第四十八話「総力戦!」②
けれど、先頭きって上空近くに突っ込んできてた黒い巨大ドラゴン……ダークドラグーンとやらが、僕らの頭上に差し掛かった瞬間。
唐突に、ダークドラグーンの頭が弾け飛んで、あっさり墜落していった。
「……何事よ?」
思わず呟くと、耳元のヘッドセットからコール音。
「ああ、繋がったな! こちらは海上自衛隊……是政海将補だ。アマテラスの要請により、これより我ら第一機械化特務艦隊……君達の助太刀として参戦する!」
……まさかの援軍だった。
「なんで、海自のあんた達がこっちにいるんだよ! もしかして、帝城の転移に巻き込まれた? でも、海自の無人艦隊は日本海にいるって話じゃ……」
「詳しい事情は私も良くは知らん。シスターズ・鹿島の指示通りに、突如出来た黒い穴に艦隊ごと入り込んだら、こちらの世界に転移していた」
「……シスターズ・鹿島? 鹿島さんの事か! そっか、あの人の差し金なのか! 正直、助かる!」
「どうもアマテラスとこちらの神性存在とで取引があったと聞いている。我々に与えられた任務は見敵必殺……単純明快で実によろしい!」
「それはいいけど、大丈夫なのか? あの数とあの大きさじゃ、ちょっとした怪獣退治だと思うんだが……」
「ああ、砲弾が当たれば死ぬなら、どうという事はないだろう。こちらの主力艦もナリは小さいが最新のレールガン艦砲を積んでいるからな。相手には飛び道具も無いようだから、一方的な蹂躙戦になるだけだろう。まぁ、長々と居座る気もないが、いずれにせよ……あのデカブツ共は我々に任せてくれ! 「しょうかく」と「ずいかく」にも全艦載機を出せと命じろ! 目標……異世界の怪物共! 待望の実戦だ……全艦全弾打ち尽くしても一向に構わんぞ! 全艦、うちーかたー始めっ! 」
あのリバイアサンが次々と正確に目玉を撃ち抜かれて、あっさり即死して沈んでいき、ウンカの群れのようだったワイバーンもカクカクとした異常な動きをする空飛ぶフライパンのような戦闘機がワイバーンの群れに突っ込んでいくと次々と撃ち落としていく。
見た目は……空飛ぶカブトガニ? 腹の部分がゴチャゴチャしててキモいってとこまでそっくりだけど、なんでこんなシルエットで空飛べるんだろうって不思議になるような戦闘機だった。
10mにも満たない小型機のようなんだけど、レーザーか何かを四方八方へ放っているようで、ワイバーンもドラゴンも蚊取り線香を浴びた蚊のようにバタバタと落ちていっている。
いずれも、頭の後ろの辺りに穴が空いてたり、血を流してたりするので、どうも脳をレーザーで直接焼くという方法で始末しているようだった。
エゲツないけど、巨大生物を殺すってなると、脳みそを破壊するってのが一番早いって事も解る。
「ふむ、なんとも面妖な奴らが出て来たようじゃが。今の話の様子では鹿島の手配した日本軍からの援軍なのかのう。まぁ、助太刀の返礼といったところだろうが……水平線の彼方にいるようなのだが、平然とリヴァイアサン共に当てておるようじゃなぁ……なんなんじゃありゃ……」
どうも、レールガンなんてSF兵器積んでるみたいだけど、実弾射撃だけに撃ってから、当たるまで結構な時間がかかってるし、リヴァイアサンも黙って撃たれるがままではなく、それなりに蛇行したりして回避行動を取っているのだけど……。
どう避けても、砲弾が直撃すると言った感じで、あっという間にリヴァイアサン共も死屍累々……みたいになってるし、黒いドラゴンもバタバタ撃ち落とされてる。
「まぁ……頼もしい援軍だと思っておこう。けど、わざわざ異世界日本まで行って命張った甲斐はあったかな」
「まったく、なんとか間に合ったから良かったものの……。正直、かなり危なかったぞ……。だから、我もいつも最悪を想定しろと言っていたであろう……後で説教モノじゃぞ!」
「ううっ、お手柔らかに頼んます……」
