第四十五話「レベル5」②
「なにって、異世界の古き秩序を叩き壊し、新なる時代を招き寄せたロメオ王国の王様だって言っただろ? 厳密には女王陛下のダンナってとこだが、向こうじゃ立派な王様扱いだから、文句なんぞあるまい。実際、日本政府だって、VIP待遇で赤絨毯でお出迎え、居並ぶ誰もが平に平にぃって調子だったぜ? まぁ、仮にも異世界の一国の王なんだからな。その程度がむしろ当たり前だな」
「そ、そんなだっけか? 松島基地の裏手にオンボロハイエースで乗り付けて、こそーっと裏口から……だったよな」
……大倉、余計なことは言わない。
「それに引き換え、お前らの王はなんだっ! 王たるものにとって、もっとも大事な国民全てに見捨てられて、風向きが悪くなったからと異世界にまで逃げ出し、あいも変わらず引き籠もり! 挙げ句に、こうして同格の王たるものがわざわざ出張ってやってるのに、挨拶にすら出てこない……! 言語道断ッ! 王が聞いて呆れるッ! まさに格が違うってもんだ! もう一度言おう……貴様のような三下になんぞ、用はない! その場で我が前にひれ伏すが良い! 頭が高いぞっ!」
「……か、格が違うだと! そ、それに逃げ出した……だとっ! た、大帝様をなんだと……貴様ぁああああッ!」
あ、キレた。
スライムのくせに、なんとも感情豊かなヤツなんだな。
「そう熱くなるな……底が知れるぞ? でも、いくら僕が王様だからって、最強戦力をいきなりぶつけてくるとか、いささか風情ってもんがないな。お前のポジション的にはラスボス前の前座ってとこだろうから、出番はまだだろ? それとも何か? ラスボスの前座から噛ませ犬ポジションに転向ってとこか? ……そうなるとお前より強いのが後に控えてるから、噛ませとして真っ先に出て来たって事かい? 悲しいなぁ……ボスキャラ世代交代なんて……。もういい、興が失せた……さっさと引っ込め。……王の来訪を歓迎するってことなら、お前みたいな三下じゃなくて、もっと偉いヤツを出すんだな」
なお、結構適当言ってるし、煽りまくりだ。
下手に知能があるだけに、僕の煽りをもろに食らってるようで、その冷静さもどこかへ行ってしまったようだし、殺気もダダ漏れ……。
限りなく、猛獣の前でダンスでも踊ってる気分だが。
怒り心頭……だからなんだ、むしろ気分スッキリ! せいぜい、怒り狂って喚き散らすがいいっ!
なんせ、さっきから余裕たっぷりって態度が気に食わないし、表情と言葉がまるで一致してない上に口パクすらしないとか、不気味の谷を突破してるどころじゃねーよ! 端的に言ってキモいッ!
例えるなら、昆虫が言葉を喋るのを見たような気分だ。
なによりも、コイツの言葉を真に受けるなら、大帝は初っ端から最強カードを切ってきたって事だ。
そうなると、ここはこちらも切り札の切り時……ここが決戦の場! そう言う事だ。
けど、コイツの後により強いのが控えてるなら、それは今じゃない。
そこだけはきっちり見極める必要がある。
さぁ、口八丁手八丁! ここが僕の正念場だ!
「わたくしより、強い? ほっほっほ、異国の王だかなんだか知らないけど、馬鹿は休み休み言いなさい。わたくしこそ、帝国の剣! わたくしこそ、最強のスライム! 女神の使徒ですら退けるこのわたくしに敵う存在なんて、どこにもいない! そして、この恵みの雨! ふふふっ、この世界のマナはわたしどもにとっては、豊穣のマナと言えるほどに相性がいい……なんて素晴らしい世界! 少しくらい削られたからって、これならいくらでも増殖出来ますから、すぐに我が民の数も万単位まで戻ります。そして、この世界の戦力はすでに見切った……。もはや、我らがこの世界の軍勢に負ける要素など微塵にもない! 解ったなら、貴様こそこの場で平伏しなさい……そして、我が大帝に詫びの言葉を述べるのです! そうすれば少しはマシな死に方が出来るってものよ! ほーほっほっほ!」
あ、こいつ……ただの馬鹿だ。
後ろには誰も居ないって、ここで言っちゃ駄目だろ。
第二、第三のレベル5がいるとか、同格のスライム四天王がいるとか言えば、まだこっちも考えたんだが。
この様子だと、本気で初手最強を出してきたんだな。
要するに、後先のことなんて、何も考えてない。
今、勝てば、オッケー! 絶対勝てるから、それでいく。
結局……その程度の事しか、考えてないんだ。
せっかくこっちも王対王の頂上決戦って演出で行こうとしてたのに、こんなあっさりボロ出してたんじゃ話にもならん。
要するに、戦略ってもんがまるでない。
考えてるようで、なにも考えちゃいない。
所詮は、スライム……浅はかで浅慮。
最強とかなんとか言ってるけど、大帝と一緒で所詮は小物に過ぎないって訳だ。
……なんかもう、どうでも良くなってきたなぁ。
ああ、ならもう真面目に戦うとか、演出とか止めだ! 止め!
