第76話「天使及びそこに在る者対策本部」
「――でも、やっぱり不死身の天使と不死身の天界兵器なんてどうにもならないのじゃああああ!!」
いななきの霊山の従業員に俺たちを加えた、天使及びそこに在る者対策会議。
これが始まるや否や、センリがおいおいと泣き出した。
司会進行――すなわち俺は、ぎゅっと眉間にシワを寄せて、
「……すまんネコマタ、そいつを黙らせてくれ」
「団子でも食ってるにゃ!」
「がぼっ!」
ゴブリン特製の焼き団子をありったけ口に突っ込まれて、ようやく静かになるセンリ。
目を白黒させて、今にも別の意味で静かになりそうな彼女だが、構うことはない、会議は続行させてもらう。
「邪魔が入ったが、改めて、ここに天使及びそこに在る者対策本部を設置する……知っての通り事態は切迫している」
俺はちらと、いななきの霊山から遠く離れた平原でそこに在る者との戦闘を続ける彼女らを見やった。
一進一退。
アルラウネたちの全火力を注ぎ込んだ怒涛の攻撃が、依然巨人の侵攻を食い止めている。
足回りへの攻撃にシフトしたのが功を奏したらしく、今のところ巨人は平原に釘付けになっていた。
だが……
「時間の問題、ですね……」
サクラがぼそりと呟いた。
そう、いくらアルラウネたちの攻撃が凄まじくとも、このままではジリ貧だ。
なんせアルラウネたちの体力魔力に限界がある一方で、そこに在る者は不死身である。
いずれ押し切られるのも時間の問題だ。
「ならば、こんなところで呑気に胡坐をかいている場合ではあるまい! 打って出るべきだ!」
モミジが声を張り上げ、携えた刀剣を勢いよく地面に突き立てた。
近くにいたハルピュイアたちが「ひいっ!?」と悲鳴をあげる。
「威勢が良くてたいへん結構……しかし、ここにいるメンバーが総出でかかっても結局は同じことだ、ヤツらの不死性を攻略しないことにはな」
「不死身とは、また面妖な……!」
「あまりカッカするな、俺の部下たちは強い、心配せずとももうしばらくは持ちこたえてくれるだろう」
むううと、不服そうに腰を下ろすモミジ。
彼女はサクラとは正反対で、どうにも血の気が多い。
しかし彼女の言う通り、早急に対処しなければ手遅れになる、というのは紛れもない事実であった。
だからこそ、俺たちは知恵を絞らなければならない。
「そういうわけで、意見のある者は速やかなる挙手ののち発言するように」
「は、はい!」
一番最初に手を挙げたのはクイーン・ハルピュイアこと歌姫であった。
「と、とりあえずあいつらを倒すのは保留にして、私たちのセイレーンの歌で眠らせるっていうのはどうでしょう?」
おお、と声があがる。
しょっぱなからなかなかいい案が出た、しかし……
「保留という着眼点はいい、だが駄目だ」
「ど、どうしてですか……?」
「天使に精神干渉系の攻撃は効果が薄いんだ、それに、そこに在る者は生物ではない、軍曹にセイレーンの歌が通じなかったように、おそらく効果はないだろう」
「あ、そ、そうですよね……ごめんなさい、バカなこと言っちゃって……」
「いや口火を切ってくれたのは素晴らしい、その調子で頼む」
「そうですか? えへへ……」
なんだか気恥ずかしそうに身体をくねらせる歌姫。
……緊張感が足りていない。
「……はい」
次にか細い声をあげて、ユキメが挙手をした。
「凍らせるって、どう……?」
おお! と感嘆の声があがる。
「いいぞ! 確かにそこに在る者はそれで止められる! ……が、問題はこちらからの攻撃が一切通用しない天使だな」
「じゃあ、そこに在る者を凍らせて、夜になるまで持ちこたえるってのはどうにゃ!? 天使は神性と同化する力があるって聞いたにゃ! なら太陽からの神性の供給がなくなる夜まで……!」
「もご……それは、残念ながら不可能ね」
ようやく団子を咀嚼し終えたらしいセンリが、口から串の束を抜き取って言う。
