第十二話「とりあえず、カレーでも作るかと彼の者は言った」②
キリカさんに全力で反対された……まぁ、キリカさんなら、そうなるわな。
「キリカさん、他の皆だって、何もしてなかったって訳じゃないでしょ。ランシアさんとかも頑張ってくれたし、皆、これまでこいつにずいぶん迷惑かけられてたんだろ? それに皆がここに集まってたから、このワイバーンだって、何事かって感じでのこのこ出てきてくれた。そこをテンチョーが仕留めた……そう言うことじゃないかな?」
と言うか、テンチョーはともかく、ぶっちゃけ僕は、立ちションウォーターで火を消してまわってただけで、何もしてないような気がする。
むしろ、ランシアさんとか、めっちゃ大活躍してたからなぁ。
あの騒ぎの中、防御魔法連発しながら、地上への指示出しやら、連絡中継とか、一人何役もこなしてた。
「……確かにこれだけ人が集まるとか、ここらじゃ滅多に無いからなぁ……。実際、ラドクリフもこいつを警戒しとったんやろ?」
「そうだな……ゴブリン共や盗賊団も本気で挑んでくると言うより、これだけ大勢の人間が集まってるからって、まずは様子見、小手調べで……みたいな調子だったからな。ただ、このワイバーンには、俺らも前々から手を焼いていてな……。人が集まってる時に、攻め込んでこられたら厄介だし、その可能性が高いってことで、皆、警戒してたし、覚悟も決めてた……。今日は、偵察で済むかもしれないが……明日辺りが一番ヤバイって話をしてたんだが……」
……なるほど、あの厳戒っぷりはそう言うことだったのか。
ランシアさんとかも黒いマントとか、嫌に用意が良いと思ったら、初めからワイバーンの空襲は織り込み済みだったって事か。
……僕らに何も言わなかったのは、余計な心配をさせない為の配慮ってとこかな。
それだけに、様子見に出てきたとこを、身も蓋もなく仕留めてしまったってのは……なんとも、ご愁傷様な話ではあるんだが。
相手がこちらの情報を掴みきってないうちに、出合い頭に始末する……これも戦術だと思うよ。
二度、三度と同じ奴と戦うとか、アニメとかじゃよくあるけど、油断してる所を初見殺しで仕留める……十分ありだと思う。
「確かに、あのワイバーンも、様子見でいきなり撃ち落とされるとは思ってなかったんやろな。実際、あの高さに届くような魔術も飛び道具も、本来ありゃへんからな……。なんや、テンチョーさんは、軽々当ててもうたけど……。ちゅうか、なんやねんあの魔術は? 少なくともうちはあんなデタラメなもん、知らんでー!」
「僕もよく解らないんだ。やっぱ、この世界の基準でもあれって、デタラメ? なんか儀式魔法って言ってたけど」
「……デタラメもいいトコや! あんな風に空高く飛んでるワイバーンなんぞに雷落として、叩き落とすなんて、うちらにとっては、発想の外や……。なぁ、ランシア……お前、B級冒険者やろ? あれなんか知らんか?」
「うーん、私もさすがに……。間近で見てた感じだと、雷撃魔法の最上級クラスじゃないかと。雷撃召喚って言う対城塞、重魔獣用の儀式魔術があるって、オーナーさんに話はしましたけど……。まさか、あんなのを、それも1人で使っちゃうなんて……。しかも詠唱だって、5分もかけてませんでしたよね? 私が解っただけでも、六重にも及ぶ多重詠唱、高速詠唱……多重魔力制御術式……正直、どんだけって感じでしたよ!」
そ、そんなハイレベルだったのか……。
あんなもん……どれだけ機動力があっても、回避不可。
おまけに、威力もとんでもなかった……あれ、雷対策してる現代兵器の戦闘機とかでも落とされるとか、多分そんなんだ。
「そっか……でもさ、なんにせよ、相手が出てきてくれないと倒す倒さない以前の問題だろ? なら、これは、皆の共同戦果って事じゃないかな。囮役も立派な役目だし、皆も相応のリスクを負ったんだから、分前を貰う権利はあると思うよ。というか、解体するのだって、専門家がやった方が良いと思うんだけど……この中にワイバーン解体できる人っているかな?」
そう言うと、旅人や商人の中から何人かが手を挙げる。
そのひとり……壮年のおじさんが前に出てくる。
ターバンみたいなのを頭に巻いた普通の人間っぽいんだけど、スルっとターバンを外すと、なんか黒い角みたいなのがこめかみの辺りからニョキッと生えてるのが解る。
「自己紹介させてくれ……俺は、アズバーン・グリフ……ご覧のように魔族の末裔なんだがね。知ってるか? かつて、魔王の眷属として、世界すべて相手に戦ったと言われて、忌み嫌われてた種族だ……と言っても、今は亜人の一種扱いされてるんだがね。法国あたりじゃ、未だに魔王の手先呼ばわり……難儀な話さね」
