第十五話「タカクラオーナー強化月間」①
「そんな訳で、オーガ族の親衛隊……それが二人。更に、よく解んないやる気のあんまり無いやつが一人。そいつらがうちに殴り込みをかけてくるらしい。目的は、ここの防衛戦力を力づくで討ち破って、僕を拉致、連行して偉い人の前に引っ立てること。解ってることはこれくらい……。そんな訳で、君達戦いの専門家の意見を聞いた上で、その対策を立てたいと思うんだ」
そう言って、僕は夜になってから、バックヤードの休憩室に集まってもらったテンチョーとキリカさん、それに警備主任のラドクリフさんやランシアさんを見渡す。
ちなみに、ポーズは両手を鼻の下で組んで俯く、司令のポーズだ……今日は、伊達だけどメガネ付きで白い手袋なんかでキメてみた。
デーンデーンデンドンとか、BGMが掛かりそうな感じだ。
実際に、親衛隊と事を構えるとなると、信頼出来る戦力としてはこの4人が適任と判断した。
ミミモモやサントスさん達も信頼には足るけど、彼らは戦闘員じゃないからねぇ……。
他にも冒険者や傭兵の人達もいるけど、その代表格がラドクリフさんだし、ランシアさんは魔術師でもトップクラスのキャリアと実力を誇る逸材。
冒険者としても、顔が広いのでその代表格ということで、お招きした。
まぁ、すっかり気安い仲だからってのもあるけどね。
それと、アドバイザーとしてパーラムさんも同席してもらってる。
「ふむ、親衛隊……それもレッドオーガとなると、間違いなく鬼神ウルスラが相手だろうな。もうひとりは多分、弟の激腕のコルトバ……だろうな。いずれにせよヤツらの相手は、骨が折れるぞ。一人で千人もの帝国兵と戦い、その尽くを打ち倒した……そんな武勇の持ち主どもだからな」
冷静に淡々と告げるラドクリフさん……流石に詳しいようだった。
でも……何、その無双バーバリアン? 千人斬りって、どこの呂布だ……そりゃ。
ラドクリフさん盛ってない? って思うんだけど、ラドクリフさんもヴァランティアの殲滅戦争には、反帝国の立場で参戦した経歴があるそうで、あながち嘘でもないと言うのは何となく解る。
「た、たった一人で、千人も相手にして勝てるもんなのかな……。周り囲まれて、遠くから弓とかでチクチクやられたら、どんなに強くてもどうしょうもないと思うんだけど……」
実際、どんなに凄い武者とかでも、数に押されたら、あっけないもんだからねぇ……。
武勇誉れ高き武将とかでも、最後は多勢に無勢で刀折れ矢尽き……ってなるのが定番だ。
「レッドオーガに弓なんて効かんで……? あいつら、戦いになると鬼って言ってな……3mくらいの大きさになって、身体を岩みたいに固く出来るんや……。おまけにアホみたいなバカ力に、底知れんくらいのタフさ、その巨体で軽々と10mくらいの距離をすっ飛んで来たりすんやで? ……そんなんとやりおうたら、命がいくつあっても足らんわ」
さすが、ファンタジー異世界……。
重装甲、ハイパワー……シンプルだけど、強いの定番じゃないか!
3mの巨体、デカくて重くて硬い……弓も効かないってことは、並みの魔法程度じゃ効くかどうかも怪しい……。
僕の水鉄砲程度じゃ、怒らせるのが関の山だろう。
銃火器だって、拳銃程度じゃ豆鉄砲だろうな……むしろ、対戦車ロケットランチャーとかの出番だろう。
もっともテンチョーのチート魔法なら、勝てなくもないだろうけど。
あの光の矢も、威力は相当なもんだから、3mの巨人だってひとたまりもないだろう。
新型のクラスター爆撃魔法なんて、あんなのの爆心地に巻き込まれたら、ドラゴンだって死ぬんじゃないかな?
もっとも、普通にやりあう……白兵戦じゃ、恐らくオーガは無敵に近い……そう思って良さそうだった。
デカくて重くて、ハイパワー……千人相手にやりあって、全滅させるほどのデタラメな戦闘力。
でも、そんな都合のいい話なんてあるか?
