新しい企画
「……神戸……ですか?」
堂島は躊躇なく神戸へ行けと言い切った。
これは、この企画のミライのモンスターの発掘を私に任せるつもりがないということだ。
もし、私に全てを任せるつもりであるならば、まずはJリーグ各クラブに企画を説明した上で当たれと、堂島は言うだろう。
それを神戸に行けと言い切るということは、既にターゲットとなる未来の有望株が神戸にいるということだろう。
「神戸の星を取材してこい。第一回目は神戸の星で行く」
「アラベリオスの荒川君ですか?」
神戸アラベリオスの荒川凌平。その名前は私も知っていた。
神戸アラベリオスはJ1でも上位に入る強豪で、荒川凌平は今季16歳にしてアラベリオスでレギュラーを取りつつある天才DFだ。
世代別日本代表でもキャプテンを務め、サッカー界では次代を引っ張って行く中心選手と見られている。
「この企画をするなら最初にピックアップするのは荒川凌平しかいないだろ?」
堂島の言う通り、荒川はサッカー界の未来の顔だ。しかし……
「わかりますけど……つまらなくないですか?」
安易に若手ナンバーワンプレーヤーを特集……安易な企画を安易に進めた記事を読者は面白いと思ってもらえるだろうか?
そう思い私は堂島に言ったのだが……
「紹介企画だ。最初は知名度のある有名所をバーンと紹介する。企画で紹介した選手の中から一人は有名になってくれる選手が出てくれんとな」
こいつ……企画のスタートから保険を掛けてやがる。サッカー好きなら誰もが知っている選手の誰もが知っている情報を載せて、さもうちが発掘した選手ですって、そんなの無理だろう。
そう思ったが、ここで逆らえば堂島は企画を他に回すだろう。
最初の何人か妥協しつつ、将来性のある無名選手をピックアップして紹介する。
それしかないかと、自身を言いくるめて、堂島には、「わかりました」と返事をする。記者になって好きな事を自由に書けないことを知って、仕方なく身につけた処世術を使う。
そんな自分にうんざりしながら、企画の為に私は神戸へ飛んだのだった。