第九話「異世界ジャングルの長い夜」⑤
本音を言うと、僕も女の子たちに混ざりたかったんだ。
でも、あの娘達……揃いも揃って、お風呂上がりにTシャツオンリーなんてカッコしてるんだもん。
さすがに、注意はしたけどね……。
でも、尻尾が濡れたから乾くまで、下着なんて気持ち悪くて、履けないって答えが返って来た。
ああ、ごもっともなんだよね……これが。
なお、この世界は大体中世レベルの文化レベルみたいなんだけど、普通に下着くらいはある……らしい。
と言っても、丈が長くて、おヘソまで覆い隠す野暮ったいズロースとか、ただの腰巻きとかそんな調子らしいのだけど。
獣人は皆、尻尾生えてる上に、暑苦しい環境ということも手伝って、ノーパン率が高いとか何とか。
解らないでもない……穴開けたりするにしても、かなり大きく穴を開けないと、尻尾の付け根が擦れて痛くなる。
ちなみに、僕は尻尾対策として、ズボンとトランクスの後ろにバッサリ切れ込みを入れた。
何気にケツ丸出しなんだが、意外と涼しいし尻尾の防御力が意外と高いので、しゃがんだりしなければ、ケツの守りは完璧だ。
……って、どうでもいい?
なお、女性獣人の尻尾を触ったり、尻尾掴んで上にガッと引き上げたりとかは、胸を揉むとか、スカートを捲るようなもんで、ボコボコにされても文句言えないギルティ行為なんだそうだ。
でもさ……さんざん、フカフカな尻尾を触らせてくれてから、そういう事言うのはどうかと思うぞ、キリカさん。
……窓からぼんやりと外を見やる。
大勢の商人や旅人が野営をする天幕が並んでいて、それぞれの焚く焚き火の炎と薄っすらとたなびく煙。
そして……月明かりに照らされたジャングルが見える。
……夜に鳴く鳥でもいるのか、キョキョキョキョキョ……なんて、音が何処からともなく聞こえてくる。
なお、コンビニの看板の明かりは、めちゃくちゃ虫が集まってきたので、消した。
部屋の明かりも迂闊につけると、窓が虫でびっしりになったので、消してるんだけど……夜目がものすごく効くようになったので、全然支障がない。
どのくらいかと言うと、月明かりの間接照明だけで、本が読めるくらい……さすが、キャッツアイ。
それにしても、夜の田舎のコンビニは虫との戦いってのは、十分解ってたんだけど。
大きさも量も群馬の田舎街が、まったく相手にならないレベルとは恐れ入った……。
手のひらサイズのガガンボとか、りんごサイズのカナブンライクな虫とか……もはやアレ魔物だと思う。
500円玉サイズの蚊がブオーンなんて羽音を立てて、腕に止まって、血を吸おうとするんだぜ? もう速攻、叩き落として、念入りにストンピングして粉砕した……恐ろしすぎるっ!
さすが、異世界……虫ひとつとっても、半端ねぇ。
電撃殺虫装置のムシキラーもあったんだけど、あっという間にデカい虫まみれになって、使い物にならなくなってしまった。
こりゃ建物の照明を全部、虫が寄ってこないLEDタイプに変えないと駄目だな……これじゃ、部屋の明かりを点けるのすら、考えものだ。
なお、僕は虫が嫌いだ……それも徹底的に!
