第十四話「イケメンと猫耳おっさんのうららかな午後」①
僕がこの世界に来てから、早くも半月ほどが過ぎていた。
さすがに滞留していた人々もそれぞれ自分達の拠点に戻っていったのだが、一部の人々はここに住み着くつもりのようで、相変わらずそこらかしこにテントが林立していた……。
定期的に、馬鹿みたいに雨が降ったりするんだけど、土木工事の巧みなドワーフ族がサントスさんのツテで、大勢やってきてくれて、導水路や溜池を作ったりと、色々やってくれたので、地面がぬかるんでどろどろになったりとかはしなくなった。
重機なんかないのに、自分の体より大きい岩を持ち上げたり、一抱えもある太い木をあっという間に切り倒し、地面も水はけの良い砂利で埋めて行くなど、その技術には舌を巻いた。
まさに、土建妖精! なんでも、土と火の魔法の使い手も多くて、風と水の魔法の使い手が多いエルフ達とは対照的なんだけど、別にお互い嫌い合ってる様子もなく、元々の森の住人で、もはやコンビニの常連客となりつつあるエルフ達とも普通に仲良くやっているようだった。
なんでも、帝国では獣人のみならずエルフやドワーフと言った亜人も忌避されつつあるそうで、出稼ぎ労働者や冒険者すらも排斥されているらしく、比較的平和で差別のないロメオ王国に続々と流れてきているようだった。
まぁ、線引きのための区別は必要だと思うけど、何々だから駄目! とか何々は嫌いだから……なんて言う偏見からの差別は、やっぱ考えものだよな。
何やら近くで帝国軍が膨大な兵力をかき集めつつある上に、お隣のオルメキアと言う国は帝国の属国と今も戦争中……戦火を逃れてきた人達も増えてきていて、今後定住者はますます増えていくことになりそうだった。
テント以外にも、本格的な小屋や住居なども作られて、もはや、ちょっとした村と言っていい規模の集落が出来つつある。
もちろん、この集落は勝手にうちのコンビニの周りに出来てしまったもので、僕は村長でもなんでもなく、具体的にああしろとかこうしろとか偉そうな事は言ってない。
けれども、僕の言うことは、皆真剣に耳を傾けてくれるし、色々と意見を求められることも多くなってきた。
家建てるのに、僕の許可なんて要らないって言ってるんだけど、ドワーフ職人の棟梁さんなんかは必ず、僕の所に相談に来る……確かに、無秩序に家を建てられても困るから、メインストリートを設定したり、ゴミ焼き場を制定したり、上下水道の整備と言った公共施設の設営の提案の許可を出したり、建設資金なんかも僕が出してたりする。
事実上の村長と言われても、全く否定できない。
店についても、商人ギルドの使いの人……パーラムさんと言う青年がやってきて、無事にライセンスも発行してもらえて、僕も正式に商人ギルドに加入することになって、モグリの商人と言う後ろ暗い立場ではなくなった。
ライセンスのランクも国境を超えての商売が許されるBランクのものを支給してもらえた。
そう、いきなりのBランク! この上にはAランクとSランクしかいない……まさにトップクラスの商人たる証!
この辺は、従業員のキリカさんより下ってのは問題だろうし、僕の商売人としての実績を考慮してくれた結果なんだけどね。
本来は、Fランクから始めて、色々実績を積んだり、相応の額を上納金として収めて、E、Dと上がっていくらしいんだけど……。
僕は、日本で何年も商売を続けてきたし、銀行で働いていたと言う話をしたら、ならBランク相当……なんて話になってしまった。
こっちの世界でも銀行はあるみたいなんだけど、相応の社会的信用と商人として長年の実績が必要……銀行を開設するには、Bランク以上のライセンス持ちの商人にしか、認められない商売だと言うのだ。
日本での実績とかこっちじゃ関係ないと思うし、あくまで銀行で働いてたってだけなんだけど……どうも僕は、日本では相当な大商人だった……そんな風に思われたらしかった。
実際、億単位の商取引に関わるような経験もあるからなぁ……。
ちなみに、本部との交渉は、もう面倒くさくなったで鹿島さんに丸投げしてる。
本部が相変わらず高圧的でナンセンスだから、何とかならないか相談したら、間に入って調整してくれる……なんて話になったんだけど。
あれほど、うざかった本部のメール攻勢、直電攻勢がピタリと止んだ。
アホで無能なSVも更迭されたようで、メールの発信者もいつものヘルプデスクさんの事務的なものになってしまった。
毎度、淡々とした文面なんだけど、余計な私情を挟んだりは、一切しないし、データに基づいた的確な資料を送って最終決定権も僕に一任してくれるので、全然やりやすくなった。
もっとも、鹿島さん達の介入の結果、イレブンマート取扱以外の商品も混ざり始めて、日に日に物品のバリエーションが増えて来てるんだよなぁ……。
衣類やら、雑貨、園芸用品やら……ホームセンター? みたいな感じの代物が紛れ込むようになった。
でも、その辺もそれなりに売れてる。
でも、拳銃やら爆発物なんて物騒なものや、小型のショベルカーだの、無限軌道車両とかも送りつけて来たのは、どういうつもりなのか……?
