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中ボスさんレベル99、最強の部下たちとともに二周目突入!  作者: 猿渡かざみ
第二章 攻略!ブラックダンジョン編
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第58話「いななき会議」


「――センリ殿、まこと面目無い、不貞の輩を取り逃がしてしまったでござる」


 オニの剣士、モミジはセンリの前に跪いて深々と首を垂れる。


「サクラも再び連れさらわれてしまった、全ては拙者の未熟さゆえ、主が望むのであれば今ここで腹を切る覚悟さえ……」


 彼女の後ろに控えていた四天王の二人、ネコマタとユキメは、かつての上司の口から飛び出した衝撃的な台詞に思わず声を上げてしまう。


「ニャッ!? そ、それはあんまりだにゃあ! 連帯責任! ウチらだって見ていることしか……」


「それに彼ら、ただものじゃなかった、下手に手を出してたら、こちらも無事では……」


「いや、生き恥を晒すぐらいならば今ここで潔く……!」


 モミジは一切の躊躇なく小刀を手に取り、逆手に構えて自らの腹へ――


「だっ、ダメにゃモミジ様!!」


「――ぽんぽこりん」


 しかして、閃いた刃が彼女の臓腑を切り裂くことはなかった。

 センリが軽く指を振って唱えたその途端、小刀が無数の木の葉に変わり、ばさりと散らばったからだ。


「にゃっ! これは……!」


「センリ様の、妖術……」


「――ハラキリなんてナンセンス、私の前では許さないわよモミジ」


 センリが言って、モミジはきゅっと唇を真一文字に結ぶと、


「……かたじけない」


「あ、その田舎臭い喋り方もやめなさい、もっと横文字使いなさいよ横文字、スマートに見えるわよ、私みたいに」


「……無学の拙者に、センリ殿の言葉は高尚が過ぎるゆえ」


「あ、いいこと言うじゃない、もっと褒めなさい」


 ふふんと鼻を鳴らし、得意げに胸を張るセンリ。

 なにはともあれ、元上司の切腹という事態は免れたようで、ネコマタとユキメは安堵の溜息を吐き出した。


「というか仕事のミスは仕事で返すものってこの前読んだ本に書いてあったんだから、本当に申し訳ないと思うならその分、自慢の豪剣で勇者たちを切り刻むことね」


「……お気遣い、痛み入るでござる」


「ああ、またそんなシリアスな顔して、得体の知れない連中に妹が攫われて一番不安なのはあなただって、そんなの百も承知なんだから」


 もちろん彼女は「まあ私はお姉ちゃんのことなんて微塵も心配してないけど」と、語尾を付け足すことを忘れなかった。

 センリがやたらと姉を毛嫌いしていることは、いななきの霊山では暗黙の了解である。


「ま、サクラのことは心配でしょうけど、少なくとも今すぐどうこうなるわけじゃないんだしね」


「……というと?」


「だってあいつら、このダンジョンを本気で潰すことにした、とか生意気なこと抜かしたわけじゃない、それってつまり態勢を立て直してもう一度このダンジョンを攻略しにくるってことでしょ?」


「それは、確かに……」


「で、サクラを連れ去った、それはつまりもう一度人質として利用するつもりがあるってことよ」


「……やはりセンリ殿は聡い御方でござる」


「ふふん、クレバーと言ってほしいわね」


「で、でもセンリ様! アイツら本気でここを潰すって言ってたにゃ! 油断大敵! いったいどんな手を打ってくるか……」


「はあ、ネコマタは心配性ねえ」


 センリはまるで聞き分けのない子供でも眺めるような目でネコマタを一瞥。

 それからやれやれ、といった風に肩をすくめた。


「いななきの霊山はパーフェクトなの、そんじょそこらの勇者パーティなんてまるで問題じゃないわ」


「でもセンリ様、実際にコマイヌたちが、やられて……」


「調子でも悪かったんじゃない? 彼らもトシだしね」


「そ、そんな……」


 モミジはともかくとして、どこまでも不安げな二人の部下であったが、センリはこれ以上は単なる杞憂とでも言うように「そんなことよりも」と話題を転換する。


「私が気になるのはあの子どもよ、確かナルゴア……? と言ったかしら、それにあの手……」


 センリは小首を傾げる。


「なんか引っかかるのよね……どこかで見たような、どこかで聞いたような……」


 彼女はほんの少しの間、記憶を辿るようなそぶりを見せ……


「ま、思い出せないってことは多分大したことじゃないわね――さあさあミーティング終了、仕事に戻りましょ」


 あっけらかんと言って、二枚の木の葉を手に取った。

 彼女はそれらをくしゃりと握りつぶし、唱える。


「ぽんぽこりん、ヒール、ウェイクアップ」


 彼女の詠唱によって、握りつぶされた木の葉は光を放ち、二種の魔法を発動させた。

 一つは自身の肉体的疲労を取り除く魔法。

 もう一つは眠気を飛ばし、自身を覚醒させる魔法である。

 これは、睡眠を度外視した超々長時間労働を可能とするセンリのアイデアだ。


 余談だが、センリはこの手法を発見した瞬間、自らの天才的発想に鳥肌が立ったほどだという。

 曰く「睡眠に充てていた時間が労働に使える、これはイノベーションよ! ……なんで皆やらないのかしら?」

 部下たちの気味悪がるような視線に、本人は気付いた様子がない。


「リフレッシュリフレッシュ、ふふ、まさにデキる女って感じ」


「……ウチらは持ち場に戻るにゃあ」


「私も、戻る……」


 ネコマタとユキメはくるりと身体を翻して、中ボスの間を後にしようとする。

 しかしその去り際


「ああそうだ、一応念には念を入れてしばらく厳戒態勢をとりなさい、いつまたあの冒険者がやってくるとも分からないからね」


 センリがなんでもないことのように言うので、ネコマタとユキメは喉まで出かけた様々な言葉を押し殺して、姿を消した。

 そして二人の背中が見えなくなったのち、残されたモミジはゆっくりと口を開く。


「……拙者どもに勝てるのでござろうか」


「なにモミジ、アンタにもネコマタの心配性うつっちゃったの? 心配しなくてもあの勇者パーティなら……」


「……いや、そうではなく、アレのことにござる」


「ああ、アレのことね……」


 センリはふうう、と深い溜息をつく。


「現状ではぶっちゃけインポッシブル……というか正直どうやれば殺せるのかも分からない」


「では……」


「でも安心なさい、封印は安定してる、しばらくはこのままで平気よ、私が倒れない限りはね」


「死力を尽くしてお守りするでござる」


「ありがと、せいぜいバリバリ働くことね、あなたたちの仕事はこのダンジョン、ひいては私を守ること」


 そこまで言って、センリは神妙な面持ちである場所を見つめる。

 その目には、まぎれもない、決意の炎が宿っていた。


「――そして私の仕事は、“八百万(やおよろず)の仙狸”の名に懸けて、このダンジョンをもっともっと強くしてアイツらをぶっ倒すこと」


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