第二十三話「戦闘開始!!」④
「……鹿島さん達の連絡だと、そろそろテンチョーが敵と接触する頃だね……。となると、今が攻め時! 攻撃準備! 非戦闘員はリアカーに乗れるだけ乗って! ドランさん達も第一射用意っ! アージュさんも大技の準備を!」
そんな風に号令をかけると、不意にブンちゃんからピピピーなんて言うアラート音。
モニター上に唐突に『HQ-1101:ONLINE』と言う表示がされたと思ったら、画面が二分割され、僕らの周囲とかなり上空からの俯瞰視点の二つの画面が表示される。
続いて『HQ-1101:CONNECTED』とか表示されている様子から、どうもブンちゃんと大型ドローンが接続されたらしい……。
となると……どうもこれは、このHQ-1101の空撮映像らしい。
センサー類やカメラの解像度が段違いみたいで、サーモビジョンの映像も格段に細かくなっているし、映像の更新頻度もほぼリアルタイムになっているようだった。
多分、コンピューターの処理能力が格段に高いんだろう……なんか、物凄いのが来たなぁ……。
けど、ドローン自体の姿は見えない。
やっぱり、ステルス機のようで、何処にいるかはさっぱり解らない。
若干ながら、ローター音が聞こえるのだけど、殆ど聞こえない……上空にいれば、上から風が吹いたりするのに、それもない。
この様子だと、上空の雲の上とかそんな所にいるのかもしれない。
モニターの広域映像を改めて見直すと、待ち伏せしてる敵の本隊の少し手前に、小さな赤い光点が定位しているのが解る。
すでにテンチョーは、到着していて敵への攻撃タイミングを図っているところなのだろう。
『こちらHQ-1101、音声識別による本人確認を要請します。高倉准陸尉、応答願います』
ブンちゃんから唐突に、流暢な女性の声が流れ出した……。
「はい? ぼ、僕ですけど……と言うか、准陸尉って?」
これ……通信機能とか、付いてたっけ? 誰? この人。
そもそも……いつから、僕はそんな准陸尉なんて、階級で呼ばれる身分になったのだろう?
僕、そんな話聞いてないし、了承した覚えもない。
『音声識別データベースへ照会、登録データと合致いたしました。本人確認完了。認証、当機は航空指揮管制ドローンHQ-1101。以後、貴官の指揮下へ入る。現在、上空1000mにて定位中……なお、BUN-6601は当機の管制制御下にあり、臨時インターフェイスとする。なお、現時点での戦力は当機とS級特異能力者テンチョー様こと、T01のみであるが、増援として陸戦ユニットを逐次投入の予定。なお、T01はすでに攻撃準備体制に入っています。コマンダーの指示あり次第、攻撃開始予定。当機も武装しているので、いつでも上空援護射撃が可能。高倉准陸尉、指示を願います』
……これが合成ボイスなのか? とにわかには信じがたいくらいの流暢な声に、一瞬返事することも忘れてしまう。
『高倉准陸尉、応答願います。繰り返しの要請となりますが、指示を乞う』
「あ、そ、その……高倉准陸尉って……? 僕、そんな話聞いてないんだけど」
『命令受領。ご質問内容、高倉准陸尉への階級付与に至る経緯の説明要求と理解。情報開示許可申請受領されました。回答、高倉准陸尉には、現在、陸上自衛隊准陸尉の階級が付与されております。高倉准陸尉は、現時点においても、日本国民であると認定されていますが。民間人の戦闘行為、及び自衛隊保有兵器による殺傷行為、並びに殺傷命令を下命することは、違法行為として禁止されております。しかしながら、本措置により、これら法的問題は全てクリアされます。現状、論理的矛盾は一切認められない。なお、本措置は高倉准陸尉の行動に制限をあたえるものではなく、また陸上自衛隊の指揮統制下に置くものではないと、予めご了承ください。あくまで我々、無人戦闘兵器に対する指揮統制上の問題と、法的な問題に対する緊急避難措置であると、ご理解いただければと存じ上げます。他にご質問等はございますか?』
なるほど……確かに、日本国の法律じゃ確か、そんな話になってた。
民間人が勝手に外国で戦争なんて始めるなんて、下手すりゃ国際問題になるし、自国であってもそれは同じこと。
むしろ、近代国家なら当然の措置だとは思うんだけど……。
僕の扱いって、そんなだったんだ……こんな異世界に飛ばされちゃって、本人も帰る気なんてまるっきり無いのに、向こうでは、未だに日本国民扱い……。
こっち来てから、税金払ってないんだけど、その辺は良いのかよ?
