第七十三話「日本のとても長い一日」④
ちなみに、この全部ぶっちゃけ作戦は、神部原総理が全ては国家元首たる自分の責任であり、どんな結果となっても全て受け止めようと断言した上で発令されており、例え最悪の結果となったとしても、何もかもを全て抱えて地獄に落ちる……そんな覚悟らしい。
老い先短いの老人の命の使い道としては、上出来だろうと本人も笑ってたっていうんだから、率直に言って凄い。
何よりも死を覚悟した人間ってのは、ある意味無敵だからな……それを解った上で、腹をくくった神部原総理にもはや敵は居ないだろう。
そうなんだよな……年老いて、死期が見えた老人に未来なんて無いんだから、本来ならば率先して犠牲となる覚悟を決める……それくらいやって然るべきなのに、今の日本の年寄り共は平然と自分達の今の安寧のために、未来ある若者へ犠牲と搾取を強いて、自分達の利益を最優先とする……そりゃ、誰だって刹那主義にだってなるさ。
年寄りによる年寄りのための政治。
それこそが日本を駄目にしていった一番の原因なんだよな。
政治なんてのは、若いもんにやらせておいて、年寄りは若者がやらかした時に、代わりに責任を取って泥をかぶったり、長年の経験を元に助言者に徹して、若者の背中を見守る……それでいいんだよ。
そんなもん、そこらのご家庭でも普通にやってることなんだがなぁ……おじいちゃんと孫の関係とかそんなんだろ?
そう考えたら、日本の年功序列文化ってのも考えものだよな。
もっと若い奴らを活躍させてやれよって思う。
大体、うちのロメオなんて国家元首が10歳の女王様で、それを支える宰相たる僕も30代なんだぞ?
ロメオの貴族連中も40代になったら、後継者に道を譲るべくさっさと引退するのが習わしだとかで、20代の若手当主とか、そんなのがゴロゴロしてるし、中には10代の御当主様なんてのすらいて、女子高生みたいなお嬢様が議会で平然と一席ぶったりしてるからなぁ……。
そう言う女子高生当主様が失敗してやらかして、袋叩きになりそうになると、先代当主辺りがさっと出てきて、私がそうしろと言ったのだから、文句があるなら私に言えとかやって、当たり前のように弾除けになるし、あからさまに増長してたり勘違いしてると、衆人環視の中で説教したり、ピシャリと間違いを指摘したりして、伸びすぎた鼻をへし折るような事だってやってる。
なんせ、議会にも基本的に発言権の無い保護者枠みたい席があって、一般的に定年とされている50歳くらいまではそこで我が子を見守り、時にフォローするのがその役割……みたいになってるんだよなぁ……。
これは、リョウスケさんが決めた事で、ロメオの制度にまでなってるんだけど、おかげで無駄に権限だけあるような老害が出てくる余地もないし、クロイエ様と言う10歳の女王陛下を平然と受け入れる土壌にもなってる。
あの人って、ホント解ってる人だったんだよなぁ……。
いずれにせよ、意図せずアメリカ関係者全員避難を事実上阻止したことで、人質を取っているも同然となり、時間の余裕は出来ている。
何よりも自国民の保護が出来ていない時点で、アメリカ側が鉾を引く大義名分を与えたようなものでもあるからな。
まったく、きっちりトロンペの逃げ道まで用意してやってるとか、ご丁寧な話だこと。
なお、恐るべきことにこの一連の流れは、一見偶然の産物のように見えるんだけど……狙ってやった感が強い。
それくらいには、様々な出来事が有機的に繋がっていて、アメリカの暴挙を国民全てと世界中を巻き込みながら、確実に囲い込んで行くことで、最良の結果を導き出すべく動いている……第三者の客観的な立場から見るとそんな風に思えるんだ。
そして、その一連の流れには僕たちの行動すらも組み込まれている……恐らく、そう言うことなのだ。
多分あともう一押し……あとは大帝と帝城がいなくなれば……。
なお、横田基地や座間キャンプ辺りの都心近くの米軍基地もデモ隊に包囲されて、銃を持った衛兵とにらみ合いになってたんだけど。
沖縄の前例に倣ったのか、デモ隊の安全を守るためと称して、警察の機動隊や陸自の部隊が出張ってきて間に割り込んで対峙するなど、日本各地で日米の修羅場が発生しているようで、アメリカ様も完全に思惑が狂って、もうめちゃくちゃになってるようだった。
その上、今回、中露も何が起きてるのか正確に把握出来ていないようで、核報復の準備だけではなく、偵察機やら電子戦機や情報収集機をごちゃまんと送り込んで来ており、アメリカ人脱出騒ぎに巻き込まれた事で、さすがに空自もその対応能力を飽和させかけていたんだ。
