第四十七話「決戦! 魔神ロア」②
だが、ここは多分転機だ……。
そう、王者たるもの……窮地に及んでも笑え! とにかく、笑うんだ!
「はははははっ! どうしたロアぁ……こんな小さな猫相手にズタボロじゃねぇか。ああ、そういや……お前、装備頼みで本体は結構雑魚だったからな。自分ひとりじゃ何も出来ませんってかぁ? テンチョーよくやってくれた! 腕一本取ったなんて大殊勲だ! 後は僕らに任せろ……あんなフル◯ンシャイボーイ! いつぞやみたいに、キレイな顔をヤスリがけしてやるぜ!」
「にゃにゃーにゃっ!」
まぁ、与えたダメージとしてはただの引っかき傷と腕一本。
野郎の面にX字型に4本線が入って、せっかくのイケメンフェイスが台無しになったくらいで、腕にしてもどうせまた生えてくるんだろうさ。
「にゃむにゃむにゃむ! にゃにゃーにゃっ!」
テンチョーも一生懸命何かを伝えようとしてるみたいなんだけど。
僕には、猫語は解んない。
……マルチコミュニケーションスキル、僕も取っとけばよかったな。
「クソッ! ……なんで、そんな小さな獣が神滅の白炎を使えるのだ! どう言うことだ! それに、タカクラァ! なんだ、その人を小馬鹿にしたような態度は! さっきまで怯えきって、地面を這いずっていたのに、なんで立ち上がって笑っているんだ! 僕と貴様では、圧倒的な力の差……虫けらと巨人ほどの力の差があることくらい解っているはずだ!」
あの言葉の前と後に「ニチャア」なんて擬音が付きそうな余裕ぶった口調も、もはや今のロアはかなぐり捨てているようで、まるで余裕がなくなっている。
「さぁな……。そうか、テンチョーのあの技は「神滅の白炎」と言うのか。神をも滅ぼす炎……なるほど、あれはそう言うものなのか。そうなると、お前ら魔神にもあの白い炎は特攻ってことなのか? 実際、その右腕……一向に生えてこないようだし、その猫傷がっつり付いた面白おかしいキレイなツラもそのまま……それでラスボスムーブされたり、決めセリフとか吐かれても、むしろギャグにしか思えないんだがね」
そう言われて、自分の顔を撫でつけるロア。
手についた赤い筋が自分の顔から流れた血だということに気付いたのか、唇をわななかせていた。
そして、やっぱりその傷は治らない。
なるほど、猫のテンチョーが与えたダメージについては、あのインチキ臭い超回復が効かないんだな。
これは勝算が見えてきたかもしれんな。
「ああ、もういい。タカクラ……お前はもうここで死ね。もう半端にいたぶって生き返らせては殺すとか、そんな生ぬるい事やってられない。それに、その獣も……この僕の顔に傷を付けるなんて、なんたる屈辱! 『黒き死の閃光』……光速で飛ぶいかなる防御も穿ち貫く、死と言う概念を凝縮した即死魔法……まさに最強の一撃! 果たして、これを君にどうにかできるかな?」
そう言ったロアの指先に黒い灯火……そうとしか形容できないモノが集まっていく。
どうやら、本気にさせちまったみたいだな。
なおのこと、追撃を加えようと、前傾姿勢でお尻を上げた突撃準備体勢のテンチョーをヒョイット抱き上げると、そのままぎゅっと抱きしめて、そのモフモフの腹毛に顔を埋めて大きく息を吸う。
うん、久しぶりのこの感触。
猫飼いの特権……モフモフタイム。
ああ、癒やされるなぁ……。
さすがに、猫耳ガールの姿のテンチョーにこれやるのは、犯罪臭がすごくて自重してたんだけど。
猫の姿なら、思う存分やってもいいよな。
昔のテンチョーは、これをやると虚無った顔でジッとしてたんだけど。
今のテンチョーは余程嬉しかったのか、念入りに髪の毛をベロベロ舐められる。
「うーん! 久しぶりテンチョー分を補充できた! ああ、これでもう! 何も怖くない! ロア……そんな訳でそろそろ、お前との因縁を精算するとしよう!」
「へへっ、ヤバい時にこそ、絶好調みたいになる……いつも通りだな!」
そう言って、大倉も隣に並ぶ。
もっとも、勝機なんてこれっぽっちもないんだけどな。
でも、絶対に命乞いなんてしないし、最後の最後まで目一杯戦い抜いてやる!
「……はっ! 虚勢もそこまでいけば、むしろ滑稽だ! 絶望しろ! これが神と人間の差だ……もはや、微塵にも手加減なんてしない。一瞬でこの世から消え去れ! 108本の死の光……これをどうにか出来るなら、やってみろ! この雑草が!」
ロアの背後におびただしい数の黒い槍のような魔力の塊が出現する。
その数は……本人の言葉通りなら、108本。
人間の煩悩の数ってか?
しっかし、さすがにどうしょうもないな……こんなオーバーキルは……。
けど、最後まで足掻くと決めたんだ!
「例え、神が相手だろうが! 僕は逃げない! ロアッ! お前こそ覚悟しろ!」
そして、ロアが無表情になり、黒い槍が動き出す。
けれど、次の瞬間!
「……ひとーつ! 絶望するにゃ、まだ早い!」
唐突に響いた声で、ロアともども辺りを見渡してしまう。
「なんだ……この声は! 何処から聞こえてくる!」
「こ、この声は……まさかっ!」
この声の主を……僕は知っている!
絶体絶命の窮地の中……この声こそ、まさに神の声! 希望の声!
くぅううううっ! 相変わらず、小憎いことやってくれるな!