「実際問題、レッドオーガって言ったって、戦いつめだとお腹も空くだろうし、喉だって乾くだろう……戦い続けるにも限度ってもんがあると思うんだけどな……」
その辺は、生き物である以上の限界と言うやつがあるはずだった。
機械じゃないんだから、いつかは限界がやってくる……だからこそ、無敵の存在なんてあり得ない。
実際、ワイバーン戦ではテンチョーも最後は魔力使い切ってダウンしてしまった。
もう一匹いたり、雷撃魔法でも仕留めきれなかったら、正直厳しかったろうな……アレ。
「そうだな。何事にも限度ってものがあるからな。奴らも当然、限度ってものがある……それは間違いない」
「せやな……実際、うちも一回、そのウルスラが食堂で飯食ってるとこに出食わしたんやけどな……軽く20人前くらいの大飯食っとったで……何処に入るんやって不思議に思ったけど、逆を言うと、それ位食わんとやってけないってことやろ?」
キリカさん情報……大飯食らい……要するに、それは燃費が悪いって事だ。
なにより、また聞きや伝聞じゃなく、実際見聞きした一次情報ってのも、またポイント高い。
実際問題、機械だって、デカくて重くてハイパワーなんて言ったら、代償にエネルギー消費……つまり燃費がクッソ悪くなる。
戦車とかリッター1km走らなかったりする程らしいからなぁ……。
「やっぱ、そんな調子なんだ……でも、そう言う事なら、戦争中に飯食いながら戦うとか、普通に考えて無理だと思うんだけど……。どうやってその辺、カバーしてたんだろ?」
オーガ族はとにかく燃費が悪い……これはもう確定事項だろう。
どうも、話を聞く限り、人に近い姿と鬼と呼ばれる戦闘モードを使い分けてるっぽいけど、3mの巨体なんて、人里で生活なんて出来ないだろうから、普段は人に近い姿……省燃費モードみたいな感じで生活してるんだろう。
もっとも燃費が悪いとしても、その対策自体は簡単だ。
……頻繁に補給すれば済む話。
実際、現代戦は、物資の消耗が昔の比じゃなく、膨大な物資を消耗して戦争を遂行する。
そして、それを支える為の兵站……ロジスティクスが極めて重要……戦局を左右するほどの要素となっている。
つまりは、オーガってのは人間以上に補給……つまり、食事が重要って事だ。
それもちょっとやそっとじゃない……大量の食事が必要……高カロリー携帯食だの、高カロリーゼリー飲料みたいなのがあったとしても、そんなのじゃ全然足りないだろう。
……それで一人で戦うなんて、すぐガス欠になって……ってのが関の山だと思うんだけどなぁ。
「……戦場で食い物なんて、奴らにとってはいくらでもあるからな。奴らの別称は「人食い鬼」……戦場で殺した敵兵の死体を食って、その血で喉を潤しながら、戦い続けたって話だ……そりゃあもう嬉々としてな。奴らが戦場で恐れられる理由の一つだ……奴らにとっては、戦場なんてのは食い放題、暴れ放題の食堂のようなものなんだろうさ。俺も間違っても奴らを戦場で相手したいなんて思わんよ。生きたまま食い散らかされるなんて、考えうる中で最悪の死に方だ」
ラドクリフさんの言葉にさすがの僕もドン引きだった。
さすがに、その言葉に誰もが言葉を無くす。
……あー、そう言うことなのね。
殺した相手を食べる……そう言うことなら、戦場なんて、食べ放題のドリンクバー付きみたいなもんなのか……。
自給自足……獲物はそこら中にいて食べ放題……そりゃ、楽園だろうさ。
倒した敵を糧に無限に戦える戦闘マシーン。
戦い続ける限り、敵がいる限り、補給も要らない。
……自給自足の無双無敵ファイター!
チートだ! チートッ!
