第十五話「タカクラオーナー強化月間」③
「なるほどお休みの件は解りました……まぁ、好きに過ごして構わないと言うのは、修練の時間も取れますし、悪くはないですからね。ところで……今日は私も、戦闘の専門家と言うことで、呼ばれたと思ったのですけど。少し意見してもいいですか?」
「うん、構わない。気付いたことがあれば、なんなりと言って欲しい」
「そうですね……。敵はオーガ二人ともう一人いるみたいですよね? オーガ二人の相手はラドクリフさん達がするみたいですけど、そのもう一人の敵には、テンチョーさんをぶつけるって事でしょうか? 魔術戦での手加減って、意外と難しいんですが……テンチョーさんを戦わせると、死人が出かねないと思いますが……主に敵が……ですけど」
さすが、ランシアさんだ。
間近でテンチョーのチート魔法を見てるだけに、アレが加減とか出来るような代物じゃないって、見抜いたようだった。
確かに、テンチョーを戦わせたら、今度はどんなチート魔法を引っ張ってくるか、僕にもまったく見当も付かない。
予想できない要素は、賭けだからね……基本、避けるべきだ。
結論、今回テンチョーは後詰め……予備戦力。
……やっぱ、ジョーカーとかワイルドカードとか、そんな感じでいいような気がする。
「いや、テンチョーは言わば切り札かな……。なぁ、皆……はっきり言って、テンチョーは手加減しないといけないとか、ルールあるような戦いには、向いてないと思うんだ。だから、二人のオーガの相手は、キリカさんとラドクリフさんにお願いする。テンチョーには二人のバックアップ……と称する後方待機……それが良いと思うんだけどどうかな?」
「そうだな。テンチョーさんは今回は使わないほうがいいだろうな……。それにしても、そうなるとオーガ相手に一騎打ちか……なかなかの晴れ舞台だな。悪くない……血が滾る……ふふふ。キリカはどうだ? やれるか?」
「うちなら、問題あらへんよ。オーガ相手に勝ち目も充分あるって解ったしな。確かにテンチョーはガチな争いには向いとるけど、今度の戦いは、相手も手加減してくれるんやろ?」
「そうだね。相手の目的は、自分達の力を示して僕らを屈服させたいってところだろうからね。その上で、何らかの交渉をしたいんだろう。だから、僕や僕の仲間を殺しちゃったら意味がなくなる。徹底抗戦とか僕らが言い出したら、向こうもきっと困るだろうからね。だから、相手はこっちを殺さない程度には手加減してくれるはずだ。である以上は、こちらも相手を死なせるとかそう言うのはなしで行くべきだ」
「なるほど、タカクラオーナーは交渉というものをよく解っているようだな。そうなるとこの戦い……必ずしも勝たなくても良いということでもあるのか?」
「そう言うこと。確かに勝つに越したことはないけれど、負けても相手がこいつら見どころあるとか、ガチでやりあったら面倒くさいとか、そんな風に思わせれば、それで十分なんだ。むしろ、鎧袖一触とかしちゃう方が逆に厄介なことになると思うよ」
「……そうだな。一方的な勝利、計略や騙し討ちで返り討ちにしてしまったら、次は頭数を揃えて、入念な準備の上で本格的な戦争になるだろう……。さすがに、ロメオ王国相手に戦争となると、さすがに勝ち目は無い……それはなんとしても、避けるべきだろう」
「そう言うことさ。この戦いは相手も僕らも、その目的はその後に控えるであろう交渉の主導権を得るための戦いに他ならない。逆を言えば、交渉の主導権を握れるなら、勝敗なんて二の次で構わないのさ」
「さすがやなぁ……。うちらには、そんな勝ち負け問わんなんて、発想はようでんよ……戦いなんて、勝ってなんぼ……そう考えるのが普通やろ? でも、負けてもええってのはある意味、気楽やなぁ……。ええで、この前はテンチョーにうちら、ええとこ持ってかれたからなぁ……いっちょ、やったろうやないかっ!」
「その意気やよし。さすが我が兄バルソムの忘れ形見……キリカ……お前も立派になったな。とにかく、タカクラオーナー。俺達はオーガ共と戦うことについては異存ない……俺達の力、存分に使ってくれ!」
頼もしすぎるラドクリフさんの言葉。
僕も思わず、胸が熱くなる。
「二人共、結構な無茶ぶりにも関わらず、本当にありがとう。そうだ……どうせ人死にが出ない戦いなら、いっそ見世物みたいにしてもいいかもね。パーラムさんもどうだろう? その辺」
