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第16話 王子の視察

 十三年の転生生活の中でこの数週間ははっきりいって濃密な時間を過していたとバルカは理解する。流し、流されで生きてきた貴族の御曹司ではなく、間違いなく自分という人間が自らの意志でことを成し遂げようとする実感はどういった形であれ、人生を充足させるものだ。


「視察は明日かぁ」


 屋敷の部屋でぼんやりと天井を眺める。

 思えばこの世界に生れ落ち、物心ついた時からそれがちょっとした癖になっていたと思う。

 異世界は確かに好奇心をくすぐるものは多かった。魔法は使える、異種族もいる。バルカとて何度となく見てきたし、慣れもした。

 国家間の戦争は自分が知る中ではここ数百年は起きていないようだし、平和そのもの。兵士たちの仕事は国境沿いの警備か夜盗の逮捕が基本。


 領地間で多少の問題はあっても大体は話し合いで解決されるし、それがもとで領内戦争が勃発するほど、このインバーダン王国は狭くはない。

 百年の平和が保たれているというのは純粋に凄い事ではあるが、これはインバーダン王国の技術力が明らかに他国を凌駕している事が理由であろう。

 ロボット云々の話ではない。空飛ぶ戦艦に、魔石、バーバヤーガ樹など、この国には優れた代物が多い。

 こんな国を相手には戦争を仕掛けるより仲良くしておいた方が双方の発展につながる。あまりにも技術格差がありすぎて、逆立ちしたって勝てない。


「……だっていうのに、新兵器作っちゃうんだよなぁ」


 その辺りは兄との語らいの中で解決した問題ではある。権威、権力とはほとほと面倒臭いものだ。

 ある意味でこの世界は歪でもある。中世ヨーロッパさながらの封建社会を下地にしているのに、それぞれがいかにもお人よしで、平和的だ。封建社会が劣悪な社会環境であったかどうかは別問題として、この国は領土欲はあまりない。

 土地とは財産であり、封建主義の中においては褒美という側面もある。

 通常、土地が多ければ多いほど、主は豊かになるからだ。土地が枯れているなどの例外はあれど、それを開墾するのもまた人間だ。


 家庭教師との勉強で王国も建国して数年は統一戦争などを行っていた歴史がある。結果、今のインバーダン王国が出来上がり、それ以降は平和的な統治が続いているというのが一応の建前だ。

 いくらかは都合よく脚色されているだろうが、魔女の森のように戦争の結果、統治されたわけではない場所も多い。

 バルカは歴史学者ではないので、それ以上の事は知る由もないし、特に興味もなかった。

 ただ、この権威主義というあり方が、窮屈に感じる一方で、こうしてロボットの開発が進むことを考えればありがたいと思うべきだ。

 そして、明日。その成果が試される時が来たのだ。

 未完成のロボットで、どれだけの事が出来るのか。


***


 翌日。第二工場は静まり返っていたが、その場にいる者たちは全員緊張していた。

 屈強な作業員たちも、いつも飄々としているエイルも、そして頼りになる長男ラムダスも、この時ばかりは流石に顔が張りついたようになっている。

 そしてバルカも。いつの世も、上役に物事を説明するのは大変なことなのだ。

 かくいうバルカは日も昇りきらない早朝に目を覚まし、抜け出すようにして第二工場に向かっていた。

 エイル含めた作業員たちも似たような考えで、昼前までは最終チェックに余念がなかった。


「来たぞ」


 ラムダスが耳打ちする。

 来るべくして時は来たのである。

 ガコンッと工場の大扉が開かれる。足並みのそろった軍靴の音とともに一団が姿を見せ、兵士が二手にわかれ列を作る。

 その中央を進むのは従者と、そして陸と空の大将を、ラーゼとゼタ二人の魔女を従えた王子の姿。

 プラチナの頭髪は光の加減で銀色に光って見え、バルカよりはほんの少し身長の低い、それでいながらも身に着けた王族の衣装を完全に着こなす姿は立派であり、堂々たるものだった。

