プロローグ
「愛原〜。愛原〜」
「はい」
二度名前を呼ばれ、私はその相手に急ぎ返事をする。
編集部のデスクである堂島は、大事な用事を振る時に相手の名前を二度呼ぶ癖があるからだ。(デカい仕事を任される。)そう思い急ぎ堂島の元へと駆けつける。堂島は気分屋で、返事や行動が遅いと、「やっぱいい」と他に仕事を回されることも多々あるのだ。
「お前これやってみるか?」
今回は気分を害さずにすんだようだ。(堂島は男尊女卑を未だに地で行くような奴で、女である私が、仕事を取り上げられる事など多々あった)私は、堂島に渡された企画書に目を通す。
「ミライのモンスター?」
書かれていたタイトルを声に出し堂島を見ると、堂島は頷いて目を通せと、顎で企画書の方を指した。
「来月号から定載予定の企画なんだがな。各クラブの将来を担うスターにスポットライトを当てようって企画なんだが」
何だ割とよく聞く企画じゃないか。そう思ったが顔には出さす「やらせてください」と、答える。
新規の企画の第一弾を任されるのは大変栄誉な事だ。断るいわれは全くない。
「東京五輪を控えて、各種目若手スターが現れ盛り上がっているんだがな……我がサッカー界は世代交代が上手くいかず、人気が下火になっている……それに比例するかのようにほれ…」
そう言って、一枚の紙を私に渡す……中身を見る必要もなく解っているのだが、資料に目を通す。そこには、サッカーの一般からの人気と期待度と、当編集の看板雑誌クラッキフットボールの発行部数が書かれていた。
見ずとも解るのは、この資料を見るのが今月だけで、軽く10度は越えるからだ。
「クラッキの売り上げは下降線だ」
(……知ってるよ)
私は胸の中で答えた。
国内サッカー自体がさして人気もなく、代わり映えのない試合結果の乗るだけの雑誌など何が面白いだろう?試合結果など、ネットを見れば一目で解るのだ。
「そこでだ。未来のスターの出現を待つのではなく未来のスターを発掘しようじゃないかうちが」
色々なチームの若手有望株にスポットを当てて、読者へと紹介していく企画自体は割とよくあるが、その中から本物が現れれば発掘したうちの雑誌の価値は上がると堂島は言った。
「まずは神戸に行け」
そう言うと一枚の写真を私に渡したのだった。