第十八話「袖すり合うも他生の縁」①
それから……。
「いやはや! 助かったのじゃ! まったく、我ともあろうものが熱病で死にかけるとはな!」
……先程の和風山エルフさん復活。
川に漬け込んで、しばらく放っておいたら、いきなり復活して「水じゃあっ!」と浴びるように川の水をガバ飲みして、飲みすぎたらしくマーライオンのごとくリバースとか、色々やらかしてくれたけど……ひとまず、無事に復活を果たしたらしい。
あっちこっちの筋肉が攣りまくって、転げ回って悶絶したりと、なかなか大変そうだったけど、回復魔法が使えるらしく……すでに自力で動けるくらいには、回復していた。
この辺は、さすが異世界の驚異、マジックユーザー様々だった。
と言うか、先程まで死にかけていたのが、嘘みたいに、ものすごく元気になってる。
……ユンカース黄帝液を飲ませたのも効いたらしい。
塩っ気については、持参していた塩タブレットをあげたら、やたら美味そうにバリボリやってた。
普段舐めると、甘じょっぱくて死ぬほど不味いんだけど、あれが美味く感じるって相当やばかったんだろう。
なお、山エルフさん……ミミモモなみのチンチクリンなのは、言うまでもないのだけど。
口を開けば、のじゃのじゃ言う……いわゆる「のじゃロリ」と言うやつだった。
割と儚げな雰囲気で、幼女としか言いようがない外観に反して、このガチャガチャとした年寄り地味た口調……すっごい違和感。
「いやはや、良かった良かった。正直、かなり危ないところだったんだよ。ところであんな所で何してたの?」
とりあえず、先を急ぐからって、リアカーに山エルフさんを乗せてやって、すでに車も出してもらってる。
結構な時間を食ってしまったので、ペースも可能な限り、最大限にまで上げている。
この辺りは、山が近いのもあってか、コンビニのあたりと植生や地質が違うようで、幾分か走りやすいらしく、さっきまでの倍以上のハイペースで走れているようだった。
リアカーも荷物満載で、人を乗せるスペースなんてなかったので、山エルフさんは僕同様、木箱の上に無理やり作った隙間に座ってもらってる。
一応、毛布くらいは敷いてるし、屋根代わりに頭上に布切れくらいはかけているから、それなりに快適ではある。
荷物扱いは嫌がるかと思ったら……これ以上、歩かないで済むということで、いたってご機嫌である。
こっちも色々事情を聞きたいのも確かなので、道中の世間話感覚で先程から他愛のない話しをしていたところだった。
「……ふっふっふ。我も色々訳ありではあるんじゃが……。実は、コンビニというものを探しておったら、すっかり道に迷ってしまったのじゃ……。ここの暑さは我もちょっと想定外でな。暑さ自体は我の魔術結界ならば、まったく問題にならなかったのじゃが……うっかり手持ちの水が尽きてしまってなぁ。おかげですっかり喉が渇いてしまってのう……なんとかあの小川を見つけたまでは、良かったのだが、川を目前に、急に目の前がまっくらになってしまってな。その後、主らに助けられるまでのことはとんと覚えておらん」
……要するに行き倒れって事だった。
道に迷って、水が尽きて倒れるとか……それ、思い切り遭難だ。
どうも話からすると、熱を遮断するような魔術結界を使ってたようなのだけど、どうも熱気を遮るだけで、直射日光までは防げないとかそんな感じらしかった。
直接日差しを浴び続けるというのは、意外と体力を消耗するし、外気の熱気を遮断したからと言って、地面からの輻射熱や赤外線を浴びることで体温はしっかり上昇する……。
ましてや、あの厚着……水分が不足したまま、汗をかいて、身体に熱が籠もって、自覚症状もなく限界突破……。