「いずれにせよ、この分ならあっちは任せてなんとかなりそうだな。では、我は我の残した因縁を片付けてくるとするかのう! ラトリエ、リスティス! 供をせいっ! まずはイングヴェット達を片付けるぞ! あれを生かしておくとそれなりに面倒じゃからな!」
「はいはーい! イングヴェットはこの私にお任せを! 真なるエクスターナの主が誰なのか、思い知らせてあげますわ!」
「じゃあ、私はあのゴツい大剣持ちの相手でもしますから、変な火吹きピエロはアージュ様お願いします」
「まぁ、そうだな。その組み合わせならなんとでもなりそうだな! では二人共参るぞ!」
「わ、私はいいんですか? あ、ちょっとぉっ! アージュ様ぁああああっ!」
セルマちゃん……ものの見事にハブられた。
まぁ、セルマちゃんも僕と同様、先陣切って戦うというより部下任せの指揮官タイプだしなぁ。
僕の護衛ってことで、大人しくしてようね。
アージュさん達が行ってしまって、今僕の周囲にいるのは、テンチョーに大倉、リーシアさんにモンジロー君。
それに、セルマちゃんと和歌子さん。
戦力的には十分だし、間違いなくこっちの最強戦力じゃあるんだけど、こうなるとこのメンツが最終決戦パーティー……そんな感じだな。
なお、めちゃくちゃ頼もしい!
もっとも、まだロアも動いていないから、積極的に動かすつもりもない。
「モンジロー君、僕が合図したらここにいる全員をロアのところに転移させることって出来る?」
恐らく、アイツも不利を悟ったら一発逆転狙いで来るはずだからな。
ヤツとの決戦に持ち込むとしたら、その逆転狙いを仕掛けようとした所で奇襲をかけて、一気に畳み掛ける!
まぁ、後の先狙い……後出しジャンケンとも言う。
「出来るでござるよ。なるほど、アイツがなにかしようとしたタイミングで目の前に転移して、やらせる前に殺れ……そう言うことですな」
さすが、話が早いね。
そうこうしているうちに、割と拮抗していた戦況はあっさりと傾き始める。
なにせ、海上の戦いも自衛隊の圧勝に終わって、空飛ぶカブトガニの援護射撃や艦砲射撃が入るようになって、ロア軍団が一気に吹っ飛んでいってるから。
兵力で言えば、まだまだ向こうが上なんだけど。
その大半は、雑魚。
対するこちらは、数は少ないものの近代兵器で武装してるし、基本的に精鋭部隊だから練度では遥かに勝っている。
さすがに、陣形が崩れて乱戦みたいになってるところもあるけど、全体的にはこっちが押している。
こちらも怪我人は次々後送しているから、ジリジリと兵力も減ってきてるけど、コンビニ村にはまだまだ予備兵力がたんまり残ってて、武器も弾薬も続々と異世界急便が日本から運び入れているらしいので、弾切れの心配も要らないようだった。
なんか……ロメオの近衛師団の鎧着た兵士達も混ざってる様子から、どうもクロイエ様がロメオ中を転移で駆け回って、目一杯兵隊を集めてくれてたようだった。
この様子だと、ロメオと言う国自体が僕らの支援に回っている……そう考えて良さそうだった……まさに、総力戦だな。
……コンビニ村に一体どれだけの兵隊がいるんだかねぇ……。
出来る限り戦力を集めるようにアージュさんにも伝えておいたけど、僕が思っていた以上の戦力を集めてくれたようだった。
今も転移ゲートから、続々と新たな部隊や武器や弾薬を満載したブンチャンズが到着して、陸自の兵隊やらが我先に弾と小銃を束にして抱えて、手際よく兵士達に配っていっている。
まぁ、連中にとっては撃ち放題で、戦いたい放題って事でまさにお祭り感覚……なんだろうな。
中には、メットやボディアーマーに矢が刺さったり、ファイアボールの直撃でも食らったのか、前身真っ黒になりながらも平然としているようなヤツもいる……。
何と言うかこの人達……どっかぶっ壊れてるな。
