第11話 魔女はご機嫌斜め
突如として現れた少女はぎろりと周囲を見渡し、不満そうに腕を組んだ。
「それで、責任者は?」
「失礼、レディ」
さすがのラムダスも一瞬は面を食らっていたようだが、すぐさま我に返り、礼を尽くす姿勢を見せた。
その態度を受けて、少女の方もラムダスに意識を向ける。
「私はラムダス・グランドランと申します。ここインバーダン王国にて、陸軍大将の秘書官を仰せつかっている者です」
「あら、どうも。グランドラン? 名前は知っているわ。王国古参の貴族でしょう?」
少女も礼には礼で答えるが、態度が随分と上だった。
「よろしければお名前をお伺いしても?」
「ラーゼ・フォーデイ。インバーダン王国、ビリービ領、魔女の森の者よ。自己紹介はしたわ。責任者は?」
「彼ならば先ほど、出てゆきましたよ。研究室ではないですか」
「あぁ、違う違う。研究主任なんてどーでもいいの。学者に何を言っても、聞き流されるだけなのはどこも同じでしょ。私が知りたいのは、我が領内の神木を贅沢に使ってこんなガラクタを作ろうって思った愚か者の事が知りたいのよ、どこ? ここにいるって聞いたんだけど」
「あぁ……それなら……」
ラムダスはさてどうしたものかといわんばかりに、ちらっとバルカへと目配せをする。
(無視も出来ないよなぁ)
対するバルカは反応を求められても困るというものだ。
この二人のやりとりは、どうやらそれはラーゼには気が付かれなかったようで、彼女はずけずけとラムダスに歩み寄り、自分より頭一個分も大きいラムダスを下から見上げるように、その鋭い猫のような目を向けた。
「まさかあなたじゃないでしょうね」
「いえ、残念ながら私ではないですね。あなたが探しているのは、この者でしょう」
と言って、ラムダスはトンとバルカの背中を押し出す。
「兄上……」
あっさりとばらされるバルカ。
明らかに今から面倒臭い事になるのはわかっていたので、できるなら穏便に済ませたい所だったが、それはキッとこちらをにらみつけるラーゼの表情からして不可能であると悟った。
仕方がないので、バルカは深呼吸と共に、自己紹介を行う。
こうなればヤケという奴である。
「初めまして、ラーゼ嬢。自分はバルカ・グランドラン。ここにいます、ラムダスの弟でございまして……」
「御託は良いの。私の土地から伐採した神木。もはや使うな、返せとは言わないわ。陸軍大将のソーズマン将軍直々のお願いですもの、こちらとしても誠意を見せなければと思い、貴重な神木を提供したわけですが……こんなガラクタを作っているだなんて思ってもみませんでした」
(ガラクタかぁ……)
そのような言いざまに、バルカは一瞬、ムッとしたが、えてして新技術とはそう映るものだ。
それに、やはり人型ロボットというものはパッと見だけではそう捉えられても仕方がない。
第一、現状のギガステリウムはいまだ組み立て途中なのだ。
「これはまだ未完成です。ガラクタというのはまだ早いかと」
「第一工場で見せてもらった空中戦艦の方が力強く見えましたけど?」
その言葉には若干の当てこすりを感じた。
「あちらと、こちらとでは、役割が違いますので、そこは何とも。それに、これはまだ外装をつけていません。完成した時は、がらりと印象が変わりますよ」
「えぇ、えぇ、そうでなければ困るわ。これに使われる神木は我がフォーデイの管轄ですもの。私と、私の先祖が千年をかけて育てた木なのですからね!」
「そ、そうですか。それは存じ上げませんでした。しかし、その長い歴史に恥じぬものが出来ると断言いたします」
バルカとしてもそれを言うぐらいしかできない。
一方でラーゼは不満顔から、半ばあきらめ顔に変化して、小さなため息をついた。
かと思いきやまたすぐさま、勝気そうな表情を作り上げ、バルカを睨む。
「粗悪品なんぞ作ってみなさい。森の栄養にしてやる。これは、フォーデイ一族の名誉もかかっているのですからね!」
言いたい事だけを吐き出して、ラーゼは大股でその場を去っていく。
まるで嵐のような少女だった。
バルカも、それ以外のものたちも「なんだ、あれ」といった空気を漂わせていた。
