第13話 休日
「ケイゴ 起きろー 飯食って町に行くぞ」
ギルベルトに起こされた。今日はカナルへ買い物と釣りに行く予定だ。
「おはよう」
「おう おはよう 飯食って行こう」
俺達はテーブルに向かい朝食にする。
「起きたかい おはよう」
「おはよう」
「お袋 今日は昼飯 町で食っちゃうわ 帰りは晩飯までには戻るよ」
「ああ わかったよ 気をつけてね」
「何か買ってくるものあったか?」
「そうだねえ お茶とお茶請けかねえ お茶はいつもので請けは適当に頼むよ」
「ああ わかった行ってくるよ」
食事を済ませた俺達は、玄関にあった魚籠と釣竿を持ち馬車で出かけた。『カナル』に着くと昨日のように業者達はギルベルトに声をかてきた。
「よう ギルベルト どうしたこんな時間に?」
「今日は休みだー 買い物さ」
「ケイゴ 二層に行くぞ」
「二層?」
「ああ ここは一層が水産業者、二層が水産以外の業者や店、組合だな 三層が住宅街だ ハンスとブルーノも ここの三層に住んでる」
(なるほど、住み分けが出来てるって訳か 初めてでも覚えやすいな)
ギルベルトは階段をヒョイヒョイ駆け上がっていく。巨体のわりに身軽だ。十五段くらいの階段を上りきると、中央の広場側には落下防止の為か、鉄で出来た策が作られている。押してもびくともしない。編み目になっている鉄も使われ隙間から子供が落ちる事は、まず無いだろう。通路は大人、三人が広がって歩けるほどの広さで通路沿いには店がずらりと立ち並んでいた。
ギルベルトは上った階段のすぐ側にある雑貨屋から入っていった。
「ようー いつものお茶くれるかー」
「おや ギルベルトいらっしゃい アバナさんは元気かい?」
「ああ 腰も今は調子いいみたいだよ」
「そうかい そりゃ良かったねえ はい いつものお茶 ありがとうね」
「ああ また来るよ」
ギルベルトはお金を払い店を出た。雑貨屋には、お茶屋や日用品、お菓子だろうか団子みたいんものまで置いてあった。
「ケイゴ 突き当たりの角に衣類があるから 良さそうなの見つけとけよ」
そう指差して、ギルベルトは釣具屋に入った。相当好きなんだろう、店に入ると店主と話してる。俺は、言われた突き当りまで来ると三軒ほど衣類が並ぶ店の前にきた。端から順に入っていく。
「いらっしゃい」
店の人は、おばさんだった。中に入り店内を見渡すと、婦人服? スカートみたいなのが主流なのか女物の服ばかりで俺が欲しいシャツ類が置いてなかった。入る店を間違えたようだ。次に、その横の店に入るとズボンやシャツが置いてある。ズボンは、スゥエットのようなものやスラックス、脇にポケットが縫い付けてある作業ズボンのような物まで置いてある。奥から店主が出てきた。六十歳くらいの痩せた男だ。
「いらっしゃい 何探してるんだい?」
「ズボンとシャツなんだけど……もう少し見てみるよ」
「はいよ」
店主は、また奥に行ってしまった。
(買うのはだいたい決まったんだが……俺は金持ってないんだよ…)
店内をウロウロしてると、ギルベルトがきた。
「おう ケイゴ 決まったか?」
「ああ だいたいは…」
「こっち持ってこい 二着づつ買っとくか 好きなの持ってこい」
仕事用と寝る時用としてポケットのついた作業ズボンとスゥエットに長袖のシャツを二着、手に取った。
「おーい いるかー?」
ギルベルトが声をかけると奥から返事がした。
「いるよ ギルベルトか?」
「おう 金払うからきてくれ」
店主がまた出てきた。
「なんだい? ギルベルトの連れか」
「ああ 今うちに居るんだよ ケイゴだ」
「そっかあ それじゃ シャツもう一着もっていきな」
「悪いな また来るよ」
そう言うとギルベルトは支払いを済ませシャツをもう一着、手に取り店を出た。
「ありがとうギルベルトさん」
「いいって 仕事頑張ってくれりゃいいさ ハッハッハッ」
「お茶請けは買ったの?」
「ああ 適当に買ってきた それより 釣具屋の親父さんが良い場所教えてくれてな! 夕方行ってみよう!」
「ああ 行ってみよう」
ギルベルトは、店を色々覗き上ってきた階段の反対側まで来ると
「ちょっと寄ってみるか」