「オーガ達との戦いを見世物にするんですか? 確かに……それは悪くないですね。親衛隊の鬼神ウルスラと、帝国軍やワイバーンを独力で撃退する程の武勇を誇るウォルフ族の戦士との戦い……どちらも相応に知名度がありますからね……」
「そう、まさに好カードって奴だね……。なんだったら、勝負の勝敗を賭け事にしたっていいんじゃないかな? 賭け事くらいこの世界にもあるんだろ?」
「そうですね……庶民向けではありますが、ネズミを競争させてその勝敗を当てるとか、カードゲームの勝敗にお金を賭けたり……そんな娯楽はあります。その事ですよね?」
「なるほど、個人レベルでの賭け事ならあるって訳だね……。なら、その主催者……胴元にギルドがなるってのはどうだい? 賭けに勝った側には配当と言う形で還元するけど、全額は返さず、何割か手数料として、胴元の取り分にする……負けた側の賭け金は胴元が総取り。これは、確実に儲かる最高に美味しい商売だよ?」
「なんと! それは素晴らしい商売ではありませんかっ! なにより、この戦いを見世物にするとなると、遠出をしてお金を払っても見てみたいという者は、いくらでもいるでしょう。更に、賭けまでするとなると……貴族は当然、一般市民も応援くらいしたいと考えるでしょう! これは相当なお金と人が動く事になりますよ! ……良いです! 凄く良い! 素晴らしいっ! ……さすがタカクラオーナー! そう言うことでしたら、この戦いの取り仕切り……我々にお任せを! 各方面の根回しも含め、完璧に仕切ってみせますよ。早速ヨーム様に進言致しましょう……」
頭の中で、算盤を弾いたらしいパーラムさんがノリノリな感じで、話に乗ってきた。
そういや、日本では、スポーツや格闘技の試合を金を払わせて見せる商売があるって話に、凄く興味を持ってたみたいだからな……。
賭け事も公営ギャンブルみたいなのはないものの、個人レベルでは冒険者とかが暇つぶしにお金を賭けて、遊んでたりしてるのを見てたからね。
娯楽や観光って商売についても、少し話したらものすごく熱心に食いついてきたし……。
さすが、商売人の鏡だけはある。
「あはは……なんやそれ。と言うか、相手のウルスラ達の意思とかは関係ないんか? あいつら、そんな話に乗ってくるんかな? 連中なんだかんだで、割とマジで来るんやろ?」
「いいんだよ……どうせ、相手に選択の余地なんて無い。連中はこっちが真っ向から、正々堂々と相手するって言えば、逃げることだけはしないはずだからね……。一度相手を頷かせたら、その上で色々条件を上乗せしてやればいい。バカ正直な脳筋武者なんて、チョロいチョロい」
まぁ、実際は一悶着あるだろうけど。
口八丁でこっちペースに巻き込むなんて、僕の十八番って奴さ!
思わず、親指立てての、悪そうな感じの笑みが浮かぶ。
「オ、オーナーはん……やっぱ、その悪い笑顔がさいっこうに素敵やわぁ……。やっぱ、うちの目に狂いは無かったわ。なぁなぁ……今日の夜はぁ……オーナーはんの部屋に行って構わんかな? うち、一人じゃ眠れそうもないわ」
あ、キリカさんの変なスイッチが入った。
そのとろーんとした目、なんか口元からヨダレ出てるし……それはもはや、獲物を狙う肉食獣! けだものだものっ!
「ふっふーん、僕ちょっとお腹痛くなっちゃったよ! トイレ行ってこよっと!」
とりあえず、不穏な空気になったら、逃げの一手ですよ。
キリカさんも、インターバル置けば冷静になるだろう。
すっくと立ち上がると、キリカさんがすばやく僕の隣までやってきて、ガッシと腕を掴まれる。
「実は、うちもなんや……なぁ、一緒にいこうや。いろいろうちが手伝ったるで?」
すばやくこの場を逃れようとした僕に、キリカさん、容赦なかった。
笑顔で、爆弾発言をぶっ放す!
「手伝うって、ナニをするだぁーっ!」
保護者的存在のラドクリフさんに助けを求める様に視線を送るんだけど……。
やたら良い笑顔を僕ではなく、キリカさんに向けると、ビッと親指を立てる。
キリカさんも、応えるように親指ビシッ!
この二人……無言で通じ合ってやがる!
謀ったなぁっ! シャアアアアアアアッ!
キリカさん、スイッチオン!(笑)
夏休みってことで、もう一本続き行ってみる?




