表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/90

第19話「一仕事」


「こ、こりゃうめえ! あの硬いヤギ肉がこんなにもとろとろに……!」


「この重厚な肝の風味……クセになりそう!」


「こんなに美味いもんが死ぬ前に食べられるとねぇ……」


 鍋を囲んだ村人たちは、誰も彼もがとろけきった表情を晒している。

 ゴブリンの料理など薄気味悪いと評していた彼も。

 毒を疑っていた彼も。

 老いも若きも関係ない、誰も彼もがその料理の虜となった。

 勤勉なる主婦諸君に至っては、徒党を組んでゴブリン三兄弟からレシピを聞き出そうと躍起になっていたほどで――


 ともかく彼らの料理は、村人たちの胸を打ったのだ。


「素晴らしい仕事だ、三兄弟」


「へへ、本店の方にもきてくださいよ、テーブルはいつだってあけときますぜ」


「ああ、近いうちにな、じゃあお疲れ様」


 俺はぽんと長男ゴブリンの肩を叩く。

 すると三兄弟の足元に魔方陣が出現して、きらきらと光が溢れ出した。

 契約が完遂されたのだ。


「本当に早く帰ってきてくだせえよ! ナルゴアさんが生きてるって知ってから、アルラウネの姐御が柄にもなくそわそわしちまって、見てらんねえんですよ!」


「……すまんな、今の俺の立場はちょっと複雑なんだ、準備ができたらすぐに向かう」


「あっしらあまり気の長い方じゃねえんで、頼みますよ……!」


 その言葉を最後に、ゴブリン三兄弟は光の粒子となって消える。

 しじまの洞窟へ送り返されたのだ。


「ふわあ……」


 思わず欠伸が出た。

 ……無理もない、モンスターだった頃ならまだしも、今の自分は人間の少年なのだ。

 こんな夜更けともなれば、眠くなるのも当然である。


「ナルゴア、眠いのね」


 母が声をかけてきた。

 隣には父の姿もある。


「……少し」


「疲れが出たんだろうな……早く家に帰って眠りなさい」


「ねえパパ、あの話は……」


「よせよ、ナルゴアは疲れているんだ」


「あの話……?」


「ああ、なんでもないよ、明日また話そう」


「……分かった」


 二人の妙な態度が気になったが、睡魔には勝てなかった。

 俺はおぼつかない足取りで、家へと向かう。


 そんな時だった。


「あ、ナルゴア君……もう帰るの……?」


 ふと、背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこには目をとろんとさせたティモラの姿が。


「今日はほんとうにありがとう、ゴブリンさんのシチューも、すごくおいしかったよ……」


「そうか、それはよかった……」


 彼女ももはや眠気が限界なのだ。

 俺がそう答えると同時に、足をもつれさせて、俺の胸に飛び込んできたではないか。


「あ、ごめん……」


「いい、気にするな……」


「えへへ……また明日も遊ぼうね……おやすみ」


 彼女は最後にそう言い残すと、ひらひらと手を振って、別れを告げた。

 俺もまた寝惚け眼をこすりながら、手を振って彼女に別れを告げる。


「あの歳でなんと酷な……神様……」


 その様子を後ろで眺めていた母のすすり泣くような声が聞こえたが、あえて振り返らなかった。

 ひどく眠かったのだから、仕様がない。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「じゃあ、おやすみなさいナルゴア」


「今日はお手柄だったな」


 両親の見守る中、俺は自室へと潜り込んだ。

 もちろん鍵をかけるのも忘れない。

 俺はふわあと一つ欠伸をして


「……きてくれ」


 そう一言呟くと、俺の影から“手”が現れた。


「ヒールとウェイクアップ、頼む」


 俺が魔法名を並べると、“手”は即座に詠唱を開始し、俺に魔法をかける。

 一つは言わずと知れた回復魔法。

 もう一つは眠気を飛ばす魔法だ。


 これにより肉体の疲労は回復。

 睡魔はきれいさっぱり消えて、頭が冴えてくる。


 中ボス時代、どうしてもその日の内に片付けたい仕事がある時のみ使っていた奥の手である。

 あまり多用しすぎると部下たちの働き方に悪影響を及ぼしそうなので、使用は最小限に抑えていたが……


「……親にこんなところは見せられないからな」


 召喚した“手”を視られたくない、というのもあるが。

 それ以上に息子がこんな方法でドーピングしてるなんて知ったら、あの二人はどんな顔をするか……

 しかし今日ばかりは許してほしい。

 なんせ俺は人を待たせているのだ。


「さあ、いくか」


 俺は窓を開け放ち、人の目がないのを確認すると、夜の闇へと身を投げ出した。

 ちなみに言っておくがここは二階だ。

 このままだと地面に激突し、レベル3召喚術師(サモナー)の俺は、大ダメージを負ってしまう。

 なので、空中に四つの“手”を展開した


「よっ」


 俺は人差し指の上に着地する。

 そして次に中指、薬指へ。

 小指まで降りきったら、次の“手”の人差し指へ。

 このようにして四つの手が作り出した指の階段を下り、俺はなんなく地面へと降り立った。

 俺の“手”には、こんな使い方もあるのだ。


 村は先ほどまでのどんちゃん騒ぎが嘘のように静まり返っていた。

 皆、明日も仕事があるのだ。

 だが俺の仕事はまさに今この時から始まる。


 俺は、人目につかないように身を隠しながら、あの場所へと向かった。

 ――まどわしの森、最奥部へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ktggzfddjfy40awhsp77yc96lid_1cg7_i2_pm_4a9s.jpg
中ボスさんレベル99、電撃大王様でのコミカライズが開始いたしました!
書籍版はスニーカー文庫様より好評発売中です!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