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第1話 異世界には飽きたのさ

 異世界に転生した。

 だからなんだと言われるが、そうなんだから仕方ない。それ以上でもそれ以下でもないとはこのことだ。

 おじいさんのような神様も美少女な女神様もいなくて、いきなりポンと転生した。記憶を持ち越しているのはただのエラーなのか、それとも何か意図的なものなのかすらわからない。


「異世界にきて早いもんで十三年……転生前の年齢をプラスすると四十三歳……」


 少年の名は、バルカ・グランドラン。インバーダン王国の名家、グランドラン家の三番目の末息子であるが、それだけではない。

 前世の名を東宗一郎あずま そういちろう。しがないサラリーマンで、特別目立った技能も知識もない平凡な男。

 そんな男に降ってわいた転生と言うチャンス。

 異世界ファンタジーな世界の貴族の息子として生まれ変わり、第二の人生をなに不自由なく過ごして今日まで生きてきた宗一郎ことバルカは無駄に豪華な実家の無駄に豪華な自室で思い悩んでいた。


「異世界ファンタジー……つまんねぇ!」


 ただ一言、それが真実である。

 貴族の息子としての豪華な生活、あまりにも平和的すぎる世界、ついでに家族の仲も良好で、これ以上の幸せはあるだろうかと思う程の平穏に包まれた人生。

 逆を言えば刺激がないのだ。伝説の魔王が復活したという話は聞かないし、封印された魔獣が出現したとも聞かないし、どこかの国が攻め込んできて滅亡のピンチもない(むしろ自分たちの国が一番強いらしい)。

 これならまだ家を追い出されるとかぐらいある方が刺激的とも言える。


「あ、いや、やっぱそれは勘弁」


 今更そういうのが起こっても困ると言えば困るが、それでも刺激が少ないのは重大な問題である。


「それでも飽きたんだよ! 代り映えしなさ過ぎて退屈なんじゃい! あぁ、元世界の情報化社会万歳! ここはほんとなんもない!」


 もし、今のバルカの姿を家中の者が見れば卒倒するかもしれない。部屋がそこそこ広いおかげか、外に声が漏れる事はないのだが。

 世間的に、バルカは静かな子であると思われている。本人がそうなるように生活していたというのもあるのだが。


「来る日も、来る日も、勉強、お稽古……いや、これは良い。教育が受けられるだけありがたいからな……だが、それ以上にやることがない!」


 最初の数年はそれでも楽しかった。魔法があって、モンスターがいて、亜人たちもいて、それらがリアルに、身近にいる事はちょっとした憧れもあり楽しかったが、十三年もいれば慣れる。

 それが普通になるのだ。感動も持続しない。

 一番の悲劇は劇的な運命の出会いらしきものが皆無という点だろう。前世でもそうであるが、バルカは女性関係に関しては奥手である。

 貴族らしくパーティーに出席しても、女の子に声をかけるなんて恥ずかしくてできるわけがない。そもそも転生した分の年齢も合わせると、相手は自分の子供かと思うレベルすぎてピンとこない。子供など持った事はないが。


 とにかく平和。それが一番だが、それだけで人生が鮮やかになるわけもない。

 人生には楽しみが必要である。それが何であるかは人それぞれだが、バルカはそういう意味では難儀な立場にある。

 元が発展した文明社会出身。転生したせいで、それらが一切存在しない、あるとすれば魔法とモンスターぐらいの世界では少し釣り合わないものがある。

 最初の数年が楽しかったのは言ってしまえば都会の喧騒に飽きた若者が「のどかな田舎の生活って素敵!」みたいなよく理解もしないままやらかすパターンのそれに似ている。


 そして大体そういった連中は気が付くのだ。

 「田舎ってなにもなくてつまんない」と。

 まさしくバルカの心境はそれである。


「色々と手を出しては見たが、なんか違う。魔法を極めようにも兄貴たちにゃ追い付かんし、都合よく実はSランクだった風な兆しも現れない……」


 ついでに、この異世界、なんとかスキルとやらもない。

 いやそもそも、魔法を使って派手に戦うことすら少ない。

 冒険者なる存在もないし、類似するものといえば国家お抱えの開拓者たちだろうか。

 ある意味ではそっちの生活の方が楽しみという点では大きいだろう。

 残念ながらこれら開拓者たちは生粋のエリート揃いかつ、最低でも十八歳からという年齢制限があるので、まだ世間的には十三歳のバルカは参加ができない。


「いや、それ以上に、なにより! 娯楽が、少なすぎる!」


 貴族の娯楽といえば乗馬か狩猟か、チェスか、最悪パーティー。

 そんなおしゃれな趣味、転生前にはしたことなかったが、今現在は貴族なバルカ。たしなみ程度には教え込まれている。

 ただし、出来なくはないだけだ。楽しいかどうか言われると、案外楽しいのだが、心の底から満足するかと問われれば、ノーである。

 何気にこの世界の本は面白かったが、十三年もいれば屋敷の本は大体読み尽くす。おかげ様でこの世界では「読書好きなもの静かな子」扱いだ。

 精神年齢的には同年代になりそうな両親からの毎年のプレゼントは各国から取り寄せた希少本の数々。

 まぁこれは純粋にうれしいのだが、バルカの渇きを潤す程じゃない。


「こうなれば、やはり、あの計画を実行に移しかないか……いやそもそも最初からやればよかったのだ、うん」


 バルカも、中身は一応大人である。

 ないと嘆くなら自分で作ればいいじゃないかと、そんなことは当然考えていた。

 ただ実行に移すにしても、年齢との釣り合いが必要だったのだ。

 だが、もう十三歳だ。中身は四十三歳だ。はっきりと自分の意志を家族に伝えるのもよいだろうし、そもそもこれは暇つぶしなのである。

 できる、できないはさておいて楽しめればいい。それで、今の生活に潤いが持てればそれでいいのだ。


「よし、そうと決まれば即実行だ」


 バルカは立ち上がり、一人、宣言した。


「人型ロボット、作ってみるか!」

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