第十九話「悪魔的カレー再び!」①
「おうっ! オーナー! 済まないな! まさか、アンタが直々に来てくれるとはなっ! せっかくだから、一通り視察でもしていってくれ! と言っても、まだまだ柵で囲って整地して、井戸掘った程度で、野営地としてまともに使えるようになるには、程遠いんだがな。とりあえず、寝床とかは自分たちでなんとかするか、その辺で雑魚寝でもするんだな」
野営地に着くなり、サントスさんがお出迎えしてくれる。
その後ろにはドワーフ工作隊の面々と、今夜ここで一泊していくつもりらしい二人組の人族の旅商人と、その護衛と思わしき四人ほどの冒険者さん。
それと、輸送業者と思わしき筋骨隆々な犬耳さんと、その護衛の二人組の傭兵さん、若いのと初老の爺さんと言う組み合わせなのは、多分新人研修か何かなのだろう。
若いのは、傍目にも緊張してる様子で武具もピカピカ……子供っぽい顔立ちなので、10代とかそんなもん。
爺さんの方は年季の入った革鎧と、薄汚れた大剣とえらく対称的だった……でも、その鋭い眼光は如何にも只者ではない雰囲気をまとっていた。
けど、二人共……何処か似たような雰囲気なので、案外身内なのかも知れないな。
ウォルフ族の警備隊は、10人ほどの一個小隊が配置されているはずなのだけど、周辺パトロールに出ているようで、二人ほどが居残ってるだけのようだった。
野営地と言っても、森の真ん中のちょっと開けた広場みたいな感じのところを、大きめの木を切り倒して、開いたスペースを柵で囲ったとかそんなもんなんだけど、未完成にも関わらず、それなりの人数がいるようだった。
まぁ、大半がうちの関係者で、本来の利用者……商人はわずか二グループ。
はっきり言って、少ないんだけど……。
なにぶん、ロメオ方面から来る大半の商人がコンビニまで来て、引き返してしまうようになったのと、オルメキア方面からやってくる商人が日に日に減っているからなんだよなぁ……。
オルメキア側からは、もっと物を送ってくれと連日のように要請が来てるみたいなんだけど、明らかにオルメキア方面の様子がおかしいので、商人ギルドからも様子見として20人規模の巡察隊が編成されて、僕らより一日早く進発しているので、今頃はさらに20kmほど先の野営地にでも着いている頃だろう。
この野営地の整備もギルド側の要請でオルメキアには無断でやってることなんだよなぁ……。
もっとも、オルメキアさんにはギルドが話をつけてくれるそうなんで、その辺はお任せだった。
オルメキアさんの正式な許可と支援が受けられるようになったら、本格的にオルメキア方面の街道整備に取り掛かる予定なんだけど……。
この辺りには、反帝国ゲリラの活動拠点もあるそうなので、そいつらにご挨拶くらいはしておかないといけないんだよな。
とは言え、そっちとのお話し合いは、ロメオ王国との問題を解決してからを予定している。
とりあえず、パーラムさんからも、最寄りの野営地くらいは、先行で整備して欲しいってんで、ドワーフ達を派遣して工事してる真っ最中って訳。
サントスさんは、ドワーフ達のご飯係としての同行。
警備隊は、その護衛ってところだな。
いつもなら、この手の野営地には女性のひとりやふたり、いるんだけど、今日は何故かやたら男性比率が高い……というより、見た所野郎しか居ない。
そのせいか、どいつもこいつも腰布ひとつとか、やたら開放的。
ちょうど、仕事終わりだったのか井戸の周りに、20人位の半裸の筋肉ドワーフ達が寄り集まって、ガハハとやってる。
別にコレ自体は割といつものこと。
女性の目があると、皆それなりに自重するんだけど……居ないとすぐこうなる……。
ドワーフ族の工兵隊も、本来は女性もいるんだけど……危なそうな土地だからなのか、ものの見事に野郎だけ。
そう言うとこは、妙に紳士的なんだが……ドワーフの野郎共って何かと言うと脱ぎたがるんだよな……。
実際、サントスさんも腰布一丁、サンダル履きのバーバリアンスタイルだ。
まぁ、ドワーフに限らず、この世界の野郎共って、大抵そうなんだけど。
気持ちは解るんだけどね……こんな暑苦しい土地だと、脱いだ時の開放感とかもう最高っ!
屋上でパンイチになって、ロッキングチェアに揺られながら、夜風に当たるとか最高だよ?
たまに見張りのエルフさんとかに見られたりするけど、あの人達こっちが半裸でも全然、気にしないからね!