ただ、無人兵器への指揮統制上と言うのも何となく解る。
いち民間人へ特例で指揮権や交戦権を与えるとなると、無人兵器に変な前例を教えることになるし、法的にも問題がありすぎるって事なんだろう。
ならば、いっそ陸自の階級でも付けて、軍人扱いにしとけば、自動的にこいつらへの指揮権も付与されるから、てっとり早いと。
つーか、こいつら陸上自衛隊の所属なのかよ……いいのかよ? 国民に黙って、こんなもん勝手に作って……。
准陸尉って言うと、確か旧軍で言うところの准尉や特務曹長って奴だ。
士官学校を出てない下士官の最高位だったかな?
実際、僕はそんなところとは縁がなかったから、妥当と言えば妥当なんだろう。
もっとも自衛隊の場合は、大卒なら幹部候補生として採用されたりもするから、一応僕にも士官の資格がないって訳でもない。
まぁ、こんなおっさん、普通に年齢制限に引っかかると思うんだけどね。
ちなみに、准尉って言うと……下士官の最高位。
ゲームやアニメなんかじゃ、叩き上げのエースパイロットや、ベテラン兵士なんかの階級だったっけ。
イメージ的には、強キャラの階級ってイメージがあるから、そう悪い気もしない。
しかし、本人の同意もなく問答無用ってのは、ちょっといただけないぞ。
でも、事前にそんな話されてたら……だったら、日本国民辞めるわ!
……くらいの返しはしてたかもしれない。
向こうもその辺は、理解している様子だったし……だからこそ、こそこそと武器を送りつけたり、ブンちゃんを通じて色々下準備とかもしてたって訳だからなぁ……。
「のう、ケントゥリ殿……コヤツはいったい何を言っておるのじゃ? しかも突然、喋りだしたぞ……どうなっておるのじゃ?」
「どうも、上に飛行機械って言えば良いのかな……。味方の増援が到着して、支援してくれるらしい。この声はその飛行機械が直接話してるようなんだ」
「なるほどな。良くわからんが、味方という事なら、せいぜい役に立ってもらうとしよう。しかし、准陸尉とか呼んでいたが、それはケントゥリ殿のことか? 話の内容から察するに、臨時指揮官として認定したと言ったところなのかのう……何ともややこしい話ではあるな」
相変わらず、順応が早い人だねぇ……。
まぁ、こっちも説明が省けて良いんだけどね。
「どうも向こうじゃ、僕は未だに日本国民って事になってるらしい。でも、日本じゃ民間人が勝手に戦争始めたり、人殺しをしたら犯罪者になるからね。それじゃ色々マズいってんで、僕を日本の軍人扱いにしてくれたらしい。要するに方便ってヤツなんだろうけどね」
「まぁ、貰えるもんは貰っとけばいいじゃろ。肝心なのは、お主が自分を見失わないことじゃ。さて……向こうもそろそろ焦れとるようじゃぞ。だが、本当に30分で増援が来るとはな……もっとも、我も今更驚かんよ。いずれにせよ、そろそろ頃合いじゃろ。ここはそれっぽく偉そうに反撃の号令でもかましてやるのじゃ」
「解った……じゃあ、アージュさん……敵が集まってきたら、合図するからいつでも大技を撃てるようにしといてもらえるかな? そう言えば、範囲はどの程度になるのかな?」
「効果範囲は、凡そ200m以内の物全てが確実に凍りつく……実際は余波で500mくらい離れてても凍りつくんじゃが、そこまで離れると割と生き残りも出るようじゃから、確実とは言えんな。一応、発動前に結界を張るから、柵の中には効果が及ばんようにしておく。ただし、外に出たら巻き込まれる……巻き込まれたら、確実に死ぬからな。他の連中にもそこはしっかり、言い含めておけよ。なるべく派手に巻き込むように、できるだけギリギリのタイミングで頼むぞ!」
それだけ言うとアージュさんが離れていくと、広場の中心に立って両手を大きく広げて目を閉じる。
その足元にバカでかい魔法陣がひとりでに描かれていく……。
辺りの気温が下がったのか、霧が発生し始め、ふわっと冷たい風が吹く。