そんなもんをまともに相手するなんて、嫌過ぎる……やっぱ、素直に降参するか、逃げた方がいいのかなぁ……。
それかテンチョーでもぶつけて、物理的に無かったことにでもする? いやいや、それやったら泥沼だから、こうやって対策を考えているわけで……。
「噂には聞いてましたけど、エゲツないんですね……。私もレッドオーガの戦った後始末に動員されたときの話を、冒険者仲間から聞きましたけど……そりゃあもう凄惨だったそうです。その子はそれ以来お肉が食べられなくなって、菜食主義になったそうですよ。まぁ、私達エルフは菜食主義でヘルシーな種族なんですけどね。まさに正反対……対局の蛮族って感じですね……正直、関わりたくもないですね」
ランシアさんは、菜食主義でもなんでもないんだけどね……。
最近、イレブンチキンが美味いといって、一日一回は食べてるのを見る。
エルフは太らないから平気ーとか言って、コンビニ弁当にサントス食堂と、食を満喫してるようなんだけど……。
最近ちょっと色々出てきたって言ったほうが良いのかな?
ほっぺたとか、知り合った頃よりも明らかに、プニって来てるし、日に日に膝枕の感触がヤワヤワになってきてるんだよな……。
わずか二週間でこの有様だと、順調にポチャってしまうんじゃなかろうか?
「せやなぁ……うちらは、お肉大好きやけど……自分が食われんのは嫌やな。こりゃ、いっそ逃げた方がええんと違うかな? ジャングルの中で逃げ回る分には、なんとでもなると思うで? 相手が悪いやろ……こりゃ」
「どうでしょう、オーナーさん、いっそオーナーさんを森中逃げまわらさせて、それを追いかけ回すオーガーを森の住人総掛かりで、罠や逃げ撃ちでジリジリと消耗させる……そんな手もあると思います。大型魔獣などを相手にする場合は、地形を味方につけ、人海戦術が使えるなら、消耗戦に持ち込むと言うのがセオリーですよ」
キリカさんとランシアさんの意見を統合すると……逃げ回って、数の暴力で攻め立てる。
……どこぞの巨大怪獣でも相手にするような感じだよね……それ。
「いや、人海戦術や消耗戦は奴らの思うツボだろう。実際、法国の連中なんて、第一陣がウルスラ達と出食わしちまったらしいんだが……。千人どころか一個師団が壊乱……。あれがきっかけで、奴らとっとと戦争から足抜けを決めちまったらしいからな。法国の奴らは、死ねば神様のもとに行けるってんで、死を恐れない勇猛果敢な連中揃いなんだが……。食い殺されて、神様の所に行けるかどうか微妙な話だってんで、すっかり怖気づいちまったんだとよ。実に運の悪い話で心底同情したもんだ」
うへぇ……つくづく、とんでもない奴らだ。
一個師団って、軽く一万人くらいだよなぁ……それがたった数人相手にして、壊乱するなんて……。
自分達はただの餌……いつまでだって戦い続けて、犠牲者山積み、文字通り骨の髄までしゃぶられる。
そんなの戦闘ですら無い……どう考えても悪夢以外の何物でもない。
法国って国は、この大陸でも帝国と互角に張り合うような大国らしいけど、初っ端からそんなのと出食わしたんじゃ、怖気づいて足抜けしたのも無理もない。
大軍による消耗戦と言う大物狙いの定石が通じない相手。
そんなのが団体で現れたら、もう絶望しか無いだろう……ただそうなると、ひとつの疑問が湧いてくる。
「でも、帝国もよくそんなのを退けたねぇ……。最終的にヴァランティアも帝国に蹂躙されたんだから、そのオーガ達だけじゃ、戦局を覆す事は出来なかったって事なんだよね?」
……素朴な疑問だった。
そんな永久機関搭載の無敵モンスターを抱えてるような陣営がむしろ、どうやったら負けるのか?
一個師団が相手でも蹴散らすようなら、もはや数なんて意味をなさないだろう。
拠点に、一人突っ込ませれば、勝負が決まる……それくらいには強力な……戦略兵器と言って存在だろう。
……大都市なんかでも、2-3人いれば、丸ごと滅びかねない……マジで核兵器みたいなもんだろう。
法国が殲滅戦から足抜けしたのも、こんな奴らの相手なんてやってられない……そう判断したからだろう。
文字通り、一国の軍勢を退けるほどの存在。
……にも関わらず、ヴァランティア殲滅戦では、オーガは帝国にヴァランティアの蹂躙を許している……つまり、どこかで敗退した……そう言うことだろう。
考えうるのは唯一つ……オーガには、確実な攻略法があると言うことだった。




