第十二話「とりあえず、カレーでも作るかと彼の者は言った」③
「いいねっ! 歓迎するよ! ところで、本職の料理人から見て、うちの弁当とかってどう思った?」
「……正直、負けたって思ったが……やや薄味かな。ここらは、とにかく暑いし、旅の途中で食うとなると……もうちょっと塩辛くてもいい。そう言う意味じゃ、あの「ぽてとちっぷす」ってヤツは、なかなかいいな。あれで腹がふくれりゃ言うことなしなんだがな」
「ふふふ、ポテチってのはだな。ビールやコーラのつまみにゃ最高なんだぜ?」
「そうなのか? 確かに、あのビールってのは美味かったな。あのシュワッとする感じ……実に良かった。その組み合わせなら、いくらでも飲めそうだな」
「うん、相性抜群って奴だね……。僕のオススメはのり塩だね!」
「まったく、今夜が楽しみでならんな! あんたの店、なんか見たこと無い食材や調味料やら、色々並んでてなぁ……俺らからすると、もう宝の山って感じでな。実は、何とかアンタに取り入れないかって、俺達も色々考えてたんだ!」
なるほど……向こうも、雇ってもらったり、取引したいって考えてはいたんだな。
ならちょうどいいよな……決まりだ。
そうだ! どうせなら、ここは皆で、炊き出し……なんてのはどうだろう?
この調子だと、皆、今日は動きそうもないし、新しくやってくる人でますます人数増えそうだし……。
商品にしたって、今日はまだまだ昨日の売上くらいしか当てになる数値が出てないから、フォーキャストも控えめな数値出してきてたからなぁ……。
なんでまぁ……やっぱり本日も品切れ続出だろうと、僕も予想していた。
単純に入荷する商品を増やせば良いのだけど、これも工場側での生産数ってのがあるから、売れ筋だけを倍にしろってもそう簡単にはいかない。
ヘルプデスクの担当者も、そんな異世界での販売実績データなんて、ある訳がないので、サンプリングを集めるためにも数日時間が欲しいとのことだった。
僕にも意見を求められたのだけど……。
昨日の量では少なくとも売れ線系は全然足りないってことと、売れないものはとことん売れない。
とにかく、従来のデータは役に立たないので、売れたものは多めに、売れなかったものは仕入れない。
こんな感じの当たり前の結論で、追加の配送便で臨機応変に対応……こんな感じで伝えておいた。
要するに、行き当たりばったりなんだけどね。
この辺はもうしょうがない……ここは、本部側の柔軟性に期待したかったのだけど……。
本部の担当が意味の解らない横槍を入れて来て、僕らやヘルプデスクさんの意見は無視されて、向こうのご都合主義的な数字で送られてくることになってしまった。
曰く、こんな数字が偏るなどあり得ない……売り方に問題があるとかなんとか。
前々から思ってたんだが、やっぱり本部の連中はアホだった。
間違いなく、今後足を引っ張る奴らがいるとしたら、こいつらだ……僕は、そんな確信を得るに至った。
まぁ、とにかく……品揃えについては、潤沢とは言い難いのが実情だ。
である以上は、現地調達も視野に入れていかないといけない。
このサントスさんの申し出はまさに渡りに船だった。
「サントスさん、あなたをうちの店で料理人として雇うって話、むしろこちらから、お願いする! 雇用条件とかは、あとでゆっくり話し合って決めるってことでいいかな? 如何せん、どんな条件で人を雇えば良いのかとか、よく解らないんだ」
「正直は美徳だと思うが……商売人としては、少々考えものだぞ? まぁ、いいさ。別に俺は賄い飯でも食わせてくれれば、賃金なんぞいらん。俺の屋台と掛け持ちでやれば、てめぇの食い扶持くらい自分で稼げるからな」
なんと言うか……逞しい人だねぇ。
まぁ、雇用条件なんかはキリカさんと相談して、決めてもらおう。
「解った! ところで腕試しって訳じゃないけど……そのワイバーンのお肉使って、カレーとか作れないかな? デカい鍋いっぱいくらいの! うちのカレー弁当、人気過ぎて、すぐ売り切れちゃうんだ……ルーとかもあるだけ使っていいし」
実は、この世界で商売始めてから、ダントツの一番人気で、入荷のたびにそっこーで売り切れているのがカレー弁当。
元々売れ筋じゃあったんだけど、この世界って唐辛子系の辛さの調味料はあるし、暑いところてのは、辛いものが好まれる……その辺の事情はこっちも一緒。
なもんで、皆辛いのは好きみたいなんだけど、カレー系のは無かった上に、その上あの癖になる味。
当たり前のように、ガッツリハマって、朝イチでも争奪戦が起きかけたくらいだった。
「カレー? あのやたら辛くて、癖になるメチャクチャ美味いヤツか! あれはいいな! あの辛さとコク……昼間、外で食うにはうって付けだ! 実は俺達でもアレを再現できないか、色々試してたんだが……香辛料が何なのかが解らなかったんだ。まさか、あの香辛料を分けてくれるってのか? ついでにレシピを……なんてのは、さすがに虫が良すぎるか」
「レシピっても、大したもんじゃないよ。ルーって言って、お湯で溶くだけでベースが出来るのがあるんだよ。後はそれにお肉とか野菜とか混ぜ込むだけで出来上がり! ……確かパッケージにも色々書いてあったような気がするよ。実はアレ……結構、簡単な料理だったりするんだ」
「なんだって! そんな簡単なのがあるのか? 解った……それなら、任せろっ! と言うか、むしろ作らせろ! ……あ、もちろん! ワイバーンステーキも食わせるからな! こうなったら秘伝のタレも使ってやる! 言っとくが金なんていらねぇぞ! むしろこっちが払うべきだ……いや、最高の料理を作ってやるから、そいつで返してやるよ!」
そう言い残すと、サントスさん達はさっそくかまどを用意して、荷車に積んでた巨大な鍋なら何やらを並べだす。
……お祭りとか炊き出しで見るような特大サイズ。
そんなのを後生大事に持ち運んでいる辺り、サントスさん、どうも本職の屋台料理人とかそんな感じみたいだった。
僕もルーとか持ってこないとな。
たまにキャンプ行く人がついでに買っていったり、近所の主婦の人がうっかり足らなくなって買いに来たりするから、いつも置いてるし、大手メーカーOEMのルーなんだけど、意外と美味いんだ。
アズバーンさんもさっき手を上げた人達と、他にも自主的に手伝わせて欲しいと言い出した有志を率いて、のこぎりやらハンマーみたいなのを持って、ワイバーンの上に乗って、トンテンカンやり始めてる。
自主的に手伝うって言い出した人達も、何もしないで分前だけもらうってのは嫌だとかそんな感じらしかった。
それにしても、生き物を解体してるとは、思えないような音なんだけど、それくらい強固な表皮に身を固めていて、本来弓矢程度ならモノともしないらしい。
改めて、それを一撃で仕留めたテンチョーマジすげーっ!
と言うか、雷撃と言うのもベストチョイスだったんだろうな。
これまで、空の王者で絶対強者だったワイバーン。
……それが呆気なく撃ち落とされた。
このジャングルの最大の脅威を排除したってのは、このジャングルの住人や街道の利用者にとっては大いなる僥倖だろう。
もちろん、所謂悪人どもだって、その辺は同じだろう。
一つ、良いことをした……そんな風に思っておこう。