どうやら三層に行くみたいだ。三層へ上る階段を上りはじめた。
「ケイゴ ちょっとブルーノのところに寄ってみよう ハンスもいるかな」
「オッケー」
少し歩くとブルーノの家についた。ハンスもいて飲んでたようだ。ギルベルトは開いてる玄関から中を覗き込む。
「おう やってるな」
ハンスの声がした。
「お ギルさん どうしたの? おっケイゴも一緒か」
「こんちわ」
俺は軽く頭を下げた。
「買い物だよ ほらこれ あと子供にな」
ギルベルトは酒とお菓子を袋から出し玄関の中に置いていく。
「ギルさん 上がっていきなよ」
奥に座っていたブルーノが言う。
「いや 今日は辞めとくよ ついでに寄っただけだしな またゆっくり来るよ」
「そうか 気をつけてな」
「ギルさん ありがとうな ケイゴも明日な!」
俺達は、その場を後にし、少し早いが二層で飯にする事にした。ギルベルトに注文をまかせると出てきたのは魚の蒸し焼きだった。蒸し魚は食べた事無かったがこれはこれで美味かった。大抵、魚は刺身かフライ、焼き魚に煮付けだった。
店を出るとギルベルトは、俺に町の中を見てこいと言ってきた。何か思い出せるかもしれないと。『記憶喪失』の振りなので自分の事はちゃんと知っているが俺もこの『異世界』に何があるのか、ゆっくり見てないので、さっきギルベルトが入っていった釣具屋で一時間後に落ち合う事にし、ぶらつく事にした。
閉まっている店がある、空瓶が横に積まれてるところをみると、どうやら酒を飲ます店のようだ。
(さすがに昼間は酒場もやってないよな……)
次の店を覗くと、アクセサリー? 貴金属店か……指輪やネックレスが店内のショーケースの中に並べてある、どれも高そうだ。反対側のショーケースを見ると真珠で出来たアクセサリーがずらり。店内にいた男が声をかけてきた。背広を着て、整髪料だろうか髪がテカッってる。クルンとした口ひげ。どこかの芸人のような格好をしていた。
「いらっしゃい 何をお探しかな?」
「ああ… 客じゃないんだ この町は 始めてで色々店を回ってみてる」
「そうだったのかい 良い町だろ『カナル』は? ゆっくり見ていきな」
「ああ ありがとう」
「ここは 魚と白い石 そして真珠が名産なのさ」
店主はドヤ顔でカウンターのショーケースを指差す。
「そう! 中でも黒真珠! 魔性の輝きを放ち、持つ者に幸運を運ぶとされ…」
なんだか店主のうんちくがはじまった……すると、カウンターの奥から短刀のような剣をぶら下げ、肩にはアメフトの肩パットより小さ目の防具をつけた男が出てきた。歳は二十二~二十五歳くらいか。
「…まーたはじまったか 悪いな あんちゃん この人店主なんだ…… 悪い人じゃないんだが ちょっと真珠の事になると病気でな…困ったもんだ …ハハ」
頭を掻きながら申し訳無さそうに俺に言う。
「ああ かまわんよ うん 悪い人じゃなさそうだ ハハハ で あんたも店の人なの?」
「え? 違う違う 俺は雇われた冒険者 警護依頼を請け負ってる冒険者さ」
「冒険者?」
「あ…もしかして冒険者知らない? 嘘だろ?」
男は不思議そうに俺を見た。
俺は苦虫を噛んだような顔になり、言い訳をする。
「あっ いや…… わかってるよ うん わかってる! 冒険者ね! 俺も冒険者かなーって思ったんだよ あれだ 一瞬 店主の息子かと思ったんだよ」
「あー なるほどな 店主に息子はいないよ ハハハ でも実際 この店で警護依頼を請け負ってるって言われても はぁ? ってなるよな 隣が『冒険者組合』なんだから ここで悪さするやつなんかいねーよ ハハハ」
「隣?」
「ああ すぐ隣だ あれ? あんちゃん知らなかった? あっ そういや『カナル』は はじめてだってさっき言ってたな」
「買い物に来たついでに店を回ってたんだよ」
俺は男に、そう言うと袋に入ったズボンを見せた。
「なるほどな まあ 色々見ていきな 組合も入れるから見ていけよ」
「ありがとう それじゃあ」
(『冒険者組合』ね……気になるな……冒険者…覗いてみよう)
貴金属店を出て隣を見てみると掛け看板がある『カナル冒険者組合』俺は扉を開け中に入った。