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中ボスさんレベル99、最強の部下たちとともに二周目突入!  作者: 猿渡かざみ
第二章 攻略!ブラックダンジョン編
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第73話「驚天動地」


「大驚失色、にゃ……」


 最初に言葉を発したのはネコマタであった。

 その言葉通り、彼女はひどく驚き、見上げる顔からは完全に血の気が引いてしまっている。


「だいだら……ぼっち……」


 ユキメは震える眼で白い巨人を見上げながら言う。

 だいだらぼっち――サクラから話には聞いていたが、ヤパーニにはどうもそういうモンスターがいるらしい。

 国造りの巨人、手に掬った泥土で山や盆地を作り、足跡が湖となってしまう、そんなスケールの大きなモンスターが。

 ……なるほど言い得て妙である。

 奴ならばいななきの霊山ぐらい、砂遊び感覚で容易く切り崩してしまえそうだ。


「嘘でござろう……こんなの、斬れるわけが……」


 タイタンやサイクロプス、ドラゴンなど比べ物にもならない。

 身体からぶら下がった純白の鎖でさえ、どんな大木の幹よりも太いように見える。

 ソレは、果てしなく巨大であった。


「ふふふ、皆さまそんなにも驚いてくださって、わざわざ呼び寄せた甲斐がありますわ」


 シャルルエルは空中で頬杖をつきながら、にたにたと嫌らしい笑みを浮かべている。


「このまま皆さまの間抜け面を眺めているのもそれはそれで楽しいのですが、残念ながら私にはお仕事がありますので、手短に済ませることとしますわ」


「……貴様、一体何を……」


「何を? ふふふ、愚問ですわね、私――能天使シャルルエルがわざわざ出向いたのですよ、その目的は()を見るより明らかではありませんこと?」


 俺の問いに対して彼女は、いっそ邪悪な笑みを浮かべながら言うのだ。


「――ダンジョンの完全なる殲滅、および無様にも生き延びた階層守護者(キーパー)の抹殺に決まっておりますわ」


「なっ!?」


 いななきの霊山の面々が、絶望の表情を晒す。


 攻略ではない、殲滅。

 天使である彼女と、あの天界の戦略兵器とやらをもってすれば、それが難しいことではないと、本能的に悟ってしまったのだ。


 だが、一方で俺は安堵(・・)の溜息を吐いた。


「ああ、分かりやすい宣戦布告をどうもありがとう、助かったよ、正直分からないことだらけで混乱してしまっていたんだ――要するにお前は俺たち魔族に敵対(・・)するのだな」


