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異世界コンビニ、ネコ耳おっさん繁盛記! ハードモードな異世界で、目指せっ! コンビニパワーで、皆でハッピーもふもふスローライフ?  作者: MITT
第二章「猫とコンビニが世界を救う……のか?」

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第二十一話「急転直下」②

「……確かに、このドブみてぇな匂い……覚えがあるぜ。擬獣……帝国の飼ってるドブ汁みてぇな化物共の事だな。奴ら、音も気配もなくいつの間にかそこにいやがるからな。俺達もあれとやりあったことがあるから知ってるぜ? なぁ、アージュさん……今のド派手なヤツでどれくれぇ仕留めたんだ? 今の時点で奴らにどこまで寄られてるんだ?」


 サントスさんが不敵な笑みを浮かべながら、返す。

 そう言えば、サントスさんは帝国から流れてきたんだっけ……。


「ほほぅ……貴様は擬獣との戦いを経験しておるのか? それは何よりじゃ……。何処まで寄られとるかは解らん……今のは、音と光だけは盛大じゃが、威力なんぞたかが知れとる。……要はハッタリじゃが、夜襲の仕切り直しには効くぞ? さて、こちらの人数は……ドワーフ共が20人……それと冒険者と傭兵が6人……まともに戦えそうなのは、我も入れても30人にも満たんか。夜間、奇襲、包囲下で、この戦力では話にならんな……ここはもう、逃げの一手じゃな」


「そんなっ! キーツさん達は? このまま見捨てろって言うのか!」


「お主、自分で気配が消えたと言っておったであろう……。恐らく、すでに奴らに捕食されたのであろうな……まず生きてはおらんだろう。いかに獣人と言えど、夜はどうしても奴らに遅れを取る。風下から不意を打たれたか、待ち伏せをされたか……いずれにせよ、為す術もなかったのであろう……。前例から言って、おそらく敵の数は100や200では効かん……全周に渡って包囲されとるだろうが、ここは一点突破解囲あるのみ! 我が突破口を開くから、ネコ娘共はさっきの荷車にケントゥリ殿や非戦闘員を乗せて、一気に駆け抜けるのじゃ! 冒険者と傭兵諸君はすまんが、我と共に殿を努めて欲しい……この場における命の優先順位なぞ、改めて説明するまでもあるまい?」


 そう言って、アージュさんは全員を見渡す。

 殿を命じられた冒険者達も当然だろうと言いたげに、大きく頷く。

 

 例の初陣の若造くんですら、躊躇わず頷いている……。

 同じ初陣でも、彼は覚悟なんてとっくに決まってるんだろう。

 自分もだけど、誰かが死ぬことも覚悟の上でこの場にいるのだ……強いな。


 けど、命の優先順位……改めて言われると、それはとてもとても……重い。

 

 ひどく理不尽な話にも思えるのだけれども、全てを守れないとなると、守るべき優先順位を付ける他ない……戦う事を生業とする者は優先度が低くなるのは、この世界では当たり前の事だった。

 

 アージュさんの言葉には、もはや納得するしか無かった……。


「解った……でも、非戦闘員をリアカーに乗せるっても、全員なんて、とても乗せきれないよ……」


 非戦闘員と言っても、僕と運転手のミミモモ、旅商人さん達と運送業者さん、それにサントスさん。

 それにドワーフ工兵隊も20人はいる。

 

 つまり、この場にいるもの大半が非戦闘員なのだ……ここが本格的な戦場になって、キーツさん達警備隊がまっさきに全滅するなんて、想像すらしてなかった。


 荷物は諦めてもらうにしても、10人も乗ればリアカーはもういっぱいになってしまう。

 

 無限軌道車なら、リアカーに人を満載にしても、相応のスピードが出るから強行突破も出来る。

 リアカー自体も日本製のアルミフレームの頑丈なやつで、タイヤも空気の代わりに発泡ウレタンが入ってるパンクレス仕様、まず問題も起きないだろう。

 

 けど、乗り切れなかった人達に走って後から付いて来いなんて、死ねと言ってるようなものだった。

 

 商人さん達の荷馬車に分乗させる手もあるけど、荷馬車なんて10kmも出せない。

 時速5km程度で、テコテコ並足で走らせることしか想定してないから、馬も駆け足なんかで走らせるとすぐバテちゃうし、多分、馬車自体がすぐに壊れて動けなくなる……間違いなく、走ったほうがまだマシだった。