「ふたーつ、某ぎりぎり間に合った! みーっつ! 殺ってみせよう、イケメン魔神! どっせぅうりゃああああっ! 隙ありィイイイイッ! 必殺、どこでもパーンチッ!」
そんな気の抜ける技名とともに、唐突に空中からムッキムキの腕が生えてきて、ロアの横っ面を殴り飛ばす!
「ぱぎゃああああああっ!」
面白おかしい叫び声とともに、口から血と白い歯のかけらを撒き散らしながら、ロアの首が直角に曲がりながら、顔面から地面に落ちて、そのまま顔を床に擦り付けながら、そのまま地面を滑っていって、「Ω」みたいな変なポーズのまま動かなくなる。
うん、これはどう見てもラスボスムーブと言うより、面白キャラムーブだな。
スタンバイ完了って感じだった108本の黒い槍もたちまち、その形を維持できなくなって崩れ去っていく。
……強制魔法キャンセル?
そして、空中から生えたムキムキの腕……続いて、弾けんばかりのアフロヘア!
そして、いつだってキラーンと光輝くメガネに、ニヒルに浮かべた微笑み!
更にご丁寧に左手にはペンと小脇に抱えたスケブ!
「君ってやつは! ……ふふふっ! まさか、このタイミングで……」
そう! まさかの援軍……今週のビックリメン!
その男の名は……ッ!
「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん! 愛と勇気……正義の使者! ラァブコミックメーカーッ! その名も坂崎☆紋次郎! 我が友の呼びかけに応えて、世界の壁すら飛び越えて! 今、推参ッ! ダンナ……某は約束を守りましたよ! ふふーんっ! 某が来たなら、もう大丈夫! 共に……巨悪を打ち倒しましょうぜ!」
そうっ! まさかのモンジローくん!
……どうやら、間に合ってくれたようだった!
ああ、持つべきものは友達だ!
けどまさか、この場面で来てくれるなんて!
「モンジローくぅんっ! ああああっ! もう、感動と感謝の涙で前が見えないよっ!」
まさに、絶対的な負けフラグを軽くへシ折るフラグブレイカー!
最強の助っ人推参! これで……勝つるっ!
「な、何だぁっ! 貴様はぁあああああああっ! なんで、ここにいる! なんで、貴様はこの世界で、女神の使徒としての力を振るえるっ! この世界には向こうの世界の力……女神の力は一切、届かないのではなかったのかぁああああっ!」
うん、それ……僕も気になった。
今のモンジロー君の鉄拳パンチ……ロアの結界を軽く粉砕して、ゴリ押しでふっ飛ばしてた。
ちなみに、ロアの首はその一発で曲がっちゃいけない方向にグキって曲がってた……まずは、ワンナウト?
「はっはっはーっ! ロア坊ちゃぁああああん……ここが地球だといつからそう信じていた? 策士、策に溺れたなッ! お前の運命は……もう決まっている!」
きりっと真面目な顔で告げるモンジローくん!
これは、「ミケ・ランジェロの素晴らしき冒険」……第36話「ダニー・ダースター、策士策に溺れて、溺死しろッ!」のキメ台詞!
「馬鹿な……この魔力っ! まさか世界転移か!? いつ、どうやって! 貴様、そんなマネまでやってのけたのかっ! たかが使徒風情が……あ、あり得ないっ!」
「ノンノンノン、違いまっせー。この奇跡は某一人が起こしたもんじゃねぇんすよ。アンタがリーシア姐さんの鋼草を乗っ取って無惨に殺したフランネルの爺さん。あの爺さんは自分が死ぬ前にって……帝城を地球からこっちの世界へ転移させるべく、最後の力を振り絞って小さな穴を開けてくれたんですよ! 死にゆくものの最後の意地! それがお前の野望を打ち砕いたんス!」
「馬鹿なっ! そんな事が! 世界の壁を超えるのに……どれほどの力が必要だと思っているのだ! あんな死にかけのジジィの最後の力程度で……」
「まぁ、地球側の神さん達? あの方々もこの城やお前を排除すべく、その力を結集して、ほころびが出来る瞬間を待ち構えてたんすよ。そして、あの爺さんは最後の力を振り絞って、ほんの小さなほころびを作った……。まぁ、これからお前は滅されるのは確実っすけど。ジジィの最後っ屁で元の世界に強制送還された事で、魔神無双失敗して、ただのキモメンになった……今の気分はどうっすか? ウヒャハホホフゥーッ!」
なるほどねぇ……。
テンチョーに貸し与えた力もエラくみみっちぃとは思ったんだが。
前々からリソース集中みたいなことやってて、そうせざるを得なかったんだ。
「そ、そんな……! となると、ここは元の世界ってことなのか! こんな中途半端な力では……女神共に見つかったら、簡単に消されてしまうっ!」
ああ、要はこいつ……レベルアップに失敗したのか。
コイツ自身も言ってたけど、カズマの最期は自裁……自らを捌き死を選んだと言えなくもない。
誰よりも生き汚い生き方をしてきたヤツが、自らを罪人として捌き、自ら死を選ぶ。
これは、罪を償ったと言う意味にならないこともない。
まぁ、いずれにせよ……奴は、本来得るはずだった力をほとんど得ることも出来ずにいる。
そんな状態なのだろう。
「ご愁傷さまっすけど、そういうことっすな! まぁ、せっかくなんで、ここはフルオープン! 狭っ苦しいダンジョンの奥なんかじゃなくて、大海原のど真ん中! ありったけのゲストを招待した上で、レッツファイナルバトルと洒落込みましょうぜ!」
そう言ってモンジローくんが指パッチン!
次の瞬間、僕らは地上へとワープしていた。




