第十話「来襲! ワイバーンの脅威!」②
「……ここは現地の人にも聞いてみるのが一番だね……。キリカさん、それに、ミミもモモも覗いてないで、こっちにおいでよ」
……実は、さっきから三人が覗いてたのは、気付いてたんだ。
なにせ、ネコ耳イヤーは地獄耳だからな……こっそりと部屋の入口の影から、僕らのことを覗いてた三人の事なんて、見なくたって気配だけでモロ解りだ。
これもあったから、さっきもギュッと抱き返して、エロエロ展開ーとかになるのを必死で耐えたんだ。
と言うか、ホントにナニし始めたら、この娘達どうしてたんだろ?
「たはーっ! マスターはんには敵わんなー。さすがネコ耳族やな……」
「だから言ったのに……ボクは覗きなんて、趣味悪いことは辞めようって言ったよね? マスターさん、ボクはキリカさんを止めようと……」
「わ、私は……皆、どっか行っちゃって、ひとりぼっちで寂しかったから、あとを追いかけてきただけで……覗いたり、そんなつもりは……」
三人三様に言い訳をしながら、ぞろぞろと顔を出す。
なお、皆……裸Tシャツ。
もういいです。
この際、はかないのも自由だと思うな……だって、ケモミミだもの。
「まぁ、いいよ……別に気にしてないから。それより、キリカさん、あれなんだと思う?」
そう言って、星空の中をチョロチョロしてるのを指差すと、キリカさんも目で追いかけて、見つけてくれたようだった。
「……マスターはん……あんなん、よぉ見つけたなぁ……。あれはワイバーン……やろなぁ。グリフォンはもっと華奢やし、羽ももっと鳥っぽいんや。断言はできんけど、たまに旅人や商人が襲われるって話は聞いとるよ。実際、うちらの里もワイバーンに襲われたこともあるしな。ミミモモはずっとここらに住んどるんやから、もうちょっと詳しいやろ?」
なるほど、やっぱり、ワイバーンか。
ラドクリフさん達が慌てふためいてるわけだ……思い切り下級ドラゴンだからなぁ……。
そうなると、戦力評価としては、ボスキャラやらレイドボスってとこか。
……初っ端から、そんなのと出くわすなんて……。
僕らは、戦うのが仕事じゃないとは言え、ちょっとこれはないんじゃないかなー。
「……モモ、知ってます! 悪いやつです! 時々空からやってきて、皆を食べちゃうんです!」
「そうだっ! ボクらの事なんて、餌みたいに思ってるみたいで、あいつに見つかったら最期なんだ……」
言いながら、二人は手を取り合って、ブルブルと震えていた。
……なるほど、ミミモモ達にとっては、定期的に捕食にやってくる害獣みたいなもんって事か。
ダンジョンのモンスターからも定期的に襲撃されてるみたいだけど、別に命までは取らない。
まぁ、違う意味で被害者が出てるみたいだけど……。
でも、あのワイバーンは容赦なく捕食する……この様子だともう、何人も犠牲者が出ているのかもしれない。
そう言う事なら、そんな害獣、もうこの場で、問答無用で駆除したほうが良いな!
うん、駆除だな……討伐とか退治じゃなく、駆除!