聞いた話だと、毎日のように10mくらいの高さのところからフリーダイブするような過酷すぎる訓練三昧って話だし……死の恐怖とかそう言うのすら超越してるのか知んないな。
数では圧倒しているのに、明らかに押されている状況に、ロアも焦燥を隠せない感じで、歯軋りしているようだった。
そして、唐突に巨大な魔法陣を描き出す……どうやら予想通り、逆転の一発……大魔法を発動するつもりのようだった。
そろそろ、頃合いだな。
「モンジローくん! 皆っ! ロアのところに飛ぶぞ! どうやら、アイツも大技を放つつもりのようだ……ここは、やらせちゃいけないよな?」
その場に居た全員が集まって、円陣を組む。
「心得ましたぜ! 和歌子のアネサン……打ち合わせ通り、某直伝の魔法ブレイク技! 開幕一発デカいの頼んますぜ!」
「まぁねぇ……あたし専用のカスタム魔法なんて用意してもらっちゃったからね。ここがまさに使い所! うん、任せられた! じゃあ、さっさととんじゃって!」
どうも、良く解んないけど。
モンジローくんと和歌子さんでなにか取引があったらしい。
和歌子さんが三戦の構えを取ると、膨大な魔力のオーラを纏う。
え? 和歌子さんって魔力持ちだっけ?
でも、異世界急便とか言って、色んな世界を渡り歩いてるんじゃ、魔法くらい使えないと困るだろうしなぁ……。
どのみち、ここは二人を信じてお任せだ!
「んじゃ、いきまっせーっ! 『亜空間テレポート』!」
次の瞬間……僕らは、ロアを取り囲むように並んでいた。
「……なっ! 空間転移だと?! だ、だが、この滅界陣を発動すれば! 全ては僕の思うがまま! そうなればもうこっちのものだ! 一手遅かったなっ! すでに術式は発動済み……僕の世界に取り込まれて、まとめて為すすべなく朽ち果てるが良い!」
なるほどね……例のロアワールド召喚ってとこか?
「はっ! そんなのやらせる訳ないじゃんかよ! 我が拳は魔を打ち砕く拳! ……破魔地雷震ッ! 穿てッ! 土は土に、理は理のままにっ! 破ぁああああああっ!」
裂帛の気合とともに、和歌子さんが地面に魔力を凝縮した拳を撃ち込むと、地面が陥没して無数のヒビが入って、盛大に広がっていく……そのヒビにロアの魔法陣が巻き込まれると、たちまち魔法陣が霧散していく。
「バカなっ! こ、抗魔術だと! そんな技で僕の滅界陣を打ち砕いた……だと? くそっ! 始めからやり直しじゃないか! い、急げ……じゅ、術式再構築っ!」
うん? それは良いが……状況わかってんのか、このバカ。
「この状況で、再構築とかやらせる訳ねーだろ! 喰らえっ! 鉄山靠ッ!」
一瞬で間合いを詰めた大倉がロアの杖を掴み取りながら、背中からドカン!
横にくの字に曲がったロアがふっ飛ばされながらも、杖にしがみつこうとしたせいで衝撃を逃がすことも出来ずに、そのままポーンと宙を舞う。
ちなみに、この一撃でいかにも凄そうだった法衣はズタボロになったし、杖も大倉が没収済み!
「おっしゃっ! とりあえず、ご自慢の魔法のステッキはボッシュートだぜ! 先輩! ちょっと預かっててくれ!」
無造作に杖をこっちへ投げよこしてくるので、受け取る。
「サンキューっ! こんなものは……こうだっ!」
魔力集中をかけて筋肉チャージした渾身の膝蹴りでへし折って、先っちょの黒い水晶も無理やりもぎ取って地面に叩きつけて、かち割って、念入りに踏みにじって破壊しておく。
何気に、宝具級の凄そうな杖だったけど、こう言うのはさっさと壊すに限るからな!
「貴様らぁあああっ! それは神のみが扱える神具なのだぞ! それをぉおおおっ!」
吹っ飛びながらも、ツッコミ入れる余裕はあるらしい。
どのみち、これでアイツの戦闘力も激減状態! それに多分、この杖が今のロアワールド召喚の重要アイテムってとこなんだろう。
さすが大倉! 目ざとくそれを悟って、真っ先にボッシュートなんて、ナイス、ファインプレイッ!
