第四十七話「決戦! 魔神ロア」③
「な、なんだここはっ!」
「海の上に転移してたのか……けど、なんでここに…… 」
周囲に広がるは、果てしない水平線。
そして、海の上に墓標のようにそびえ立った氷の十字架。
なるほど、ここはロア一号の終焉の地。
何と言うか、因果ってもんを感じる場所じゃあるな。
リーシアさんが駆け寄ってくるので、思わず抱きとめる。
「ケンタロウ様! よくぞご無事で! 申し訳ありません……この私としたことが……」
リーシアさんが、涙目で見つめてくるんだけど。
ボフッとその頭に手を置くと、ポッと頬を赤く染められてしまう。
うんうん、まさに撫でポ?
でも、目線をそらしながら、あの魔神絶対殺すとか、物騒な事も言ってるのを僕も聞き逃さなかったよ?
ちなみに、テンチョーは相変わらず猫のままで、彼女のお気に入りの場所……僕の肩の上をキープ中。
ご丁寧に手を首に回して、ピッタリとくっついて……。
何と言うか、傍目にも二人は仲良し……そんな感じだよな!
テンチョーもこれでもかって、僕の事をベロで舐めてるんだけど。
ようやっと、ここが元の僕たちの世界だと気付いたようで、肩から飛び降りるとボフッと言う煙と共に、いつもの人間の姿に戻る。
「御主人様! うにゃーっ! やっと、元の世界に戻ってきたのにゃ! しかも、ちゃんと使徒の力も戻ってきてるにゃ! よぉっし! これなら絶対負けないにゃっ!」
そう言って、抱きつきっ!
「今回、ラーテルムもセレイネース様と話し合って、海の上でも使徒の力を解禁してくれるって事になりましてな。まぁ、ジャリテルムは普通に戦力外ってことでお留守番っすけど、某達への神力の中継供給源に徹してくれてるんで、ガス欠の心配も要りませんぜ」
まぁ、何ていうか……これっぽっちも負ける気がしないなぁ。
「ちょ、調子に乗るなよ! こうなったら、総力戦だ! 我が死せる下僕共よ! 特別に蘇らせてやるから、ありがたく思え! 『リ・バース』!!」
ロアの背後に次々と人影が湧いてくる。
その人影は、見る間に肉体を得て、めいめいに武器を持って、続々と居並んでいく。
「……大帝? それにレベル5まで……ロアッ! こいつらはなんなんだ!」
「うふふ……ちょっとは驚いたかい? こいつらはこれまで僕がこの世界に転生させて、死んでいった僕の下僕達だ。まぁ、所詮は仮初の命……一時間にも満たずに儚く散る定めの存在だけど、君達を皆殺しにするには十分過ぎるよね? 言っとくけど、一人一人が名のある英雄クラスの強者ばかり、雑魚なんて一人もいないよ」
やべぇな……一人一人が化け物級の魔力を持っているし、装備もいちいち半端ない。
ただ全員が全員強いかといえば、カスみたいな魔力しかないようなのとか、図体ばかりの見掛け倒しもけっこういる。
よく見れば、いつぞやか僕が身も蓋もなく殺っちまった角刈り頭もいるし……。
いわゆる再生怪人軍団ってとこか?
なんつーか、発想が昭和?
「それに、僕の下僕はこいつらだけじゃない! 見ろ! リヴァイアサンにダークドラグーン! ワイバーン……闇の軍勢を集結させてやったよ! まぁ、君達を殺すには少々オーバーキルだけど、別に構わないよね?」
そう言われて、周囲を見渡すと水平線の彼方にごちゃまんと黒い影が居並び、空にもワラワラとウンカの群れのように、黒い物体がひしめいていた
「こりゃやりすぎだろ……ったく、相変わらず、様式美も風情も何もない。つまんねぇ奴だよな。けど、お前は半端な出来損ないの顕現体でしかなかったはずだ。なんで、ここまでのことが出来る!」
さすがに、いくらなんでもこんな数を召喚できるなんておかしいだろ。
これは……なにか裏があるな?
「……ふふふっ! それは僕が復活したからだよ。やぁ、僕……少々シナリオが狂ったけど、思わぬことでセレイネースの封印が解けた。いやはや、久しぶりだね……タカクラくぅん」
同じ様に髪をかきあげながら、ニヒルな笑みを浮かべる全裸男。
それがもう一人……まさか、ロアが二人いる?
この魔力の感じ……あの時、セレイネース様が封印したヤツか!