もはや、身も蓋もなく、この場ですべて終わらせる……それだけの話だ!
「なるほど、なるほどぉ……くっくっく! つまり、お前の後ろには何も居ない……。お前を始末すれば、もう勝ち確……そう言うことなんだな。それは実に良いことを聞いたなぁっ! ああ、断言してやろう! ……お前らは終わりだ。もういい、演出とか止め! 風情もお約束も何も無いが、今、この場にて、この馬鹿騒ぎの終幕としようか」
「せ、先輩? さっきからなんで、そんな無駄に強気なんですか! アイツだけは……アイツだけはマジでヤバいんですって! ここは一旦退いた方が……女神の使徒を退けたってのは伊達でも、ハッタリでもないっ! スライム殺しの炎龍の使徒ですらアイツにだけは勝てなかったんだ! 俺等帝国軍だって、アイツがいたからこそ、迂闊に手出しも出来なかった……だから……」
炎龍の使徒? ああ、そりゃサトルくんの事だな。
対スライム戦では無敵みたいな勢いで、帝国のスライム共を狩りまくってたらしいんだが。
レベル5に誘い込まれる形で、逃げ場のないクソ狭いダンジョンの中で正面からやり合って……ものの見事に敗走する羽目になったらしい。
けど、それは一人でバカ正直に真正面から戦ってたから……そう言う事だ。
……僕は、ひとりじゃない!
そう、どんな時だって……!
ああ、断言してもいいさ! 僕はいつだって他力本願だよっ!
けど、だからこそ力に溺れなかったし、皆を導くことで勝利を重ねてきたんだ!
僕は他力本願人間だけど、これまで一度だって逃げ出すことだけはしなかった!
王様ってのは、それでいいんだよ。
皆の後ろに立って、見守りながら、戦略で勝つべく采配を振るうっ!
それでこそ、王道ってもんだ……こう言っちゃ悪いが、たった一人で戦い続けたサトルくんと一緒にしてもらっちゃ困るぜ!
レベル5だかなんだか知らんが……たった一人で僕の前に立って、勝てるなんて思うんじゃねぇっ!
「ははっ! 肝心な時にヘタれるのは、お前の悪い癖だ……だからここは退けってか? そりゃねぇわ……いいか? 本来だったら、城の奥に引っ込んでるはずの大ボスがわざわざ外に出張ってきてるんだ。RPGなら負け確イベントかも知れないが、むしろここはチャンス! 確かに奴らにとってこの雨は恵みの雨のようだが、それはこっちも同じなんだよ! リーシアさん、僕が言ったとおりになっただろう?」
……目には目を……歯に歯を!
無限増殖するモンスターには、同じく無限増殖するモンスターをぶつけるまでの話!
ここが最終決戦なら……出し惜しみも無用! さぁ、リーシアさん……出番ですよ!
……殺っちゃってくださいッ!
「あ、はいはーい。飛行機から降りる前にスモモちゃんにお願いして、しっかり種をお城の全域にバラ撒いてくれてたんで、準備は完璧ぃ……ですよぉ。さすがにあんなカラカラに乾ききってたら私の種も少ししか発芽出来ないと思ってたんですけどぉ……本当にこんな派手に雨が降ってくるなんてぇ……。さぁすが、旦那様! とっても賢いですねー! それに先程の王様宣言もとってもかっこよかったです! 私、しびれました……あとでお膝枕でイイコイイコしてあげますねぇ……うふふっ」
ああ、僕にはこの状況が予想できてたし、実のところ、レベル4だろうがレベル5だろうが問答無用で瞬殺できる切り札ってもんを用意してたんだよ。
だからこそ……「最凶にして最強のカード」リーシアさんを連れてきたようなもんなんだ!
唯一の懸念点は、屋内で乾燥してるところではリーシアさんの種も発芽出来るか微妙ってことだったんだけど、決戦の舞台が屋外で、その上雨が降ってきたなんて、むしろ願ったり叶ったりっ!
さぁて、こっから先は詰将棋ッッ!
皆、打ち手を間違えるなよ……ここで勝てば、ゲームセット! ここで……決めるっ!