「そう思う根拠は何だセンリ?」
「私もトライしたのよ、それ」
ごくりと、センリは団子を呑み込む。
「夜になれば神性の供給はなくなる、なら天使の権能“陽炎”も使えなくなるんじゃないかって三日三晩戦い続けたわ、でもね、たとえ陽が沈んでも微量ながら大気中に神性が残るのよ」
「つまり夜まで持ちこたえてもヤツに攻撃は通用しないと?」
「ええ、大気中に少しでも神性が残っていれば例外なく天使の権能が発動するわ、ヤツを倒すとなれば、神性の一切存在しない場所におびき出すしかないわね」
「……そんな場所が、この世界に存在するのか?」
「そうね……」
センリは顎に手をあて、うーんと考えるようなそぶりを見せたのち。
「――地獄とか?」
「よしネコマタ、そいつを黙らせろ」
「団子おかわりにゃ!」
「あぼっ!?」
口いっぱいに団子を詰め込まれて、再び目を白黒させるセンリ。
まったく、ふざけるのも大概にしてほしいものだ。
「結局議論は振り出しに戻ってしまったな……やはり厄介なのは天使か」
場の空気が重く沈み、誰からも手が挙がらなくなってしまう。
これはとんだ難問だ。
周囲に僅かでも神性があれば、こちらからの攻撃は全て煙のようにすり抜けてしまう。
再びセンリの要石へ封印するという方法もあるが、それはヤツとて一番に警戒しているはずだ。
果たしてあの狡猾な天使が同じ手を食うかどうか……
議論が煮詰まったその時モミジが、悔しそうに自らの膝を殴った。
「くっ……あれだけの啖呵を切ったというのにこの体たらく……! これでは夜行の二つ名が泣く!」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん……!」
「止めるなサクラ! きっとご先祖様も草葉の陰で泣いているはずだ、せっかくの盆だというのに、我が子の醜態を見るためにわざわざ浄土から帰って来たのではないと……!」
「駄目だってお姉ちゃん! そんなに悲観的になっちゃ――!」
悔しげに歯を食いしばるモミジと、それをなだめるサクラ。
ダンジョンの危機に気が立っているのだろうが、これ以上は見ていられない。
「おい、そのへんに……」
見るに見かねて、彼女らを止めに入ろうとしたその時――俺の頭に電流が走る。
「盆……?」
散りばめられたピースが頭の中で組み合わさる。
地獄、夜行のモミジ、盆、浄土。
そこから導き出されるのは、サクラとの会話の中で不意に出たヤパーニ特有の概念――!
「ああああああっ!」
気付くと俺は叫びをあげていた。
その場の全員が、俺の突然の奇行にびくりと肩を震わせた。
「ご、ごふっ!? な、なによナルゴア先輩いきなり大声出して!? だ、団子が……喉に……!」
「センリ!」
俺は彼女の肩に手を置き、そして真正面から彼女を見据えた。
どういうわけか、彼女の顔面は真っ赤に紅潮してしまっている。
「な、ななななによっ?」
「いいか、大事な質問だ! 今、いななきの霊山が抱える従業員の数は、いくつだ!?」
「な、なんでそんなこと……」
「頼む答えてくれ!」
「わ、分かったわよ! 私と四天王、それからサクラも含めた従業員たちで……ざっと60人ね」
60人。
それは俺にとって素晴らしく理想的な数字であった。
ああ、こうも思惑が上手くいくとは――あまりにも感極まって、俺は思わずセンリに抱き着いてしまう。
「えっ」
それは一体誰のあげた声であろう。
どういうわけか、センリの体温が急激に上昇していく。
しかし、そんなことはこの際関係なかった。
何故ならばたった今、思いついてしまったからだ。
「――見つけたぞ活路! 能天使シャルルエルとそこに在る者を同時に撃破する革命的発想! 名付けてオペレーション“センリ”だ!!」
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