あのワシャワシャとした足とか無機質でメタリックなボディとか……奴ら、宇宙生物説もあるくらいだけど……思いっきり納得だ。
とにかく、虫対策は重点的にやりたい所存。
でも、これだけ悪魔的な虫どもの温床なのに、こっちの世界の人達はあまり気にしている様子がない。
どうも虫除け魔法とか、虫除けの薬草とか……そんなのがあるっぽい。
下の様子を見てると、定期的に焚き火に枯れ草の束を放り込んでて、焚き火自体を虫除けにしてるような感じ……。
なんか、煙がすごいし、変な匂いも立ち込めてるんだけど、煙から虫があからさまに逃げていったりしてるので、それなりに効果があるようだ……いいな、アレ欲しい。
なお、このコンビニの周囲の人々は……皆、寝てる訳じゃなく、ラドクリフさん達や、商人や巡礼団の護衛の冒険者や傭兵なんかもいて、戦闘要員だけでも相当な人数がいる。
そして、その辺りは全員起きているようだった。
この辺が、日本のキャンプ場なんかとは全く違う点だ。
それぞれ手分けして、周囲の警戒や巡回と忙しく動き回ってるのが、ここからでも見て取れる。
なんでも、賊団やゴブリン、魔獣などは夜に襲撃してくるのが殆どで、彼ら戦闘員にとっては、一番緊張を強いられる時間帯であり、ラドクリフさんが言ってたように仕事の時間って事らしい。
人族の戦士や魔法使いは、獣人ほどは夜目が効かないらしく、もっぱら開けたところで集まってたり、松明片手にキャンプ内を歩き回っているようだった。
ラドクリフさん達も、昼間やたら熱心に周辺の伐採作業をしてると思ったら、どうもこうなることを想定してたんだろう。
確かに、夜闇と鬱蒼としたジャングルなんて、最悪の組み合わせだろう……。
そして、人族の冒険者や傭兵が数的主力なのは明らかで、彼らが有利に戦えるように、戦場自体を最適化する。
コンビニ周辺を開けた広場にすることで、屋上からキャンプ地全体を見通せるようになったし、防衛範囲も解りやすくなった。
……色々考えてしっかり準備してたんだなぁ……さすがプロ。
ちなみに、ラドクリフさんや獣人の傭兵や冒険者は、夜目が効くので即席パーティを組んで、明かりも点けずにジャングルの中を巡回してるらしい。
この辺は、なんだかんだで獣人の強みで、帝国との戦いでも帝国軍は獣人の夜襲に常に頭を悩ませていた……確かに、暗闇の中から明かりもなしに仕掛けてくるなんて、最悪だろう。
帝国以外の国々が早々に獣人王国から手を引いたのも、獣人の夜間戦闘能力の高さと個人レベルでの強さの前に、こんなのやってらんねぇと辟易したってのがあったらしい……。
現代戦ですら、ノクトビジョンゴーグルみたいな夜間装備がないと、夜間は戦いにならないらしいからねぇ……。
この世界の夜はとにかくヤバイ……安全なはずのキャンプ内ですら、犬猫サイズのアリやら蜘蛛がジャングルから出てきたりして、散発的な戦闘が起きているような有様。
よく見ると、空にも巨大なコウモリやデカいトンボなんかも飛んでるし……。
その辺もたまに降りてくるらしく、弓師やら魔法使いが対処しているようだった。
この調子だとここで商売する以上、夜の間は僕らの安全確保もだけど、店の近くで野営する人達のためにも、夜通し警備してくれるような戦闘要員が必須だろう……。
昼間は、ゴブリンとか、魔獣なんかも出てくる様子がなくて、正直拍子抜けだったのだけど……。
夜がとにかくヤバイ……そう言うことだったのだ。
いずれにせよ、直接的な戦闘要員もだけど、こうなると敵襲をより早く察する警戒要員も専門のを置くべきだろう。
そう考えると例のミャウ族の子達も夜間の警戒要員とかとして、使えるんじゃないかって気がする。
自前の武力を持つとか……武装コンビニみたいで、すごく嫌なんだけど……。
日本みたいに平和なところならまだしも、自分の身は自分で守らないと生きていけないような世界なんだから、しょうがない。
幸いうちの従業員には、ミミモモがいるんだし、同族のよしみでうちの方で、ミャウ族を何人か雇っても良いかもしれない。
何より原住民なんだから、賃金を支払えばうちのお客さんとして、還元してくれるだろうし……悪くないな。
僕にとっては、いわば同族みたいなもんだから、他にも出来そうな仕事とか探してやって……とかも、良いかもしれない。
戦闘要員についても、キリカさんとラドクリフさんと言う伝手があるから、ウォルフ族の戦士とかを専任で何人か雇うのも手かもしれない……そうなると、手土産持って表敬訪問とか……色々やらないとな。
例のダンジョンマスターも一度、話し合わないといけないだろうし……なんだか、やることいっぱいだな!
でも、いきなり妙なとこに割り込んできたのはこっちだから、先人達には礼を失さないようにしないと。
こう言うのって、とっても大事……挨拶は重要だよ? どんな世界だってさ。
とにかく、僕も……眠い……さっさと寝ようか。
おやすみなさーいっ!




