第87話「サンドアルラウネ」
小柄なサンドアルラウネが俺たちに背を向け、ツインテールを風に躍らせながら砂の上を滑る。
そして流れるような動作で、女勇者を取り囲んで回る輪の中へと戻った。
すると五人のサンドアルラウネのうち一人――髪を後ろで縛った比較的長身のサンドアルラウネが笑いながら言う。
「おうなんだよマミラ! 観光客とのお喋りはやめたのか! なんならガイドだってしてきてもいいんだぜ! 鎧の勇者は今日こそオレが仕留めるからよ!」
「冗談、こんな砂漠のどこに案内するところがあるっての、それに――」
五人のサンドアルラウネたちが作り出した渦の中心で、女勇者が槍を構えて低く姿勢を落とした。
再び刺突の構え――これを見るや否や、サンドアルラウネたちは一斉にその手のひらを女勇者に向けてかざす。
「――鎧の勇者を仕留めるのは、私よ」
直後、彼女らの腕に取り付けられた武装から細いイバラ状の器官が飛び出して、あっという間に女勇者の全身を縛り上げてしまったではないか。
これにはさすがの俺たちも目を剥いた。
「かっこいーーーーーー!!!? 何あれ!? ナルゴアさん何あれ!?」
「あれは……サンドアルラウネの魔力に武装が反応しているのか? しかしあんな装備は見たことが……ぶっ!」
「ナルゴア! あ、ああ、あのチビっ! 私のことオバサンって言ったわ!? まだ200歳もいってないのに! まだ200歳もいってないのに!」
「あ、アルラウネ、く、くびっ、首が……!」
「ちょ、アル姐さん、そのへんにしておかないとマジでナルゴアさん死にます」
「うっさい!」
「ぶっ!」
勇敢にも俺とアルラウネの間に割って入る軍曹であったが、渾身の平手打ちをもらって粉々にはじけ飛んでしまった。南無。
そんなやり取りを遠巻きに眺めるのはサンドアルラウネの内一人、ボブカットの彼女だ。
「あはは、なにあいつら、おもしろ~」
「ろ、ロビ……余所見、だめ……今、戦闘中……」
「固いこと言わないでアイロも見てみなよ、面白いよアイツら、はは、自分たちが鎧の勇者に襲われたって状況分かってるのかな?」
「人間の子どもは不可解ですが……本当にただの観光なのかしら? 大方、野良のモンスターでしょうねぇ」
「うげっ、野良! 職ナシ! プー太郎じゃん! しかも集団! 集団ニート! ははは!」
「ロビィ! あんまりくっちゃべってると今日こそマミラに手柄持ってかれちまうぞ!」
「――もう遅いし」
ツインテールのサンドアルラウネが、ひときわ姿勢を低くして弾丸のように砂上を滑った。
彼女は凄まじい速度で拘束された女勇者に肉薄、そしてその手に持った槍で突きを繰り出す。
「っ!」
低級モンスターらしからぬ鋭い突きが女勇者の甲冑を打ち、激しい火花を散らす。
女勇者は大きく仰け反ったが、鎧に阻まれてダメージは中まで通っていないらしい。
マミラと呼ばれたツインテールの彼女は、ちっと舌を鳴らした。
「相変わらず硬った……やっぱりアンタにはこれが一番よね……!」
間髪入れず、マミラはもう片方の手をかざして――なんと武装から火炎を放射したではないか。
魔法とも違う灼熱の火炎は女勇者の鎧を舐め上げ、そしてあっという間に全身を包み込んでしまう。
「――――っ!!」
これには堪らず女勇者も暴れ出し、マミラは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「あはは! すごい! 初めて決まったね!」
「うわマジかよ、本当に一人で手柄持ってきやがったぜマミラのやつ……」
「鎧の勇者、こ、これで終わり、なの……?」
「あれだけ暴れまわった割には存外呆気ない最期ですわねぇ」
全身を炎に包まれて身悶える女勇者と、それを囲むサンドアルラウネたち。
異様な光景であった。
俺の見立てでは、あの全身甲冑の女勇者のレベルは30前後、対してサンドアルラウネのレベルアベレージは10未満とされている。
本来ならいくら束になろうと敵うはずがない。
しかし彼女らは謎の武装を駆使して勝ってしまったのだ。
……いや、違う!!