典型的な暑さを舐めてたとしか言いようがない状況ではあるのだけど、自覚症状っても、フラフラするとか、身体が重いくらいのもんで、熱中症を何度か経験している人でさえも油断してると、罹患してたりするから、なかなか始末に負えないんだよな……。
ちなみに、今は山エルフさんも袖なし、太もも丈の肌着だけなんだけど、本人もその方が涼しいと気付いたらしく、そのままの格好で平然としていた……意外と恥じらいとかないらしい。
僕の知る限り、エルフさんって皆、そんなんなんだけど……山エルフは肌を見せるのも嫌うって話じゃなかったかなぁ……。
もっとも、彼女も相当危ない状況だったのは事実。
倒れてたところも、道からもちょっと離れたところだったし、ミミちゃんがたまたまそこを休憩場所にしようと言い出したから、僕らも立ち寄っただけの話で、本来だったら素通りしててもおかしくなかった。
こののじゃロリエルフさん……あのまま誰にも気付かれずに、人知れず死んでたかもしれない。
……いや、確率的にはその可能性のほうが高かった。
彼女は運が良かったんだろうな……。
もっとも、世の中には、こんな風に普通死にかねない状況でも、奇妙な偶然と幸運を引き寄せて、なんだかんだで生き延びるってヤツがいるんだよなぁ……。
所謂、主人公体質的な? まったく、この子……侮れないかもしれない。
でも、コンビニって……それ絶対、僕の店の事だよなぁ……。
てっきり、森エルフの集落でも目指してたのかと思ったんだけど……。
この強運と言い、なんか、ものすご~く嫌な予感がするよ?
ミミモモも、彼女の言葉に耳ざとく反応して、猫耳だけこっち向けての、聞き耳モードに入ってるし……。
露骨に、こっちを振り返ったりしないあたり、状況は何も言わずとも察してるようだった。
さり気なくミミちゃんが体勢を変えて、モモちゃんも尻尾をぴーんと立てて、こっちに向けている。
たぶん、僕が合図を送ればモモちゃんが尻尾放水で牽制して、ミミちゃんが飛びかかるとかそんな感じっぽい。
この子達も……意外に頼もしいところがある。
「そ、そっか……君も色々大変だったみたいだね。駄目だよ……この森は昼間は、アホみたいに暑くなるから、十分に水を持って、休み休み木陰をゆっくりのんびり歩くってのが、鉄則なんだ。……そもそも、水くらい魔法で作れなかったの?」
……嫌な予感はするのだけど、藪蛇は避けたい所。
ひとまず、無難な会話でお茶を濁す……何より、彼女はこの森の常識を知らなさ過ぎる……。
お説教の一つくらいするのが自然な対応ってもんだろう。
「そうじゃなぁ……確かに、水生成の魔術を使う手もあったんじゃな……。我は普段は、もっと北の寒いところに住んでおったのでなぁ……そっちの方では、喉が渇いたら、お湯を沸かして、お茶を飲むのが普通なんじゃ……。如何せん、ここらに来るのも久ぶりでなぁ……。自前で水を作り出して……そんな効率の悪い方法、まるっきり発想の外じゃったよ」
そうなの? 僕なんか、ジャバジャバ水撒きや、掃除に使ってるし、モモちゃんも自分の尻尾ハムハムして水飲んでたりするんだけどなぁ……。
なお、ミャウ族からは、僕もだけどモモちゃん、歩く水飲み場扱い……。
「なるほどね。でも、せめて、現地のガイドを雇うとか、それなりの準備をしないと駄目でしょ。それに、服装も今みたいな軽快なのにしないと、身体に熱が籠もって倒れちゃうよ……実際、そんな感じだったみたいだしね」
「うむ! 重ね重ね面目ないっ! しかし、こんな肌襦袢一枚なんぞ、えらく頼りないと思っておったが、涼しくて実に良いな。我もここにいる間はお主らを見習って、薄着にするかのう……。まぁ、本音を言うとちぃとばかり、恥ずかしいんじゃがな……これも慣れるしかないな。しかし、お主も随分変わった服を着とるのう……前の二人も見慣れない素材の服を着とるようじゃし……」
