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中ボスさんレベル99、最強の部下たちとともに二周目突入!  作者: 猿渡かざみ
第二章 攻略!ブラックダンジョン編
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第61話「正しい休日の過ごし方」


「――労働は義務だ、しかしその一方で休息もまた義務である」


 私が黒い砲弾じみた料理――黒パンというらしい――を、どう食べたものか四苦八苦していると、おもむろにナルゴアさんが言いました。


「休息が、義務?」


 今までの価値観を根底から覆すようなその言説に、私はしばし困惑の表情を晒しました。

 だって、おかしな話ではないですか。

 休息とは甘え、これをいかに省き、いかに労働に捧げるかが労働者としての善し悪しを決めるはずです。

 少なくとも私はそう教わって、今までやってきたのです。


 しかし、ナルゴアさんの意見は違いました。


「例えば一日は二十四時間であるが、その中で正常な判断能力を持って活動できる時間の限界は、どれぐらいだと思う?」


 突然の質問に、私は一旦黒パンを置いて考えてみることにしました。


「ええと、私たちの平均睡眠時間が三時間なので、多めに見積もって二十時間ぐらいですかね? あ、でもネコマタさんは三徹までなら仮眠無しでいけるって言ってましたから、七十時間ぐらいですか?」


 何故か、食卓が静寂に包まれました。

 ぞくりと背中に謎の悪寒が走ったので横目をやると、吸血コウモリさんがすごい顔でこちらを睨みつけています。

 ナルゴアさんは、ふぅと一つ溜息を吐いて、答えました。


「……せいぜい十二時間が限界と言われている、それ以上の活動は正常な判断能力が失われ、著しく作業効率が落ちるからな」


「そ、そんなに少ないんですか!?」


「まぁ種族によってはこの限りではないのかもしれないが、ともかくこれ以上の労働はきわめて非効率的だ」


「そんな、十二時間だけなんて、仕事が片付けられませんよ……」


「それで回らないのなら経営に問題がある、大体睡眠もマトモにとらずに前後不覚の状態で働いて、それを労働などと……」


 ナルゴアさんはそこまで言ってから「……いや、これはサクラに言ってもしようがない」と言葉を打ち切る。


「要するにメリハリだ、一日に働ける時間が限られていればこそ、仕事の質を重視すべきなのだ」


「……つまり?」


「――つまり、休む時はきっちり休まないとダメってこと!」


 吸血コウモリさんがテーブルから身を乗り出して言いました。

 先ほどまでの恐ろしげな表情はどこへやら、まるで幼子のように目をきらきらと輝かせています。


「サクラちゃんは休日何してるの?」


「ええと……たいていは睡眠で、余った時間は愛刀の手入れを、あとは仕事の段取りを考えたり……」


「それ、仕事じゃん!!」


「ひぃっ!? ごめんなさい怒らないで!!」


「きゅーちゃん、サクラが怯えてるわよ」


「怒ってないもん! やっぱり私たちが先輩として教えてあげるべきだよ!」


「ええ、それは同感よ、ちょっとこれはあまりにひどすぎるもの」


「自分も頑張るっす!」


「俺もあまり自信はないが」


「な、何を教えるのですか……?」


 私の知らないところで何かを納得したような彼ら四人に恐る恐る問いかけました。

 すると、吸血コウモリさんはそれこそ向日葵のように晴れやかな笑顔を浮かべて言うのです。


「――もちろん! 正しい休日の過ごし方をだよ!」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「――まずは私の番、休日の定番といえばショッピングよ」


