第23話「リプレイ」
本当に困ったら、頼らせてもらう。
……彼女らにはそう言ったが、きっと、そんな機会は二度とないだろう。
というより、百年ぶりに彼女らと再会したことで決意が固まった。
食堂を、そして彼女らの顔を見ただけでもう十分に理解したのだ。
――しじまの洞窟は、なんの問題もなく回っている。
百年前、自らの独断で単身勇者パーティへ戦いを挑み、敗れてしまった間抜けな中ボスのことなんて関係なく。
ならば元中ボスの俺ができることと言えば、せめて彼女らを邪魔しないこと。
俺を転生させた黒幕の正体を突き止め、けりをつける。
これは俺が一人で処理すべき案件――だからもう召喚は使わない。
全身が光の粒子と化して大気に溶けるまでの僅かな間、そんなことを考えていた。
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目に映る景色が一変する。
湿った空気に土の匂い、そして月明かりが照らす、ねじ曲がった木々。
どうやら無事まどわしの森へ戻って来れたようだ。
オウルベアとオールド・ボアは約束通りに召喚の魔法陣を守ってくれたらしい。
思えばこんな夜更けに職場に押しかけてしまって、彼らには悪いことをした。
頭の一つでも下げるべきなのだろうな――そう思った矢先のことである。
『――まどわしの森はもう終わりだぁぁぁぁ!』
オウルベアの絶叫が耳をつんざいた。
あまりにも突然のことだったので、びくりと肩を上下させてしまう。
「な、なんだ!? どうした!?」
慌てて振り返ってみれば、彼はフクロウ頭を抱えて悶えていた。
まるでこの世の終わりのようなうめき声まで漏らして。
「アラクネ! しっかりしろアラクネ! 傷は浅いぞ!」
今度は何かと思えば、後ろの方でオールド・ボアが一体のモンスターを介抱していた。
アラクネ――蜘蛛の下半身と女性の上半身を併せ持つ、上級モンスターである。
……いや、正確にはほとんどが上級モンスターとされている。
彼女は数少ない例外だ。
「ぼ、ボア爺……これ心臓までいってる……死ぬ……」
大きな葉っぱの上でぐったりと横たわるのは、それこそ手のひらサイズのアラクネであった。
……胸のあたりに小さなキズがついているようだが。
「かすり傷だろう!? 血もほとんど出てないぞ!」
「マジ無理……さーせん今日はもう帰らせてもらいます、あざした」
「お前! それが狙いか!?」
「だって遅番って肌荒れるし! あんなのに勝てるわけねーし!」
「お前が朝早く起きれないからと遅番を希望したんだろう!」
ぎゃあぎゃあと口論を始める小山のような猪と、手のひらサイズの蜘蛛少女。
そしてその後ろではオウルベアが「終わりだ終わりだ」とのたうち回っている。
……なんとも頭の痛くなる光景。
思わず目頭を揉んでしまう。
これはストレスが溜まると表れる、俺のクセだ。
「――オウルベア!!」
『ホ!?』
その名を叫び、まずはヤツを正気に戻す。
そして呆気にとられるオウルベアに、俺は詰め寄った。
「お前はこのまどわしの森の中ボスだろう! それが子どものようにぎゃあぎゃあと! 一体何があった!?」
『ホ、ホウ! なにもクソもない! ウチのバイトがやられた!』
そう言って、オウルベアはアラクネを指す。
「そう! 自主的に見回りをしてたら、あんなのと出くわして……マジ死ぬかと思ったし!」
「何が自主的に見回りだ! またトイレだとか水分補給だとか適当な嘘を吐いてサボっていただけだろう!」
「え、なんで知ってんのボア爺、キモ……」
「全員知っとるわ!!」
「――いいから落ち着け!」
俺は無理やり三人を黙らせた。
そして改めて、アラクネに向き直る。
「いつ! どこで! 誰が! 誰に襲われた! 頼むから簡潔に教えてくれ! アラクネ!」
捲くし立てるような物言いに、アラクネは初め面食らっていたようだったが、彼女はややあってこう答える。
「――10分ぐらい前! まどわしの森南南西の湖! サボってたウチが! レベルアベレージ30オーバーで、しかも魔剣持ちの勇者パーティに襲われたの! そして勇者パーティは今まさにまどわしの森に向かって進行中!!」
マジヤバいっしょ! と最後に付け足し、アラクネは何故か自慢げに胸を張った。
俺は、もう一度目頭を揉む。
後ろの方で、オウルベアが「終わりだ終わりだ」と騒いでいた。





