第14話 冒険者組合
『カナル冒険者組合』に入ると市場の熱気とは別の熱さが伝わってきた。依頼者、冒険者が入り乱れ、あちらこちらから声がする、百人前後の人間が依頼や自身のアピール、報酬の交渉を行っていた。服装を見てみると隣の貴金属店の男同様のスタイルの者や、コートを羽織り長剣をぶら下げる者、鎧や小手を装備した者、中にはフルプレートの者まで闊歩している。
(これが『異世界』冒険者か! ちょっとだけかっこいいわ!)
俺は少しだけ感動して周りを見回す。壁を見ると至る所に『依頼募集』の紙が張られていた。内容は『警護依頼』『魔獣退治』等、約八割が『警護依頼』だった。依頼主の方を見てみると個人や商店、町や村と様々だ。
組合の中央付近に行くと受付のカウンターが設置されていた。カウンターの上には薬だろうか『マナポーション』と書かれた、細長い瓶に蓋をした薄青色した液体が入った物が売られている。その隣には『割り札』と『各スキル札』と書いてある札が販売されていた。どれも紙で出来ているようだが『各スキル札』の方は三色の札が売っていた。白、黄、青の三種類。スキルと書いてあるいじょう魔法関連の商品だと思った。すると、一人の冒険者がカウンターに来て受付の組合員に
「『魔石』の換金頼むよ!」
「はい こちらに魔石を入れて下さい」
冒険者は魔石を受付で出された箱に入れた。青っぽいクリスタルのような石で子供の拳くらいの大きさだろうか三つほど入れた。
「Bランク二つに Cランク一つですね 金貨二枚と銀貨五枚ですね」
受付は金貨二枚と銀貨五枚を冒険者に支払った。冒険者には仲間がいたようで仲間の元に行くと換金した金を分けていた。一体、『魔石』とはなんだろう。俺はカウンターに行き受付の組合員に尋ねた。
「すいません ちょっといいですか?」
「はい」
「『魔石』ってなんですか?」
「えっ?」
組合員が不思議そうに見ている。
(ああ……またやっちまったのか?これ……)
「あの……ふざけてるんですか?」
「いっ いや……本当に知らなくてすいません……」
組合員は一瞬、きつい顔をすると、別の組合員が来た。
「まあまあ 世の中にはちゃんと教育を受けられず 普通の人が知っている事も知らず生活している人もいるのです……彼に悪気は無いようですし……私から説明しましょ」
「あら……そうだったの……ごめんなさいね」
(俺はすっかり残念な人として認定されてしまった……受付の組合員に不憫な目で見られた)
「さあ こちらへ」
俺は、後から来た組合員にカウンターの一番端へ案内された。
「どうぞ お掛けになって下さい わたしはこの『カナル冒険者組合』の組合長をやらせてもらっているクレメンスと言います」
「俺は ケイゴです」
(組合長って ここで一番偉いんじゃないのか?)
クレメンスと名乗った組合長は、四十歳くらいで割とがっしりしている体格に不釣合いな円らな瞳だった。
「ケイゴさんですか ケイゴさんは『魔獣』はご存知ですか?」
「話は聞いた事ありますが 見た事は一度も……」
「そうでしたか なら『魔石』を知らないのも仕方ありません 『魔獣』を倒すと体が消滅するのですが『魔石』だけ残して消滅するのです」
「『魔獣』を倒す?」
「ええ 『魔獣』はランク付けされていてA級ランクの『魔獣』からは紫の『魔石』が取れ大変貴重です。次にB級ランク『魔獣』で青い『魔石』 次にC級ランクで緑の『魔石』が取れるのです 取れた『魔石』はそこの換金票にあるよう
A=金貨十五枚 紫
B=金貨 一枚 青
C=銀貨 五枚 緑
と なっています S級ランク『魔獣』も存在しますが山奥や遺跡にいるため我々の生活圏では存在しません 倒せる冒険者も数が限られています この様に依頼とは別に『魔獣』を倒し『魔石』の換金で生活をする冒険者もいるのです」
「なるほど……『魔獣』を倒すという事は 殺すという意味ですか?」
「そうなるでしょうね またはA級ランク『魔獣』マジックボアのように生け捕りにして 依頼店に納品するというのもあります その時は依頼店で処理されるのを待って『魔石』を持ち帰り換金するか 換金の代金を上乗せしてもらう方法もあるようです 依頼店との交渉という訳です」
「なるほど 丁寧にありがとうございました」
「いえいえ お役に立てたのなら幸いです 分からない事があれば何時でも尋ねに来て下さい」
そう言うと席を立ち奥の組合室へ戻った。俺は頭を下げ、その場を去った。
(親切な人だった クレメンス組合長か……残念な人認定はされたが…)
俺は更に奥へ進もうとした時、
「おっと 兄ちゃん この先は進入禁止だ!」
(どっかで聞いた台詞だ なんとかロザリ なんとか ……まぁいい)
俺の肩に手を置き、進行の邪魔をしたのは鎧を着た大きな男だった。大きな男はもう片方の手で天井から、ぶら下がっている『告知』を俺に見ろと言わんばかりに差した。『この先 冒険者以外進入禁止』なるほど……因縁を吹っかけられた訳では無さそうだ。確かに進入禁止だ。
「ああ…どうも はじめてでわからなかった」
「ハハハ そうだろうと思ったぜ 冒険者はそんな格好してないからな 普通」
「ああ 教えてくれてありがとう ところで何で冒険者以外は入れないの?」
「その先の掲示板には政府の『依頼』や『情報公開』が貼られているのさ」
「なるほど……」
俺は引き返した。一般人がここまで簡単に出入り出来るのだから、あまり重要な内容でもあるまい。どっちにしたって『異世界』からきた俺が『冒険者』とかありえないしな。今日は色々情報を仕入れた、そろそろ釣具屋に向かおう。
釣具屋の前まで来るとギルベルトの声が聞こえた。
「アッハッハッハッ 太刀魚かと思ったらタコかよ ハッハッハッ」
(…本物の釣り馬鹿だな……)
俺に気づいたギルベルト。
「おー ケイゴ きたか こっちきて座れ」
「この子かい? ギルのとこに居るって子は?」
「どうも…」
「今 お茶出すよ」
店の主人だろう、白髪でほっそり眼鏡をかけている。席を立ち店の奥にいって俺のお茶を入れてくれてる。
「ああ 俺のところで手伝ってくれているんだ これからケイゴも一緒に
さっき聞いたところに行ってみるよ」
「そうかい 行くといい はい お茶」
「どうも いただきます」
「それ飲んだら行くぞ!」
「ああ……」
お茶を飲み終わると俺達は教えてもらった場所に移動した。
が!……その日の釣果は坊主だった…ギルベルトは家に帰るまで無言だった。