 その威風のせいか、身長差など気にもならず、むしろ王子の方が大きな存在として映る。


 彼こそが、次期国王。フランメール二世王子だ。

 バルカとしてはこの、二世だとか三世だとかの命名方法がちょっとしっくりこない。親と同じ名前で呼ばれるって色々と窮屈じゃないんだろうかと思ってしまうが、そんなことはおくびにも出さない

 

「気をつけぇ!」


 ラムダスが号令をかける。彼はその為にここにいた。

 工場作業員がそれに従う。


「フランメール二世殿下のおなりぃ!」


 ラムダスが礼をすると、バルカたちもそれに倣う。


「うむ。出迎えご苦労。面をあげい」


 王子の声は高く、まるで透き通る少女のような声であった。

 王子の許しが出たところで、全員が頭を上げる。その時、バルカの目に映った王子は無表情だった。


(興味ないって感じかな?)


 王族で、自分の権威の為とはいえ、軍事戦力にはあまり興味はないのだろうか。

 バルカは王子の人となりなど知らない。少し、不安になった。


(それでもって、あの子たちは……)


 もう一つ、バルカの目に映り、思わず苦笑しかけたのは、二人の魔女だ。

 まず、ゼタがこっちに気が付き、なぜか笑顔で、それでも小さく手を振る。それを見咎めたラーゼがゼタの靴を軽く蹴っていて、小さな小競り合いが発生していた。


(さすがに無礼だろ……)


 などと思っていたその時である。


「君が、発案者か?」


 いつの間にか近寄っていた王子がぴたりとこちらに視線を合わせていた。

 その一瞬は心臓が飛び出しそうだったが、バルカは努めて平静を装い、礼をする。


「はい。その通りでございます」


 見よう見まねな騎士のような礼。多分、作法は間違ってないはず。


「名は聞いている。バルカというそうだな」

「はい、名を覚えていただき、光栄でございます」

「うむ。君の発案した……ロボット? というものを見せにもらいにきた。陸軍の威信をかけた新兵器と聞く」


 王子はそう言いながら、今度はちらっと陸軍大将のソーズマンに視線を向けた。

 ソーズマンは慣れた感じで「はっ」と敬礼した。


「新機軸の技術、そして新たな概念を取り入れまして、王国の名をとどろかすものであると自負しております」


 そんなソーズマンの隣で空軍大将フォレスリーバは興味深そうにバルカを見ていた。初めて見る男だった。細面で、軍人というよりは研究者のような見た目をしていた。軍服がなければそう見えるだろう。


「うむ、期待している。それではさっそく、見せてもらおうか。空軍の、新造戦艦は王国の空を象徴するにふさわしいものであった。さて、陸は……」


 その時、バルカは王子が心なしか笑顔を見せた気がした。


「僭越ながら、王子。案内は私、ラムダスが務めさせていただきます」

「よろしく頼む」


 この中で一番、動けるのはラムダスだって、立場としてもそれが一番だった。

 ラムダスは王子の横に立ち、案内を始める。バルカたちは列の最後尾に着く形となった。

 そこには魔女の二人が前に立つ形となる。


「頑張ってくださいね」


 ゼタが振り向き、笑顔を向けてくれる。

 ラーゼもちらっとこちらを見たが、それだけだった。


「それでは、ご覧いただきましょう。これが、我が陸軍が開発しております、重機甲兵ギガステリウム……その、試作機でございます」


 劣化魔石を使った照明が工場内を照らし出し、上半身だけのギガステリウムの姿を露わにした。

 いまだ下半身のない巨人は、木造装甲ではなく、金属の装甲版が取り付けられていた。

 この時の為に応急処置的に張りつけ、見た目をそれらしく作り上げていたのである。

 塗装も施されていない為に面白みのない姿をしているが、それでも胴体に頭と両腕が付いた姿は、それだけでも人の形をいうものを連想させた。


「おぉ」


 王子の声がこちらにまで聞こえる。

 その他の兵士や両軍大将も思わず声を上げていた。

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