必要そうなものや、あったら便利だろうと向こうで判断したものを適当に送りつけているそうで、要らないならジャンジャン返送して構わない……なんて言ってたけど。
どうも、その基準がよく解らない……大体、銃火器とか送りつけて、どうしろと?
……思い切り銃刀法違反なんだけどさ。
拳銃なんかも、海外に行って実際に撃ったこともあるんだけど、あんなモン10mくらいの距離でしか当たらない……当たらないんだけど、当たると痛いじゃ済まない……護身用としても、やりすぎだと思うんだよね。
僕の水鉄砲だって、それ位届く……護身用としては、むしろこれで十分なんだよな。
実際、チンピラまがいのガラの悪い冒険者に、薄暗い所に引っ張られていって、絡まれた事があったんだけど、盛大に顔に水ぶっかけたら派手に転がっていって、それだけであっさり泣きを入れてきた。
鼻に高圧の水を流し込まれるそのダメージは、大の男が悶絶するくらいにはキツいらしい。
なんせ、陸で溺れるようなもんだからな。
暴徒鎮圧に使われるのも納得の制圧力……放水、侮りがたし!
水魔法……かっこ悪いけど、飲み水やシャワー代わりにも使えて、汎用性抜群! 僕はとても気に入っている。
いずれにせよ、鹿島さん達とも本格的に話し合いをしないといけないと思ってるんだけど。
仕入れ費用を全額向こうが持ってくれてる以上、あまり強くも出れないし……。
鹿島さん……どうみても手練れの交渉人……手強いなんてもんじゃないだろ。
そんな強敵相手に、どうやって、切り込むか……正直、厄介な話ではあった。
「やぁ、タカクラオーナー! お疲れ様っ!」
コンビニの裏で一息ついて、色々考え事をしていた僕の姿を見つけて、パーラムさんがやたらと爽やかな笑顔を浮かべながらやって来た。
ふわふわした感じの金髪碧眼の北欧系な感じのイケメンさんだ。
爽やかすぎて、周囲にキラキラとした光のエフェクトが見えるような気がするくらいには、爽やかイケメン。
「やぁ、パーラムさん……すごく忙しそうだったね。お疲れさん」
「いやはや、ここもこんなに早く集落としての体裁が整うとは思わなかったよ。まさか、帝国から流れてきたドワーフ達が協力してくれるなんて……。あの気難しい連中が、良くすんなり協力してくれたね」
「なぁに、すでに同胞のサントスさんもうちで仕事してたからね。ドワーフはしこたま酒飲ませれば、すぐ仲良くなれるって言ってたけど、ホントだったよ」
日本から取り寄せた、強アルコール度数アルコール飲料のオンパレードをドワーフ達に飲ませてみたんだが、もう大ウケ! さすがのドワーフも96度のウォッカの前には、あっさり轟沈だった。
これが毎日飲めると言ったら、二つ返事で定住したいと言い出したのだから、世話なかった。
「ははは……ドワーフ相手に酒なんて飲んだら、こっちが潰れるのが当たり前なんですけどね……。でも、酒で買収とは、タカクラオーナーらしい……さすがです。私達も特急便で来た甲斐があった……これをほっとくなんて、商人ギルドとしてはあり得ない! でもおかげで、仕事が山積み……私は、自分がもう一人いればなぁって思ってますよ」
ドッペルゲンガーとかコピーロボット……。
多忙を極めると、そう言うのが欲しくなるのは真面目な話、誰だって考えたことあると思う。
……魔法で、出来たりしないかな……?