ただ一人、ラムダスだけは苦笑いを浮かべて、指で頬をなぞっていた。
「なんだ、その、バルカ。これは一大プロジェクトだからな。我々が思っている以上に、いろんな方からの援助がある。気を引き締めんとな」
資金、人材、そして資材。さらには既存とはかけ離れた兵器を作り出そうというのだから、倍以上のコストがかかっていることだろう。
潤沢な資金が使えるのは、次期国王の為という名目があるからだ。そうでもなければ、あまりにも突拍子のないロボット開発なんて事にはまず漕ぎ着けない。
「それは承知していますし、こっちも本気ですよ。ですが……あの子、なんです、急に?」
「ギガステリウムに使われるバーバヤーガ樹は彼女の言っていた通り、フォーデイの一族の管轄のものなのだが……あっち、第一工場で建造されている新造戦艦にはまた別の一族の樹木が使われている、らしい。そういうことだろう」
「ここでも、プライドの争いですか」
バルカは少しうんざりした。
前世でそういうものを体験したことがないわけじゃない。やってる側は必死だが、巻き込まれる側はたまったものじゃないといったところだ。
「そういうものだよ……ソーズマン将軍はこのプロジェクトに自身の進退をかけている。失敗すれば、自ら命を絶ちかねない、そんな意気込みさ」
その時のラムダスはいつもの柔和な顔つきではなかったと思う。
バルカはその言葉には返事をせず、どうしたものかと考えた。自分は元は暇つぶしで始めた事、今は本気だと思っているが、自分以上に本気な人たちがいることを突き付けられた気分だった。
いや、ある意味で、自分の思い付きが、そこまで多くの人々に影響を与えるものなのかという驚きもあった。
「なんだか、凄い所に来ちゃったな、これ」
***
その後、工場を後にし、城内区画へと戻った二人であったが、ラムダスは「砲兵に用がある」と言って、アイアンステージへと向かった。
さすがに放置される事に不安を覚えたバルカであったが、ラムダス曰く、「お前はもう、この城内を歩ける権利を得ている。一人でも、大丈夫だな?」とのことだった。
見た目はさておき精神的には四十近い男であるバルカにしてみれば確かに一人でも大丈夫ではあるが、見た目は十三なのである。その部分だけが不安ではあったが、確かによく見ればこの城内区画には自分と同い年ぐらいのものもちらほら見かける。
多くは奉公人、使用人、もしくは何らかの専門職の弟子といった感じか。
「外には出てみるもんだな……」
屋敷の庭か周囲の街には繰り出すこともあるが、ここは新しい環境だった。
全く持って用事がなかったかつてであれば、近寄ることもなかった場所である。
人は新しい場所に不安を覚えると同時に興味というものもわいてくるようで、バルカは一通り見て回ることにした。
立ち並ぶ店などは外の街ともあまり変わらず、しいて言えば子供の数が少ない程度だろう。忙しく作業に没頭する少年や、買い出しを任されたであろう数人の少女たちが談笑する姿は見かけるが、それでも数は少ない。
街のようでもあるが、職場のようでもある。不思議な場所だった。ここで寝泊まりする者もいるのだろう。
「う、む?」
ぶらりとそんな光景を眺めている最中、バルカは視界の端に気になるものを捉えた。
以前、ラムダスと朝食をとった店の前、そこに用意されていたベンチに二人の少女の姿があった。
そのうちの一人にバルカは見覚えがあった。
ラーゼだ。そこはちょうど日陰になっていて、ベンチに座るラーゼは額を抑え、うなだれるようにして軒先を見上げていた。
そんなラーゼのそばでおろおろとしつつ、何か話しかけている少女は見たことがない。どうやらラーゼと同年代っぽく、こちらは青い髪をしていた。
「あ……」
意識したわけじゃない。
その瞬間、バルカは青髪の少女と視線があってしまった。それはラーゼがこちらに気が付くのと同時でもあり、こうなるとバルカも無視するわけにはいかなかった。
「あの、どうしました?」
どっちにせよ、放っておくわけにもいかず、バルカは声をかけるのであった。