「ははははははっ! いいねぇ……さすが僕だよ。まったく、よりによって僕が封じられていた墓標の近くに転移するなんて……君もツイてなかったね。まぁ、セレイネースの封印も二人の顕現体が力を合わせれば、簡単に砕けた……そう言うことさ。せっかくだから、ここは統合完全体となって、思う存分ひと暴れでもしようじゃないか」
「ははははははっ! 同感だ! では闇のカーニバルの開催だ! レッツ! フュージョン!」
二人のロアが向かい合って、両手を合わせて抱き合うと、二人の姿が重なり、黒い瘴気に包まれていく。
なお、めちゃくちゃ気持ち悪い光景だった!
もうロアって奴はなんでこうもキモさをかき集めたような演出ばかりなんだろな。
むしろ、早く殺さないとって殺意が湧いてきたよ。
やがて、黒い瘴気の渦が晴れると、そこには10mはあるような刺々しいドラゴンがいた。
「そ、それがお前の完全体ってことか!」
さすがにこれは焦る。
ナヨくて、キモい優男が巨大ドラゴンへ進化とか……流石にこれは笑えない。
「その通り、さぁ、絶望したまえ……始めようか! この世界の終わりの戦を……!」
状況は……極めて不利だった。
巨大化して完全体となったロアに、十重二十重に取り囲んだ巨大な怪物共に、100人以上はいるであろう怪人達。
それだけじゃなく、今も地面からゾンビやらスケルトンみたいなのが次々と湧いてきているし、黒いスライムも地面から湧いてきている。
まぁ、雑魚は雑魚なんだろうし、怪人共もどいつもこいつも目が死んでるから、生前の思考力とかは持ってなさそうだけど。
とにかく、数がヤバいな。
それに、ロアの完全体も……さすがに、これはちょっと手に負えそうもない。
ずらっと整列した再生怪人軍団がザッザッザッザと足音を揃えて、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
対するこちらはテンチョーと、大倉、モンジロー君と使徒が三人。
それとリーシアさんと、自衛隊の空挺隊の兵士達もいるけど……全員合わせても人数は100人もいない。
……とても、勝ち目なんて無い。
そう、普通に考えれば……な。
「やれやれ、復活怪人量産型に、敗者復活のロア一号と融合して完全体として巨大化……ね。なんかもうベタ過ぎて、言葉も出ないよ。何と言うか、お前って相変わらずやる事なす事チープ……世界の敵って割には、どうも小物臭ってのが抜けないんだよな……」
「は、はぁっ! 小物だと……この僕が? 貴様……この戦力差が解らんのか! 世界を滅ぼす魔神が完全体として、復活したのだぞ! なんで、そんな不敵なツラで笑っていられる! なぜ、絶望しないっ! その余裕は何だ!」
「はっ! 絶望? する訳ねーだろ。むしろ、ここがラストバトルって事だろ? それに……ああ、ややこしい。もうロア一号でいいか……お前の封印が解けたってことは、あのお方も解放されたって事だろう? お師匠様……ご無沙汰しております」
振り向かずに声をかけると、ポムっと頭に手を置かれる。
「ああ、そうだな。すまんな……これまであの……ロア一号を我が力で封印していたのだが。ロア二号と呼応して、強引に抜けられてしまってな。そうなれば、封印を維持する必要もない……だが、これも予定通りではある。故に心配などせずとも良い」
セレイネース・ベータ様復活!
まぁ、ロア一号が復活したなら、師匠も復活ってのは当然の話だよな。
「お気になさらずに……。むしろ、師匠が復活してくれたなら、100人力ですよ」
「まったく、頼りにされるのも悪い気分ではないな! はっはっは!」
二人して、笑い合う。
「……ハッ! セレイネース・ベータ! 貴様一人では我の欠片一人を抑え込むのがやっとだったではないか! 融合し、完全体となった我とでは、互角どころか圧倒的に我の力のほうが勝っている! 貴様もそこの雑魚共々、まとめて踏み潰してくれるわ!」
「……はぁ、久方ぶりの師弟の再会に水を差してくれるなよ。言っておくが、我が分体は全部で5体顕現しているのだぞ。貴様が完全体として我らに総力戦を臨むのならば、正面から受けて立つだけの話! 全ての我が分体よ! 我もとへ集結せよ! 我らが総力を持って……魔神ロア……貴様を討つ!」
セレイネース様がそう宣言すると、同じような姿の青い女神の影が4人、その背後に居並ぶ。
そして、一人……また一人とお師匠様の背中へ吸い込まれるように消えていく。
同時に、その度にお師匠様の纏う魔力が段階的に跳ね上がっていく。
そして、青い輝きに包まれると、セレイネース様は巨大な青いドラゴンの姿となる。
「些か、風情がないが……。貴様が龍の姿を取るのであれば、こちらも同じ龍の姿で戦うとしよう。ふむ、さすがに5対2……戦力はこちらの方が上のようだな」
ちなみに、ロアと比較するとセレイネース様の方が明らかに二回りほどデカいし、魔力もどっちも桁違いではあるんだが。
どう見ても、セレイネース様のほうがヤバい!