 と、アルラウネさん扮する“魔法使いアル”が言いました。

 場所は変わってここはカナルの町の表通りにある異国情緒あふれた商店の、その店内です。


 こちらも変装を済ませた“武闘家きゅーちゃん”が、むすうと頬を膨らませました。


「うー、私が最初に教えたかったのに……」


「くじ引きで決めたんだから文句言わないの、ところでサクラは何か欲しい物とかある?」


「え……?」


 私はしばし解答に詰まりました。

 欲しいもの……そんなものはありません。

 というか最近は多忙のあまりそんなこと考える余裕もなかったのです。


「すみません、何も思いつきません……」


「あっそう、じゃあ……」


 アルラウネさんは私の解答をさして気に留めた様子もなく、並べられていた装飾品の一つを手に取ります。

 それは翡翠色の宝石が埋め込まれた指輪でした。

 彼女はそれを私の指にあてがって


「これとかどう?」


「ちょっ、ちょっとアルラウネさん!?」


 私は慌てて手を引っ込めます。


「そんな高価そうなものを私なんかがつけたら……!」


「なによ、試着ぐらいいいじゃない、あとアルって呼びなさいって」


「あ、アルさん……でも、私には似合いませんよ……こんな指じゃ……」


 私は自身の不格好な指を見下ろしました。

 毎朝毎晩刀を振って、マメができては潰れてを繰り返し、節くれだった可愛げのない指。

 アルさんの白魚のような指と比べれば、私なんて……


「随分とつまらないことを気にするのね、サクラは」


 私が腐りかけていると、アルさんはふんと鼻を鳴らして、おもむろに私の手を握り込みました。


「え……?」


 なにやら湿ったような感触。

 同時に何とも言えない華やかな香りが、ふわりと鼻孔に届きました。

 これは……?


「――私特製のハンドクリーム、効果は折り紙付きよ」


「はんど、くりいむ……?」


「ううん、なんて言えばいいのかしらね……軟膏? とにかく手がすべすべになる薬よ」


 アルさんは私の節くれだった指へ、丁寧にこれを塗り込みました。

 私は拒むこともできず、ただされるがままに、これを眺めています。

 それというのも、彼女の優しい指遣いがなんとも言えず心地よかったから――


「これは、誰よりも仕事を頑張った人の指、恥ずかしがることなんてないわ」


「アル……さん……?」


「むしろ少しぐらいご褒美をあげないと可哀想よ、……はいできた」


 アルさんの指が離れます。

 私は、思わずほうと息を吐き出しました。

 節くれだった私の指が、心なしか潤いを取り戻して輝いているように見えたからです。


「やっぱり綺麗な指じゃない」


 自らの指を見つめたまま呆けたように固まることしかできない私に、アルさんは優しげに微笑みかけてきました。


「……ま、それはそれとしてサクラの趣味には合わなかったみたいだし、別のものを探しましょ、まだまだ時間はたっぷりあるんだから」


「待てアルラウネ、その指輪をこっちによこしてくれないか」


 ふと、それまで店内の雑貨を物色していたナルゴアさんが言いました。

 アルさんは怪訝な表情になりながらも、これをナルゴアさんへ手渡します。


「悪いな」


「なによナルゴア、あなたアクセサリーに興味なんてあったの? でもこれ女物よ」


「いや、問題はない」


 ナルゴアさんは貼り付けたような笑顔の店主へ数枚の銀貨を手渡し、これと引き換えに正式に指輪を購入しました。

 そして、彼は改めてアルさんへ向き直ると――


「いつも迷惑ばかりかけてすまない、これは感謝の気持ちだ」


「え……?」


 なんと、彼はアルさんへその指輪を手渡したのです。

 これにはさすがの彼女も言葉を失い、反対に後ろからこの様子を見守っていた吸血コウモリさんと、ナルゴアさんの背負う背嚢に隠れたポイズンスライムさんが「ひゅーっ!」と口笛を吹きました。


「な、なんで、私にこれを……?」


「うん? どこか手放すのが惜しそうに見えたから、好みなのかと思ったんだが……違うなら」


「――いえ、頂戴するわ、ありがとう」


 アルさんは食い気味に言って、くるりとナルゴアさんへ背を向けました。

 ナルゴアさんからすればそれは随分とそっけない態度に映ったことでしょう。

 ……でも、違います。

 彼女はただ、彼に見せたくなかっただけなのです。


「(サクラ、どうしよう、顔が元に戻らないんだけど)」


 その、だらしなく緩み切った笑顔を。


「……アルさん、もしよろしければさっきのはんどくりいむをもう一つ譲ってくれないでしょうか、モミジお姉ちゃんにも分けてあげたいんです」


 私は一度くすりと笑って、彼女へ助け舟を出しました。



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