それを見かねたのか、日本海で試験航海してた新型海上ドローン母艦の「しょうかく」と「ずいかく」が『お困りのようなので、ここは我らにお任せを』って言い出して、手が足らずに、空自の現場もホトホト困ってたんで「ならば、是非お願いする!」ってやってしまったらしいんだ。
実際「しょうかく」も「ずいかく」も試験航海中で乗員は技術者くらいしか乗ってない事実上の無人艦で、150mくらいとあまり大きくもなく、おもちゃ空母だの名前負けとも言われていた……。
その上、それまで小型無人機やマルチコプターや、海上ドローンの運用テストが中心だった事で、空自の現場管理職の連中も大した事も出来ないだろうが、猫の手も借りたいところだから、索敵の手伝いくらいはしてくれるだろう……位の認識だったみたいなんだが。
いきなり「20式無人艦上制空戦闘機 空牙」とか言う本格的なSF戦闘機みたいなのを電磁カタパルトから打ち上げて、スクランブル迎撃任務了解って事で、中露の偵察機やらに迫ると片っ端からロックオン&ファイア。
幸い撃たれた連中もチャフやらフレアを駆使して逃げ惑い、ミサイル自体もお高い情報収集機に直撃コースだったものの、主翼の端をゴリッと削った程度で、過激なようで、実は思いっきり手加減してはくれたんだが……。
中露の連中も、どうせ威嚇も出来ずに追い回す程度とタカを括ってたら、いきなり謎のSF戦闘機がワラワラと出てきて、そいつらが本気だったら、一瞬で全滅させられてたと悟って、中露合わせて100機くらい日本海上空に来てたんだが、もう一目散に蜘蛛の子を散らすように逃げ帰っていった。
もちろん、偵察機を送り込んだ中露の軍事関係者も怒り心頭って感じで猛抗議して来たらしいんだが、神部原総理のお言葉……「こちらも非常事態ゆえ、貴様らにかまってる余裕などない。現場には次は手加減などせずにきっちり撃ち落とせと命じておいたので、そのつもりでいろ!」とまぁ、そんな苛烈な一言を伝えられて、もはや黙るしか無かったようだった。
まぁ、いずれにせよ……半ば無人機の勇み足ながらも、始めからこうすればよかったのかと現場のパイロット達も学習し、現場の手足を縛ってた上層部も、総理が殺れって言ってるから、もう殺るしか無いだろと苦虫を噛み潰したような顔で、現場にも即時撃墜命令を与える事でお墨付きを与えるしか無かったようだった。
まぁ、元々中露相手のスクランブルで、好き放題やられてたのは、戦争したくないという日本の弱腰に付け込まれたって話ではあるんだよなぁ。
そんな事を公に言ってる相手なんて、始めから戦争という選択肢を放棄しているという事であり、領土へも土足で踏み込んで、可能な限りむしり取る……そうなるのが当たり前の話で、そうさせないために本来ならば軍事力ってもんを活用すべきではあったんだよ。
これまで、そんなヌル対応でも平和を保ててたのは、アメリカ様と言う怖い方が日本のバックに控えてたからで、そのバックが背中から殴りかかってきてるのでは、むしろ中露にとっては、略奪のチャーンス! だからこそ、この期に及んで、前例踏襲でいつも通り対応させようとしてた空自の中間管理職連中もアホっちゃアホ。
もちろん、一度蹴散らされたからと言って、メンツって紋があるので、簡単には引き下がれなかったようで、懲りずに領空侵犯を試みる中露の偵察機共に、現場のパイロット達も、もう我慢しなくていいよな? とばかりに、割と容赦なく初手ロックオンをしかけるようになり、ロックオンを振り切るべく、無理な空中機動で機体が空中分解したり、まだ何もしてないのに慌てすぎてパイロットベイルアウトで勝手に墜落とか、残念なことになってるらしい。
一応、空自の連中はロックオンしただけで、何もしてなかったし、無人ドローン部隊がきっちりパイロットを回収していたので「お前らが勝手に事故っただけじゃん。パイロットも保護しているので、後日謹んでお返しする」と言う通告に、もはや向こうも一言も言い返せずに、顔真っ赤にしてたらしい。
北海道なんかでも、すでにロシア侵攻を想定して、陸上自衛隊大移動とかやってるみたいだし、日本海でも「しょうかく」「ずいかく」のみならず、帝城へのミサイル攻撃を敢行すべく、自衛隊の艦隊が特盛りの無人艦艇群を引き連れて、100隻規模の大艦隊を展開中で、日本列島周辺はもはや火薬庫のようになっている……。
まぁ、そんなピリピリしてる状況でいつもどおりのピクニック感覚で偵察機とか送り込んでるんだから、撃墜されても文句言うなってのは、ごもっともな話だし、すでにアメリカが敵なのでは、今更中露を敵に回したところで大差ないと言うのが、総理の認識のようで、いつもはデカいこと言ってる中露のバカ共もすっかり大人しくなりつつあるようだった。