「くそっ! だが、この程度で……魔神たる僕を倒せるとでも……」
空中で回転して、さしたるダメージも受けていない様子で、ロアも着地しようとしているんだが……。
「ばぁかっ! 狙い通り! もう一回吹っ飛びな!」
大倉も落ちてきたところへ駆け寄ると、サモハン・キンポーバリのバックキック!
「どもぉおおおっ!」
「そらっ! 和歌子のアネサン! そっち行ったぜ!」
ロアが飛んでいく先に、今度は和歌子さんが走り寄る!
「ナイス・トス……大倉くんっ! パス戻し行くよっ!」
吹っ飛ばされたロアに向かって、すかさず走り込んだ和歌子さんがワンツーラッシュを空中で当てて、仕上げにサマーソルトキックみたいなバク転蹴りをロアにブチかます!
「おっ! アネサン、いいコントロールしてるな! こうなったら、このまま二人で空中お手玉にして、ヤバそうな装備もどんどん剥いで、ボロ雑巾にしてやろうぜ!」
そう言って、大倉もロアの法衣の裾を握って、蹴り上げると、法衣が引き裂かれながら、本体も盛大に宙を舞う。
「いやぁ、さすがに野郎に同情したくなるね……。でも、確かに、この変な装備をぶっ壊すのは賛成! こうなると、なかなか死なないってのも考えものよね」
そう言って、二人してお手玉状態で交互にロアをボテくり回す。
ロアも地面に降りることも出来ずに、為すすべなく一方的にやられていく。
膨大な魔力を放っていたネックレスやアンクレットも、お手玉のついでにブチブチもぎ取って、サークレットも頭ごとかち割られて、あっという間に宝具級マジックアイテムもフルボッシュート!
もう、ロアの身体を守っていた攻防一体の触手みたいなのも全部なくなって、法衣もぼろぼろになって、腰のあたりに申し訳程度に残るだけになっていた。
まぁ、こんなヤツの股間フルオープンとか誰得って感じだしな。
けど、超再生とか持ってても、装備までは直らないから、こんな風にエンドレスアタックとか食らうと、先に装備だけが削れていくんだな……。
「どう見ても、死んでるけど……。モンジロー君! トドメは任せるわ! ラストパス!」
そう言って、和歌子さんが死体同然になってるロアをひときわ強烈なハイキックで蹴り上げる!
「任された! トドメっす! スイカみたいに……頭の中身ぶち撒けて死ぬっすよーっ!」
さすがに大倉たちと違って、格闘技素人だけにモンジローくんは何の芸もない拳を後ろに振りかぶってのテレフォンパンチ。
「ふ、ふっざけるなぁあああああっ! 貴様らぁあああっ! 絶対防御の六角棺!!」
ようやっと、意識が戻せるほどに回復したようで、一瞬で、いくつもの六角形で構成された魔法バリアみたいなのを展開しつつ、空中でビタッと止まって見せる!
けど、モンジロー君の一撃はブーストされまくってたようで、お構い無しでバリアごとその顔面めがけて、ブチかます!
「だらびゅわっ!」
ヘンテコな断末魔と共に、ロアの頭が爆発したようになると、完全に脱力しきった死体となって、ゴロゴロと地面を転がっていく。
「……誅殺、完了! 某……始めて人を殺めてしまいましたが、微塵にも後悔なし! この世から害虫を一匹駆除した……そう思うことにするっす! ロアぼっちゃん……貴様の死に顔、がっつり描いて上げましたから、あの世の手土産にでもするんすな!」
そう言って、ボッコボコの負けフェイス状態のロアの顔が描かれたスケブの切れっ端をポイッと投げつけると、ひらひらと死体状態のロアの上に落ちる。
うーん? カッコいいのか悪いのか良く解んないけど。
どうも、この瞬間のために予め用意してたらしい。
神絵師に死に顔描いてもらえるとか、大サービスじゃないか……まったく、ロアなんかにはもったいないなっ!




