第四十四話「決戦開幕」②
そして、いつ果てるともなく続いていた砲爆撃祭りも……徐々に散発的になって、砲煙も晴れて……瓦礫の山同然になった帝城の惨状がみえるようになってきた。
『砲撃開始より20分経過。現在、各所で弾薬枯渇が発生し、砲身過加熱の車両続出により、予定より早く攻撃を中断いたしました……。海上部隊はそれなりに統制が取れていたのですが、陸上部隊は史上初の本格実戦という事で、現場の兵士達の士気が上がりすぎて、まるで統制が取れなくなっているようで、問題が発生しているようです。これだから、人間の兵士は困りますね……要するに、皆様はしゃぎすぎって事です』
「はしゃぎすぎって……。まぁ、気持ちは解るかな。連中ずっと戦争ごっこ訓練三昧やら、災害救援やら、そんな毎日で、降って湧いた砲爆フィーバー祭りともなりゃ、そりゃはしゃぐだろうさ」
大倉が苦笑しながら、返す。
まぁ……実戦どころか、訓練でも弾の節約やらで「バーン!」「うわぁっ!」とか、口で発砲音とかやってる始末だったらしいからなぁ。
BB弾を撃ち合うサバゲーの方がまだリアリティあるし、装備もちゃんとしてるって話で、陸自の方々も自前でサバゲーグッズを買って使うこともある……そんな話だって聞く。
『ええ、事情は我々も理解していますけどね。もっとも、当初敵戦力の80%の殲滅を確認……所定の戦果はあったと判定しています。続いて、第二次攻撃……空戦ドローン隊による精密掃討射撃開始。臨時集成特科群及び海上艦隊も予備兵力投入により再編中、同時に弾薬補充作業を開始いたしました。地上の近接戦闘部隊も残敵掃討済みにつき、一時後退の上での休息と弾薬補充を指示……状況次第では第三次攻撃を想定し、各員備えるように命令伝達中。まぁ、私どもとしては人間の皆さんはもう帰って頂いても構わないと思ってますが、現場の皆様はもっと撃たせろと騒いでるようでして……困った話ですね』
続いて、地上の市街地の各所からで、凄まじい数の1mほどの小型ドローンがウンカの群れのように一斉に飛び立ち、帝城の上空へと集結し、少しだけ動いては止まってと言う奇妙な動きを繰り返しているようだった。
「あれは……何をしてるんだ? 精密掃討射撃って何か撃ってるようには見えないんだが」
「ああ、あれは精密レーザー射撃です。直径1mm程度の高収束赤外線レーザーでスライム共の核を焼き切ることで一匹一匹確実に始末しているんです。この様子だとあれだけの火力集中だったのに結構な数の生き残りがいたみたいですな。まぁ、想定の範囲内ですから、お気になさらずに……スモモ、予定変更……プランCで行く。2号機、3号機の隠蔽解除の上でハードランディングでの強行突入で道を切り開く。まずは露払いのサンドボックス隊を展開させて、降下地点周辺の安全確保の上で、当機による降下揚陸を実施する」
『命令了解、畏まりです。プランC……あまり気が進まないのですが、当初予想より生き残りが多いようなので、それもやむ無しですね。スモモ02、03に伝達。『コード・トラトラトラ』を発令。可及的速やかに実施せよ』
稲木一佐が指示を出し、スモモが復唱するなり、それまで影も形も無かったところに僕らの乗った機体と同じおばけドローンが二機現れて、急加速の上で先行していくと、ミサイルをまとめてブチ込んで瓦礫を吹き飛ばすとそのままの勢いで胴体着陸のように瓦礫の山の小さな隙間に飛び込んでいって、あっちこっちを大破させながら、瓦礫の山に突き刺さってようやっと止まった。
「おいおい、ここで迷わずハードランディングかよ……。ほとんど減速なしで着地って無茶するなぁ……あっちにも人が乗ってんじゃないのかよ……」
「いや、恐らくアレは完全無人機だろうし、そう言うことなら、あのハードランディングが最善なんだ。上空視点のカメラ映像を見てみろ、生き残りのスライムが一斉に向かっていってる。なるほど、敵もなかなかに知恵が回る。一度上陸されたら、もう時間の問題って解ってるんだ。だからこそ、必死になって水際撃破しようとしてるんだろうな。恐らく悠長に真上に行ってゆっくりと降下なんてやってたら、周り中取り囲まれてあっという間にやられてた。だからこそ、向こうが対応する前に一気に突っ込んで、無理やり戦力を投入することにしたんだ」
案の定、機体自体はベッコベコのボロボロになりながらも、ほとんど無傷の卵型のカーゴから、虫のような細い足がいっぱい生えた1mほどの箱型の物体がワラワラと出てきて、見る間にわっさと周囲に展開して、レーザー兵器で次々と集まってきたスライムの生き残りを始末していく。
その隙に今度は乗用車くらいの大きさのドーザー付きのやっぱり足つき車両のようなものがカーゴから出てきて、手際よく瓦礫を押しのけていって、見る間に20m四方くらいの広場のようなものが形作られていき、最後に出てきた人型ロボットみたいなのが次々と瓦礫の山を整えて、即席の陣地のようなものを作り上げていく。
「なるほど、不可視のステルスヘリを強行突入をさせて、相手の対応を上回って、上空警護のドローンの火力集中で集まってきた奴らを片っ端から始末して、一気に橋頭堡を確保……か。気持ち悪いくらいの連携精度で、最前線に兵士の一人も出さずに機械だけでそれをやってのけるのか。何と言うか、こいつら未来からやってきたんじゃねーの? なぁ、稲木一佐……あんたらも良く正気を保っていられるな」
