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中ボスさんレベル99、最強の部下たちとともに二周目突入!  作者: 猿渡かざみ
第二章 攻略!ブラックダンジョン編
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第69話「ぽんぽこりん」


 曰く、世界の柱とは我らが社長(うらぼす)が、きたる災厄に備え、作り上げた世界最後のダンジョンである。

 そして全70階層からなるこの塔の各階層を守護する者、それこそが階層守護者(キーパー)であり、俺の前職だ。


 ちなみに階層守護者とは社長が世界中からかき集めた、単独で世界さえ滅ぼしかねない、レベル90オーバーの怪物たちのことを指す。

 その強大すぎる力ゆえ、彼らにはいくつかの制約が存在する。


 一つ、階層守護者同士の私闘は禁ず。

 二つ、決して世界の柱から離れることなかれ。


 俺は上からの辞令によって直々に異動を言い渡されたのでまだしも――センリ。

 世界の柱第23階層階層守護者(キーパー)、八百万の仙狸。

 お前はどちらもアウト(・・・)だ!


「――異能(・・)を使われると厄介だ! 早々に片をつける! いけ!」


 相手は腐っても階層守護者、出し惜しみはしない。

 俺は千手を一気に四つ展開して、すかさず魔法を唱えさせた。

 火炎、氷岩、風刃、雷撃。

 四種の最高位魔法が四方からセンリへ襲い掛かる。


「ぽ、ぽんぽこりん!」


 これに対し、センリは近くに落ちていた木の葉をばらまいて唱える。

 するとどうだ、空中に浮かんだ木の葉が発光するのと同時に、魔法が千手の制御下から離れ、てんで見当違いの方向へ飛んで行ってしまった。

 あれこそがセンリの得意とする東洋の魔法、神通力である。


「厄介な……!」


「たとえナルゴア先輩が相手でも、私には負けられない理由があるのよ! ぽんぽこりん!」


 センリが再度例の間抜けな呪文を唱えた。

 今度は彼女の足元がぼこぼこと泡立ち、水が湧き出したかと思えば、あっという間に激流となって押し寄せてくる。


「こちらにも退けない理由があるのだ! バタ臭狸め!」


「そ、そのあだ名本当に嫌だからやめるのじゃあ!」


 センリの訴えを無視して、俺は押し寄せてくる水流へすかさず千手を一つかざす。

 そして――氷魔法。

 急激な冷却により、押し寄せる激流は水飛沫の一滴に至るまで凍り付く。


「うっ……!?」


 更に間髪入れず、俺はまた別の千手へ飛び乗り、凍り付いた水面を滑り抜ける。

 センリへ向かって一直線に。


「ぽ、ぽんぽこりんっ!」


 慌てたセンリは神通力によって狸火を射出。

 千手に乗った俺を狙撃しようとの魂胆だ。

 

 だが……


「そういうところだぞ間抜けめ!」


 俺は、これを見越して上空に待機させておいた三つ目の千手を呼び寄せた。

 凄まじい勢いで降りてきた掌は、飛来してくる狸火をまとめて氷の中へ叩き落とす。


 あとはもう言わずもがな。

 狸火の高温によって氷が蒸発し、大量の水蒸気が津波となって押し寄せたのだ。

 これがはあっという間に全てを呑み込み、視界を白一色に塗り潰す。


「わぷっ……前、前が……! ぽ、ぽんぽこりんっ!」


 センリは咄嗟に詠唱。

 彼女を起点として巻き起こった旋風が霧を吹き飛ばす。


「ど、どこに……!?」


 視界が晴れるなりセンリは視線を巡らせたが、すぐに凍り付いたように固まる。

 何故か、それは――


「……相変わらずどんくさいなお前は」


 その時すでに、俺が昇る朝陽を背にしてセンリの背後に立っていたからだ。


「せ、先輩……」


「動くな」


「ひっ!?」


 こちらへ振り返ろうとするセンリを、冷ややかな言葉で制す。

 彼女は途端に全身を硬直させたが、丸い耳と丸い尻尾が小刻みに震えていた。

 相変わらず不測の事態にはとことん弱いヤツだ。

 高いレベルをまるで活かしきれていない。


 ……しかし、気がかりが一つ。


「お前、何故“異能”を使わない?」


「……!?」


 センリはびくんと肩を跳ねさせ、あからさまに動揺した。


 ――異能とは、俺たち階層守護者(キーパー)が持つ、固有の能力のことである。

 厳密には階層守護者(キーパー)に限らず、モンスターとして覚醒した者たちが得る能力であるのだが、まぁそこは割愛しよう。

 俺は“千手”、俺が転生する要因となった階層守護者(キーパー)時代の後輩――誘惑のルシエラならば“三つの知恵”といった具合に。

 センリもまた例外でなく、異能を持っているのだ。


「お前自体はさしたる脅威でもない、しかしあの異能……確か“要石(かなめいし)”といったか、何故使わない?」


「……探りを入れているつもり?」


「いや、他にも聞きたいことは山ほどあるが、それはお前が降参してからゆっくり聞く」


「は、背後をとったぐらいでもう勝った気でいるの? ……ふふ、いいわ、教えてあげる」


 センリは震える声でせいいっぱいの虚勢を張りながら、懐からある物を取り出した。

 見た目は単なる石ころだが、間違いない。

 それは彼女の形ある異能――要石である。


「いかなる対象をも抑えつける異能……要石は今まさに発動中よ、そしてとっくにキャパオーバー(・・・・・・・)、そっちにリソースのほとんどを割いているから本来の実力も出せやしないしね」


「……なに? 一体何を抑えつけているというのだ?」


「し、しらばっくれないで、アンタもどうせそれが目当てなんでしょ? でも残念、私がこれを持っている限り封印(・・)は解けやしない、意地でも放してやらないわ」


 センリは震える手で、ぎゅっと要石を握りしめる。

 その仕草、彼女の態度に、俺は眉をひそめた。


 封印? センリは今まさにを何かを封印しているのか?

 そしてこの物言い、まるで俺がなんらかの意思をもって、その封印を解きに来ていると、彼女は強く思い込んでいるようだ。

 ……まさか、そのためか?

 世界の柱を抜け出し、いななきの霊山を占領。

 無茶な経営で攻略推奨レベルを引き上げ、中ボスとして最奥部に鎮座するのは、その封印を守るための――


「――ゆ、油断したわねナルゴア!」


 思考をめぐらせていると、おもむろにセンリがこちらへ振り返る。

 その手には一枚の木の葉が握られており。


「食らえ、ぽんぽこ――!」


「慣れない駆け引きなんてするものじゃない、俺の千手はまだ一つ残っているぞ」


「えっ?」


 狸の浅知恵なんぞ計算の内だ。

 振り返ったセンリが捉えたのは、俺の姿ではない。

 剛指をぎりりと引き絞り、デコピンの構えをとった千手である。


「興味深い話をありがとう、予定通りお前が降参してからゆっくり聞かせてもらうよ」


「ぽっ……」


 ぱきゃあんっ!

 繰り出されたデコピンが、センリの身体を吹き飛ばした。



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