第78話「正念場」
「――さあここからが正念場だぞ! 皆! 決して行進を止めるな!」
俺の呼びかけに対して、列を成すモンスターたちはひときわ激しい演奏と舞踊で応えた。
ここに至り、奇妙な一団による狂騒は更に勢いづく。
桜吹雪が吹き荒れている。
ユキメが作り出した氷のアーチが、俺たちの進むべき道を彩っている。
歌や伴奏に合わせてセンリの生み出した無数の狸火が舞い踊っている。
古今東西、おそらく類を見ないであろう、世にも奇妙なパレードがここに繰り広げられていた。
そして俺たちはとうとう、巨人の足元へたどり着くことが叶う。
「――ナルゴア! 待ちくたびれたわ!」
ぎこちなく踊りながら横目をやると、行列のすぐそばをアルラウネの戦車が並走していた。
「アルラウネ! よく持ち堪えてくれた!」
「本当よ! あとで一杯付き合いなさい! ……で!? 首尾はどうなの!?」
「問題はない! 理論上これでうまくいくはずなんだ! オペレーション“センリ”! その作戦の内容は――」
そこまで言いかけたところで、アルラウネはふるふるとかぶりを振った。
不思議に思っていると、彼女は優しげな笑みを浮かべて、
「重要なのは私たちが何をすればいいかよ、命令して、中ボスさん」
「アルラウネ……」
思わず笑みがこぼれてしまう。
……ああ、俺はつくづく良い部下を持ったものだ!
俺は高らかに彼女らの名を叫ぶ。
「――アルラウネ! きゅーちゃん! 軍曹!」
「……ええ」
「はーーーい!」
「はいっす!」
そして快活に返事をした彼女らに対して、俺は一つの命令を下した。
「――能天使シャルルエル及びそこに在る者を足止めし、全力でパレードを警護してくれ! 俺たちの勝利は目前だ!」
「任されたわ!」
アルラウネの戦車が激しく車輪を回転させ、無数の花弁を巻き上げる。
上昇した花弁は巨人の脚部をあっという間に覆いつくし、そしてアルラウネの詠唱によって多種多様の魔法が炸裂する。
立ち上がりを狙われた巨人は、またもあっけなく大地に沈んだ。
押し寄せてくる砂塵の津波は、千手の唱える風魔法で食い止める。
たかが砂粒であろうと、この行進は邪魔させない。
俺たちはより一層激しく、歌い踊った。
「な、なんなんですの、あなたたち……?」
しかし、天使シャルルエルはこれが面白くない。
小さな肩をわなわなと震わせ、憎々しげにこちらを見下ろしている。
「……ああそうですか、馬鹿にしてらっしゃるんですね? この能天使シャルルエルを、薄汚い魔族風情が……!」
そう言ってシャルルエルはこちらを指で差す。
彼女の指先に神性の光が収束していって――
「まずい! 天使の攻撃が――!」
俺が咄嗟に踊りを中断して、防御に徹しようとしたところ。
「ほあちゃっ!」
「あぶっ!?」
視界の外から飛び出してきたきゅーちゃんが、凄まじい回し蹴りでシャルルエルの上半身を消し飛ばしてしまった。
もちろん“陽炎”の権能を持つシャルルエルにダメージは通らない、煙のようにすり抜けてしまう。
しかしそれと同時に、指先へ溜め込んだ神性の光も霧散してしまったのだ。
「こ、このコウモリ風情が……私の邪魔を……!」
四方に散ったシャルルエルの身体が再び集合し、シャルルエルを形作る。
だが、
「わちゃっ!」
「ぶっ!?」
すかさず飛んで行ったきゅーちゃんが、渾身の踵落とし。
稲妻のように振り落とされた踵が、またもシャルルエルの身体を煙にして散らしてしまう。
「ちょっ……このコウモリ……!」
これはたまらないと煙のまま移動して、離れた場所で再生を始めるシャルルエル。
だが、きゅーちゃんの反射神経と運動神経を甘く見すぎだ。
「も、もう容赦しませんわ、あのコウモリから先に始末して……えっ?」
シャルルエルが元の形を取り戻した時、きゅーちゃんはすでに彼女の目と鼻の先に回り込んでいたのだ。
「いくよ必殺! きゅーちゃん~~~~~」
「あ、ちょ、待っ……!」
「――旋風脚!」
「あっ――」
それはもう、とてつもなく綺麗な旋風脚であった。
きゅーちゃんの蹴りは空を裂いて文字通りの旋風を巻き起こし、シャルルエルの全身を跡形もなく吹き飛ばしてしまう。
あまりに容赦のなさすぎる攻撃にこちらが言葉を失っていると、きゅーちゃんはこちらを見下ろして、向日葵のような笑顔で言うのだ。
「ナルゴアさーーーーーーん! 天使は私に任せて、やっちゃってーーーー!!」
「……承知した!」
なんと頼り甲斐があるのだろうか。
俺は千手を引っ込めて、踊りに徹することとする。
「……ナルゴア先輩の仲間は、強いわね」
隣で踊るセンリがぼそりと呟いた。
「ああ、強いとも」
「私の部下たちも、いつかああなれるかしら」
「馬鹿なことを言うな、もうなっているじゃないか、見てみろ」
俺とセンリは踊りながら背後へ振り返る。
ネコマタが目を見張るような速弾きで三味線をかき鳴らしている。
ユキメが流麗な舞を披露しながら、周囲に雪を降らせている。
そしてモミジとサクラ、オニの姉妹はお互い寄り添うように、ひどく穏やかな面持ちで尺八を吹いていた。
誰も彼もが、疑問も恐怖も、迷いさえ抱いていない。
ただ自らの役目を全うするべく働いている。
「皆がお前を信じてここまでついてきている、それ以上があるか」
「……そうね、馬鹿なことを言ったみたい、私の部下たちはとっくに最高だったわ」
「全部終わったら最高の部下たちに未払いの残業代を一括で払うんだな」
「わ、分かってるのじゃ……」
センリがばつが悪そうに言って、俺が笑う。
その直後――俺は周囲を取り囲む環境の、ある変化を感じ取った。
その変化とは、俺たちの作戦オペレーション“センリ”がその真価を発揮し始めているということに他ならず――
「――ラストスパートだ! もうすぐ夜が来る! そうしたら俺たちの勝ちだ!」
俺の呼びかけを合図に、パレードの盛り上がりは最高潮に達した。
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