「ははっ、今の自衛隊でそんなものを保てている者など誰もおりませんよ! いずれ戦いは全て機械に任せて、人間は最終承認と起こった事象の責任を取る……我々の役目はそんな程度になってしまうでしょうからね。まぁ、そんな事はどうでもいいでしょう……いざ、我らが最後の戦に赴かん! スモモ、やってくれ! これより当機も突入……その上で、高倉閣下の後背を守り抜く! さぁ、行きましょう! 総員、起立ッ! 点呼ーオッ!」
「点呼了解! いーちっ!」
「覚悟完了! にーっ!」
「死して屍拾う者なし! さーんっ!」
「同じく覚悟完了! まぁ、気楽にやりましょうか……よーんっ!」
「……ご」
「では、始めますか……ろーっく!」
それまで押し黙っていた6人の兵士たちが立ち上がりながら、一言コメントみたいなセリフと共に、揃った仕草で迷彩服の裾辺りを触れると、プシューという音と共に全員がいきなりマッチョになる。
そして、ヘルメットのバイザーを降ろすともう人間じゃないような雰囲気になってしまった。
「これもまた最新装備でして……装甲筋力倍加服と呼ばれています。戦場における人間の生存率を極力上げると言うことで、連中のささやかな気遣い……そんなところです。ああ、高倉閣下は我々のように生身でフリーダイブなどせずとも結構ですよ。どのみち、これは単なる我々の意地って奴ですから、こうでもしないと銃を撃つ機会すらなさそうでしたからね」
「…………」
思わず絶句してしまう。
この高さからフリーダイブとか狂気の沙汰だし、意地だけで戦場に立って命を懸ける……僕なんかには全く想像もつかない話だった。
「降下揚陸地点上空50mに到達を確認ーッ! 総員、降下! 降下! 降下ーっ! では、お先に!」
半ば狂気をはらんだような稲木一佐の様子に思わず、押し黙っていると、6人の兵士が横に開いたハッチから次々と飛び降りていき、最後に残った稲木一佐が敬礼をすると、同じ様に無造作に地上へと飛び降りていく!
パラシュートも何もなしでの単なるフリーダイブだったのだけど、兵士達も地面に足から着地すると、地面をゴロゴロと転がりながら受け身を取って立ち上がると、すぐに銃を構えて四方に散って行き、稲木一佐と思わしき人影が手招きをすると、ヘリが一気に高度を下げていく。
やがて、地面と接地した衝撃が来たので、大倉たちと一緒に一斉に飛び降りる。
それ確認し、ヘリも速やかに上昇していく……四方八方に地上へ向かって機体各所に設置された重機関銃による弾幕を張っている様子から、すでに包囲網が作られているようだったが、ヘリ自体は再び不可視モードになったのか、すぐに影も形も見えなくなる。
入れ代わりに、上空にゴソッと空戦ドローンが集まってきて、対地攻撃を再開しているようだった。
レーザーってのは目には見えないらしいんだけど、もし見えたら降り注ぐ雨のようにレーザーが撃ち込まれているのが見えただろう。
空気の焦げる匂い……オゾン臭があたりに立ち込めて、スライム共の放つドブ川のような匂いに思わず顔をしかめる。
けど、それはこんな雨みたいな勢いで撃ち込まないと、とても止められない……そんな状況なんだ。
あんまり、モタモタはしていられないな。
「リーシアさん! ここは丁寧に迷宮攻略とかやらずに、身も蓋もなく次々、床と天井に穴を開けていくべきだ! 急がないとスライム共に取り囲まれそうだ」
「はーい! さすがに地面に結界くらい張ってたみたいですけど、うふふ……この程度の魔力防壁……。思ったほどじゃなかったですねぇ……もうすぐ、解除できますから、解除次第片っ端から抜いていきましょう。ところで、いっぱいいるおじゃま虫さん達はどうします? 私の方でまとめてやっちゃいましょうか?」
「いや、リーシアさんはまだ大人しくしてて……。この程度の雑魚! 僕が対処する!」
振り向き様に、尻尾を握りしめて、水撃を連続して放つ!
瓦礫の山から染み出すように湧いてきていたスライム共を立てづつけにピンポイントに核を撃ち抜いて、まとめて仕留める!
うん! 見えるぞ……マナの流れから、コアの位置もひと目でわかる! これならっ!
「さすが、旦那様! はい、おっしゃるとおり大人しくしてます! 大丈夫ですよぉ……私とテンチョーちゃんがちゃーんと見守っておりますので、存分にどうぞっ!」
そう言って、胸に抱いたテンチョーの手を動かして、楽しそうに笑うリーシアさん。
場違いなくらいに呑気だけど、この状況でこの余裕……大したもんだよな。
「ああ、頼んだよ! 大倉……ここは二人で連携して、確実にやるぞ!」
そう言って大倉の方へと走り出した直後、背後に猛烈な殺気が沸き立つのを感じる!
「……せ、先輩後ろっ! もういい! その場に伏せろーっ!」
魔力のオーラをまとった大倉が唐突にこっちに向かってくると、僕もとっさに斜め前に向かって身を翻す。
地面を転がりながら、振り返るといつの間にか、僕の背後に迫っていたカーボン装甲の人型が大倉と組み合っているのが見える。
その姿には見覚えがある……レベル4! いきなり中ボス戦かよっ!