「ば、バカなっ! 本気で総力で挑むというのか……くそっ! こ、これでは戦力が足りんぞ!」
さすがに、ロアも焦りを隠せないでいた。
「まずは、小手調べから行こう……重圧水波!」
青いドラゴンの口から、螺旋状の水が放たれて、ロア完全体に炸裂する!
たったの一撃でキリモミしながら、ロア完全体がふっとばされて、瓦礫や何人もの再生怪人共を巻き込みながら、城の縁まで飛ばされて、ダバーンと海に落ちる!
「い、一撃かよ! さすがっ! これならもう楽勝じゃないですか!。」
「いや、さすがにそんなに甘くはないようだ。バルバトロス……お前もこの馬鹿騒ぎに乗じるつもりか?」
唐突に空中に黒い渦が現れて、その中から超巨大な隻眼の黒いジジイみたいなのが出てくる。
「ふむ、セレイネース……貴様が本気を出して介入するのでは、さすがに身も蓋もなかろう。ここはバランスを取るために、この儂自らが助っ人として参戦する……なかなかに、面白い趣向であろう?」
「むしろ、ずっと寝ていて欲しかったのだがなぁ。すまん、タカクラ……。よりによって、戦バカ……隻眼の魔神バルバトロスが出てくるとはな……。さすがに、コヤツが相手では今の私でも恐らく互角……抑え込むのが精一杯になるだろうからな」
「……クックック! バルバトロスのジジィ! まさか、お前が助っ人に来てくれるなんてな……。さぁ、早く力を寄越せっ! お前の力を足せば、僕一人でもこんな奴らまとめて……」
海までふっとばされたのに、瞬間移動で戻ってきたロアが得意そうに吠える。
「なぁにを言っておるのじゃ。儂の役目は、このセレイネースの抑え役のつもりじゃ……それ以上は手は貸さん。貴様も他力本願ではなく、たまには自力で血路を開いてみせろ……。そこの男……タカクラと言ったな?」
「あ、ああ……。爺さんは何者だよ……いきなり出てきて、随分な態度だな」
ま、まぁ……このジジィが極めつけにヤバいってのは良く解る。
5神合体のセレイネース様と互角かそれ以上……こんな化け物がいたなんて……。
「カッカッカッ! そう言うな……。まぁ、儂はこの小僧が負けたら、潔く退くつもりであるからな。これは言わば、貴様ら人と我等魔神の地上の覇権を賭けた争い。そこでこのセレイネースまで加わったら、些か風情がないというものだろう? 貴様も王を名乗るなら、そこの若造一人くらい自力で何とかしてみせるのだな」
「……まぁ、確かにそうであるな。タカクラよ、すまんが……私はコイツの相手をしなければならん。ロアもまぁまぁ強いが、所詮は底の浅い若造に過ぎん。ラーテルムの 使徒が三人もいるなら、なんとかなるだろう。では、バルバトロスよ……相手をしてやるから、少し場所を変えるぞ!」
そう言って、バルバトロスとセレイネース様が同時に空高くへと飛んでいって、やがて見えなくなる。
あの様子だと、宇宙空間での決戦……そんな感じだな。
「クソッタレ! あのジジィ……何しに出てきたんだっ! だが、セレイネースを引き受けてくれたなら、もうこっちのものだ! 我が下僕共よ! 全員前へ出ろっ! 奴らを殺せぇえぇエエエエっ!」
そこで、先頭切って攻めてこないってのが、ロアって感じだよなぁ。
おまけに、ドラゴン形態は燃費が悪いのか、変身を解いて、いつぞやかのフル装備で偉そうに一番うしろに突っ立ってるだけ。
そして、ロアの呼びかけに応えるように、黒い戦士たちが前に進み、後方の魔術師と思わしき連中が一斉に大魔術を発動しようとする……。
「さぁ! 頼みだったセレイネースも無しで、たった一人でこの僕率いる不死の再生者共とどう戦う! 今度こそ、情けなく命乞いでもしてみせろ!」
勇ましいのは良いけど、なんで一番うしろで吠えてるかなぁ……。
それに、戦術も何もなくただ突っ込めって……やっぱ、小物だよなぁ……コイツ。




