第十六話「特訓の日々」①
「なるほど、そうするともうひとりは魔術師系の相手って事なんですね」
度重なる魔力枯渇で文字通り真っ白に燃え尽きた僕の頭の上の方で、ランシアさんとパーラムさんが話をしているようだった。
「そうですね。ヨーム様の話だと、直接戦闘にかかわらないで、コンビニの商品を略奪し持ち帰る為に、おまけで付けられたってそんな感じだそうです。クーラーボックスとか何とか言ってたそうですが……。タカクラオーナーなら、解ったりしませんか? と言うか、大丈夫なんですか……これ」
パーラムさんが心配そうに覗き込んでいるのが解る。
……爽やかイケメンの優しさが、全てを放ち尽くして、燃え尽きた今の僕にとっては、砂漠のオアシスのように思える。
「ああ、ただの魔力枯渇ですよ。魔術師のトレーニングってのは、実は概ねこんな調子で、魔力枯渇を何度も経験することで、魔力器官が鍛えられて、許容量も増えていく……そんなもんなんですよ。とにかく、時間があまりなさそうなので、魔力容量の増強と魔術耐性の強化に重点を置くことにしたんです。大量の魔力を使えば、魔術の規模も増強されますし、何より継戦能力が上がります。魔術耐性は攻性魔術をその身に受けることで自然と鍛えられるので、攻撃力の低い水弾で滅多打ちにされる事で安全に上げることが出来る……そう考えてのことです」
実際、魔力枯渇までの時間は伸びてきているのは確かなんだけど、この魔力枯渇の虚脱感、絞り尽くされて枯れ果てた感じ……これは、何度経験しても辛い。
全身の筋肉が攣って、痙攣する感じって言えばわかるかな~。
と言うか、その水弾……全然安全な気がしないんですが……むしろ、ダメージが身体の奥深くに蓄積される系っぽいんだけど。
「私も少しは魔術を使えるんですが。魔力枯渇による虚脱状態になる直前……寸止めで良いって聞いてますけど……。枯渇させない程度のギリギリを維持しながら、魔術を行使するのが魔力器官を鍛える最短の道だって、そう習いましたけどね……」
な、なんですとーっ!
「そのやり方だと時間がかかるんですよ……パーラムさんは貴族の出なんですよね? そう言う事なら、貴族の嗜みってところ……温めのやり方なんじゃないですか……それ? 本来はこのやり方が一番なんですよ。オーナーさんもそろそろ慣れてきて、すぐ復活するようになりましたしね……確実に効果は出てます。と言うか、もう起きてますよね? また寝たフリとかしてませんよね……」
言いながら、ランシアさんがサンダルを脱ぐと、すっと足を持ち上げる……これは来るっ!
「あっハイ! 今、起きました……とぅわはぁっ!」
返事と共に横に転がるのと、ランシアさんのお御足が地面にめり込むのはほぼ同時だった。
「す、凄い動きでしたね! こんばんわ……タカクラオーナー、順調に特訓の成果が出てる感じですね」
なかなかひどい特訓だって、絶対解ってると思うんだけど、いつも通り爽やか指数120%くらいのパーラムさん。
「ふふふ……顔に足型とかさすがの僕もノーサンキューだからね」
ランシアさん曰くのちょっと本気の実戦想定トレーニング。
それはランシアさんと水魔法を撃ち合って、僕がぶっ倒れるまで続けさせるという地獄の特訓であった!
一見するとキャッキャウフフな水打ち際での戯れ……みたいに思えるだろうけど、ランシアさんの放つ水魔法は、僕の水鉄砲なんか比較ならない岩をも砕く実戦用の戦闘魔術。
一発でももらうと、軽く宙を舞ってズベシャーと地面とキス! それだけでもうフラフラ……肋とか腕の骨がポッキリ逝くのだって、一回や二回じゃないんだけど、その度にランシアさんの超強力回復魔法でテローンと治ってしまう。
……マジで容赦ねぇええエエエッ!
魔力枯渇によるダウン回数も本日、いよいよ4回目。
違う理由でのダウン回数も入れたら、軽く二桁突破する。
いつもは、魔力枯渇でダウンしたら膝枕での癒やしタイムだったんだけど、今日はそんな優しさは一切ないっ!
でも、魔力器官たる尻尾ももうヘニャヘニャで、魔力もちょっとのインターバル程度じゃ回復しなくなって来ていて、水を出そうとしても尻尾がビクンビクンするだけの有様。
終わったよ……もう、何も出そうもない……はははっ……。
けれど、白目を剥いて倒れていても、容赦なく炸裂するランシアさんのストンピング攻撃で強制的に叩き起こされる……一応、生足でってのはランシアさんの優しさなんだと思うけど。
かつてのあのバブみを感じさせるほどの慈母の如き優しさは、何処に行ったのランシアさん!