「うん、じゃあそう言う事なら、僕も殿に回るよ。モモはブンちゃんの運転席でオーナーさんに、抱っこでもしてもらえばいいよ。そうすれば一人分の隙間が空くだろ?」


「ミミ! そんな無茶ですよ! 私達は非戦闘員なんですよ……戦える人の足手まといになってしまいますよ!」


「悪いけど、僕はかなり強いよ? なんか、オーナーさんに雇われてから、前より強くなったみたいなんだ。なにせ、ウォルフ族の奴らを相手にしたって、遅れは取らないくらいなんだ。なにより、夜の森なんて、僕らミャウ族の独壇場だよ! 危なくなったら、木を伝って逃げるさ……僕の足の速さは知ってるだろう? 心配なんて要らないよ」


 なんだか、やる気満々のミミちゃん……けど、さすがに、これは許容できなかった。

 いくらなんでも、こんな小さな子を盾にして逃げるなんて……。


「なるほどな……状況はよく解った。おい、同胞諸君……我ら勇猛なるドワーフ族としては、ここでやるべきことは、もう解ってるだろう? 俺達も殿に回るぞ……こんなチビ助がやるって言ってんだし、俺ら全員旦那にゃ色々お世話になったからな……俺達が盾になってやるのは、あたりめぇだ! 文句がある奴は前に出ろ!」


「はん、サントス。オメェなかなか、解ってるじゃないか! タカクラオーナーさんよ、俺らは確かに戦よりも、建築作業のほうが専門ではあるが、戦えないなんて思わんでくれよ。何より、あのドブ汁共にケツ向けるってのが気に食わん。帝国の奴ら、俺らを帝国から追い出すために、あのクソ汁なんぞをけしかけやがったからな……奴らにゃ仲間が何人も食われてるんだ。要するに、俺らは奴らに恨みがある……きっちり借りを返してやらんと気が済まん!」


 ドワーフ工兵隊の隊長、ドランさんが前に出て、その迫力のある顔を近づけて凄む。

 

「そうだそうだ!」だの「ここはワシらに任せとけ!」なんて威勢のいい掛け声が筋肉ドワーフズからあがる。


 よく見ると、皆、斧や棍棒、めいめいにしっかり武装している……。

 やる気だけはあるみたいなんだけど、彼らの本職は土木建築……パワーもあって、タフだってのは解るんだけど、戦いに勝つとなると筋肉だけじゃ無理だ。

 

 なんと言っても、相手は異形の怪物……犠牲なく勝てる相手だなんて、とても思えない。


「ねぇ……アージュさん、殿の皆はもちろん、無事に帰してくれるんだろう? 君はこの世界でも最強クラスの大魔術師なんだよね? それならきっと……」


「……我も万全なら、偽獣の群れなぞ一蹴出来るが、今の我はお主の言う通り、万全とは言い難いのじゃ……この調子では、魔力も普段の半分程度じゃろうな。出来る限り、皆、無事に返してやりたいが……この状況では、とても確約は出来ん。我一人ならばどうとでもなるが、全員を守れと言うのは難しいと言うのが、正直なところじゃ……すまぬな」


 苦々しいと言った様子でアージュさんが応える。

 嘘でもいいから、必ず無事に帰すとでも言ってくれれば、まだ気楽だったのだけど……。

 

 彼女がそう言うのであれば、殿として戦う人達の何人かは、確実に犠牲になるのは間違いなかった。

 

 戦えば、誰かが犠牲になる……そんなのは戦場では当たり前の事……。

 実際、すでにキーツさん達と言う犠牲者が出ているのだ……もはや、多いか少ないかの違いに過ぎない。

 

 でも、僕はそんな風に割り切りたくはなかった!