確かに……僕は速乾吸湿素材のアロハシャツみたいなのと短パン。
ミミモモはコンビニの制服姿……と言っても、元々イレブンマートの制服なんて、「11」ってロゴマークの描かれた赤いエプロン。
なるべく襟付きのシャツを……なんてドレスコード指定もあったりするんだけど、そもそも僕自体も全然守ってなかった。
何となく、テンチョーの抜け毛が目立たないように黒シャツをよく着てて、黒ばっかり持ってたし、テンチョーもおソロの黒いシャツを好んで着てるせいで、なんとなく黒シャツと赤エプロンがすっかり制服みたいになってる。
もっとも、日差しが強いところで黒い服なんて、暑苦しいだけなんで、外出する時は白いTシャツとか、水色とかピンクみたいな淡い色を着ることも多い。
今日は、遠出するって解ってたから、黒いタンクトップに灰色のフード付き
のサマーパーカーを着込んでる。
なんせ、自前の尻尾の毛も黒毛なんでなぁ……白とか着ちゃうと自前の毛だらけなのがバレバレ……これ猫飼いあるあるな。
まぁ、夜になるとそれなりに冷えるから、羽織れるものくらい着るのは当然の話でもあるし、これもこっちで学んだ生活の知恵のようなもんだ。
ミミモモも同じく灰色のフード付きのサマーパーカーを羽織っててるんだけど、実はこのサマーパーカー、フードに猫耳が付いてる。
この猫耳もちゃんと猫耳用に袋状になっていて、自前の耳がすっぽりハマるようになっているんだから、なかなか芸が細かい。
これ、日本のとある服飾デザイナーが、猫耳の女の子が着る事を想定してデザインしたとのことで、特注品だったりもする。
まぁ、僕も使ってるんだけど、猫耳がジャストフィットって感じで収まるもんで、なかなかにイイ!
素材も最新の速乾吸湿素材で出来ているので、軽快で汗ジミ一つ出来ない上に臭わないってんで、猫耳以外の女性にもとっても好評。
獣耳連中にも、メッシュ素材は音の聞こえにもほとんど影響がない上に、蒸れないってことでこのサマーパーカーはとっても好評。
こっちの世界では、チェニックみたいなのや、東南アジア風のブカブカしたデザインの服装が好まれてるから、サマーパーカーとか確かに大分変わった服装なのかもしれない。
最近は、コンビニで売ってるTシャツとかタンクトップも、皆、普通に着てるからすっかり意識しなくなってたけど、本来は珍しいモノなんだよなぁ……。
「そ、そうかな? 最近、ここらじゃ、こんなのが流行ってるんだよ。色々珍しいものが入ってくるようになってるからね」
「なるほど、噂のコンビニというやつじゃな? ずばり、お主もそこで買ったんじゃな? なかなかええのう……我もひとつ買ってみるかのう……。前の猫耳娘の着とるやつも、なかなか可愛いではないか」
「そ、そうなんだよ! ところで、そのコンビニとやらには、何の用があったんだい? あと、君の名前も教えてほしいな」
……この子、なかなか鋭いな……。
けど、当然ながら、僕がそのコンビニの関係者だなんて、言わない。
何が目的なのか? 何者なのか? それくらいは最低限聞き出さないと、迂闊なことは言えない。
「ほほぅ、我の名を聞きたいとな? 人に名を尋ねる時は、まずは自分の名を名乗るのが礼儀……と言いたい所だが。お主は我の命の恩人であるからな。我が先に名乗るのがスジであろう……我が名は、アージュ・フロレンシア! 白法師アージュとは我のことであるぞ!」
……その名乗りに危うく吹く所だった。
アージュ・フロレンシア……それは、僕の元へ、送り込まれた王国親衛隊の刺客の名だった!