「――油断するな! ソイツはまだ動くぞ!!」
「えっ?」
サンドアルラウネたちが間の抜けた声をあげてこちらへ振り返る。
一方、炎に包まれた女勇者が突然、自らの肩を抱いて背中を丸め、小刻みに震え始めて……
ここでようやく、マミラが異変に気付く。
「何か来る! 皆下がって!」
「な、なんだよマミラ! 怖気づいたのか!? あともう少しで鎧の勇者が倒せるってのに……!」
「いいから早く!!」
マミラは自らも飛びずさりながら、仲間たちに呼びかける。
サンドアルラウネたちは訳も分からず後ろへ退いて……直後にそれが起こった。
背中を丸めた女勇者の甲冑から、何か鋭い針のようなものが突き出したのだ。
それも一本や二本ではない。
まるでヤマアラシのごとく、全身を覆い尽くすほど無数の針が飛び出してイバラを引きちぎり、あまつさえその勢いで全身の炎を消し飛ばしてしまったのだ。
「ウソ!?」
「初めて見る攻撃パターンですわ……!」
「気持ち悪っ! マジで人間かよアイツ!?」
「――皆早く構えて! まだ終わってない!」
驚愕するサンドアルラウネたちの前で、全身を針で覆った女勇者がぶるぶると身体を震わせる。
そして次の瞬間、鎧から生えた無数の針を、全方位へ射出してきたのだ。
「なんでもアリかあの野郎!」
サンドアルラウネたちは咄嗟に両腕で防御の姿勢をとる。
するとどうだ、武装がこれに反応して彼女らの前面に光の壁を作り出し、針の雨を弾き返してしまったではないか。
なんでもアリという意味なら彼女らの武装も大概だ、一体どういう原理で――いや、言っている場合じゃない!
針の雨は俺たちにも降り注がんとしているのだから!
「皆! 身を守れ!」
俺は千手を展開して、その一つに身を守らせる。
「おっけー!」
「りょーかいっす!」
「分かってるわ!」
各々が防御の姿勢をとる。
きゅーちゃんの超越的身体能力をもってすれば針の雨を躱すのは造作もないことで、軍曹は言うまでもなく物理無効。
そしてアルラウネもまた、先ほどのように地中からサボテンやらなんやらを生やして身を守ることは容易い……はずだった。
しかし――
「……っ!?」
針の雨が目と鼻の先まで迫ったその時。
アルラウネが地面に手を当てがったまま、驚愕の表情を晒すところを見た。
彼女の足元には静かな砂の海があるだけで、サボテンどころか芽の一つですら生えてこない。
――どういうわけか彼女は、植物を操って攻撃を防御する気配がないのだ。
「くっ!」
考えるよりも早く、俺はアルラウネの下へ千手の一つを飛ばした。
しかし、間に合わない。
針はもうすぐそこまで迫ってきていて……
「――まったく、仕方がないなァ」
聞こえてきたのは、どこか鼻にかかった女性の声である。
そしてアルラウネへ降り注がんとした針の雨は、彼女の振り下ろした“爪”によってまとめて朽ち果てた。
「えっ……?」
アルラウネは突然の出来事に困惑しつつ、ゆっくりと面を上げる。
一人の女性が、彼女の前に立ちはだかっていた。
異様な身なりの女性である。
この脳が沸騰するような暑さの中で、中華服の上に白衣を羽織り、特徴的な形の帽子をかぶっている。
額に謎の札が貼り付けられていることも追記しておこう。
しかしなによりも異様なのは、彼女の肌の色。
このタルカン砂漠の熱射の下にあって、彼女の肌は驚くほどに白いのだ。まるで死人のように。
他にも腕に取り付けられた巨大な鉤爪や、ふわりと膨らんだ銀髪など、特徴を列挙すればキリがない。
「全方位への針の射出、確かに見たことのない行動パターンだなァ、これは研究の余地アリだ、ウンウン」
一人ぶつぶつと呟く彼女だが、一方で俺の部下たちは彼女が放つ強すぎる存在感に言葉を失っていた。
しかし俺だけは別、何故なら俺は彼女を知っている。
「お前は……!」
「ウン?」
俺が声をあげると、彼女は不思議そうにこちらへ振り返った。
尖った犬歯が、太陽光を跳ね返してきらりと光る。
「なんだい少年? ワタシのことを知っているのかい?」
知っているも何も、お前は……
「元同僚だろうが……」
「ウン?」
不思議そうに首を傾げる彼女の名前は――レイファン。
世界の柱第九階層階層守護者、叡智のレイファン、レベル93。
己が探求心のために自ら命を絶ち、キョンシーとして復活した、アンデッドのマッドサイエンティストだ。
6月1日、スニーカー文庫様より書籍版『中ボスさんレベル99』発売となります! ぜひよろしくお願いします!
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