「……な、なら、この場に留まって、穴掘ったり、柵を作って陣地に籠もって戦うのはどう? 撤退戦なんて、それこそ無謀だよ」


 敵に背中を向けて、逃げながら戦う撤退戦ってのは、戦争でも一番被害が出やすい戦闘様式でもある。

 古今東西、戦争で負けた側が一番損害を被るのは、この敗走とも言える局面なのだ。

 

 なにより、逃げると言っても、逃げた先に回り込まれたり、伏兵でも仕掛けられていたら、もはや袋のネズミだ。

 そうなったら、逃げる側である僕らも全滅は免れない……この場は、闇雲に逃げるのは良くない気がする。


「守りに徹する籠城戦は、増援の見込みがあるなら有効なのじゃが、増援の見込みが無いのに籠城なんぞ、単なる悪あがきに過ぎんぞ? 何より、敵の数や配置がまるで判らん上に、こちらの戦力がまるで足らん。この野営地も、柵で囲っただけの単なる広場じゃから、防衛戦には不向きじゃ……こんな所で戦うくらいならば、森にでも逃げ込んだ方がまだマシかもしれん……」


「そうだな……奴らの触手は見切れるようなスピードじゃねぇ……。遮蔽物もないんじゃ、近寄られたらあっさりお陀仏だぜ」


 サントスさんもアージュさんの言葉に同意する。


「……そう言う事じゃ。ここは一点突破で敵の包囲網を突き崩し、然るべきのちに殿軍は散開し、敵の注意をひきつけ、足止めに徹する。その隙に先陣が包囲陣を強行突破し、逃げられる者だけでも逃げる。……あの車であれば、奴らの追撃も振り切れるじゃろう……奴らは意外に動きも早いが、足は決して早くはない。これが一番犠牲も少なく、かつ、お主だけでも生き延びれる可能性が高い方策じゃ……それともなにか? 他に良い手立てでもあるのか? 我も他の方法は今は思いつかん……何か策があるなら、遠慮なく申せ」


 ……アージュさん、さすが伊達に年食ってない……。

 こんな絶望的な状況下で、冷徹に状況を判断し、彼我の戦力差を分析した上で、最重要人物である僕の命を最優先するプランを考えてくれた……それは解る。

 

 たぶん、彼女のプランが今の状況では、唯一の方策と言えた。

 もはや、状況は勝ち負けもない……如何に、犠牲を少なく逃げおおせるか……それ以外に選択肢がない。


 無限軌道車も、すでに行きの時点で十分な走行データが取れているはずなので、夜間でも、時速20kmほどのスピードで駆け抜ける事が可能だろう。

 

 オープンフレームで布張りと一見、頼りなさそうに見えるのだけど、フレームやバンパーはやたらと太くて頑丈だから、岩にぶつかっても平気な位には頑丈に出来ている。

 敵に道を塞がれたとしても、見た目以上にパワフルなので、体当たりで強行突破することだって可能だろう。

 

 けれど、僕らは逃げ延びれたとしても、殿となるサントスさん達は、無事に済む見込みはかなり薄い。

 徒歩である上に、圧倒的多数の敵の包囲……アージュさんも一緒に殿を務めてくれるとは言え、生還は厳しいと言うのが現実だろう。

 

 アージュさんも、敵の居場所が解らない状況、おまけに視界の悪いジャングルでは、視界に入ってくるか、見えない相手に向かって、適当に撃つ盲撃ちしか出来ないだろうから、広範囲攻撃魔術が使えると言っても、その本領を発揮できないだろう……敵が見えないというのは恐ろしく厄介だった。

 

 何より、熱中症で死にかけて、病み上がりの彼女にそこまで無茶を強いるのは酷というもの。

 普段の半分程度と言ってはいるけど、最大限に見積もってそれなら、本当は戦えるとは言い難い状態なのかも知れない。

 

 ……これでは、彼女ですら生還は危ういかもしれない。

 何か……この状況を打開する、なにか良い方法はないか?

 

 アージュさんは、暗にもっといい案があるなら、迷わず採用すると言っている……戦を仕切っているように見えて、最終決定権は、ちゃんは僕に譲ってくれているのだ。

 

 けど、歴戦の大魔術師のアージュさんでも、今より良いプランが思いつかないのであれば、他の皆も期待できないだろう。


 ……考えろ! 異世界人の僕なら、何か良い方法を思いつけるかもしれない。

 

 思考の差異者、この世界の住民には出て来ない発想!

 

 今ある機材と人……これらを使って、出来ることを考えるんだ!

 諦めるな! ここで諦めたら、絶対ダメだ……。

オーナー以外の異世界人たちは、基本的に皆シビアです。


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