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第2話「ダンジョン再建計画」


「――な、なによこれ!?」


 明朝、しじまの洞窟にアルラウネの悲鳴が響き渡り、間もなくして彼女が慌ただしく駆けつけてくる。


「朝から騒々しいなアルラウネ」


「あ、あああ、アンタなにあれ!? アタシのフロアに何してくれたのよ!」


「なにって、俺はただ……」


「ちょっと、いいから来なさい!」


 腕を掴まれ、強引に引きずられる。

 そして連れてこられたのはアルラウネの担当区域。

 フェアリーや植物系モンスターの溢れる、しじまの洞窟第二階層である。


 以前はどこもかしこもびっしりと苔が生し、じめじめして薄暗い空間だったのだが――今は違う。

 床や天井がほのかに発光して、階層全体が明るいのだ。

 この薄明かりが洞窟の雰囲気とマッチして、一種幻想的な雰囲気をたたえている。


「これ! どうなってんの!? 何したの!?」


「何って……ヒカリゴケを撒いたんだ、というかアルラウネ、お前が前任者に頼んでたんだろ?」


「な、なんでそれを知って……!」


「フェアリーたちから聞いた」


 俺は第二階層を飛び回るフェアリーたちを指した。

 ふむ、昨日まではしなびた野菜のようにダンジョンの隅で雑魚寝しているだけだったのに、打って変わって活力が漲っている。

 フェアリーは環境の変化に敏感だ。

 彼女らに生気のないダンジョンは、定期的にやってくる魔王軍のダンジョン監査で問答無用にD判定をもらう、これはもはや周知の事実である。


「アル様ぁ! 見てこれきらきら!」


「中ボスさんが一晩でやってくれたんだよ!」


「これでわざわざお外に出なくても日向ぼっこができるね!」


「そ、そう……それは良かった……」


 この時、アルラウネの仏頂面が僅かに綻んだのを俺は確かに見た。

 しかし彼女はすぐに我に返って、こちらを睨みつけてくる。


「こ、こんなので私たちからの株が上がるとでも思ってるのなら大間違いよ! むしろよくもやってくれたわね! ヒカリゴケっていうのは手入れが難しいの! 日々の業務に加えてまた厄介ごとを……!」


「えー、アル様なんでそんなこというのー?」


「前の中ボスさんは全然私たちのお話聞いてくれなかったのに、今回の中ボスさんは聞きもしないで私たちのお願い叶えてくれたんだよ~~」


「わかった! アル様照れ隠しだ~~!」


「こ、こら! アンタたち!」


「うむ、もちろんこの程度で株が上がるとは思っていない、なにせやることは山積みだ」


 フェアリーにまとわりつかれる彼女に、俺は数枚の紙束を手渡す。


「な、なによこれ?」


「ヒカリゴケの手入れ方法が書いてある、絵でな、フェアリーは読み書きができないから苦肉の策だ」


「……へったくそな絵」


「そう言うな、こればかりは手がいくらあっても上手くならん、では、あとは任せた」


「任せたってなにを!?」


「どうせ絵だけでは伝わらん、やって見せ、言って聞かせて、させてみせ、な。植物に関してはお前の方が俺より遥かに詳しいだろう?」


「そ、そりゃそうだけど……!」


「じゃあ任せた、フェアリーたちへの情報共有、並びにフェアリーたちを統括しヒカリゴケの管理・維持に努めるんだ、俺は次に片付けなくてはならんことがある」


 俺は踵を返し、足早に第二階層を後にする。

 次に向かう先はポイズンスライムが担当する第一階層。

 まったく、猫の手も借りたいとはこのことだ。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ちょっとこれ、どーなってんすか中ボスさん!?」


「どうなってる、とは?」


「アレっすよ! アレ!」


 ポイズンスライムがだるだるの身体を震わせながら、抗議してくる。

 見ると、彼の後ろには猫ほどの大きさのスライムたちが数十匹ほど控えていた。


「中ボスさんお疲れ様です!」


「お疲れ様です!」


 彼らが声を揃えて挨拶をしてくるので、俺も「おつかれさま」と返す。

 元気が良くてなによりだ。

 身体も瑞々しく、ハリがあって弾力に富んでいる。


「彼らは、俺が雇った新しい従業員(モンスター)だな、あいつらはなかなか見込みがあるぞ」


「新しい従業員(モンスター)!? そんな勝手な……!」


「しじまの洞窟は慢性的な人手不足だ、これは明らかに前任者を含めたお前たちの怠慢が招いた結果だぞ」


「き、来たばっかりのアンタに何が分かるんすか!」


 ポイズンスライムはいよいよ怒り心頭。

 身体をぶるぶると震わせながら、声を荒げてくる。


 ……こういう反応をされるだろうとは思っていた、だから持ってきたのだ。

 俺は懐から紙束を取り出し、これを読み上げる。


「“誰からも仕事を教えてもらえなかった”」


「!?」


「“この職場でステップアップする自分が想像できなかった”“先輩達がいつもピリピリしていて居づらかった”“無視されていた”」


「そ、それは……!?」


「全て一年以内にここを辞めていった従業員(モンスター)たちの退職理由だ、前任者が握りつぶしていたのを昨晩発見した、これでもほんの一部だぞ? まったく、ここは新人を育てようという気概がまるで感じられない」


 ぱん、と紙束を叩く。


「少ない古株が自分たちだけで仕事を回し、新人を蔑ろにし続けた結果がこの人手不足だ」


「そんなの自分だって気付いて……」


「そうだろうな、お前は内心気付いていただろう、なんせこのしじまの洞窟の主戦力は、ほとんどお前が育て上げたのだからな」


「何故それを!?」


「努力の痕跡というのは必ずやどこかに残るものだ、もちろんお前が内心で現状を嘆いていることも知っている、……後ろめたいのだろう? いくら育てても、すぐに辞めてしまうことを考えると」


「……そ、その通りっす……皆、すごく悲しそうな顔でここを辞めたいと……それがしんどくて、たまらなくて……」


「だからあえて新人をとらないようにしていたな」


 こくりとポイズンスライムが頷く。

 彼もまた、このしじまの洞窟が生み出した悪循環の犠牲者なのだ。

 ――しかし、それも今日で終わり。

 俺は、ポイズンスライムの肩(?)をぽんと叩く。


「今日からはそんな悲しい心配をするな、全力で新人を育ててくれ」


「で、でも」


「しじまの洞窟は変わる、俺が変える、だからお前はお前のやりたいことをやってくれ“毒軍曹”」


「……自分の昔の二つ名まで知ってるんすか、まったく、こんな辺鄙なダンジョンにとんでもない中ボスさんが来たもんすよ」


「後のことは任せろ、だからここはお前に任せる、いいか?」


「――ええ、了解したっす中ボスさん! 自分が責任をもって彼らを立派な主戦力に鍛え上げて見せるっす!」


 びしっと姿勢を正すポイズンスライム。

 彼の緩み切った身体が、見るからに引き締まった。


「じゃあ任せたぞ軍曹、俺はまだやることがある」


 そう言って、俺は第一階層を後にする。

 次は吸血コウモリの管理する第三階層――といきたいところだが、そちらは後回しだ。

 俺は食堂へと向かった。



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