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第11話「vsブラックダンジョン」


『同業者、だと……? たわけたことを!』


 オウルベアが声を荒げる。

 震える語尾からは、ヤツの内心の焦りがうかがえた。


『貴様、どう見ても人間ではないか! 一体どこでダンジョン監査のことを知ったかしらんが……私の心を乱す作戦なら無駄だ! 私は森の賢人! その程度で揺さぶられることなど……!』


「――賢人はワンオペなぞせん」


『ホッ……!?』


 自称森の賢人は、思いっきり心乱された顔を晒していた。

 俺は、ちらと戦意喪失したオールド・ボアを見やる。


「再三注意されていたはずだぞ、まったく、この規模のダンジョンを年寄り一人に守らせるとは……度し難いな」


『き、今日はたまたまだ! 普段はしかるべき人員を配置している! そ、それにこの周辺の冒険者のレベルを鑑みれば、オールド・ボアだけで十分対処可能!』


「……おい、ふざけるのも大概にしろよ、俺はそんなことを言っているのではない、度し難いのは貴重な従業員を粗末に扱う貴様の姿勢だ」


『ぐ……!?』


 オウルベアがたじろぐ。

 まったく――まったくもって度し難い!

 俺はずんずんとオウルベアに詰め寄る。


「――貴様、知っているのか? つい先日、国王が行商人に対する関税を緩和する政策をとったことを」


『は、初耳だが……だからどうだと言うのだ! 人間の事情なぞ私たちには……!』


「不勉強だな、商人が集まると都は栄える、都が栄えれば必然強力な冒険者も集まってこよう、そうだな……周辺諸国の冒険者の平均レベルが7は跳ね上がるか、これに対しての具体的な対策は?」


『え、その……頑張りま』


「決意表明なぞを聞いているのではない、具体的な対策は、と聞いたのだ俺は、5W1Hはさすがに知っているよな?」


『ホー……』


 挙動不審ここに極まれり。

 フクロウの目がきょろきょろと忙しなく動き回っている。


 まったく呆れたことだ、本当になんの対策もないとは……

 こんなヤツの下で働かされる従業員たちが不憫で仕方ない。


『し、仕方がないだろう! 人員不足なのだ! 日々の業務で手いっぱいで……』


「だからオールド・ボアの一人体制で賄っていると?」


『そ、そうだ! ヤツは優秀な部下だ! 不満など漏らしたこともない!』


「ならば何故その優秀なる部下を手厚く扱わない?」


『そ、それは……!』


「部下の優秀さに甘えるなど下の下、ましてご老体に鞭を打つなど魔族としても下の下だ、早急な改善に努めるのが上司の仕事だと思うが」


『う、ぐ……おっしゃる通りで……いや!? 何故私が人間ごときに説教をされなければならんのだ!』


「……そのへんにしておいてやってください、人間さん」


 ふいに、どこからか声が聞こえた。

 そのしゃがれてかすれ切った声は――オールド・ボアの発した声であった。

 ……喋れたのか。

 恐らくその場の誰もが、そう思っていたであろう。


「……オウルベアさんはこのまどわしの森のために頑張ってくれています、あまり責めないでやってください」


『オールド・ボア……あなたは……』


「ご老人、それでいいのか」


「いいですとも、どのみちアタシのような年寄りはどこも雇っちゃくれません、使ってくれるだけありがたいことです……残業代が未払いでも」


「……最低だなお前」


『うっかりだ! うっかり忘れていただけだ! 後でまとめて払うつもりだったんだ!』


 語るに落ちるとはまさにこのことだブラック経営者め。


「でも、いいんです、この職場で働き始めて40年、他にいくところもありませんから」


「仕事は惰性で続けるものではない、喜びとやりがいが仕事を続けさせるのだ。あなたほどの優れた人材が使い潰されるのは、元経営者として見過ごせない」


「そうは言いましても……」


「前の職場に掛け合ってみよう、残業は月で10時間未満、週休二日制、定年後の保障も完璧だ」


「――今までお世話になりましたオウルベアさん、本日付で辞めさせていただきます」


『あああ!? ま、待て! 頼む! 待って!?』


 嘘みたいに軽い身のこなしでひょいと起き上がり、こちらへ歩み寄ってくるオールド・ボア。

 ほんの数秒の交渉で見事優秀なる部下を失ったオウルベアが、彼の後ろ脚にしがみつく。


「なんですかオウルベア、アタシはあの人についていくと決めたんです」


『よ、呼び捨て!? 考え直せオールド・ボア! お前が抜けたらウチのダンジョンにどれだけの損害があるか分かっているだろう!?』


「知ったこっちゃありません」


『よく考えろ! 今の不景気にあんな美味い話があるものか! 罠だ! どうせお前みたいな老いぼれ、いいように使われて終わりだぞ!?』


 ぴたり、とオールド・ボアが歩みを止め、オウルベアの方に振り返る。

 オウルベアは、ぱあっと表情を明るくして


『か、考え直してくれたか!』


「――こんなブラックと比べりゃ、どこだってマシでしょ」


 ぺっ、とオールド・ボアが唾を吐きかけた。

 まるで凍り付いたように固まるオウルベア。

 もはやオールド・ボアは彼に目もくれず、俺の側についた。

 ……ブラック経営者にふさわしい最期である。


『ふ……ふざけるな!!』


 オウルベアが怒号をあげた。

 フクロウの目が真っ赤に充血して、いかにも怒り心頭といった具合だ。


『私はまどわしの森の主、森の賢人オウルベアだ!! その私をここまでコケにするとは! もう許さん!!』


 オウルベアが両手を大きく広げ、そして詠唱を開始する。


『ホウホウホウ! 無差別に放たれるウインドカッターで貴様らをまとめて切り刻む! この数ならば、その召喚獣だけでは守り切れまい! 一人でも多く切り刻んでくれる!』


「かつての従業員でさえもか」


『関係あるか! その老いぼれとはもはや赤の他人だ!』


「……度し難いな」


「ナルゴアさん、ここはアタシが盾になります」


 オールド・ボアが、のっそりと前に出ようとする。

 俺はそれを制した。


「いやいい、労災の申請は面倒だろう?」


「労災までおりるんですか!? あ、いやしかし……!」


「大丈夫だ、“手”なら足りている」


『ホウホウホウ! ――終わりだ!』


 オウルベアが大きく羽ばたき、そして全方位に射出されるウインドカッター。

 しかしこれは一つ残らず阻まれた。

 ――文字通り、彼の四方を囲んだ巨大な“手のひら”によって。


『……は?』


「召喚できる“手”が一つだけとは言っていないぞ」


 数え40のウインドカッターは、一つとして展開された“手”にダメージを与えることはできず、霧散する。

 そしてこれを全て防ぎ切ったのち、俺の召喚した四つの“手”が同時にある構えをとった。


 ――デコピン、である。


「降参するか?」


 ぎちぎちという指の軋む音を聞きながら、オウルベアはゆっくりと口を開いた。


『降参……します……』



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