「僕もそれ、たまに思いますね……。とにかく、お疲れ様です。けど、グリフィンなんてので、いきなり空からやって来たときはどうしようかと思いましたよ。完全に不意を付かれたんで、テンチョーをなだめるのが大変でした」
パーラムさん達は、ラドクリフさん経由で僕らのことを知るやいなや、グリフィン便という空を飛ぶ魔獣を使った軽貨物便に便乗して、ワイバーン騒ぎのあった翌日には、僕らのところにやってきたのだった。
なんでも、ワイバーンが健在だった時は、グリフィンはワイバーンの手頃な餌ということで、危なっかしくてとても使えなかったらしいのだけど、居なくなったことがわかったので、急遽チャーターして送り込んだのだとか。
徒歩なら一週間の距離も空飛ぶグリフィンなら、半日もかからない……もっともあんまりパワフルじゃないから、せいぜい一匹辺り一人しか乗せられない上に、料金もバカ高いんだけど……急ぎの時に使うんだとか。
まぁ、バイク便みたいなもんかな?
おかげで、事前連絡もなかった上に、グリフィンの騎手も警戒して、超低空飛行でいきなりコンビニの上空に現れたんで、ちょっとした騒ぎになってしまった。
ついでに、もう一人ラナさんと言う、商人ギルド所属の人族の女性も同伴してきたんだけど、その人は商人ギルド推薦って事で、うちの従業員に収まってしまった。
なかなか有能な上に、笑顔の使い方を心得ている逸材なんだけど……。
どうも商人ギルドのギルドマスターの親族で、割と重要人物らしい。
……多分向こうとしては、人質を差し出したとかそんなんだと思う。
商人ギルドってのも意外と冷徹で抜け目ないところがある。
けれど、それだけ僕らの存在を重要視してる証左でもあった。
まだ日が浅いから、キリカさんやテンチョーにつきっきりで色々教わったり、サントス親方の食堂でウェイトレスをやったり、なかなかマルチに活躍中だった。
パーラムさんも、この近辺に居座った商人たちの取りまとめをしてくれたり、商人ギルドの出張所を開設してくれて、色々お世話になっている。
この世界の取引商品の品目もちゃんとリストアップしてくれて、取引を希望する商人を紹介してくれたり、周辺調査についても冒険者を派遣して引き受けてくれて、ミャウ族やウォルフ族の協力が得られたことで、着々と周辺のマッピングや、開拓が進んでいる。
その辺もこれまでは、なんか色々利害関係とか縄張りとかで揉めてて、全然おざなりだったみたいなんだけど、ここに村ができて、商人ギルドの支部が開設されたこと。
その上、周辺の種族が僕らのコンビニを中心にいい感じにまとまってしまった事で、一気に問題がクリアされた……と言うことだった。
まぁ、例によって僕は何もしてないんだけどね!
冒険者や傭兵も通りすがりだけでなく、数十人単位の警備隊として、常駐させてくれるとのことで、現在続々と集まってきている。
彼らは割とお得意さんになるし、なんと言っても頼もしい。
たまに、変なのも混ざってくるけど、そう言うのは割とナチュラルに制裁の上で排除されるらしく、さほど問題になっていない。
例の僕に絡んできたガラの悪い傭兵も、なんか寄ってたかってボッコボコにされたみたいで、今ではすっかり心を入れ替えて、たまに会うと兄貴呼ばわりで、率先して雑用とかやってくれるようになった。
ちなみに、モヒカン入れ墨と言う雑魚のテンプレみたいな奴なんだけど、話してみると意外と気のいいヤツだった。
もちろん、ラドクリフさん達は一族ぐるみで、仲間になってくれたから、防衛戦力としてはかなりの規模になりつつあった。
ウォルフ族の族長さんは、キリカさんを僕の嫁に……とか言ってたけど、とりあえず……幹部従業員として扱うからって事で納得はしてもらった。
鹿島さん達もこれ幸いとばかりに色々無茶ぶりしてくれるんだけど、その辺はひとつひとつ様子を見ながらってところかな……何事も急ぎ過ぎは良くないよね。
高倉オーナー。
何気に重要人物になりつつあるんだけど、相変わらずのほほんとしてます。(笑)