そう言って、手を差し出されたので、握る。
「なるほど、魔族なんてのもいるんだね。でも、人外なのはお互い一緒だから、ご同類ってとこかな……」
……魔族がなんなのか、良く解らんし、差し出された手を邪険にするほど、僕も馬鹿じゃない。
そもそも、僕も魔猫族だかなんだか言う立派な人外だ……もう日本には戻れそうもない。
「……ははっ! 俺が魔族だってのに、同類扱いとはなぁ……。なんとも、おもしれぇ奴だな」
なんとも嬉しそうな感じのアズバーンさん。
ひょっとして試されたのかな? よく解らん。
「まぁ、魔猫族の僕とは一字違いだしねぇ……えっと、魔族のおじさん……アズバーンさんは、解体業者かなんかなのかい? 魔物ハンターとか?」
「そうだ……かつてはハンターをやってたんだが。もう引退していてな……今は、方々巡って、珍しい魔物とか魔獣やらの素材の買い取り、流通もやってる。しかし、お前さん、エラく気前が良いんだな……一体、何を企んでるんだ? 俺達を買収でもしようってのか? 儲け話なら、乗ってやらんでもないが……何かドでかい悪企みでもしてるのかね?」
そう言って、ニヤリと笑う。
「儲け話なら、皆で分け合うべきじゃないかな? どうせ、この場の皆で分ければ、一人頭の儲けなんて、大した儲けにならないだろ? 実は僕は異世界からの流れ者でね。こっちの世界には縁もゆかりもない……だから、これはこの世界の先住者たる皆へのお近づきの印ってとこだよ」
まぁ、全部合わせて200人位いるから、分ければ1人頭の分け前は、大金貨一枚か二枚とかそれくらいだろう。
ちょっとした臨時収入……お近づきの印のプレゼントしては、上出来だろうさ。
僕がそう応えると、アズバーンさんは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で、ポカーンとしたと思ったら、膝を叩いて大笑いし始める。
「はははっ! そりゃいいわ! いや、すまんすまん! なるほど……そいつは、おもしれぇ! お前さん、気に入ったよ。よし、こいつの解体は任せろ! どうだ? ラドクリフ、それに皆も……この方は、異界からの流れ者って話だが、俺達と仲良くしてぇんだそうな。その為ならこのワイバーンを丸ごと俺達にくれてやっても惜しくないと! 俺はこの人になにかお返ししてやりたくてしょうがねぇ! 皆はどうだ?」
アズバーンさんの呼びかけに、俺も俺も! とかそうだそうだっ! なんて、返事が返ってきてる。
まぁ、人間ってのはそう言うもんだからね。
だからこそ、無償のばら撒きってのにもちゃんと意味がある。
「あの旨い酒を売ってくれるだけでも、上等だっての。しゃあねぇな……俺も腕を奮って、特上のワイバーンステーキを食わせてやるとするか。アンタの店で売ってた異界の食い物はなかなか美味かったが、こっちの世界の食い物もまんざらじゃねぇって教えてやるよ。ああ、俺はサントス・マルガリーフ……ドワーフの料理人だ」
ナタみたいなのを腰にぶらさげた、髭面のやたらゴツいおっちゃんが前に出てくる。
強面で盗賊の頭領って言われても信じるくらい凶悪な顔してるんだけど、なんか目付きはすごく優しい。
これがドワーフ……穴掘り大好き、鍛冶の名人とかそんなだよね。
でも、料理人なんだ……料理も火を扱うし、量を作るとなると意外と力仕事だし……ありっちゃありなのか。
でも、ワイバーンステーキってなにそれ? 美味しそう……。
そんな美味しいなら、肉を串焼きにでもして、お店に並べてみてもいいな。
観光地名物串焼き肉……割高なんだけど、ついつい買っちゃう! そして、美味いっ!
「もしかして、串焼きとかも出来たりする? お店に並べてもいいかなって思ったんだけどね」
「串焼きか……それも悪かないな。けど、そうなると、俺の料理をあの店に並べてくれるってのか? そりゃいいな……そうだ! アンタ……なんなら、いっそ俺を雇わんか? 食材さえ用意してくれれば、誰もが美味いって言う飯に仕上げてみせるぜ!」
料理人を雇う……うん、悪くない提案だ。
冷凍食品の在庫を何とか出来ないかって考えてたし、その場で作って提供するホットスナック系も割と受けが良かった。
料理の専門家がいるなら、本格的にイートスペースでも作って、食堂みたいな感じにして、料理を提供するのだってありだろう。
なにより、僕らも弁当ばっかりってのも飽きちゃうからなぁ……。
実際、長年コンビニ弁当主食だった僕は、ちょっとうんざりしてたりもする。
野菜とかの生鮮食品も、扱ってるから、頼めば配送センターから送ってもらえるしな。
何でも扱うコンビニバンザイッ!
悪人顔のおっさん二名ゲット。(笑)