そもそも、今は単なる様子見程度だとしても、いつ本格的な襲撃に発展するか解らないし、中途半端に追い払っても意味がない。
何より、こんな可愛らしいミャウ族を餌代わりにするなんて、ひどい話だ……。
この世界が優しくない弱肉強食の世界だってのは、薄々感じてたけど……さすがに、憤りに近い感情を抱く。
「テンチョー、あのワイバーンってのは、どうもそう言うことみたいだ。どう思う?」
他の生き物を捕食して、食べる事の是非。
自然の摂理においては、それは生きるための当たり前の行為だと言える。
テンチョーだって、当たり前のように積み重ねてきた行為。
ネズミをいたぶり殺したり、店の中に迷い込んだツバメを、何の意味もなく食い殺す。
……それ自体に、テンチョーは何ら罪悪感も感じていないだろう。
本能の命ずるままに、当たり前の行為を当たり前のように行った……ただそれだけなのだから。
けれど、ミミモモの話を聞いてテンチョーがどう思うのか。
たぶん、それは重要なことだと思う。
……だから、僕は確かめずにはいられなかった。
「解った! 要するに、アイツは悪いやつなんだよね? ミミモモちゃん達のお友達を食べちゃうような。なら、やっつけよう! 大丈夫……ミミもモモも泣いちゃダメ。やっつけちゃえば、もう怖くなんか無いから」
テンチョーに僕ら人間の感覚は通じないかも……そんな風に思っていたけど。
ミャウ族を捕食対象にしてるって話は、テンチョーにとっても許容できない話のようだった。
……ミミモモに優しい声をかけて、抱きしめつつも、その横顔は、ワイバーンの蛮行に憤りを感じているように見える。
テンチョーも、動物そのものの感性の持ち主なら、多分この義憤という感情なんて、理解できなかっただろう。
だって、腹が減ったから殺して食うなんてのは、肉食動物にとっては当たり前の事なんだから。
けれど、その当たり前の感覚よりも、義憤が上回った。
テンチョーも人の姿になったことで、動物そのものの感性じゃなくなりつつあるのかもしれない。
これは、いい傾向なのか、悪い傾向なのか……僕にはなんとも言えないけど。
より、人に近づけたと言うことなら……いい傾向と言えるかも知れない。
「そうだな……。あんなのが夜中だろうがお構い無しで、自由に飛び回ってるんじゃ、僕らだっておちおち夜も寝てられない……。そこで相談……テンチョー、あれ……撃ち落とせないかい? 色々魔法とか使えるんだよね?」
「うーん、さすがに、私もあんな大きいのとは、戦ったことないよ。カラスなんかとは訳が違うよね? カラスは降りてきた所を首のとこガブーッてやっちゃうだけで、動かなくなっちゃったけど……」
そういや、テンチョーって、ゴミを荒らすカラスを仕留めたこともあったんだよなぁ。
全然、子猫時代の話なんだけど、自分より大きいカラスの首に噛み付いて、一撃必殺だった。
躊躇いなく首狙って、一撃で仕留めたんだから、すごい話……。
もう噛み付いたら、全然離さなくて、困ったんだけど。
やっとの思いで引き剥がしたときには、すでにカラスはあの世に召されていた。
ちなみに、カラスは、仲間が一匹犠牲になったら、もう二度と近付かなくなった。
たまに、カーカー騒ぎながら、近くを飛んでたけど、テンチョーが出てくると、速攻逃げるようになってしまい、撃墜スコアはその一匹だけ……もっとも、抑止力としては十分以上だった。
相当警戒されたらしく、年単位に渡って、ご近所含めてゴミ捨て場が荒らされるようなことも無くなってしまった。
道路を挟んで向こう側は、テンチョーもむやみに行き来できなかったから、安全地帯と判断していたようで、道路向こうのゴミ捨て場はいつも酷いことになっていた。
対照的にうちの近くは一切荒らされなかったのだから、テンチョー効果……恐るべし。
他にもハトやらムクドリ、ツバメ、スズメと言った人里でお馴染みな鳥は、一通りテンチョーの餌食となってる。
もちろん、ご飯は十分にあげてたんだけど……猫の……それも雌猫の狩りはほとんど本能みたいなものだから、どうしょうもない。
猫って、ネズミによく反応するのと、蛇みたいに長細いのに反応する奴、そして鳥を好む……この3パターンがいるって話なんだけど。
テンチョーはどうも鳥が好きらしくて、獲物の比率的には圧倒的に鳥が多かった。
なんで知ってるかって言うと、時々枕元に差し入れしていただいたってのと、外のテンチョーハウスに良く、血に塗れた鳥の羽だけが残ってたりしたから。
けれど、そんな文字通り飛ぶ鳥を落とすテンチョーでも、相手が1km上空となると……手が出ないか。
「そうだな……あんな高いところだと、どうしたもんかなぁ……。やっぱり、降りてきてくれないと、どうにもならないかい?」
あんな高いともう銃とか飛び道具が必須なような気もする。
おまけに、闇夜を飛ぶ生き物を撃ち落とす……日本でも夜間は、猟師でも猟厳禁とされているから、そんな真似が出来るようなのは、自衛隊の特殊部隊くらいだろう。
いや、あの大きさじゃ、銃が効くかどうかすら怪しい……うーん? 機関銃とか、対空誘導ミサイルとかいるんじゃないのか? アレ。
実際、この高性能猫耳イヤーのおかげで、見失わずに済んでいるのであって、目視だけだったら、居場所を捉えるのも困難だろう……まったく、厄介な相手にいきなり出くわしたもんだ。
「……とりあえず、動きも早いし……ここからだと見にくいから、屋上に行ってみるねっ!」
そう言って、テンチョーは屋上へ続く階段へと走っていく!
