギガステリウムを起動させた。


(鉄の装甲版があるから、前よりは重たいな……これ、一人ではきっつい)


 元々、複数人がかりで操縦する予定のものだ。一人で動かすのには相当の労力がかかる。

 ギガステリウムは単純に右腕を上げたり、拳を回転させたりするだけだったが、そんなものを始めてみる者たちからすれば、驚愕の光景であることに違いはなかった。

 王子はもちろん、おつきの兵士たちも、そしてソーズマンとフォレスリーバすらも感嘆の声を上げたのだから。


「……本来であれば複数人で動かすものです。また未完成ですので、腕の稼働もこの程度止まりですが、完成品では各々に武装も施します。ただ腕を上下に動かすだけではないという事ですね」

「素晴らしい……下半身がなくとも、わかるぞ。余にはこれが生きている巨人のように見えた。確かに、このようなものが動くのであれば、それは力を感じるというものだ」


 若干、王子は興奮気味だった。


「素晴らしい! 陸も空も、各々の力を存分に発揮しているな。余は安泰である。ところで、バルカよ、最後に一つ良いか?」

「ハッ、何なりと」

「これは、歩けるのか?」

「王子、残念ですが、歩行という技術は今の我々では到底不可能なのです。もちろん、最終目標としてはそのようなものを作り上げたいのですが、今は、とにかく完成させたいのです。移動方式につきましても、既に研究が進んでおりますので、いましばらくお待ちいただければと」

「そうか。見てみたいものだな、この巨人が二本の脚で歩く姿を」

「私もそう思いますよ、王子」


 アピールとしては正直なところ、完璧だと感じるバルカ。

 しかし、これでは弱い。好感触なのは間違いない、今更開発は打ち切りということもないだろう。

 でも、もう少し欲を出したいというのは本望でもある。

 ゆえに、バルカは思わずこんなことを口にしたのだ。


「王子、動かしてみますか?」


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