ちなみに、今日のランシアさんの下着は薄いピンク色です。
うちのコンビニで売ってるやつで、同じの履いてる子はいっぱいいる。
密かな人気商品だったりするんだけど、バリエーションが少ないって文句が来てる……。
そう言う事なら今度、下着メーカーのカタログを送ってくれるって鹿島さん言ってたけど。
意見を取りまとめるの……僕がやるのだろうか?
「ああ、そうだ! これ……差し入れです。ラフィーさんによるとこの飲み物は、魔力補充の効果があるそうですね。これ、冒険者ギルドから一本小金貨一枚で、1000個単位で売ってくれって話が来てましてね。その話もしたくて、お邪魔したんですよ」
パーラムさんから、震える手でユンカース黄帝液を受け取るとちぅーと飲み干す。
ウ、ウメェ……! 徹夜続きでグダった時もシャキッと回復するブラック業務専従者の心強き味方!
うはwみwなwぎwっwてwきwたwww
体がカァッ! と熱くなる……よく見たら、これ最上級グレードの奴だ!
ちなみに、異世界価格大銀貨二枚の高級品!
それに、本当に魔力が回復してる……ヘタレってた尻尾に、えいやっと気合を入れると、ビッキーンとカチカチのビンビン状態になる!
これなら、またイケるっ! すげぇっ! そりゃ、冒険者ギルドが大人買いしたがるわけだ!
「き、効くねぇ……これ……凄いなさすがユンカースブラックDX!」
そんな事を言いながら立ち上がると、何故かランシアさんの目線が下の方に集中していた。
その目線を追っていくと、水に濡れてぴっちり状態のズボンがテント状態になってた。
……あ、尻尾に気合い入れたせいで、うっかり別のが一緒にビンビンになってしまった……。
これって、そう言う用途のドリンクでもあるからなぁ……と言うかナチュラルに……これは恥ずいぞ。
「……」
ランシアさんが僕の視線に気付いたようで、上目遣いになって思わず目が合う……気まずいっ! とっても気まずいよっ! これっ!
「違うんだ……これは、そう言うのじゃなくてだね……」
そそくさと背中を向けるのだけど、ランシアさんもスススーと回り込んで覗き込む……心なしか頬が赤いのだけど、だったら、何故ガン見するの?
更にその視線から逃れようとすると、ランシアさんも追尾してくる……。
「……こ、これは……また……ゴクリ」
真っ赤な顔ながら、真剣な眼差しでそれを見つめようとするランシアさんの視線に耐えられず、思わず股間に手をやって、しゃがみ込む。
羞恥心限界突破である! ……もう、やめてぇええええっ!
内股になってしゃがみ込む……そんな乙女チックな姿の僕……でも、これは恥ずい。
水に濡れて、ズボンが肌に張り付いてるから、アレの形も丸わかり状態……挙げ句、それを女子にガン見される。
ちょっとだけ……色々見られた女子の気持ちが解ってしまった。
ランシアさんは、なんでいつもスケスケ状態なのが解ってて、平然としていられるんだ!
「なるほど、本来……このドリンクは滋養強壮……つまり、そう言う効能があって、そう言う用途の飲み物でもあると。いや、これはこれで王都の貴族達にバカ売れでしょう」
ユンカースブラックの外箱の説明書きを読みながら、どんな時も商魂たくましいパーラムさんが大真面目な顔で呟く。
「そ、そう言うことなんだ……だから、しばらくそっとしてて欲しいんだけど……」
パーラムさんも同じ男のコなんだから、解るでしょ? 気にもとめないってのは、ある意味助かるけどさ。
「あの、オーナー……冒険者ギルドからは、1000本オーダーが来てますけど、我々商人ギルドも追加で1000本オーダーいたしますから、是非とも追加発注をお願いします!」
「いや、だから……今はそれどころじゃ……」
僕の窮地にも関わらず、パーラムさん平常運転お構いなし!
……しきりに、この商売がどれだけ画期的で、潜在的需要があって、今後売上がどれくらい見込めるかとか、真面目な話を続ける。
「……という事なんですよ! ……ねぇ、オーナーさん、真面目に聞いてるんですか! 少なくとも今回だけで、小金貨2000枚もの大商いですよ! 今後を考えると、これは日本側と我々双方に莫大な利益をもたらすことになるでしょう!」
た、たすけて……。
僕は僕で、涙目になってグギギだ。
パーラムさんは逃してくれないし、ランシアさんもワクワク顔で僕のガードが緩むのを今か今かと待ち構えてるっ!
何という……何という羞恥プレイ! くっ! 殺せっ!
僕は決めたよ! もうランシアさんをいやらしい目で見たりなんかしないっ!
今度、ランシアさんに黒くて通気性抜群のワンピースでもプレゼントするんだ……。
それに……僕は今後、何があっても賢者の如き、清き心を維持するんだ……。
異世界賢者に僕はなるっ!
下ネタ続きですまない。(汗)
まぁ、お疲れモードでユン○ル飲んだら副作用で……社会人あるあるです。(笑)
ちなみに、医療関係者によると薬効的にはあれって、残り少ない燃料を無理やりまとめて全部燃やすようなもんで、別に回復したりはしないそうです。