どのみち領空侵犯とか問答無用で撃墜されても本来文句なんて言えないし、それが正しい対応ではあるのだよ。
なにせ、寄らば切る……その覚悟を見せる事こそが、守りの要でもあるんだからな。
その辺は、最前線の国境ラインの視察に行って、帝国軍の特殊部隊と鉢合わせとかそんな現場に立ちあったりとかあったから、僕にだって良く解る。
まぁ、そんときは僕としては、平和的にお話し合いでもして帰ってもらうつもりだったんだが。
ラドクリフさん達はいきなり、銃を抜いて指揮官っぽいやつを射殺して「お前ら、ここで全員まとめて死ぬか、大人しく逃げ帰るか好きな方を選べ」って凄んだら、向こうは我先に逃げ出して、事なきを得た……。
後から聞いた話だと、あの連中は帝国の特殊任務部隊で姿を見た奴は問答無用で皆殺しにするって物騒な奴らで、始めから話し合いが通じる手合じゃなかったんだそうで、指揮官だけ射殺したのも、一応僕に忖度した結果……だったらしい。
結局、言葉での話し合いなんて、力の前には無力なもので、力には力で対抗する……。
その覚悟を見せる方がむしろ平和的解決に繋がる……結局、そう言うことなんだよな。
「高倉閣下……まもなく、東京湾を過ぎて、関東平野上空に到達します。現状、当機はレーダー、目視、音響いずれの手段でも誰からも観測出来ていないとのことで、地上観測班からも報告が来ております。まったく、さすが我が国の最新鋭強襲機「SHINOBI X4」です。実験機とは言え、まさか我が国がここまでの機体を完成させる程になるとは……感無量ですな!」
向かいのシートに座っていた現場指揮官の稲木一佐が感激と言った面持ちで、現状説明をしてくれる。
「いや、むしろ……実験機にしては、完成度高すぎるし、なんなんだよ! このSFヘリは! 日本独自開発の旅客機とかだって、割と最近三葉が開発に失敗して、立ち消えになったばっかりだってのに……。なんで、ほんの数年でここまでの代物が当たり前のように空飛んでるんだよ! なぁ、こいつのメーカーはどこなんだ? まさか、三葉重工か? それとも石田重工か? いや、違うな……明らかにコイツは別の技術体系の産物だよな。アメリカ系でも日本系でもないし、イスラエルやユーロ系ですらない。むしろ、宇宙人の技術提供でもあったんじゃねーかって思うほどには、従来の設計思想からかけ離れてるぜ!」
軍事マニアの大倉だけに、外観や内装で技術系統まで解るらしかった。
何と言うか、すげぇな。
なお、この「SHINOBI X4」の外観は全長20mもある超巨大な電動マルチコプターだ。
Y字型のフレームの後ろに2個の推進用と姿勢制御用を兼ねたローターを配置。
そして、斜め前と浅い角度の斜め後ろに4つの無音ローターを装備したドローンのおばけが卵型のコンテナを抱えた……そんな外観をしている。
一言で言えば……空飛ぶハサミに4つのアーム付きローターが付いてるってのが一番解り易い例えだと思うけど、何と言うか、前のめりみたいな姿勢で、やたらとシャープなデザインで、SFヘリってのには確かに納得。
まぁ、僕に言わせれば、巨大化したゼロワンのようなものなんで、大倉ほどカルチャーショックは受けていない。
何処の技術系統って問われたら、どう見てもゼロワンの進化系派生種?
確かに、アイツもやたらカクカクしたデザインだったし、アイツらの系統ってのはなんか……こう、黒っぽくてカクカク直線、平面ってしてて、実用性一点張りのSF兵器そのものって感じなのだよ。
ただ、ミミモモに要らない助言でももらったのか、アスキーアートみたいな顔がついててパステルカラーの4ツ足段ボールみたいなのとか、バルーンアートみたいな丸っこいファンシーなロボとかも試作してたんだよな。
連中も軍事兵器! って感じのばかりじゃなくて、可愛らしい感じにもしてみたいなぁ……なんて思ってるみたいで、ゼロワンの端末機と称する女子型ロボとかも出してきて、お前ら何やってんの? って冷静にツッコんだこともある。
あの戦闘機械兵器連中って、基本的に護国の鬼……みたいな感じなんだが、結構ワケの解らん思考回路してるんだよなぁ……。
ちなみに、連中によると「我々の性別は、どっちかと言うと女子よりだと認識しております」みたいな事も言ってた。
確かに、合成ボイスとかも何故か全部女の声で、アイツらが男の声で喋ってるのって聞いたこと無いな……。