「うん? 何を今更――」


「――ブルーム!!」


 シャルルエルが言い終えるよりも早く、アルラウネが唱える。

 するとどうだ、彼女の魔力に呼応して俺たちを取り囲む竹林が急速に成長した。

 さながら大砲ごとき勢いで伸び上がった竹の群れは、手始めにシャルルエルへと襲い掛かり――


「えっ……あぶっ!?」


 竹の塊が、空中で間抜け面を晒すシャルルエルを打ち据え、彼女はぼふん! と煙のように霧散してしまう。

 それでもなお竹の塊は一直線に伸びあがり、巨人の顎下に突き刺さった。

 ――アッパーカットだ。


「なっ!?」


 あまりにもスケールの大きすぎる攻撃に、四天王一同は声にならない叫びをあげた。

 一方で俺たちは……慣れたものだ。


「――ふん、天使っていうのは皆してあんなにまどろっこしいのかしら? 敵と分かれば、やることなんて一つなのよ」


「いつも悪いなアルラウネ」


「お互い様よ」


 アルラウネがすっと手を差し出してきたので、俺はハイタッチをした。

 言わずもがな、今の俺の背丈では彼女にロータッチを強いる羽目となってしまうのだが。


 そしてその一方で、竹林アッパーカットを食らった白い巨人がぐらりと後ろに傾き、しかし持ちこたえた。

 唖然としていたサクラが、ここでようやく我に返る。


「あ、アルラウネさん!? 駄目です! だいだら(・・・・)、体勢を立て直しました!」


「ああ、心配しなくて大丈夫よサクラ、あいつらも一緒に飛ばしたから」


「えっ……?」


「――ほあちゃあああああっ!!」


 いななきの霊山に、どこか間の抜けた、それでいながら覇気に満ちた声が轟く。

 皆は再び天を仰ぎ、そして見た。

 竹林のしなりに任せて、巨人めがけて跳び上がる小さな黒い影を――


 言わずもがなきゅーちゃんであった。


 彼女は隼のごとく、衝撃波すら撒き散らしながら、その突き出した足を巨人の頬へ叩き込む。

 それは、とても不思議な光景だった。

 巨人に対してのきゅーちゃんは、人間で例えれば飛んできた麦粒のようなものである。


 しかしながら麦粒は、激しい衝撃音をともなって巨人の頭部を大きくひしゃげさせてしまったのだ。


「おおおおおおおっ!?」


 誰かが雄たけびをあげる。

 その信じがたい光景を前にして、そうせずにはいられなかったのだ。


「にゃにゃああああっ!? なんにゃあの吸血コウモリ!? だいだらを蹴り飛ばすなんて……!」


「いったい、どんな鍛え方したら、あんな芸当が……」


 ちら、とこちらに視線の集まるのを感じた。

 どんな、と言われても……俺に答えられることは一つしかない。


「きゅーちゃん、身体動かすの好きだからな」


 あんぐりと口を開けて言葉を失う彼女ら。

 そんな時、遥か上空できゅーちゃんが叫んだ。


「ナルゴアさーーーーーーーーーーん!! この白いの、思ったより見掛け倒しーーーー!! カルシウム足りてないみたーーーーい!!」


 これに応えて、俺は叫ぶ。


「そうかーーーーーー!! じゃあ悪いが、頼んだーーーーー!!」


「おっけーーーーー!」


「――なにがオッケー、ですの!!」


 どこからか声が聞こえたと思ったら、巨人のすぐそばに、しゅるしゅると煙が集まっていって、シャルルエルを形作った。

 彼女はぜえぜえと息を荒くしているが、ダメージは一切ない様子。

 どうやら不死身と言うのは本当のようだ。


「はぁ、はぁ……! な、なんなんですの!? アルラウネに吸血コウモリ! そのへんの雑魚モンスターと思っていましたのに、まさかそこに在る者(アンカー)を蹴り飛ばすなんて!?」


「鍛え方が違うもん!」


 ぱたぱたとはばたきながら、自慢げに胸を張るきゅーちゃん。

 彼女は相変わらずのマイペースだ。

 シャルルエルがこめかみにびきりと青筋を浮かばせる。


「薄汚い魔族の分際で私をコケにするなんて……! もう堪忍袋の緒が吹っ飛び(・・・・)ましたわ! そこに在る者(アンカー)! あの薄汚い魔族どもを磨り潰してしまいなさい!」


 シャルルエルの怒号に従い、白い巨人がゆっくりと起き上がる。

 ただ踏みしめるだけで大地が揺らぎ、ただ腕を振りかぶっただけで木々が傾くほどの風圧が生じる。

 さすが図体がでかいだけある。


「まずいにゃあ! だいだらが反撃してくるにゃあ!?」


「あ、あんなの食らったらひとたまりも……か、躱さないと、あの子が……!」


 ネコマタとユキメが必死に訴えてくる。

 だがやはり俺たちは……慣れたものだ。


「なあに心配するな、反撃などさせない」


「言ったでしょ、あいつら(・・・・)も一緒に飛ばしたって――」


 俺とアルラウネは、ゆっくりと見上げた。

 空を飛ぶきゅーちゃんが、空中から落ちてくる彼へ狙いを定めて、足を振りかぶっていた。

 落ちてくるのは、先ほどきゅーちゃんとともに上空へと打ち上げられた――軍曹である。


「いくよ、軍曹!」


「いえ、別に不満はないんですけどね、でもほんとに少し、たまには自分もこういう道具的な役回りじゃなくて、かっこよく……」


「――シュートぉ!!」


 落下しながらぶつくさ言う軍曹を、きゅーちゃんは問答無用、凄まじい勢いで蹴り飛ばした。

 軍曹のスライムボディは流れ星のように、明けの空へ一筋の軌跡を描き、風圧によって膨れ上がって、そして――


 ばぐん!!


「………………え?」


 天使、シャルルエルが間抜けな声をあげる。

 目の前で何が起きたのか、まったく信じられない様子であった。

 そしてそれは、いななきの霊山の面々も同様である。


 きわめて静かな時が流れていた。

 そんな中、ふううう、と深い溜息を吐いた軍曹は、緩やかに地上へ落下しながらぼやく。


「……ゲロまず」


 軍曹によって頭部のほとんどを一瞬のうちに消化された白い巨人は、完全に活動を停止していた。


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