第十六話「特訓の日々」③
「クーラーボックス?」
パーラムさんとランシアさん、それと僕というメンツで、サントスさんの食堂でお昼を囲んでいたら、パーラムさんからそんな単語を唐突に告げられて、思わず、僕もオウム返しにしてしまう。
「はい……以前もお話したのですが、ヨーム様がやんごとなき御方の口からそのような単語を耳にしたと。それが3人目の刺客の役割だとか……ただ、それだけではどうにも意図が読めない」
クーラーボックスねぇ……。
まさか、アイスでも持って帰る係とか、そんなつもりなんだろうか?
僕をぶち殺して、生首を新鮮な状態で持ち帰るため……とかだったら、嫌過ぎるけど、それはないと信じたい。
まぁ、普通に考えて、クーラーボックス代わりとなると、冷たいものを持って帰るようにって事だろう。
保冷車なんてあるわけ無いだろうから、生鮮食品とか生ものを鮮度を保ったまま長距離を運ぶとなると、かなり難しいだろうってのは、想像に難くない。
この調子だと、なにかお目当てのコンビニの商品があるっぽいんだけど、何なんだか。
アイスとか……スイーツ系? それとも冷凍食品?
要冷蔵冷凍の商品なんて、多過ぎて、逆に解らんよなぁ……解れば、話は一気に簡単になるんだけど……。
そう、お目当ての商品をあるだけ抱えて行って、やんごとなき御方にこれでもかとばかりに、大量献上するのだ。
その上で、今後ともよしなにとやる……たぶん、一発で落とせそうだった。
そのやんごとなき御方ってのも、素直にうち来てくれりゃいいのになぁ……サービスなんていくらだってするよ。
でも、そう言う事なら、その第三の刺客ってのがどんな相手なのかは見当付いた。
「ズバリ、氷雪系能力者……氷や冷気を操る魔術師とかそんなんだと思う。クーラーボックスってのは、うちで売ってるアイスとか飲み物を氷とかと一緒に入れとくと、冷たいまま半日くらいなら保存しておける……そう言う便利な道具なんだ。だから、そう言う事なら、何かを凍らせる能力か魔法を使うようなヤツだと思う。確か、倉庫にあったと思ったけど見る?」
「いえ、氷雪系の魔術師と言う事が解れば、十分です。であれば……第三の刺客は白法師のアージュで間違いないでしょう」
「あちゃあ、よりにもよって水魔法の上位互換……氷雪魔法の使い手ですか……。でも、アージュって……もしかして、あの昼行灯のアージュ様ですかっ!?」
同席してた、ランシアさんが軽く頭を抱えてる。
なんか、すごく厄介そうなやつだけど、なんなんだその二つ名は……?
「そっちの二つ名の方が有名ですよね……さすがに、ご存知でしたか」
昼行灯って……どういう風に翻訳されたのか解らないけど、あれって役立たずって意味だよなぁ。
昼間に行灯つけても、ぼやーと光るだけで何の役にたたないからって……。
そんな二つ名が有名ってのは、普通に使えない子扱いなのかなー。
「なんか酷い二つ名だね……強いの? その子」
その子って子供扱いだけど、なんかイメージ的にお子様っぽいのをイメージしてしまった。
「私達、エルフの間では有名人ですからねぇ……。桁違いの魔力容量を持つ、古エルフの天才魔術師……千年位前から生きている最古の魔術師とも言われていて、町や城塞一個をまるごと氷漬けにするくらいの超広範囲戦略級魔術の使い手……間違っても、正面切って戦おうなんて、考えたくもないですね」
「そうですね。白法師アージュの名は、近隣ではよく知られており、いくつもの伝説にその名が出るほどで……。ヴァランティア戦では、野営中の帝国の一個師団を丸ごと氷漬けにした……なんて逸話があって、相当な実力者なんですよ」
「……と、とんでもない人なんだね……そのアージュって人」
一個師団って軽く一万人とかそれくらいの規模だよな。
それに城や街を丸ごと1つ氷漬けって……戦略級魔術って、マジで半端ないな……。
「ですが、怠惰な上に何かにつけてやる気がない……親衛隊の者達からも、あまり良く扱われていないらしいんですが……。その辺りは本人は全く気にせず、クロ……いえ、例のやんごとなき御方と一緒に街を散歩してたりするそうで、要するに、やんごとなき御方のお気に入りって事です」
パーラムさん、モロ名前出しちゃってない?