「サントスさんもお疲れ! と言うか、皆……なんてカッコしてるんだよ……」
僕自身は、別に構わないんだけど……後ろの子達がねぇ……。
振り返るとモモちゃんとアージュさんが、揃って顔真っ赤にして、しゃがみ込んでる。
なんせ、どいつもこいつも半裸だからなぁ……。
中には腰布が取れて、フルオープンのヤツもいる……さすがに、それはしまってくれ。
ミミちゃんは……安定のニコニコ笑顔。
この子、こう言うの全然気にしないからね……それはそれで、危なっかしいんだけど……。
なお、モモちゃんもアージュさんも、どっちも手で顔を隠しながらも、指の隙間からちら見してる。
恥ずかしいけど、見てみたい……乙女の心理ってやつは複雑怪奇だ。
と言うか、アージュさん……噂通りなら、1000歳超えの超が付くほどのお年寄りのはずなんだけど、なんでそんなウブな反応してるんだろう? これ……本格的な喪女なのかもしれんね。
サントスさんが井戸作ったとか言ってたけど、井戸の周りではヒゲモジャな筋肉軍団がバシャバシャと水かけあってると言う……大変、暑苦しい光景が広がっていた……。
皆、超楽しそうで、これが美少女だったら、キャッキャウフフ、ワーイ! ……なんて、素敵な夏のワンシーンだったのかもしれないけれど、いかんせん、そこにいるのはヒゲと筋肉モリモリ……とにかく、絵面が酷い。
ちゃんと服着てるのは、そろそろ仕事の時間の冒険者や警備隊の面々……戦闘員の方々くらい。
彼らは、寄り集まって、真剣な様子で、戦闘時の指揮の相談や、警備計画の打ち合わせをしてたり、武具の手入れやウォーミングアップの体操やってたりと、なんと言うか世界が違う。
ひと仕事終えて、今日はもう飯食って寝るだけの人達が、シメの宴とばかりに楽しく水浴び中なのとは対象的だった。
「なにせ今日は、昼間とびきり暑くてなぁ……。やっぱ、このカッコが一番涼しくて楽なんだが……。そうか、一番うるさい子猫ちゃんが一緒なのか……なら、仕方ないな」
言いながら、サントスさんもTシャツを着る。
まぁ、ムチムチのパッツンパッツンになってるんだけど、許容範囲かな。
実はモモちゃん、野郎が脱いでるととすぐ飛んできて、ちゃんと服着なさいってうるさく言うので割と有名。
言ってることも真っ当だし、幼女の目の前で脱ぐ時点で、立派な事案である。
大正義モモちゃん……君はきっと正しいっ!!
あの開放感は正直、堪らないけど、分別ってもんは必要だよね。
「そう言うこと。と言うか、あそこのヒゲ共にも服着させて、早いとこ荷物おろして、晩御飯でも作ってよ。色々あって昼ごはん食いっぱぐれたから、お腹減っててさ」
ふふふ……アージュさんの相手をしてて、僕はものの見事に食いっぱぐれたのさ。
ミミモモは、お弁当を二人で食べてたみたいなんだがね……僕も食べたかったけど、車を止めてる余裕が無かったんだから、仕方ない。
実際、もう日も暮れかかっていて、ヘッドライトを点けるかどうか迷ってたくらいにはギリギリの到着だった。
「ああ、飯のことなら任せとけって……しかし、ミミモモ達は解るんだが、ひとり見慣れないのがいるんだが……。なにもんじゃ、ありゃ?」
さり気なく、サントスさんが顔を寄せると、小声でアージュさんを示す。
「ごめん、アレ……アージュって言う例の親衛隊の刺客なんだ。途中、熱病で行き倒れてて、捨て置けなくて拾ってきた。どうしたもんかな……正直、困ってる」
「おいおい、ダンナ……。そんな何でもかんでも、拾ってくるなよ! だいたい、アージュっていや、確か相当な使い手じゃねぇのか……? もし、噂通りのヤツなら、この場にいるヤツ総掛かりで挑んでも、歯が立たんぞ? なんで、そんな厄介なのを連れてきたんだよ……行き倒れてたんなら、捨て置けばよかったんだ。その方が面倒が少なかったんじゃねぇのか?」
「そう言わないでよ……さすがに、ほっとくわけにもいかなくてさ。とにかく、彼女とは戦ったりとかしない方針で……。幸い向こうは、僕の事を命の恩人って言ってるし、僕の正体もまだ気付かれてない。色々あって、なんかベタぼれ状態だからさ。ダメ押しにとびきり美味いものでも食わせて、懐柔出来ないかな……と。サントスさんの例の悪魔カレーでも食わせてやってくれないか? 食材は山程持ってきたからさ……サントスさん、これは単なる食事じゃない、接待だと考えて欲しい。いいね?」
「アレを作るのか? アレはヤバいってんで、俺も封印してたんだがなぁ……まぁ、良いだろう! そう言う事なら、任せとけって! しっかし、敵の命を助けてやって、美味いもんを食わせて懐柔とはまた、相変わらずアンタのやる事は突拍子もないな……はっはっは!」
サントスさんが親指を立てて、盛大に笑いながら、僕の肩をバンバンと叩く。
うんうん、相変わらず、話の解る頼もしいおっさんだなぁ……。
そんな訳で、アージュさんを味方に引き込むべく名付けて……。
「美味いもん食わせて好感度爆上げ! 籠絡しちゃうぞ大作戦!!」
……が開始されるのであった!!
アージュさんは……男っ気数百年単位でゼロと言う残念なお方です。
古エルフなんて言う上位激レア種族な上、見た目幼女なので、男性経験はむしろ皆無、要するに耳年増。(笑)
キャラのイメージ的には、雪女の幼女バージョンです。かわいい。
初期設定では、雪姫と言う種族でしたが……色々あって、こうなりました。
和装とかは、その名残。
※ちょっと追記。