「う、うちもいくでっ!」
キリカさんもテンチョーの後を追おうとするのだけど、肩を掴んで止める。
「キリカさんは下に行って、ラドクリフさん達にテンチョーがワイバーンに仕掛けるかもって伝えてほしい……僕も屋上に出る!」
「ホンマにやるんか? 流石にうちらもあんな空飛んでるようなデカい奴には、手も足も出んで……。勝算なんてあるんか? そりゃ、仕留めるなら早いうちの方がええと思うけど……ラドクリフのおっちゃん達でも、ワイバーン相手ってなるとさすがに躊躇するで?」
「……仮に、あれが正面から襲ってきたら、どうなると思う? 前例くらいあるんでしょ」
「せやな……前に、うちらの里がワイバーンに襲われた時は、10人位死人が出たんよ……。あのレベルの魔獣相手に犠牲ゼロで勝とうなんて、虫が良すぎる話なんやで……」
「そ、そんなに……なんだ」
正面からぶつかるだけで、あの精強なウォルフ族ですら、そこまでの犠牲を出す。
それがワイバーンとの戦い……。
「でも、逆を言えば倒せん相手って訳でもないって事や。アイツもやたら、人が集まっとるから、様子を見に来たってそんなところやと思うで……? ラドクリフ達が牽制してくれるやろうから、わざわざ降りてくるような事もないと思うし、もうほっといた方がええんでないかって思うよ。うちらの仕事は戦うんやのうて、商売やろ? そんなモン、人任せでええやん」
キリカさんの言うことも大いに納得が出来る。
この世界では、戦うべき者と守られる者がはっきりと分けられている。
ラドクリフさんだって、何度も念を入れて戦いは専門家に任せろと言っていた。
でも、正面から戦うと犠牲を出さずには勝てないような怪物。
そんなのが好き勝手にうろうろしてるなんて、冗談じゃないって思う。
「でも、これまでに結構な犠牲が出てるんだろ? なんで、そんなの放置してるんだよ……」
「実際、対処が難しいんや……凄腕の魔術師何人か連れて来て、投石機やら攻城兵器とかを何台も用意して、それでも厳しいんやで? うちらの時も、地上に降りてきて、仲間が食われとる隙に、ゴッツいロープ絡ませて、丸太尖らせたんを10人位で抱えて、一斉に突っ込んでってぶっ刺して、地面で大暴れしとる所を里のモン総出で襲いかかって、やっとの思いで仕留めたんや……それに、どっかで何かとやりあって、なんや弱っとったみたいやったしな。正直、運が良かった……そんな感じやったよ」
……人間の戦士が束になっても敵わない……なんて言ってた、キリカさん達ウォルフ族でもそんな有様なのか……。
たしかに、そんなだとしたら、迷惑だから駆除しようなんて言っても、犠牲前提の大がかりなものにならざるを得ないだろう。
国レベルでの支援があるならともかく、無政府状態のところじゃ、ある程度の犠牲は許容して、共生せざるをえない……そんな話にもなるんだろう。
「でも、そう言う事ならなおさら、そんな厄介なの……ここで仕留めとかないといけないような気がするんだ。なにより、あのワイバーン……明らかに誰かがコントロールしてる。となると、絶対なにか企んでる……このまま、見過ごしていいもんじゃないと思うんだ……だから、ここは戦うべき時じゃないかな」
そう言い切った僕の目をキリカさんもじっと見つめる。
けれど、唐突にため息をついて、ニコリと笑う。
「せやな……正直、無茶言いおるなぁって思っとるけど、マスターはん達はうちらの物差しじゃ、とても測れんからな。うちらも誰かゴッツい奴が現れて、なんとかしてくれんかなーって、思っとたんや……。せやから、マスターはんには期待しとるで? でも、危ない思ったら、迷わず引き上げるんやで? 命あっての物種や……ラドクリフにも何とか援護できんか聞いて来たるわ! せやから、こっちはおまかせや!」
「頼んだ……ミミモモはここで大人しくしててくれ! ここにいれば安全だろうから」
「……わ、解りました」
「マスターさん! 皆の仇を……お願いだよっ!」
「……解った。僕は別に戦ったりなんて出来ないけど、テンチョーと力を合わせれば、何だって出来るような気がする……行ってくるっ!」
ミミモモに見送られて、僕もテンチョーの後を追うのだった!
異世界初の本格的な戦いです。
初っ端から、何やらキッツそうな相手ですが……。
どうなることやら……?