と言うか、パーラムさんもロメオ王国の実質上の国家元首のクロイエって娘の事をちゃんと教えてくれたから、彼女については、僕も大体理解している。
国家最高機密と言っても、対外的にってだけで、実際は国内の街中を気軽にヒョコヒョコ散歩してたりするんで、国民なら子供でも顔を知ってるような有様らしい。
あくまでこれは私の独り言ですが……なんて前置きして、色々と国家機密とやらをホイホイ教えてくれたのだから、パーラムさんも大概だよなぁ……。
……話を聞く限り、この国の政治体制って、民衆や貴族から投票で選ばれた議員たちによる議会に政治を任せてるようで、どうも議会制民主主義を導入しているようだった。
其の上で、商人を支援し優遇することで、商業国として盛り立てて、この大陸でも珍しいほど治安もよく、税金も安く、民を富ませて、繁栄をもたらせたって感じで……。
普通に、いい王様してる感じだった……むしろ、日本の政治家見習えよと言いたいくらい。
ただ、いかんせん御年10才……さすがに、お子様過ぎて表立って、正式に女王陛下に就任……とまではやってないらしい。
まぁ、そりゃそうだろうな……10才の子供が国家元首なんて、どれだけ正当な跡継ぎだったとしても、外国から馬鹿にされるのが関の山。
だからこそ、普通は摂政とか立てて、そいつに国を仕切らせて、本人は成人するまでは、お飾りとかにするもんだ。
なにせ、お子様ってのは総じて経験不足だ……。
如何に膨大な知識や天才的なセンス、そして恵まれた環境があったとしても、経験ってのはやはり、重要な要素だ。
経験とは、長い年月とともに積み重ねた幾多もの失敗と成功の記憶と言っても過言じゃない。
こればっかりは、如何に知識を蓄えていようが、どれだけ才能があろうとも、ひっくり返すことなんて出来ない決定的な差となる。
だからこそ、数多くの経験を得た年長者ってのは敬うべきだし、その判断は限りなく正解に近い。
もちろん、ベテランや年寄だって過ちを犯す事だってあるだろうけれど、失敗も数多く経験しているというのは、逆境にも強いということに他ならない。
天才ってのは、むしろ失敗を経験していない分、逆境に弱いし、メンタルも脆い……天才とかエリートってのは、イザって時存外頼りにならんのだよ。
天才と呼ばれるような若造と、歴戦の古強者のおっさん。
どっちを仲間にするって聞かれたら、僕は迷わず後者を選ぶね。
それはともかく、僕は今、その何かと未熟なクロイエ様のご機嫌を損ねてしまっている。
そのご機嫌を伺うために、僕は色々と点数稼ぎをしなければならないのだ。
……であるからこそ、そのアージュって子とは、あんまり戦いたくない。
クロイエ様のお友達って事は、怪我させたり泣かせたりしたら、大減点だろう。
本当に引っ立てられた挙げ句、首が飛ぶくらいは覚悟しないといけない。
向こうが何を考えてるのかがイマイチ読めないけど、店を破壊して強奪……とか迷惑なこと考えてなきゃ良いけど。
パーラムさんの方をちら見すると、早速所在確認でもしているのか、遠話の水晶に向かって、何やら訪ねている様子だった。
けれども、その表情が見る間に険しくなる……なんか、嫌な予感がするぞ……これは。
万策尽きた訳じゃないのよ。
ストック分の構成を色々調整してたら、修正箇所が山盛りになってーってオチです。
あと家族サービスとかで時間が取れないの。(-_-;)




